Love adventure

ペコリーヌ☆パフェ

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惑わすBEAT①

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「ふああ……」



あぐりが目を覚ますと、そこは見たことも無い部屋だった。

白いソファーの上で、自分はいつから眠っていたのか。



「痛っ!」


みぞおちに鈍い感覚が走る。

(そうだ……確かあの変な男に……)


不安と危険を感じ、ソファからガバッと立ち上がり、部屋の中の探索を始めた。



(あいつに殴られてから、どうなったの?ほなみは何処に――?)



月や星のイメージでメルヘンチックなインテリアでコーディネートされているが、どこか生活感の無い部屋だった。

大きな窓、高い天井。
ほなみのマンションの部屋よりも豪奢な感じがする。
星柄のカーテンを開けると、美しい夜景が一望できた。




「うわあ……凄っ……誰がこんな所に住むのさ」


キョロキョロしながらクローゼットや冷蔵庫やら色んな所の探索を続行した。


冷蔵庫には、見て胸やけがしてしまう程、大量のケーキやチョコレートが入っていた。


ぐう。


お腹が物凄い音を立てる。
そう言えば、今日は朝食を取ってからは何も食べていなかった。


ケーキを掴んで口に放り込みたい欲望にかられたが、その前に此処は一体どこなのか確かめなくては。



「今……何時なの?」



自分の荷物を探して歩き回ると、観葉植物の陰に隠れる様にCOACHのバッグが無造作に置いてあった。
中身を確かめたが、特に無くなっている物はなさそうだ。


あぐりはホッと胸を撫で下ろす。




男はあぐりを引きずり、リビングを抜け、奥の方のドアを開けると、彼女を離した。


そこは薄暗い寝室だった。


振り返ると、やはり、昼間自分を殴った男ではないか。



「あ……あんた!
よくもさっきはやってくれたわね!?」



「騒ぐ方が悪いのさ」



男は涼しい顔で言う。



「話せば普通解るでしょ?口より先に手が出るってどうなのよ!」



「ハハハ」



男は低く笑ったが、その笑顔を見て何かひっかかる。


(――誰かに似ている?)



「俺はマネージャーの綾波剛。
お前にはほなみの監視をしてもらう」



「アヤトリだかアヤナミだか何だか知らんけど、監視って何よ!?
友達なのよ?意味わかんない!」



「ああ、間違えた。監視じゃなくて精神のケアだな」



「どう間違えたらそうなるのよ!」



怒鳴った時、ゴソッと衣擦れの音がして、振り返ると、ベットに誰か横になっていた。



「ねえ、他に誰かいる?」



綾波は答えずに、手にブランデーの瓶を持ち、ベットの方を見て薄笑いを浮かべながら口に含んだ。


あぐりが恐る恐る近づくと、あっと声を上げそうになる。


横たわっているのは、三広だった。
俯せになり、裸の背中とカモシカの様なしなやかな脚が毛布から覗いていた。
安らかに寝息を立てているが、良く見るとシーツはくしゃくしゃに乱れ、脱ぎ捨てた服が周辺に散乱している。




妖しく不穏な空気に危険を感じて、部屋から出ようとするが綾波に腕を掴まれた。

その冷たい瞳の中には野蛮な色が宿っている。




「三広が寂しがってな。久しぶりに可愛がってやった」


ゾッとして、腕を振り払おうともがくが捩上げられ、痛みに悲鳴を上げた。


「いたっ!離してよこの変態!」



「変態……だと?」


綾波は、床に乱暴にあぐりを倒すと、ズボンのベルトを外した。

流石のあぐりも恐怖で唇を震わす。



「お前は生意気そうだから、調教してやらないとな」



「はあっ?何言ってんのよこのゲイ!
触らないで!」



「残念ながら俺は、両刀なのさ」



綾波は、あぐりを上から下まで眺めると、唇を舌でペロリと舐めた。



綾波は、酒の息を吐きながらあぐりの首筋に唇を這わせた。

あぐりは必死に手足をじたばたするが怪力の男には到底敵わない。



「お前も、あいつらを覗いて欲情したのか?」



「……あんたと一緒にしないで!」



「人間皆欲望には勝てないさ……ふふ」




渾身の力を込めて股間を蹴り上げようとするが脚を掴まれ、そのまま左右にぐいっと開かれ、スカートから大腿部が覗く。



下着が見える寸前の際どさに、綾波は、ゴクリと喉を鳴らし、低く笑う。


「さあ……
どんな風に可愛がってやろうか?」




「な……何かしたら百回殺してやるっ!」




「気の強い女だな。
だが……いつまで泣かずにいられるのか、試してみようか……ん?」




「は?馬鹿じゃないの!?誰が泣くって?」



あぐりは、精一杯の虚勢を張るが、既に恐怖で泣きそうだった。




 

