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デビュー前夜

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sure! sure!
power! power!


弾けて 飛んで

澄ました 唇も
たちまち夢中になる
もう離れられない



恋する cherry soda






志村のスタジオで、プリキーは明日のテレビ出演に向けて練習をしていた。


プリキーは、いよいよ明日デビューを迎える。



しかも、デビュー当日に人気音楽番組
『ミュージックスタイル』

に生出演するのだ。




新人や、注目のアーティストを紹介する
『fresh gun』
というコーナーにsilent wolfが出る筈だったのを、"メンバーの体調不良"という理由で、彼等は出演を辞退したのだ。


そこで次に白羽の矢が立ったのがプリキーという訳だった。



急な話に美名もメンバーも戸惑ったが、これを受けない訳にはいかない。


志村曰く

『デビューをミュージックスタイルで飾る事が出来るなんて、隕石にぶつかる位の稀少なチャンス』


らしいが、確かにその通りなのだろう。







silent wolfは表向きの理由は体調不良だが、内実の処はよく分からない。

翔大達があれからどうなったのか、誰も何もわからない。


美名は、合宿の時の事件に加えて、今回は連れ去られて暴行された訳なのだから、被害届を出したらどうなのか、と堺の上司の芝原 七海――
ペコチーフと呼ばれているらしいが、その後志村を訪ねてきて提案してきたらしい。



『すいません……
ポキノンの主催のパーティでこんな事になった訳ですし……
上司である芝原には今回の件を報告しました』


堺とペコチーフは、連れ立って志村の元へやってきて土下座したのだ。


『……本当に、申し訳ありませんでした!
なんとお詫びしたら良いか……
あの日、わたくしがインフルエンザなんぞにかかってしまい、堺一人に任せた為に……現場の危機管理が手薄になったのは事実です……
どうか、どうか堺を責めないでやってください!
殺すならわたくしをっ』









今にも何処からか刀を出して切腹しそうな勢いのペコを、志村は止めた。



『何をおっしゃるの!ポキノンさんには責任はありませんよ!
それを言うなら私だって責任はあるわ。
……自分の処のタレントから目を離したんですもの……』



ペコは女王様眼鏡を取り、大判バスタオルで涙を拭った。



『ああ……志村さんっ!なんて寛大な、思い遣りに溢れた言葉……っ。

この様な事がないように、これからは心して健康管理、インフルエンザの毎年予防接種を社員には徹底させますわっ!』



『……まあまあ、それは結構な事ですけど』



どこかズレているペコの謝罪に、志村は苦笑した。








『志村さん……
ですが、どうでしょう、美名さんの様子は』


堺が心配そうに眉を歪める。



『そうよっ……可哀想に!
美人って、周りに思われてる程お得じゃないのよねえ……
美しいが故に、悪い奴等や陰鬱な欲望を抱えている奴等に狙われて餌食にされるのよっ!
……美しいって、苦しい事なのよ……
わかるわあ……
わたくしも毎日苦しくって……』



ペコは芝居がかった口調で、タオルで涙を拭きながら唖然とする堺と志村を交互に見つめた。



『まあ……そうね。確かに、美名ちゃんは今まで可愛いが故に、巻き込まれなくても良い事に巻き込まれて来たかもね……』


志村は溜め息を付いた。

美名を受け止められるのは綾波の様な男しかいないのだろう。

けれどその綾波は、一命は取り止めたが、まだ意識が戻らないままなのだ。








明日披露する『恋するcherry soda』
を歌う美名を見つめながら、志村はそんな事を思い出していた。


美名はあの日、病院で倒れてしまったのだ。


精神的ショックが大きい美名を心配して、昨日まで桃子やマイカが居てくれたのだが、いつまでもそうしている訳には行かない。
二人も学校へ行かなければならないので静岡へ帰ったのだ。




一人にするのが心配なので、暫く美名を志村のマンションに泊まらせる事にした。


志村の住み込みアシスタントをしている吉岡あぐりは、暫く休暇で戻らない。


美名に構ってあげられない時もあるので、真理や由清にも泊まって貰うようにした。


美名の負担を減らす様に、受けていた仕事を半分以上は断ったが、以前取材を受けたファッション雑誌やポキノンや、その他の雑誌に、地方新聞の取材も受けていて、その反響が凄まじいのだ。


