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eyes to me~私を見て④

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――――――――――


「皆――ありがとう!」


プリキーとクレッシェンド、ボンバーの3バンドに、志村と大室、ヤモリを加えた夢の競演のアンコールの演奏は、会場周辺の地盤を揺らがすのではないか、と思う程に観客達が熱狂しながら飛び跳ね、拳を振り上げた。

祐樹の繊細さと大胆さを兼ね備えたピアノと、その魅力的な低く甘いボーカル、髑髏川の抜群の歌唱力を持つ声、どんな色にも合わせる事が出来る美名の不思議な澄んだ歌声、それぞれのバンドの楽器隊の個性も華やかにぶつかり合い、最高のアンサンブルが生まれた。
志村、大室、ヤモリの昭和エンターティナー組は巧みなコーラスで美名達を盛り上げ、ボンバーの瞬と暗黒、豚彦達はキレキレのダンスで大いに盛り上げた。



「皆さん、本当に今日は、楽しかった――!
また、会いましょう――!」


美名がマイクで叫ぶと、それに応えるかの様に大きな拍手が起こる。


全員で横並びになり、手を繋ぎ、深く深く礼をする。


美名は、感激と高揚で、下を向いた瞬間に大粒の涙を溢した。



「美名ちゃ――ん!」
「西くん――っ」
「美名ちゃん――ありがとう!」
「ボンバー!」
「ヤモリさ――んっ」
「猫さ――んっ」
「王子―――!キャアアア」
「野村く――ん!亮介く――ん!根本くん――!」
「西く――んっ!」
「志村さん――!
大室さん―――!」
「真理ぉ――――」

「美名ちゃ――ん――」
「美名ちゃん――!」
「ありがとう――!」





黄色い声や、太い声に、幼い子供の声。
名前も知らない、色んな人々が、今日、この場限りの自分達の演奏に拍手と声援を送ってくれている。


そして、繰り返される、
「ありがとう」
という言葉。



美名は、皆と共にステージから手を振りながら、涙を溢れさせながら心の中で幾度も叫んだ。





(ありがとう……
本当に、ありがとう、て言わなくちゃならないのは……
私の方だよ……
ありがとう……!)




