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化石の小銭
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さて、今日は〇月〇日。皆さん、いかがお過ごしでしょうか。
このところめっきり小銭を使う機会が減りましたね。現金払いをしなくなったので、いざ現金が必要となった時に財布に入っていない!なんてこともしばしばあります。そして、たまに現金を使ったと思ったらATMからおろしたばかりでお釣りが発生するせいで、小銭の行き場がなくなってしまう。
たまに財布の中を見ると、「なんでこんな化石みたいな百円玉が?」と驚くこともあります。セルフレジも多くなりましたが、まだ対面でのレジがなくなったわけではありません。お客さんへのお釣りに使うことはあまりないかもしれませんが、巡り巡って私のところまでやって来たのは事実です。
とはいえ、今度はセルフレジが一般化している世の中です。機械にすんなり受け入れられるはずもなく。そんな時、皆さんはどうしますか? 一刻も早く手放したくて、でも、対面のレジで出すのは申し訳なくて、私は自動販売機などで試してみたりするのですが。意外にも「これをお金とどこで見分けるの?」というくらいあっさりボタンが光ったりするので、逆にびっくりするくらいです。
と、まぁ自動販売機の仕組みはよくわかりませんが、金額も読めないような小銭を入れて壊れないのかと心配になることも当然あります。入るから、使い所がないからといって、こういう方法を濫用するのはよくないことなのでしょう。一度や二度ならともかく、繰り返し続ければ積もり積もって故障の原因になるかもしれません。
故障といえば、仕事でも私生活でもそうですが、壊れかけのものってどうにも扱いに困りますよね。まだ使えないことはないけど、見た目も良くないし、機能も半減している。それでも、まだ使えてしまうから厄介なんですよね。いっそ壊れてくれたほうが、新しいものを買う口実になるのになんて思います。家電やスマートフォンなんてまさにそうで、画面が多少傷ついていても、機能には何の問題もなかったりすると、勿体無いから使わなきゃと感じてしまう。新しいものだって安くはありませんから、その金額を出すに見合うだけの、自分にとって損失がないとなかなか踏み切れないものです。
いっそ壊れてしまえば良いのに、なんてわがままなことこの上ないですが、不思議と人間関係には当てはまらないんですよね。
もちろん、煩わしい関係というのはおそらく誰にでも存在するでしょう。どんな理由でも、他人にはそう見えなくてもです。でも、そんな時でも『この関係が壊れてしまえばいい』とは思わないものです。どちらかといえば、『最初からこんな関係なかったらよかったのに』とか『いっそのこと出会わなければよかったのに』とかでしょうか。
どんなに煩わしく、不必要な関係でも、一度築いたものが壊れるというのは、より面倒ですし、モヤモヤするものですよね。相手や関係性によっては罪悪感に似たものも感じるかもしれない。
存在自体なくなってしまえば、最初からなかったのと同じですから、罪悪感を感じる必要もなければ、寂しいとか哀しいとかそんなことも思わない。だって存在していないんですから。
これは私の死生観とも良く似ているのですが。
以前もお話したかもしれませんが、私は死後の世界というものを『無──何もない』、もっと言えば『何も感じない』ものだと思っているので、天国も地獄も、閻魔様だって自分がお目にかかることはないのだろうと。物語と同じです。教訓や戒めの為に、あるいは魂の慰みの為に、生きている人間が死後の世界を必要としているだけ。亡くなった後で後悔するよ、なんてよく言いますが、前世というならともかく、同じ人格で生まれ変わることなどあり得ないのですから、後悔も何もないと思うのです。そんなことすら感じずに、命は消える。
薄情だとか現実主義だとか、夢がないとか──死後の世界に夢も何もあったもんではありませんが──、そう言われても仕方ありません。
でも、だからこそ今生は一度きりだと私は思うのです。家具や家電は壊れたら買い替えれば良い、人間関係だって壊れても修復できるかもしれない、あくまで望めばの話ですが。でも、買い換えるのも修復するのも、命あってこそです。
命は、ありきたりな言葉になりますが、一つしかありません。死後の世界に存在することもないと私は考えているので、今この瞬間、私が生きているこの時間のみが、『私の命』です。『あなたの命』です。失った命はもう帰って来ません。
天国に行けば大切な人にまた会える、のかもしれません。でも、命を落とせば、会えるとか会えないとか考えることもできなくなると私は思っています。ですから、最初から存在しないことを寂しいとか悔しいとか感じることも一切ないということです。
形ある物にはさっさと壊れてしまえばいい、なんて言うけれど、形のない本当に大切なものには最後の最後まで縋ってしまうのが、人間というものです。壊れそう、でも壊れないで欲しい。どんな関係も永遠に続かないことはわかっている。でも、あと少し、あと一秒、あと一瞬でも長く、壊れないでいて欲しい──。
