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すれ違う恋人たち

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綾波は、美名が出ていったドアを見つめノブを掴もうと手を伸ばしかけるが、重りがぶら下がりでもしているかの様に右手が言う事をきかず、唇を噛み締めてドアから顔を背けた。



リビングから、啜り泣きが聴こえて来て、身体の中身全部を握り潰されている様な痛みを覚えた。



「美名っ……」




菊野との過去を、ほなみには打ち明けた事がある。

ほなみの時には打ち明ける事に何の躊躇いも無かったのに、美名にいざ話すと決めてから、何故か躊躇の感情が現れて、先伸ばしにしている内にこんな事になってしまうとは。




こんな最悪で残酷な形で知る事になった美名は、もう自分を軽蔑の目でしか見なくなるのだろうか。



綾波はこめかみを押さえ、ベッドへ腰掛けて虚ろに壁を見つめた。








孤児だった自分を引き取った菊野。


母親と言うには若い、そして大人らしからぬ幼さを持った菊野を、いつしか自分は女として見る様になっていた。



いや、最初から母親とは思えなかった。



一度も母さん、と呼んだ事は無い。



実の両親からほぼ育児放棄の様にされてきた綾波は、子供らしさを持たない子供だった。



西本の家に引き取られ、天真爛漫な祐樹と無邪気な菊野、優しい義父に今までされた事のない家族としての扱いをされ、最初はかなり戸惑った。


両親からされた仕打ちを全部覚えている訳ではないが、深層の何処かにひねくれて膝を抱えて他人を寄せ付けない何かを自分は持っていたのだろう。


自分に向けられる無償の思いやりという物を、長い間信じられなかったのだ。



だが、菊野はそんな自分にいつもぶつかってきた。


そして、いつの間にか自分の心は菊野の優しさによって溶かされて、それは親愛の情を飛び越えて狂おしい恋情に変わった。







十一年前の誕生日に、訪ねて来た菊野を無理矢理に抱いた……


菊野は泣いていたが、最後には綾波を受け入れたのだ。



あれから会うことはおろか連絡も取って居なかったのだ。



今回の怪我の入院があって久々に菊野に会ったが、一人の女性として親愛と憧れの情はあるが、もうそれは恋ではない、と実感した。


十一年という歳月の間、綾波に色々な出来事があり出会いがあったように、菊野にも同じ様に様々な事があった筈だ。



菊野もあの夜の事は遠い遠い思い出として心の奥底に封印しているのだろう。



再会した時、あの出来事をお互いに話す事は無かった。







菊野の十一年前の言葉。


『次に……逢う時……
剛さんに本当に心から愛せる人が出来ていたら……
私は……今……それを一番に願っているわ』




あの時には、この言葉がとても残酷に聞こえた。


だがあれは菊野の最大の愛情であり優しさだったのだ。




美名に出会い、初めて愛し愛される幸せを知った様な気がしていた。



美名が、自分のただ一人の女なのだと思っていた。



その幸福に酔う一方で、過去に罪を冒した自分が果たして幸福になれるのか、そして美名を不幸にしないか、そんな思いが常に頭の中には存在していた……









リビングの啜り泣きが止んでいる。



疲れて眠ったのだろうか。



綾波はそっとドアを開けて毛布を手にリビングを覗いてみた。



ソファでクッションを抱き締めて寝息を立てる美名の姿を認めると、甘く苦い痛みがまた込み上げる。



小さな肩と背中が静かに呼吸で動き、目尻には涙の痕がある。




「ごめんな……」



その身体に静かに毛布をかけて、小さく呟いた。


途端に床に何かが煌めいてポトンと落ちる。



自分が泣いている事に驚いた。



「……はは……
一体、どれだけ泣いて無かったんだろうな……」



以前、いつ泣いたのか記憶に無い。








「そうか……
俺は……マジでお前を失いたくないのか……」



改めて口にしてみると、止めどない愛しさが嗚咽と共に込み上げてくる。


だが、美名はこんな自分を許してくれるのだろうか。

自分がいくら愛していたとしても、美名を不幸にするなら、身を引いた方がいいのだろう。



自分で無くても美名を愛する男は他にも現れるだろう。




「……冗談じゃねえぞ……そんな事」



頭の中で考える事と、感情が激しく反発しあう。



離したくない。

けれど、自分が美名を追い詰めてしまうのかも知れない。



苦しい溜め息を吐いて、綾波はリビングに美名を残して寝室へ戻った。





――――――













重苦しい夜が明けて翌日、新たなプロジェクトの打ち合わせ兼顔合わせと会見が予定されているホテルに向かう車中で、二人は無言だった。



後部席に座る二人はお互いの身体が触れない様に距離を取っていたが、目の前のトラックが急停車し、田仲が急ブレーキを踏んだ時にタイヤがロックし、美名が綾波に倒れかかってきた。



