深見小夜子のいかがお過ごしですか?2

花柳 都子

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合図とは愛の縮図

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 さて、今日は〇月〇日。皆さん、いかがお過ごしでしょうか。
 あれから約一年。またお会いできましたね。
 私のこの一年間は劇的に何かが変わったわけではありません。でも、きっと自分でも気がつかないくらいほんの少しずつ、どこかが変わっていることでしょう。
 髪型でも意識でも、あの頃と全く同じということはないはず。食生活に好きなもの、暮らしや仕事、生活そのものが変わったという方も多いかもしれません。
 私が地元に住んでいた頃、この時期──もう少し後でしょうか──になると、よく教習所の車を目にしていました。推薦枠で合格した高校生が免許を取りに来ているんですね。あとは夏休み、お盆前後の時期も増えるのですが、それは夏休みを利用して帰省した大学生が免許を取るんですよね。
 都会で暮らすなら身分証明書くらいにしかなりませんが、これ一枚で自分を証明できるので何かと便利ではあります。親に言われて取るだけは取ったけど、都会では運転する勇気も必要性もないし、宝の持ち腐れかもと思うかも知れません。パスポートや最近ではところによってはマイナンバーカードなども身分証明書として使えますから、わざわざ1ヶ月近くかけて、実技に筆記、やっと試験という名の苦痛から解放されたのに、なぜまだ勉強しなければならないのかと思う方もいることでしょう。
 大学生が勉強していない、試験をしないということでは決してありませんが、高校生までのあの試験地獄とは一線を画していますよね。
 私の友人は文系コースから看護師になった変わり種ですが、あの難関試験をクリアして今も手に職つけて、地元から遠く離れた地で働いています。当時は長く感じたと思いますが、ほとんど一生に匹敵する資格を手に入れられるなら一瞬と言ってもいいかもしれません。もちろん私は経験していないから、そんなに簡単に言えてしまうのでしょうが。
 看護師を目指す方にとっては、地獄の日々と耳にします。それだけ命を扱うというのは、尊く、そして厳しいことなのでしょう。
 それに比べると、運転免許なんて意外と誰でもあっさり取れるものなんですよね。そりゃあまりに難関すぎれば、それはそれで問題でしょうけど、車を運転する行為だって、自分の命、そして同乗者の命、周りを走る車や歩行者の命、それらを扱っているのと同じように思えます。
 直接的か間接的かという違いだけではないでしょうか。
 車の免許なんて必要ない。もちろんそれに越したことはありません。車は便利なもの以上に、危険なものです。現実的な話、元々高い買い物ですし、維持費もかかります。
 きっとないならないほうが幸せでしょう。
 でも、そうも言ってられませんよね。結局、仕事に趣味に、私たちは車に頼りきりなのですから。
 取引先に行くのに、遠征に行くのに車を使う、私には関係ないと思っているあなたも、急ぎで必要なものをインターネットで頼んだら、それを運んでくれるのは大概は車を利用した配送業者さんです。
 私の実家のようにどんなに僻地でも、頼んだら一日で届けてくれることがあります。確かにありがたいです。でも、そうするのにどれだけの人と、どれだけの労力がかかっているのだろうと感じることがあります。飛行機や電車を使っているならまだしも、おそらくほとんどの区間が車での輸送でしょう。無理しないでいいのに、と思いますよね。ゆっくりでいいから、と言いたくなります。もちろん日付指定もできますが、それに合わせて運ばれるというより、運ばれてきたものを家にいないから後で受け取ることにする、というニュアンスですよね。
 深夜に高速道路を通って、取引先──この場合はネット注文を受けている通販会社でしょうか、さらには荷物を待っている私たち消費者の希望に応えようとする配送業の方々には感服します。
 でも、雪が降ると思います。ゆっくりでいい、急がなくていい、安全運転で来て欲しい──。
 よく急がば回れと言います。横着したり、手を抜いたりすると、結局後でとんでもないしっぺ返しがくる。交通事故なんてとんでもないどころの話ではありませんから。
 ドライバーさん自身の命を守る為にも。事故だけではありません。過労や病気からもです。ひいては周りのドライバーさんを守ることにも繋がるはずです。取引先も消費者も安全安心の前には無視したって構わない、とにかく無事故無違反が守られればそのほかはどうとだってなります。
 実際、注文する際にも、道路事情などで遅れる場合がありますと書いてあるではないですか。ドライバーさんには休憩などの規則もあるはずです。苦情もといご意見を避けるための方便かもしれませんが、それを許容できない私たちの心が狭いのです。
 というより、一度許容されてしまったものを規制されれば、受け入れられなくなるのが人の性かもしれませんね。最初が肝心とはよくいったものです。
 さて、そろそろお別れの時間です。世の中とは不条理です。人の生も思っているよりずっとあっけなく消えてしまうような、儚いものです。だからこそ、思いやりというのはつくづく大切だと痛感します。そうですね。どれだけ皆さんに愛があっても、それを一瞬で蹴散らすような愛のない人間がいることも確かです。そういう人間が増えないように、そういう人にも愛が芽生えるように。
 私ができることはなんだろうなとよく考えます。
 たとえば、こういった日々頑張る方々に、何か気軽に合図を送れればいいのになぁと思うことがあります。「ありがとう」「無理に頑張らなくていいよ」そんなふうに言えたら、きっと相手も私も気が楽になることでしょう。
 車の話で言えば、私はハザードやパッシングにその役割があると思っています。
 友人が暗い道をライトをつけずに走っていたら、対向車がパッシングで教えてくれたと言っていました。「危ないよ、ライトつけてね」という意味です。「親切だよね」と聞いた時、そうやって受け取れる友人を素敵だなと、この子と友達でよかったと思いました。
 ハザードもそうです。たとえば工事中の片側交互通行の時、渋滞最後尾にいたらとにかくハザードをつける。それは後ろからくる車に対して、「信号じゃないけど停まってるよ、気をつけてね」という合図です。きっとこれが一般的な意味合いだと思いますが、私はもう一つ提唱したいです。それは、これから停まる車のハザードです。それは後続車に対する合図でしょ? 意味同じでしょ? と感じたあなた、違うんです。前方に停まる車への「ちゃんと前見てるよ、大丈夫、停まるからね」という合図にもなるんです。
 ハザードもパッシングも、規則ではありません。やらないことに罰則はありませんし、やることを義務付けられてもいない。ドライバーの善意によって行われる、隣人愛の示し方です。時には悪意であることもありますし、多用することで周りから煽り運転かと勘違いされることもあります。でも、私はいつかそれが100パーセント善意と受け取られるような世の中を夢見てしまうのです。パッシングを自分のライト無点灯を注意してくれたと好意的に受け取れる友人のように。後続車が前後への注意喚起のために必ずハザードをつけてくれる世界のように。それでも相手に届かないこともあるでしょう。上手く伝わらないこともあるでしょう。
 でも、少しずつ、ほんの少しずつでも合図が増えていけば、それはとりもなおさず、小さな愛が増えていくこと、そしていつかその小さな小さな愛で世界が満たされることだと思うのです。
 私は心からそんな日を願ってやみません。
 車を運転していなくても、愛を伝えることは誰にでもできます。あなたのきっと一番と言っていいくらい身近にあるSNSの世界でも、もちろんそうです。いえ、そうだと信じています。今日から私もあなたも『できる合図』を『愛』に代えて──。
 では、また来週お会いしましょう。眠れない夜のお供に、深見小夜子でした。
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