皆、それぞれ手を振ったり投げキッスをしたり、踊ったり、ピックを投げたりしながらステージから袖へ捌けて行った。



「わ――!楽しかったね!」

三広がピョンピョン兎の様に跳ねていると、桃子が走ってきて飛び付いた。


二人はそのまま抱き合い、奥に積まれている大量のはまじろうの脱け殻……つまり、用済みになり脱いである衣装だが――
その山の中へと倒れ込んでしまう。



「うわ――っ!
なんと大胆な!」
「羨ましい―ん」


豚彦と瞬が囃し立て、それを見ていた由清は独り、苦く笑った。



「あふ……眠」


「何だよ、野村、もう電池切れか?
打ち上げまで持たせろよ~!」


野村は、トロンとした目で「うん……」と返事をするが、亮介に倒れかかってきた。


「うわ――!な、何だよっ」


「ぐ――……」


「勘弁してくれよなっ!」

亮介は野村を支えながら叫んでいる。




美名は、用意されたパイプ椅子に倒れ込む様に座り、放心した様に、皆の様子を目に映したり、天井のライトをぼんやり眺めたりしていた。


自分の、ミュージシャンとしてのほぼ全てを出しきったステージ。

達成感と、とてつもない疲労と、少し燻る胸の痛みが交互に自分の中に現れては消えて、また現れ、美名は戸惑っていた。

「美名――っ」


真理、髑髏川と志村が飛んで来る。


志村は、ぐったりした美名の頭をそっと撫でて、頬擦りした。


「頑張った!
本当に、頑張ったわねえ……っ!」


「志村さん……」


「美名ちゃん、今日、プリキーと同じステージに立てて本当に楽しかったよ!ありがとう!」


髑髏川が、細い目を更に細くして、美名の手を握った。


「美名っ……美名……ひ、ひひひ――っ」



真理は、いかつい顔を歪ませ、感極まり言葉が出ない様子だ。


「もうっ!真理君ったら、シャキッとしなさい――!」


志村にまた尻をシバかれ、真理は「アウチ!」と絶叫した。







「いやあ、素晴らしいショーだったよ!」


ヤモリが手を叩きながら祐樹とやって来た。


美名は、身体を起こそうとするが、ふらついてしまう。


祐樹が素早く支えて優しく微笑んだ。



「無理しちゃダメだよ?
……座ってなさい?」



祐樹の姿に、また綾波を見てしまった美名は、穴の開く程に見つめてしまう。


祐樹は、その視線を真っ直ぐに受け止め、美名の切ない心情を分かっているかの様に、頷いた。



「……アイツ、どうしようもないバカだよな……
こんなに可愛い美名さんが待ってるのに」



「――わ……私……」



美名は、綾波が来なくても、自分から追い掛ける心づもりで居た。

だが、ステージが終了したと同時に、張り詰めた糸が切れてしまった様に、感情が決壊しそうになる。


――会いたい。

会いたくて、堪らない。

意地悪で……愛しい、獣の様な、私の――




祐樹は、柔らかく笑うと、しなやかな指で美名の涙を拭った。



「そんな顔を、俺以外の男に見せるな」


「――っ」


美名は、胸の中を一気に鷲掴みにされ、言葉を失うが、祐樹はコロッと表情を変えて舌を出しておどけた。


「な――んて、ね!
綾波の奴が、いかにも言いそうな台詞でしょっ?」

「……っ!」


美名は、真っ赤になり身体を震わせて祐樹の頭をいきなりゲンコツで叩いた。



皆、あっけに取られていたが、祐樹も頭を押さえ、キョトンとした顔で美名を見る。



美名は、唇を震わせて低く呟いた。



「ひど……ひどいっ!」



(剛さんと良く似た姿で……
からかうなんて……)



「祐ちゃん、謝りなさい!貴方、悪のりし過ぎ!」


志村が祐樹をつつくと、祐樹は頭を掻いた。



「……駄目?
受けるかなあ、て思ったんだけど」



「受けるワケがないでしょ――!」


志村が目を剥いた。



「にっ……西君が美名を苛めた――っ」


「爽やかな西君がっ!美名を――っ!
卑怯だっ!なんか卑怯だ!」


「そうだそうだ――!
そのギャップに女子はヤラレちゃうんだよ――!」

「ギャ――!ムカツク――!」


髑髏川と真理が、すっとぼけて口笛を吹く祐樹を指差して騒いでいると、健人とマイカ、そして暗黒が血相を変えて走ってきた。



「お、お――い君達っ……てか、姫様っ!」


明らかに慌ててテンパっている健人を見て、美名は涙目のまま言った。



「……その呼び方は止めて」


健人が、聞こえていないのか、喋り続ける。



「いやいや、今、最終決定権を持ってるラスボスの岸社長が居ないから~
俺が決めなきゃなんだけどさ~!
姫様が実質上、今夜のステージの主役だし……
姫様にご意見を御伺いに……て……ぐあ――っ」



