本物のシンデレラは王子様に嫌われる

深夜

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本編

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 あちらこちらに人が出てくるようになった道に出てからグランは俺を下ろした。
 俺と小さな子供を腕だけで持ち上げ続けるのは重かっただろうに。
 優しさに心が溶けていくような気がした。
 上を少しでも見上げると綺麗な鼻とバランスよく整えられている横顔。ゲームとはまた違う姿に胸が上がる。

「ありがとう」

「危ない所を小さい子を連れて歩くな」

「うん...分かった」

 なんで。なんでいつも助けてくれるんだろう。
 俺は、分からない。どんなに考えても。
 嫌われてるんじゃないの?
 アレスの事嫌いなんでしょ。なんでヒロインを置いてまで助けてくれるの?
 俺もう分からない。

 夜道で男に襲われて今更もっと怖くなったのか、それとも全て何がどうなのか分からなくなったのか、目から涙が流れた。熱い涙はアレスの頬を伝い、地面に落ちる。キラキラとした宝石を拾うかのようにグランはアレスの目を優しく触り、触れるか触れないのか分からないほどに深切に涙を拭いた。

「泣くな。」

「な、なんでいつも助けてくれるの..も、分からない..」

「すまない。君に対してどう察していいのか分からない戸惑いが行動にも出てしまって迷惑が掛かってしまった。」

 察してとか戸惑いってなんだよ。嫌いなんだから突き放したっていいじゃないか。
 俺はもう怖くなって手を払った後、フラフラしている足でアレラを抱いて歩き出そうとする。
 もう恋なんてしない、もう期待なんてしない、
 好きになって欲しいなんて思わない、
 愛されたいなんて思わない。
 ここに来てから毎日の様に唱えている事。
 涙と鼻水でぐしゃぐしゃになった顔を薄い布のガーゼで乱暴に拭き、歩いた。

「私は君の事を噂だけで悪い奴なんだと決めつけていたんだ。昔、小さな子猫を君は拾って動物保護をしてくれる施設に預けていた。それを私は見ていたのにも関わらずにアレス・ディスタニアを悪者として扱ってしまった。」

 後ろから聞こえた声に足が止まる。
 そっか、見てくれてたんだ。
 前のアレスは誰も見てないなんて言ってたけど見てる人はいたことが一人でもいた事が嬉しくて止まっていた涙がまた出てきてしまった。
 良かった。

「....アレスは優しいんだよ、やっと分かったでしょ」

「本当にすまなかった、君の善意を踏み躙る事になった」

 アレラを抱く力が強くなった。
 グランとの誤解が解けたし、アレスの根はクソ優しいことも知らせる事ができた。
 なら、俺はもう、

 春崎一埜に戻らないと。

 もうこれでアレス・ディスタニアは終わり。
 グランの誤解が解けたところでみんなの目は変わらない。いつまで経っても、性格の悪い奴。
 アレスはグランにだけは誤解を解きたかったんだね。
 好きな人に分かってもらえた瞬間、もうどうでも良くなっちゃった。



「お前の中にある優しく強いアレス・ディスタニアを大切にして。お願い。」

「、、何を言ってるんだ?君はアレス・ディスタニアではないのか?」

「ううん、違うよ」

「俺は、亡き親友アレスの友達のハルザキイチヤって言うの。君の好きなアレスはもういないんだよね。ごめんね。今まで誤魔化して。」


 “    もう魔法は解けるから  ”


 街の方から大きな鐘の音が聞こえる。
 その音は2人の今までの仲を引き裂く様な低い音がした。アレスとして過ごした思い出が水の様に流れていって、シャボン玉の様に消えていく。
 今まで騙しててごめんなさい。
 シナリオも壊してごめんなさい。

「イチヤ様!」

 思い出に浸かる間もなく急に手を思い切り引っ張られ、速度の速い馬車の中に入った。
 入った瞬間から声を殺しているイチヤを複雑な目で見ているのは執事のライジルだった。

「イチヤさん..大丈夫ですか?」

「けっっこう辛い、もう無理...はぁ」

「ずっとここにいてもいいですよ。」

「中身がアレスじゃないアレスなんて愛せるの?俺は無理、ライジルさんもそう思わない?」

 魔法が解けたかのように全てが変わる。
 アレスからイチヤにライジルはライジル“さん”になった。
 ライジルはアレスが変わったって、イチヤだっていつもと変わらない生活が出来ると思っていた。だがイチヤは違ったらしい。

「もうここにはいれない。どっか遠くに行きたい。親に頼んでお金もぎ取れないかな。」

「イチヤ様、どうか私も連れてって下さい。アレス様でもイチヤ様でも私は貴方の執事ですからね。」

「えーいいのに、ほんっと、、執事って、、馬鹿だよねぇ~」

 ライジルは涙が止まっていないアレスの頬を優しく拭って微笑んだ。

ナヤさんのところにアレラを渡した後、アレスの両親に手紙を書きすぐにポストマンに渡した。グランはあそこに置いてってしまって申し訳ないと思っているが、一緒にいる事が辛かったイチヤは少し安堵した。



涙に溺れた1日で疲れたのか、泥沼に入る様短時間でに夢の中に入った。
相変わらず夢ではアレスと楽しそうで幸せそうに笑っているのはグランだった。



__ 嘘つき




そう言われるのが怖くて、隠して逃げることを選んだ俺を許して下さい。






そうしてアレス・ディスタニアは自分の生まれ故郷から離れ、ライジルと2人で暮らす事を決めた。

同じ執事であったマレラとジースはイチヤの事を知られた後、イチヤから離れろと言われたが泣きながら後を追ったとか。






そして、アレス・ディスタニアがいなくなって二年が経った。






______________


本当に投稿する度にお久しぶりを言わなくてはならないのかと思うと自分のサボり度に呆れてます。一カ月に5話は投稿したいな。

急展開で本当にすいません。
ここの話がオメガパロでしたらアレスはジングルマザーでした。


本編②始まります。是非閲読お願いします。







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