「……失礼いたしました」

「大丈夫だ、気にするな」


田仲に返事をする綾波が美名を受け止めた腕に力を込める。



美名が内心胸をときめかせながら、腕の中から出ようともがくが、綾波が離さない。



「……綾波さ」



泣きそうな声で上目遣いで哀願するかの様に見る美名に、綾波は焦れてしまう。



「なんだ……
その呼び方は?」



美名の顎を掴み、上を向かせる。








「は……離して下さ……」


「……名前で呼びたくない位、愛想が尽きたのか?」


自分の声が震えるのが分かる。


美名が目を逸らした時、綾波は唇を奪った。



「――!」



美名の手が胸を叩き身体を必死に捩らせている。


がっちりと頭と身体を掴み、激しく唇と咥内を犯すが、突然口の中に鉄の苦味が広がった。



「や……やめて」



美名が渾身の力で綾波を突き飛ばし、泣きながら唇を拭う。



綾波の唇は噛まれて紅く滲んでいた。









「……嫌われたものだな……」


綾波が苦い笑みを溢してハンカチで血を拭うと、美名はカッとなり、頬の頬を打った。



ジンジンとする痛みを頬と唇に感じながら、綾波は美名を見る。



小さな手も、唇も小刻みに震えて頬は紅潮し、その瞳は涙で盛り上がる。



「き、嫌うだとか……
そんな簡単な問題じゃないわよ!」




苦しげに潰れそうな声に綾波は眉を歪めた。




「美名……
悪かった……
頼むからそんな声で喋るな……
喉を痛める」




「……心配するのはそこな訳っ!?」




美名は甲高く叫び、更に綾波を打った。




「美名……」



打たれ、よろけた姿勢のまま乱れた前髪の隙間から美名を見る。



美名は掌で顔を覆いしゃくり上げたが、泣き声はいつしか笑いに変わった。








綾波がギョッとしてその肩に手を伸ばすが、美名の乾いた声で全身が凍る。



「……あはは……
そうよね……
私は……あなたの言う通りに歌っていればいいんですものね……
何も考えないで歌いますから……
それで……いいんでしょ?
アハハハ……」



ヒステリックに笑う美名の腕を掴み綾波は真っ直ぐに目を向けるが、美名は顔を歪めまた涙を溢した。



「嫌いになれるなら……
何もかも忘れられるなら……
その方がマシよ!」


「美名!」




「離して!」



綾波の腕を振りほどこうと滅茶苦茶にもがいている時、目的地のホテルの駐車場に到着した。









丁度、志村達も到着して車から降りたところだった。



志村と真理、由清が美名達に気付いて手を振ってくる。



美名は停車した途端に後部席のドアを開けて志村達の方へ走って行く。



「美名!」



綾波が叫ぶが、美名は止まらなかった。



「あらあら、美名ちゃん、ヒールで走ると転ぶわよ?」


「美名ちゃんおはよ~」



「美名?そんなにこの真理様に会いたかったか――!」



「バカね!そんな訳ないでしょ!」



「いい加減に諦めろよな」


「ちぇ――っ」



志村と由清に言われて唇を尖らせた真理は、美名の普通でない様子にいち早く気が付いた。



美名は真理に向かって手を伸ばしている。



(これは俺の気のせいか……?
いや、気のせいじゃない!)



「真理くんっ……」



掠れた涙声が聞こえた瞬間、真理も駆け寄り、美名を抱き締めていた。










しがみついて来る柔らかい身体をしっかりと抱き締めて、甘いときめきが沸き上がるのを必死に押さえながら真理はワザとふざける。



「うーん?
お前、やっぱり昨日食い過ぎただろ!
何だか身体がちょっと膨張してるぞ~?」


「……真理……くんっ……真理……くん」



だが美名は震えて泣いている。


真理は真顔になり、その背中をポンポンと叩く。


「どうしたの?美名ちゃん……まさか、真理くんのマカロンに当たったとか?まああっ!」



「真理!だからあれ程気を付けろって言ったのに」



「お、おいおい違うだろ――!」



三人がワイワイ言い合っていると、綾波がツカツカと歩いて来る。




「美名……
こっちへ来るんだ」



低い声に、美名がビクリとする。
真理はそれを察して綾波を睨む。



「嫌がってるじゃねーかよ」








「……美名を離せ」



「やだね」



「――何だと!?」




綾波が目をぎらつかせた時、志村がすっとん狂な声を上げた。




「ああ!そういえば!
今の時間、このホテルで数量限定の
"お口の中でとろけるセレブのシフォンティータイムセット"