「姫様って……呼ばれると……剛さんが恋しくなるから……
止めてって言ってるの――!」




健人は、美名にアッパーカットを喰らい、倒れてのびてしまった。



「お、お兄ちゃんっ」


マイカが健人を抱き起こすが、暗黒はすっかり怯えて美名から後ずさる。


「ちょっと~、貴方たち、何を遊んでるのよ……
いい加減になさい!」



騒ぎを聞きつけてやって来た志村が呆れている。


マイカが、ハッと思い出した様に叫んだ。



「あ、あの!
……ま、また、アンコールが起こってるんです!」


「ええっ!?」



その場に居た皆が、息を呑んだ。



「ダ……
ダブルアンコールですって?」


志村が呆然とよろめいた。



そう言えば、大騒ぎの中で気づかなかったが、さざめきの様な拍手に乗せて、歌声が聞こえてくる。


美名は、耳に手を添え目を閉じて、震える唇で小さく、そのメロディーを口ずさむと、その曲の名前を呟いた。



「恋……する……
cherry……soda……」




美名の瞳に、みるみる力が宿り、強い光が灯る。

目尻の涙をゴシゴシ拭いて、マイカに聞いた。



「いつから……コールが起こってるの?」



「皆さんが裾に捌けてから直ぐにです!
もう五分以上経ってます」


「……なきゃ」



「え?」



美名は、ふらつきながらも立ち上がり、ギターを持とうとする。



「ま……待ちなさい美名ちゃん!
もう体力が殆ど残ってないでしょ?」



志村が美名を止めようと腕を掴んだ時、グレーの作業着を着た、腕に
"正規スタッフ"
と書かれた腕章をした若い男性がやって来て、マイカを咎める様に言った。




「竹下さん、お客をあのまんまでいつまで放置してるの?
終了なら終了で、客電点けてさっさとアナウンスをして下さい」



「あっ……すいません……で、でも」


マイカが、笑顔を絶やさないままでその男に会釈をしたが、皆は、そのスタッフの横柄な態度にムッとしていた。





「困るんだよね、会場で音を出していい時間ってのは決められてるんだから……
さっさと撤収して貰わないと……
はあ~これだから、何にも物の分かってないレジャー目的で来た、にわかスタッフを大勢受け入れるのは嫌だったんだよね……」



スタッフは自分の腕時計を指でトントンと叩くが、真理が食って掛かる。


「おいっ!
そんな言い方はねぇだろ――!
大体が、こっちは割り増しで会場代を払ってるんだぜっ!
お前何様だ――!」



「まっ……真理!」


由清や志村が止めに入るが、スタッフは口元を歪めて笑う。



「はあ~……
品がないですね……
さすが、スキャンダルバンドのメンバーだけありますねぇ」



「なっ……」



亮介と髑髏川が顔色を変えた時、手を叩きながら年配の小太りの男性が歩いてきた。



「……あともう一曲、なら大丈夫ですよ。
どうぞ、ステージへ出て下さい」



「――佐藤さん!しかし」


佐藤と呼ばれた責任者らしき男性は、若いスタッフをいなすように言った。



「まあいいじゃないですか。
野音は何の為にあるんですか?
沢山の人が、音楽や演劇や……
色んなエンターテイメントを楽しむ為にあるんですよ?
あんなに一生懸命声を張り上げて、アンコールしてるんだから……
ね?」