一度壊れてしまったら取り返しがつかない、買い替えられるものでもないし、全く同じように戻ってくるものではない。新品でまっさらなまま、もう一度最初から関係を築けたならどんなにいいでしょう。同じ失敗を繰り返さないこともできるし、壊れないようにコントロールすることもできる。
でも、私たち人間に未来は見えません。
そろそろお別れの時間です。お金は『形のある物』であって、『形のない概念』でもあると思うのですが、皮肉なことに私たちはどんなに化石じみたものでも『お金がなければいい』なんて思うことは非常に稀です。フィクションの物語に出てくる、マネーロンダリングの必要な『お金』なら話は別でしょうが、そんな状況に遭遇することはまずないでしょう。これまたフィクションの話ですが、遺産相続なんかもそれに当たるかもしれません。こちらは決して他人事とは言えないのが辛いところですが。
いっそのことお金なんてなければ──。そう思っても、自分がここまで平穏無事に生きて来られたのはそのお金があったからとも言えます。『お金がなくても愛があれば』なんて言葉も耳にしますが、さすがに無一文では生きていくことさえ厳しい世の中です。収入や実入りは少なくても、生活していけるだけのお金は誰にだって必要です。
でも、『お金だけ』で生きていくことも難しいんですよね。どれだけ壊れて欲しい関係でも、私たちは人から生まれ、人へと紡いでいく人生を歩んでいます。たった一人で生きていくことはできません。たとえ山奥で自給自足の生活でも、たとえ人間関係まで徹底してミニマリストを貫いても、生活をすれば人が作ったものを使い、人が売っているものを買い、人が話しているのを聞きます。
私たちには周りに人がいることはほとんど当たり前のように思えますね。仕事をしていても、家族と過ごしていても、恋人や友達と電話をしていても、相手を特別だと感じることはあっても、この時間やこの関係が特別だと感じることはあっても、こうして人と関わる行為そのものを特別だと感じる人は少ないでしょう。
それこそ一度『無』にならないとそのありがたみというのはわからないものなのかもしれません。でもそれはイコール『命を失う』ということです。
いっそ『無』になる日が来なければいいのに──。でもそうしたら、吸血鬼のように、不治の病のように、いっそ『命』なんてなければいいのにと感じてしまうのでしょうか。
悲しいですね、やり切れないですね。
たとえ化石だとしても、その存在を認められる小銭は、とても素敵な生き方をしている。
私もぜひそう生きたいものです。
また来週お会いしましょう。眠れない夜のお供に、深見小夜子でした。
このところめっきり小銭を使う機会が減りましたね。現金払いをしなくなったので、いざ現金が必要となった時に財布に入っていない!なんてこともしばしばあります。そして、たまに現金を使ったと思ったらATMからおろしたばかりでお釣りが発生するせいで、小銭の行き場がなくなってしまう。
たまに財布の中を見ると、「なんでこんな化石みたいな百円玉が?」と驚くこともあります。セルフレジも多くなりましたが、まだ対面でのレジがなくなったわけではありません。お客さんへのお釣りに使うことはあまりないかもしれませんが、巡り巡って私のところまでやって来たのは事実です。
とはいえ、今度はセルフレジが一般化している世の中です。機械にすんなり受け入れられるはずもなく。そんな時、皆さんはどうしますか? 一刻も早く手放したくて、でも、対面のレジで出すのは申し訳なくて、私は自動販売機などで試してみたりするのですが。意外にも「これをお金とどこで見分けるの?」というくらいあっさりボタンが光ったりするので、逆にびっくりするくらいです。
と、まぁ自動販売機の仕組みはよくわかりませんが、金額も読めないような小銭を入れて壊れないのかと心配になることも当然あります。入るから、使い所がないからといって、こういう方法を濫用するのはよくないことなのでしょう。一度や二度ならともかく、繰り返し続ければ積もり積もって故障の原因になるかもしれません。
故障といえば、仕事でも私生活でもそうですが、壊れかけのものってどうにも扱いに困りますよね。まだ使えないことはないけど、見た目も良くないし、機能も半減している。それでも、まだ使えてしまうから厄介なんですよね。いっそ壊れてくれたほうが、新しいものを買う口実になるのになんて思います。家電やスマートフォンなんてまさにそうで、画面が多少傷ついていても、機能には何の問題もなかったりすると、勿体無いから使わなきゃと感じてしまう。新しいものだって安くはありませんから、その金額を出すに見合うだけの、自分にとって損失がないとなかなか踏み切れないものです。
いっそ壊れてしまえば良いのに、なんてわがままなことこの上ないですが、不思議と人間関係には当てはまらないんですよね。
もちろん、煩わしい関係というのはおそらく誰にでも存在するでしょう。どんな理由でも、他人にはそう見えなくてもです。でも、そんな時でも『この関係が壊れてしまえばいい』とは思わないものです。どちらかといえば、『最初からこんな関係なかったらよかったのに』とか『いっそのこと出会わなければよかったのに』とかでしょうか。