が一階の喫茶コーナーで食べれるのよっ!
ここに来たらそれを堪能しないと悔いが残るわ~!
……打ち合わせにはまだ30分あるし、行きましょ!ほらほら、いくわよ!」



志村は綾波の肩を強引に抱いて歩いて行く。



「ほら、皆も来なさい?」


「は、はい」



由清が返事をして、まだ抱き合う二人を振り返る。



「由清、先に行っててくれ」


そう言う真理に頷いて、由清は小走りに志村と綾波の後を追い掛けた。



綾波がちらりと振り返り美名と目が合う。



美名は真理にしがみつく力を強めた。









真理が美名の背中をそっとさすりながら、何を言おうか考えあぐねていたが、美名が小さく呟いた。



「……マカロン、美味しかったよ?」



「ん?……あ、ああ、そっか!そりゃー良かった!」


美名は真理からそっと離れて、涙を拭い微かに笑うが、やはりどこか痛々しい。



「昨日……
真理くんが居なくて……寂しかった……」



美名に取っては何気ない言葉だったのかも知れない。
だが、その一言は真理の心に再び熱い恋の火を灯してしまう。



それでも、舞い上がる気持ちを必死に押さえ込み美名の額をデコピンした。



「あ――ほ!
綾波がいりゃ、それでハッピーだろうがお前は!おかしな事を言ってるんじゃない!」








「痛い……」



額を押さえて俯くと、また涙がぽつりと落ちる。



真理は狼狽えた。



「わ、ワリィ!
そんなに痛かったか?」



顔を覗き込み、掌で額に触れると涙目の美名と見つめ合う形になり、思わず息を呑んだ。



このまま見つめていたら、また唇を奪ってしまいそうだ。



顔を逸らして、わざと素っ気なく言った。




「何なんだよお前ら……
昨日までラブラブしてたんじゃねーの?
犬も喰わないナントカってやつか?」




「……わ……私……どうしたらいいか……」



苦しげな嗚咽が耳に入ると、やはり素っ気ない態度を通すのは不可能だった。



美名に真っ直ぐに向き直り、手を握りしめる。









「何があったんだ?ん?」


静かに聞くと、目の前で桜色の唇が何か言いたげに開いて、また閉じられ、しゃくり上げそうになるのを堪える様に歪む。



「……言わなきゃなんもわからんぜ?」




辛抱強く優しく聞くが、美名は首を振った。




「……い……言えないよ……こんな」



「まあ、そう言わずに話してみろって……
な?」



「……こんな事……こんな気持ち、真理くんには分からないよ!」



美名は怒鳴ってしまってから、ハッと口を押さえる。



真理は目を丸くしたが、深く溜め息を吐くとプイと背中を向けた。




「ま……真理くん」



「俺が……お前の気持ちを分からないって?」



「真理くん……」



「お前だって……俺の気持ちを分かってないだろうが!」



真理は拳を握り締め、投げつける様に言葉を放った。









真理は叫ぶと同時に激しく後悔していた。

自分が美名を好きだと思うのは、自分の勝手なのに……



「……美名」



振り返ると、美名は泣き崩れてしゃがんでいた。



「ご……ごめんなさ……私……
真理くんに……迷惑かけてばか……」




小さな女の子の様に泣く美名を包み込む様に抱き締めて、気付かれない様に髪にそっと口付けた。



「いや……
俺の方が……ワリィ……言えない事なら無理に話さなくていいから……」



美名は物凄い力でしがみついてきて、真理が勢いに負けて倒されてしまう。



冷たいコンクリートに仰向けになり、泣く美名を抱き締め、立体駐車場の灰色の天井を見つめながら、真理は苦笑した。




(全く……
こんなんじゃ、忘れようとしても忘れられる訳がない……)



――――――









その頃、ホテルのロビーで志村は運ばれてきたシフォンケーキを前に異様なはしゃぎっぷりだった。




キメの細かいスポンジからは上品なバニラの薫りが漂い、添えられたバニラアイスとホイップには金箔がチラリと乗ってコージャス感を醸し出している。



「写真!写真撮らなくちゃ!……久々にブログもアップしなくちゃだし、これを貼り付けましょう!」


スマホを手に色んな角度から撮影を試みる。



「ん――!
どうどう?上手く撮れたかしら?」



由清に画面をいくつか見せるが、由清は曖昧に笑い紅茶を啜る。



綾波は憮然とした顔のままシフォンにフォークを突き立て、口に運んだ。








「うーん、じゃあこの写真を使いましょ!」



志村は写真撮影を止めてフォークでシフォンを口に運ぶと目を輝かせた。




「ん――!
本当にお口の中で溶けちゃうのね――!」



「ですね……」



由清も食べながら、周囲を気にしている。
美名と真理が来るのを待っているのだ。



志村は紅茶を一口啜り息をつくと、綾波に切り出した。




「ね、一体どうしたの?……昨日はあんなに燃え上がってたじゃないの」



「も、燃え上がっ……」



由清は思わず赤面する。



綾波はあっという間にケーキを平らげてしまい、口の端に付いたクリームを指先で掬いペロリと舐めると重々しく言った。



「……行き違いがありまして……」







志村は綾波の胸を軽く叩いた。



「んも――!
それは分かるわよ!
何かあった事は!
……ようやく綾波君が退院して、二人これから幸せに、て時に行き違いって……
まさか、これからのプリキーの活動に綾波くんが難色を示したとか……
じゃあないわよねぇ、第一あなたがスカウトしたんだしねえ……」