「はい……」



若いスタッフは不満気だったが、渋々頷く。



「……ありがとうございます!」


「か――っ!話のわかるオッサンだな!
ありがとうよ!」



美名や由清、真理が頭を下げると、志村も一緒になり深々とお辞儀をした。



「いいんですよ!
さあ、早く行ってあげて下さい……
あ、でもあんまり大音量でない……
そうですね、弾き語りとかでしたら」



佐藤に言われ、美名は目を輝かせる。



「私……
今、凄く歌いたい曲があるの……」



「うん、いいと思うわよ美名ちゃん!」



志村が美名を励ます様に肩を叩いた。



「……すいません……できたら、着替えてきたいんですけど」




美名は、自分のドレスを摘まみ、遠慮がちに言う。





マイカが頷く。


「そうですね……ずっとその重たいドレスじゃあ大変ですもの」


「お姉ちゃ――ん!
手伝うよ――!」



はまじろうの脱け殻の山の中から、桃子がニョキリと顔を出した。



遅れて、鼻を布で押さえながら三広も出てきた。


「エロ猿――っ!
お前っ――何をしてたんだよここで――!」



亮介に捕まえられ、三広は脇を擽られ絶叫した。


「ひいっ……ぎゃあ――っ亮……すけ……のへんた……いっ」



桃子がドレスの裾を持ち、張り切っている。


「うふふ!
なんだか、花嫁さんのドレスを持ってるみたい~!
凄く可愛いし、脱ぐのが勿体ないけどしょうがないね!
じゃ、お色直ししてきま~すっ」





「美名ちゃ――ん!」


「ヒメちゃ――ん!」


会場の歓声はまだ途切れない。


「さてと!
場を繋ぎに、大サービス!
ステージに行ってくるよ!」


祐樹が悪戯な笑みを溢し、走って行くと、途端に会場から悲鳴が聞こえてくる。



「あ――ズルイッ!
西君だけ目立とうとしてる――!」

「ボンバーも行くぞ――!」


髑髏川達も行ってしまうと、残りの面々も顔を見合わせ、ステージに向かって行った。


「あ、あの、ありがとうございます!
あの私……
要領が悪くてご迷惑かけてすいませ……」



美名に殴られ、まだのびている健人を足で転がし、マイカが頭を下げると、佐藤はニコニコ笑って首を振った。



「全然そんな事はありませんよ?
私達は、皆さんが楽しく滞りなくイベントが出来るようにお手伝いするのが仕事なんですから……あ、君……」



佐藤は、苦虫を噛み潰した顔をしてステージの方を見ているスタッフに声を掛けた。



「――何でしょうか」



「控え室の方へ行って、美名さんをステージに誘導してあげなさい」



若いスタッフの目に、反抗的な光が一瞬宿るが、それは直ぐに消えた。


「はい……わかりました」


「頼んだよ?
高幡君」



控え室に向かう高幡の口元が、醜く歪んでいた。




――――




「――見えた!日比谷野音!」



もう会場は、目の前の信号を渡った所にあるのだが、なかなか青にならずに皆焦れていたが、綾波が、後部席を開けて降りてしまう。



「走った方が早い……!
先に行く」



綾波は、中央分離帯の植え込みをヒラリと飛び越え、車を鮮やかにかわして走って行った。



「綾波――!頼んだぞ」


「綾波さん――!気を付けて!」


「綾波くん――っ」



智也達の声を背中に聞きながら、綾波は疾走する。



会場に近付くにつれ、胸が鳴り始める。


走っているから激しく鳴っているのとは違う。


心臓が、躍動する度に甘い痛みを伴って、綾波は胸を押さえた。



会場付近に歩いて居る人々の姿がなかった、という事は、まだライヴは終わってないのかも知れない。



ゲートが見えた。


沢山の人々が拍手をして、声援をステージに向けて送っている。

ステージに大勢の人間が上がっている様だが、美名は居るのだろうか?