どんなに煩わしく、不必要な関係でも、一度築いたものが壊れるというのは、より面倒ですし、モヤモヤするものですよね。相手や関係性によっては罪悪感に似たものも感じるかもしれない。
存在自体なくなってしまえば、最初からなかったのと同じですから、罪悪感を感じる必要もなければ、寂しいとか哀しいとかそんなことも思わない。だって存在していないんですから。
これは私の死生観とも良く似ているのですが。
以前もお話したかもしれませんが、私は死後の世界というものを『無──何もない』、もっと言えば『何も感じない』ものだと思っているので、天国も地獄も、閻魔様だって自分がお目にかかることはないのだろうと。物語と同じです。教訓や戒めの為に、あるいは魂の慰みの為に、生きている人間が死後の世界を必要としているだけ。亡くなった後で後悔するよ、なんてよく言いますが、前世というならともかく、同じ人格で生まれ変わることなどあり得ないのですから、後悔も何もないと思うのです。そんなことすら感じずに、命は消える。
薄情だとか現実主義だとか、夢がないとか──死後の世界に夢も何もあったもんではありませんが──、そう言われても仕方ありません。
でも、だからこそ今生は一度きりだと私は思うのです。家具や家電は壊れたら買い替えれば良い、人間関係だって壊れても修復できるかもしれない、あくまで望めばの話ですが。でも、買い換えるのも修復するのも、命あってこそです。
命は、ありきたりな言葉になりますが、一つしかありません。死後の世界に存在することもないと私は考えているので、今この瞬間、私が生きているこの時間のみが、『私の命』です。『あなたの命』です。失った命はもう帰って来ません。
天国に行けば大切な人にまた会える、のかもしれません。でも、命を落とせば、会えるとか会えないとか考えることもできなくなると私は思っています。ですから、最初から存在しないことを寂しいとか悔しいとか感じることも一切ないということです。
形ある物にはさっさと壊れてしまえばいい、なんて言うけれど、形のない本当に大切なものには最後の最後まで縋ってしまうのが、人間というものです。壊れそう、でも壊れないで欲しい。どんな関係も永遠に続かないことはわかっている。でも、あと少し、あと一秒、あと一瞬でも長く、壊れないでいて欲しい──。
一度壊れてしまったら取り返しがつかない、買い替えられるものでもないし、全く同じように戻ってくるものではない。新品でまっさらなまま、もう一度最初から関係を築けたならどんなにいいでしょう。同じ失敗を繰り返さないこともできるし、壊れないようにコントロールすることもできる。
でも、私たち人間に未来は見えません。
そろそろお別れの時間です。お金は『形のある物』であって、『形のない概念』でもあると思うのですが、皮肉なことに私たちはどんなに化石じみたものでも『お金がなければいい』なんて思うことは非常に稀です。フィクションの物語に出てくる、マネーロンダリングの必要な『お金』なら話は別でしょうが、そんな状況に遭遇することはまずないでしょう。これまたフィクションの話ですが、遺産相続なんかもそれに当たるかもしれません。こちらは決して他人事とは言えないのが辛いところですが。
いっそのことお金なんてなければ──。そう思っても、自分がここまで平穏無事に生きて来られたのはそのお金があったからとも言えます。『お金がなくても愛があれば』なんて言葉も耳にしますが、さすがに無一文では生きていくことさえ厳しい世の中です。収入や実入りは少なくても、生活していけるだけのお金は誰にだって必要です。
でも、『お金だけ』で生きていくことも難しいんですよね。どれだけ壊れて欲しい関係でも、私たちは人から生まれ、人へと紡いでいく人生を歩んでいます。たった一人で生きていくことはできません。たとえ山奥で自給自足の生活でも、たとえ人間関係まで徹底してミニマリストを貫いても、生活をすれば人が作ったものを使い、人が売っているものを買い、人が話しているのを聞きます。
私たちには周りに人がいることはほとんど当たり前のように思えますね。仕事をしていても、家族と過ごしていても、恋人や友達と電話をしていても、相手を特別だと感じることはあっても、この時間やこの関係が特別だと感じることはあっても、こうして人と関わる行為そのものを特別だと感じる人は少ないでしょう。
それこそ一度『無』にならないとそのありがたみというのはわからないものなのかもしれません。でもそれはイコール『命を失う』ということです。
いっそ『無』になる日が来なければいいのに──。でもそうしたら、吸血鬼のように、不治の病のように、いっそ『命』なんてなければいいのにと感じてしまうのでしょうか。
悲しいですね、やり切れないですね。
たとえ化石だとしても、その存在を認められる小銭は、とても素敵な生き方をしている。
私もぜひそう生きたいものです。
また来週お会いしましょう。眠れない夜のお供に、深見小夜子でした。
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