志村が頬杖を付いて綾波の目の中を探るように見るが、暗い色が沈むのがわかるだけで心の中までは窺えない。




綾波はらしかぬ弱気な笑顔を溢し、頭を下げる。



「申し訳ありません……
大切な日に美名の精神を不安定にさせてしまいました……」



「も――止めてよ!
綾波くんがそんな気弱なんて、嵐が来ちゃうわ!」








志村は時計を見ると、綾波の肩をポンと叩く。



「そろそろ会見の間に向かわないと……ね。
岸さん達も到着するし……
綾波くん、この話はまた後で」




綾波は虚ろに空を見つめるだけだった。



志村はやれやれ、と肩を竦めて電話をかける。




――――――――――――


静かな駐車場に、真理のポケットの中のスマホの着メロが鳴り響き、真理は吃驚して美名を抱き締めたまま声を上げた。



「うわああ何だよ」



美名もハッと我に返り、真理から離れて涙を拭い乱れた髪を直す。



まだ腕の中に抱き締めていたかった真理は名残惜しさを感じながら、電話に出た。







美名がバッグから手鏡を出して泣き腫らした目元を気にする様に眉を歪めているのを見ながら話す。

――今すぐその頬に触れて、泣き顔でも可愛い、と言ってやりたい――



「はい……もしもし」



『真理くん?
そろそろ出てこれるかしら?
……美名ちゃんは大丈夫?』



志村はわざと綾波と美名を引き離したのだ。


少しでも二人の気持ちが落ち着く様に。


真理は内心
(すっとぼけた振りをしたタヌキのオッサンには敵わねえな)