綾波は速度を緩める事なく走り、会場のゲートをくぐった。




綾波は、ステージを見つめ歓声を送る人々の脇を通り抜けながら、美名の姿を探した。



「皆!
ダブルアンコール、ありがとう!めちゃ嬉しい!」

祐樹が笑顔で叫ぶと、轟く様な歓声と拍手が起きた。


「いや――、僕達ボンバーも沢山ライヴをやらせていただいてますが……
ダブルアンコールって、初めて見ました!」



髑髏川が話していると、横に居た暗黒が口を挟む。



「いや――てか皆、スゲェ怨念持ってるね!」



暗黒の噛み合わない言葉に、祐樹や皆が「ん?」
と眉を上げると、髑髏川は呆れた声を出す。



「暗黒君……
君、それを言うなら『皆、凄い情熱を持ってるね』とか言うべきでは」



「あ――それそれ!
それを俺は言いたかったんだよ――!
流石猫さん!
あったまいい~!」



「……あのね、君、僕をバカにしてるのかい?」



爆笑が起きて、暗黒は頭を掻いた。



綾波はステージに近づくにつれ、美名の姿が無い事に胸騒ぎを覚えていた。



「美名……っ」



思わず呟くと、後ろから誰かが勢い良くぶつかってきて、綾波はよろける。



「兄貴い――!
綾波の兄貴じゃないですかっ!
お久しぶりですっ!」


目が覚める様なラメ仕様のゴールドのはまじろう姿の健人が、綾波に向かい仁義を切る。


「んも――っ!
いい加減にその癖やめなさいよっ!」


ピンクはまじろうのマイカが、どこから持ってきたのか巨大なハリセンで健人の頭を叩いた。



「ライオン丸……!
美名は、美名は何処に?」



綾波は健人の肩を掴み、真剣な眼差しで聞く。



「姫様なら、絶賛生着替え中っすよ――!」



「おかしな言い方しないの――!すいません、綾波さん!馬鹿な兄で」



またマイカに殴られて健人は白目を剥いた。



「いや……
馬鹿なのは知ってるが……美名は何処に?
控え室か?
案内してくれないか」



綾波の緊迫した口調に、マイカは何かを感じ取り頷くと、


「こっちです」


と言い、走って行く。


綾波も後に続き、健人も

「お――い、兄貴――っ待って下さい~!」


と叫びながら追い掛けた。





ステージでは、美名以外の面々が口々に何かを喋りながら盛り上げていたが、客席から


「美名ちゃんは――?」

「美名ちゃ――ん!」



という声が上がる。





「そう言えば……
美名ちゃんが居ないよね?
皆、よくぞ気がつきました――!」



ヤモリが大袈裟な仕草で叫ぶと、大きな拍手が起きて、ヤモリの手の動きに合わせて拍手がピッタリと揃うとまた爆笑に包まれた。




「皆、美名ちゃんに会いたいかい?」



祐樹がマイクを客席に向けると、



「会いた――い!」



という声が返ってくる。



「じゃあ、皆で美名を呼ぼうぜ――!」



真理が雄叫びを上げるのを合図に、美名コールが起こる。



「美名ちゃん!」


「ヒーメーちゃん!」




段々大きくなるコールは、ステージの裏まで聞こえる。


綾波達は美名の居る控え室を目指して走っていた。




「兄貴――!今まで何処にいたんすかっ!
姫様も俺らもすっげ心配してたんすよ――」


健人が横に並んで話し掛けるが、綾波は答える余裕はなかった。



「マイカ!
控え室には美名だけか?」


「えっ?……いえ、桃子が一緒に」



綾波は舌打ちする。


それはそうだ。
着替えをするのに野郎が一緒に入る訳がない。




(……しかし、女二人だけで、もし奴がそこへ踏み込んだりしたら……)



綾波の背中に冷たい物が走る。



マイカは廊下の別れ道で立ち止まり、キョロキョロする。



「あれ……
どっちだっけ……」



「マイカ――ちゃんと覚えとけよっ」



健人にデコピンされ、マイカはグーパンチで三倍以上にして返す。



「何よ!そういう自分は覚えてるの――?」




二人が睨み合って居る所に、グレーの作業着に小太りな身体の、人の良い人相の年配の男性が胸ポケットから煙草の箱を出しながらやって来て、ニッコリ笑う。



「竹下さん、ご苦労様~。あともう少しだから頑張ろうね?」



「ああ、佐藤さん!
美名さんが入った控え室って何処でしたっけ?」



マイカは救いの神を見つけた様に目を輝かせ、聞いた。



「ああ、右へ行くんだよ?……高幡君が、今彼女を呼びに行ってると思うけど」



佐藤の言葉に、綾波は身体を強張らせる。



「高幡――!?」



思わず叫び、たまらず駆け出して行った。



「あ、兄貴――?」


「綾波さんっ」



健人とマイカの声が耳を掠めて行く。


蛇の様に曲りくねった通路を走るが、部屋までの道のりがとてつもなく遠く感じた。



「美名……
美名――!」


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