「なんだ、もう目が赤いぞ?
口が悪い割りに随分と可愛いじゃないか……」



綾波の長い指が、あぐりのスカートの中へと侵入し、巧みに撫で廻し始める。



「い、いやっ!
止めなさい……止めてよっ!
……こ、このあぐり様に触っていいのは……
え、選ばれた男だけなのっ!
誰があんたみたいな……っ……」


あぐりは綾波の胸を拳で叩き、脚をばたつかせるが、足首をグッと掴まれて動かせなくなる。




「ふん。
お前が選ぶだと……?
女王様みたいな事を言うな……」



「そっ……そうよっ!
女王様に触らないでっ」


あぐりの目は涙で盛り上がり、唇がわなわなと震えている。



「女王様を調教か……
面白いじゃないか」




綾波がスカートを捲ろうとした時、部屋のドアが開いた。


鈍い音がして、綾波は頭を押さえ顔をしかめ、あぐりに跨がったまま、後ろを振り向き苦々しく溜息をついた。




「……お前か……邪魔するなよ」



「遊ぶのもいい加減にしないと洒落になりませんよ」



涼やかな声が聞こえる。
あぐりは乱れた息のまま薄目を開け、後ろに立つ人物を見上げた。



「……野村……くん?」



そこに居たのは、クレッシェンドのベースの野村大だった。

ライブの打ち上げの時、一言も言葉を交わさずに終わった男だ。

端正な口元から静かに言葉が発せられた。



「綾波さん、どいて下さい」


野村は綾波を強引に引き剥がし、庇う様にあぐりの前に立つ。
その手にはバットが握られていた。



「おいおい。そんなんで殴ったらそれこそ洒落にならないぜ?」



「これを使うかどうかは、綾波さん次第ですよ」


二人は暫し睨み合っていたが、綾波は深い溜め息を吐き、頭を掻く。



「……気が削がれたな。そうか、もう交代の時間だな……
後はお前に任せる」


綾波は肩を竦めるとベルトを嵌め、あぐりを見てニヤリと笑うと出て行った。





心臓が早鐘を打つのを何とか鎮めようと、胸に手を充てていたが治まらず、息がヒューヒューと音を立てはじめた。

野村が無言で紙袋を持ってきてあぐりの口に宛てがう。

紙袋を手に呼吸を繰り返し、次第に過呼吸は治まってきた。


「……はあっ」



「大丈夫ですか?」


「もう……何なのよ……あの変態マネージャー!今度会ったら仕返しにケツキックしてやるんだから!」


「綾波さんには逆効果です。ケツキックは喜ばれます」


「マジか」


突然笑いが込み上げ、あぐりはヒステリックに身体を震わせた。


笑いは次第に泣き声に変わり、しゃくり上げるあぐりの肩を野村がそっと掴むと、払いのけられる。




「……付け込まないで。
私にはね、恋人が居るの。
あんたとは較べ物にならない、ワイルドで格好いい大人の男よっ」



「そうですか」



「そうですか、じゃないわよ!
嘘でも食い下がって来なさいよね!
……女が襲われたショックで目の前で泣いてるのよ!?」



「……恋人さんに慰めてもらえば解決するのでは」




あぐりは絶句し、激しく肩を震わせ、野村は長い睫毛の瞳を一瞬揺らし、彼女へと手を伸ばしかけたが、また戻した。




「……いくら恋人でも……遠いもの……
叫んだって……あの人には……
私の声は届かないも…の…ひっく」



野村が大判バスタオルを差し出すと、あぐりは鼻水をずずっと啜り睨み付けた。



「何故そんな顔をするんですか」



「だからっ!
気が利かない男ね!慰めなさいよ!」



「付け込むのはNGなのではないですか?」



「時と場合によるのよ!」


「はあ……」



あぐりはタオルに顔を埋め、消え入りそうに呟いた。




「……お願…今だけ…っ」



その震える身体を、野村は包み込む様に抱き締めた。



「随分と我が儘ですね」


静かなバリトンの声が心地好く耳に入り込む。



「ひっ……勘違い…しないでよっ。
寂しい時に抱っこするクマちゃんのかわり……なんだからっ」



「……くま」



野村は、目を丸くした。


「そうよ!クマよ!
けどね、ゆるっクマの方が全然可愛いわよっ……そうだ!
今日ゆるっクマを買い損ねたわ!
あんた、ショップ行くの付き合いなさいよね」




「何故」



「その位働きなさいよ。何よ!いつもぬぼーっとして」



「……ぬぼー。
……ですか」


ぐううう。

あぐりのお腹が盛大に鳴った。


流石に恥ずかしさで、黙り込むあぐりだった。

突然、野村の身体が震えたかと思うとクスクスと笑い出す。


その笑顔を間近で見てしまい、思いがけず心が激しく揺れてしまう。



「……何か食べに行きましょうか。
僕と一緒でも良ければですけど」



ひとしきり笑うと、唇を歪ませたままで野村はあぐりに提案する。


ぐうう。

また、鳴ってしまった。


野村は口を押さえ、ふるふる身体を震わせ笑っている。



あぐりが赤くなり無言で頷くと、大きな掌が差し出され、怖ず怖ずと自らの手を出すと強くギュッと握られる。



その熱さに、あぐりの心は温かくときめいていた――。





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