と思いながら返事をする。



「ん――、さっきよりはイイと思うぜ」



『そう……なら良かったわ。
……15階の"鳳凰の間"だからね?
頼んだわよ?』



「へいへーい」



真理は電話を切り、美名の腕を掴んだ。



「行くぞ、美名」







美名は不安な顔をして躊躇うが、真理は努めて明るい声を出した。



「ほれ、沢山テレビカメラ来るだろ?
いつもの美名スマイルスマイル!
今はとりあえず切り替えてこーぜ!」




「……このまま……真理くんと会見サボりたい気分」



美名は唇を尖らせて、小さく呟いた。




真理の脳内で、美名を抱き上げて二人で逃げ出す妄想が展開したが、咳払いをして打ち消した。



「――うぉほん!
サボるとか、子供かね君はっ?
今日の会見はとてつもなく大事なのはよーく分かってるだろ?んん?」



真理は芝居がかった口調で説教する。


美名の沈んだ表情が次第に明るい物に変わっていくのを見て、真理はますます大仰に演説口調で続けた。



「お前の大好きな大好きな桃子が大好きなアニメのタイアップ関連の仕事だぞ!
これをドタキャンしたら姉妹の間に二度と修復出来ない谷底が出来上がるぞ――!』



「谷底……て、それをいうなら溝じゃない?」



美名がクスリとするのを見て、真理は安堵する。








「そうそう!溝な!それを言いたかったんだよ!
……何だっけあのアニメ……
"とあるブンブンミツバチの変貌"
だっけ?」



「もうっ!全然違うよっ!
"とある文系S女子の非日常"
でしょ――!」



美名は笑い転げている。


真理が自然な仕草で肩を抱き、二人はホテルに直結するエレベーターへ向かい歩き出した。




「なんだよ~大体合ってるじゃんか!」



「"とある~"
の所だけじゃない!アハハ……」



「桃子、アニメとかの事になると人格変わるだろ?……マジでこの仕事蹴ったらコロされるんじゃね?
あの変な編みぐるみ口ん中に突っ込まれてさ~!お――オソロしや!」



体をブルリと震わせる仕草をする真理に美名は笑う。




エレベーターに乗り込み、美名は鏡で自分の姿を色んな角度から映してチェックするが、それを見て笑みを溢す真理を睨む。



「……バカみたい、て思ってる?
こんな風に外見を気にして……」



「いやいや、とんでもないっすよ!ガハハ」



「も――!絶対にバカにしてる」



「いや、もう美名は
"人に見られる"人間だからな……
気にして当然じゃね?
俺だって気にするもーん」


舌を出す真理の顔を美名は覗き込み笑う。



「本当に?」



「あったりめーよ」



美名は真理の爪先から頭の天辺まで見ると、頬を染めて言った。



「真理君は……
格好イイよ」




二人の視線がぶつかったと同時に、真理は美名を引き寄せて唇を重ねていた。








美名の身体がビクリと震え強張るが、抵抗しようと胸を押す腕を掴み、壁に押し付けてその甘い唇にそっと触れる。


腕の力は強く美名をがんじがらめにしていたが、口付けは柔らかい羽毛の様にどこまでも優しく、その事が美名を困惑させた。



「ん、んんっ」



耳元を小さな声が擽ると、真理は唇を割って咥内を犯したい欲望にかられた。


だがひと欠片、辛うじて残っている理性でブレーキをかけ、唇を離す。




「……ごめん」



「……っ」



美名は涙目だったが、頬はほんのりとした桜色で、悲しみや嫌悪の感情は見えなかった。



恋人同士だった頃の二人のやり取りが甦ったのだろうか。



真理が思わずその頬に触れた時、エレベーターの扉が開き、同時に美名の瞳が凍り付いた。








エレベーターが止まったすぐ先が鳳凰の間の扉なのだが、扉の前に綾波が立って居た。



真理は美名を壁に押し付けたままの姿勢で振り返る。



綾波の目が鋭く煌めいたかと思うと走り寄り、真理を美名から引き離し、膝で彼の鳩尾を蹴った。




「キャアッ!」



美名は叫び顔を手で覆う。



その声に気付き、志村と由清が扉を開け、綾波が真理の胸ぐらを掴む光景を見て目を丸くした。


「何をしてるの綾波くんっ」


志村と由清が綾波を二人がかりで羽交い締めにし、美名は倒れて踞る真理に駆け寄り肩を支えた。


「真理くん……!」


「……くっ……
こんなん、蹴られた内に入らん!
わっはっは!……痛てっ」


「もう……大丈夫な訳ないでしょ?」



「――俺が嫌になったら、次は真理か?」



綾波が嫉妬を露にして怒鳴る。








美名の瞳がまた涙で盛り上がるのを見て、綾波は顔を歪ませた。



真理が腹を押さえて立ち上がると、美名を後ろに庇う様にして綾波にニヤリとする。



「ま、真理くん」


「……お前は黙ってろ」



二人のそんな会話を見て、綾波の胸の中が激しい痛みで埋め尽くされた。

――美名の心はもう完全に離れたのだろうか。
もう、いっその事自分はとことん憎まれたままの方がいいのだろうか――


鈍い頭痛に襲われ、昨夜の様に泣き出してしまいそうだった。


だが精一杯の虚勢を張り、冷たく言い放った。




「……俺より真理に乗り換えるつもりなら……それはそれで構わん。勝手にしろ……
ただ……お前のいやらしい身体を真理が満足させられるか……
見物だな」



「――!?」



美名が信じられない、とでも言う表情をしてその場にへたり込む。



「この野郎!」



真理が綾波に掴みかかろうとした時、もうひとつのエレベーターがチンという音と共に到着した。








エレベーターでやって来たのは岸智也と……

全体的に丸いフォルム、そして左右の手に付いた簾のようなビラビラ。

頭にはワンポイントで小さな青いキャップを被っている。

今日は黄色いバージョンなようだ。



「は……まじろうに、岸さん」


美名が呆然と呟いた。



"はまじろう"は、今大人気の被り物キャラクターなのだ。

クレッシェンドの西本祐樹が
"ミュージックスタイル"でほなみとの熱愛を告白した時にバックダンサーでテレビ初登場して以来反響を呼び、今やイベントにバラエティーに引っ張りだこなのだ。


Dream adventureがはまじろうのプロデュースをしているのだが、プリキーがタイアップするアニメにも"はまじろう"が登場するという事で今日の会見にも呼ばれていたのだ。








智也はその場の微妙な空気を察したのか、はまじろうに何か耳打ちした。

すると、はまじろうは側転しながら一同の前に現れてキメのポーズした。



「お、お――!」

真理は、綾波に掴みかかろうとしていた手で拍手をする。


「んま――!
噂に違わぬ敏捷性ね――!
会いたかったわあ!
"嵐を呼ぶはまじろう"さん――!」



志村は、はまじろうにハグしてから智也にウィンクする。



「岸さんもお久しぶりね!……あの長野の合宿での一件以来ですものね!
その節は本当にありがとうございました……!」


「いえいえ……
今回こうして一緒に仕事が出来て嬉しく思います」


智也は志村と握手すると、綾波をチラリと見た。


綾波は黙ってお辞儀をする。



美名は真理の後ろに隠れたままでまだ困惑の表情をしていた。



綾波と美名の間にある噛み合わない何かを智也はいち早く察知していた。









「美名ちゃん、大丈夫?」

由清がへたり込んだままの美名に声をかけると、美名は僅かに笑って立とうとしたがよろけてしまい、それを素早く真理が支えた。



「大丈夫かよ……
会見の時には転ぶなよ?」


「う……うん」




「……っ」


そのやり取りを見た綾波は無意識に拳を固めていた。




智也がにこやかに笑い綾波の肩を叩く。



「そんな険しい顔をしてどうした、綾波」



「……智也」



智也は肩を竦めると、はまじろうにまた耳打ちして、志村の側へ行く。



「志村さん……ちょっと向こうで……いいですか?」


「あらっ!なにかしら?愛の告白~?
……だったら良いなって思ったのよ!冗談よ~オホホホホ」


志村は智也の肩を叩いて朗らかに笑い、美名を見た。



「美名ちゃん、軽くメイク直した方がいいかもね……」




「彼が出来ますから、大丈夫ですよ」



智也は、いつの間にメイクボックスを持ち待機しているはまじろうを見た。








「あら!彼は何でも出来るのねえ?
じゃあ、お願いするわね?」



はまじろうはピョコンとお辞儀をすると、由清の背中を押して鳳凰の間へと連れていく。



「うわ……は、はいはい、こっちへ行けばいいんだね?」



「着ぐるみさんにメイクなんか出来るのか?
ま~いいや!美名、可愛くしてもらえよ」



真理は美名の肩を抱いて扉を開けた。


扉が閉まる瞬間、綾波と美名は見つめ合うが、お互いの瞳の中の思いを汲み取る前に扉は閉ざされる。




綾波は深い溜め息を吐くと、智也に促され、エレベーター横の喫煙室へ志村と共に入った。







「さて……この部屋に来て言うのも何ですが、煙草を吸う人は居ますか?」


綾波と志村が首を振るのを見て、智也は笑って窓を開けた。



「俺も吸いませんから安心しました……
ちょっと空気を入れ替えましょうか」




「岸さん、何かお話が?」


志村の問いに、智也は黙って胸ポケットから茶色い封筒を出し、テーブルに中身を広げて見せた。


綾波と志村が息を呑む。



A4版のコピー紙に、様々な画像がびっしりとプリントされている。


それは、美名宛に送られて来た写真と同様の物ばかりだった。



智也はもう一枚、紙を広げて見せる。



大きなゴシック体で、こう書かれていた。

『princes & junkyのマネージャーの綾波剛は義理の母にも手を出す色狂いの男。

この様な鬼畜男とビジネスの関係を結ぶ岸コーポレーションの浅はかさと無知さは恥ではないのか』







「な、何よこれっ!
……よく見れば合成っぽい写真だけど……」



志村が顔色を変えて紙を握り締め凝視する。



綾波はこめかみを押さえてまた溜め息を吐いた。


「今朝、本社にファックスで送られて来ました……
俺が所用で一番早くに会社へ行ったので、俺以外にはこれを目にした者はありません」



「こ、これって……
どういう意図なのかしら!?
酷い嫌がらせよ!
……警察は?」



智也は首を振る。



「送信元は都内のコンビニでした……
正直、この程度の事で警察は本腰入れて動かないでしょうね……」



「く――っ!
なんて卑劣なの!
こんな根も葉も無い!
……ねえ?」



志村が歯軋りして地団駄を踏み、綾波を見るが、綾波が沈んだ色の瞳を臥せているのを見て口を押さえる。



「……て、まさか……
根も葉も無く……ないの?ええっ?」










黙る綾波の手を掴み、志村が問い詰める。



「美名ちゃんと変な雰囲気なのって……
まさか、これと関係があるの?」




智也が聡明な瞳の中に鋭い光を宿して言った。




「また会社にこの様な文書が送られて来る可能性がありますので、俺が信頼している秘書の子に常にファックスから目を離さない様に言ってあります……
他の人間の目になるべく触れない様にしないに越した事はありませんからね」




「綾波くん!何とか言いなさい!
……こんな酷い悪戯で、美名ちゃんとダメになってもいいの?
何とかしなくちゃ……!」


志村は軽く綾波を揺らすが、ハッと口を押さえる。



「……大室……じゃないわよね……
他に……プリキーに逆恨みする人物……
或いは綾波くん個人に恨みがあるとか……」








綾波は低く笑い、壁に身体を凭れた。



「……正直俺は……誰がやったとか……どうでも良い……」



「――!
バカを言いなさい!
どうでも良い訳がないでしょっ!こんな――」



色を失う志村に、綾波は力無い笑顔を向けた。



「俺が……
過去犯した禁忌……
それはもう動かしようがない……」



「綾波くんっ……」



志村は涙を目に浮かべ、智也は黙って綾波を見つめる。



「拐うように美名を愛して……
美名も俺に愛を返してくれて……
俺は……美名に自分の過去も打ち明けようと……自分の全部をさらけ出す事が……誠実な愛情だと思ったんだ……
だが……それは美名に取っては迷惑な事でしかないのかも知れないな……」


綾波は天井を仰ぎ、独り言の様に呟いた。








「何を弱気になってるのよ……!
綾波くんらしくない……
命懸けで美名ちゃんを助けたじゃない!
その位好きなんでしょう?
愛してるなら……諦めたらダメよ!」



志村が拳を固め叫び、横から智也も静かに綾波に言った。



「――とにかく……
俺は、ビジネスに個人の過去は関係ないと思っている……
個人の過去なんぞほじくり出したらキリが無いからな……
誰しも人に言いたくない事の一つや二つ抱えていて当たり前だ……」



「岸さんっ……
ああ……流石若くして大財閥の社長に就任しただけの大きな器をお持ちで……
あああっ素敵――!
……ハッ!
ダメよ賢一!……今はイケメン社長に萌え萌えしてる場合じゃないわっ!
――綾波くん!」



志村は再び綾波に向き直った。








志村は綾波の肩を掴み、真っ直ぐに見た。



「あなたは絶対に美名ちゃんを離したらダメ!
……でも、今暫くは貴方達は距離を置いた方がいいわ……
お互いが自分の気持ちを今一度落ち着かせる為にも……」



「つまり……
俺はマネージャーをクビ……ですか?」





虚ろに呟く綾波に、志村は首を振る。



「まあ……一時的にそうするのも良いかも知れないけどね……
ちょっと私に考えがあるのよ。
岸さんにも了承を貰わないとなんですけどね?」



「……どういう事で?」



智也は身を乗り出した。





―――――――――――


鳳凰の間の控え室で、はまじろうは身体をモゾモゾさせると、黄色い胴体から二本の腕をニュッと出した。


ギョッとして美名達は固まるが、はまじろうは美名に手招きをして
"前に来なさい"的なジェスチャーをした。


「あ、はい……よ、宜しくお願いします」



はまじろうの前で椅子に座り、美名が目を閉じると、繊細な手付きでメイクの手直しを始める。



真理と由清はぼそぼそ話す。



「なあ……
はまじろうって喋るキャラじゃなかったのか?」


「う――ん……
確か喋るよね……?」



「中の人が忙し過ぎて影武者を使ってる、て噂は本当なんかな?……俺は信じたくないけどな~」



「うう――ん、あり得るよね……
はまじろう、同じ日に北海道と九州に出現したりするらしいから……」



二人の内緒話はどんどん声が大きくなり、もはや内緒話では無くなっている。








真理は目を輝かせる。


「いや!はまじろうにはきっと瞬間移動能力があるのさ!
分身の術とかさ~!」



「……あ~ハイハイ……そうかもね」



適当に相槌を打つ由清の肩を掴み、真理が熱弁する。



「何だよそのやる気のない返事は――!
はまじろうと俺らはタッグを組んで一ヶ月キャンペーンするんだぜ?
その俺らがはまじろうの神秘性を信じなくてど――するんだよっ!ええっ?」



由清はガクガク揺さぶられて目を白黒させた。



真理の肩がトントンと叩かれ、振り向くとはまじろうの立てた人差し指に頬がムニュと食い込む。



真理は固まり何秒かはまじろうと見つめあっていた。






「お、おまっ……なんて古典的な悪戯を……むむ――っ」



はまじろうは、真理の胸ぐらをグイと掴みパフで顔を乱暴に叩き始めた。



「げほっげほっ!
……な、なんじゃ……おまっ……ぐべっ!
美名……の時に比べて……ぶほっ!随分と扱いが……うぐべ――っ」




はまじろうは、喚く真理をガッチリ押さえつけながら器用にメイクを完成させると、ポイと真理を放り出し、怯える由清の腕をむんずと捕まえた。


「ひいいっお手柔らかに」


喋らないはまじろうの着ぐるみの中から、グフグフという笑い声が微かに聴こえて由清は震え上がった。






はまじろうは思いもかけない優しい手付きで由清の顔をいじり始める。



放り出された真理はフラフラと美名の横の椅子にドカッと座ると溜め息を付いた。



「なんじゃ?あのはまじろうはよ~!
随分と態度が違うじゃねえかっ」



「うふふ……」


「良かった……笑って……それに可愛くしてもらったな」



頬に触れて真理が笑うと、美名は頬を赤らめて目を逸らした。




「ま……真理くん……さっき……エレベーターの中……で」



「……う?お、おお」



美名は俯いたままスカートの生地を指先でギュッと握る。



「な……何でなの?」



真理は面食らった様に目を丸くしたが、首を振って呟く。




「まさか……それを聞かれるたあ思わなかった」










美名が上目遣いでチラリと見ると、真理はぶっきらぼうに言った。



「それは……
お前を……俺が……まだ好きだって事じゃねーの」


「……!」



「……て、言わせんなよ!分かるだろフツー!」



「だ……だって」



美名は狼狽えて真っ赤になる。



「今更恥ずかしがるなよっ!俺まで照れるだろうが」


真理は美名にデコピンする。




「う……」



額を押さえてこちらを見上げるが、目が合うとますます赤くなり下を向く美名を、真理は抱き締めたくなるのを必死に堪えていた。




「全くお前……
こっちが色々と参るぜ!
……綾波とイチャコラを見せ付けられて悶々とさせられたかと思うと……次の日には訳わかんねー事でギクシャクしてるし!」







「ごめんなさい……」



しゅんとする美名に慌てて真理は付け足した。



「い、いや、どーせアレだろ?綾波が悪いんだろ?……だったらお前がしょげる事はねーよ!
たまにはいい薬になるさ!奴を凝らしめてやれよ!ん?」



真理はふと、昨日翔大から預かった物の事を思い出したが、今このタイミングでその事を切り出すのが何となく憚られた。


「真理くん……私」



「あ――!
今すぐどうこう、白黒つけないでくれよなっ!
俺は……ただお前が心配でさ……
まあ、下心のある心配だけどよ……ハハハ!
遠慮しないで、俺を頼ってくれよって事!
今言った事は忘れていいから!
……いや、やっぱり忘れんな!」



「……もう……一体どっちなの?」







「……だよな」



真理は美名の頭をポンと叩くと、耳元でそっと囁いた。



「俺は……
いつでも待ってるから」



「――っ」



美名が困惑して真理を見上げた時、はまじろうが側転しながら飛んで来て真理を羽交い締めにした。




「ぐ、ぐおおっ……
後ろから襲うとは卑怯千万っ……」



すっかり綺麗な王子に仕立てられた由清がやって来て時計を見る。




「そろそろ報道陣が到着する頃だよね……
あ、何かザワザワしてる……来たかな?」



控え室のドアを少し開けて見ると、カメラを担いだスタッフや各局の女子アナ、堺とペコの姿も見えた。








「わあ……緊張……」



音楽番組の生放送とはまた違う緊張を解すために、美名は背筋を伸ばして深呼吸する。



「ひめっ……
ぎんぢょっ……じでるなら……おでが……
ちゅーの……びどつでもかまじで……
やるべ……ぐぼーっ……ウヒャヒャヒャ……
や、やめど……ばまじろー!ひいっ」



真理は美名をからかう様な事を言うが、はまじろうにがんじがらめに拘束されたまま脇腹を擽られ悶絶している。



「もうっ!真理くんったら!」



ドアが開いて、綾波と志村、智也が入ってくると美名の視線は否が応にも綾波に吸い寄せられる。



スラリとした手足に眼鏡の奥から覗く鋭い瞳、真っ直ぐに伸びた襟足の長い髪。


知りたくなかった綾波の過去を知らされて嫌悪を覚えている今も、こうして姿を見るだけで全ての感覚が麻痺してしまう気がする。



(私は……
剛さんが好き……
だけど……)



見つめていると、綾波が視線に気が付いたのか目を美名に向けた。



「――!」



思わず顔を逸らしてしまう。







綾波はそんな美名を見て、唇を噛み拳を握り締めた。



美名は背中に綾波の熱い視線を感じながら、やり場のない思いを持て余していた。



昨夜激しく抱かれた時の、烈しい熱がまだ身体に残っている。
囁かれた時の甘い疼きも。



――なのに、何故……?


先程の綾波の冷たい言葉が頭の中で何度もリフレインされて、美名の心がズタズタに引き裂かれて行く。






『……俺より真理に乗り換えるつもりなら……それはそれで構わん。勝手にしろ……』




「……どう……して?」



美名は思わず呟いていた。



――あんなに熱く愛しておいて、何故またそんな酷い事を言うの?




美名の背中を切ない思いで見つめていた綾波は、志村や智也と視線が合うと頷き、静かな足取りで控え室を出た。




「――あ、綾波さん!」
「あらっ!」


記者会見の雛壇から真正面の席を陣取って居た堺とペコが気付いて手を上げると、綾波は微笑して頭を下げた。



堺がカメラをセットしながら楽しそうに叫ぶ。



「今日もバッチリ美しく美名さんを撮りますからね?楽しみにしててくださいよ!」




綾波は、ふと足を止めて控え室の方を見つめてから、堺とペコに向き直り、深々とお辞儀をして、颯爽とした足取りで会場から去って行った。




「ああ――!人気アニメタイアップとはまじろうとのコラボ!
プリキーのこれからが楽しみよね――!」


はしゃぐペコだったが、堺は何故か違和感と胸騒ぎを覚えて、その場から離れ走り出した。



「堺ちゃん?」



驚いたペコの声を背に、会場の扉を開けて階段を駆け降りる。



「綾波さん――!」



綾波の姿はもう何処にも無かった。



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