何処の編集部にも

『あの女の子は何者?』
『princes & junkyのファンクラブはあるんですか?』


と言った電話が来るらしい。







デビューの日を延期しようかとも思ったが、YouTubeで配信した動画の再生回数も、コメント数も伸びる一方なのだ。


デビュー前にもかかわらず、アニメタイアップの依頼や、CMのオファーまで来ている。




「もう……
止められない所まで来てしまったわね」



志村が呟くと、演奏を止めた真理が手を挙げている。



「おっさ――ん!
休憩しようぜ――!
腹へった腹へった!
なんか買ってくるか、ピザでも取ろうぜ――!」


「おい真理……
ちょっと落ち着けよ」


由清が顔をしかめた。




元気一杯な真理の様子に、志村は笑みを溢すが、歌うのを止めた美名が虚ろな目で宙を見つめているのを見て胸を痛めた。







美名は、事件の当日と翌日は泣いてばかり居たが、周囲に心配を掛けてはいけないとも強く思ったのか、それからは一切人前で涙を見せていないのだ。



『自分が泣いていても、剛さんは良くならないわ……今はプリキーを頑張らなくちゃ』


と、仕事を懸命にこなしていて、その健気さは痛々しくもあった。



仕事の合間に病院に行って綾波の様子を医師に聞いてはいたが、


『手術で出来る事はすべてやりました。
後はご本人の生命力です。
何があるかわからない、としか今は言えません』



と、毎日同じ言葉を言われる。


その度に美名はうちひしがれるのだが、涙を懸命に堪えて気丈に振る舞っていた。









張り詰めた糸が、何かの拍子にぷつりと切れてしまうのではないか、と志村は危惧していた。



仕事で気が紛れている部分もあるかも知れないが、ずっと突っ走って居れば身体が重くなり息も切れてくる様に、精神(こころ)だって疲弊するのだ。


美名は、才能はあるが、それ以外は普通の24の女の子なのだ。


過大な重圧を与えてはならない。



素晴らしい才能があっても、プライベートでのもめ事、特に異性関係で精神に変調を来して音楽活動どころではなくなってしまい、この世界から消えていく人間がどれだけいる事か。



志村自身も、雪乃を亡くした時、最大の危機だった。



何とか乗り越えて来れたのは、雪乃の

『賢ちゃんは、何があっても音楽を止めないで』


という言葉があったからだ。









しかし、自分と美名は違う。


もし愛する人を失ったら、美名はどうなるのか……


志村は頭を振った。



考えてもどうにもならない。

今は、綾波の悪運の強さ、しぶとさが今回の危機を乗り越えて欲しい、と祈るしかない。





「あ――!
お腹と背中がくっつきそうだぞ――!」



「真理……子供かよ」



「そうそう!俺は今!育ち盛りなんだよ!
子供ってのはいつも腹ペコなんだよ」




真理と由清がワイワイ言い合いながら志村のところへやって来た。




「ああ、確かにもうお腹が空く頃ねえ。
何か頼む?」



志村はスマホで御用達の店の番号を見て考え込む。



「何がいいかしらね……」








「和食、中華……ピザ……ピザもいいけどオヤツ感覚よねえ……」



「俺は何でもいいです」



由清が控え目に言った。



「俺ピザ好き!
でも米も食いてーな!」



「もう――真理我が儘!」


「ハイハイ、いいわよいいわよ~
両方頼みましょ」



「やった――!
美名、何食べる?」



真理に声を掛けられて、俯いて譜面を見ていた美名は顔を上げた。



「うん……私は、少しでいいかな……」



「少しじゃダメだ!
ガッツリ食って力をつけろよ!」



「真理……そんな無理言うなって」



三人のやり取りを笑いながら見て、志村は電話で適当に食事を注文する。







「お――い美名!
熱心なのはいいけど休憩しろよ」



真理が譜面を手にブツブツ言っている美名の手を強引に引っ張り、ソファに座らせた。



「真理……
どさくさに紛れてセクハラするなよ?」



由清に釘を刺された真理は真っ赤になる。



「ち……ちちちがわあっ!」



「明日……
生放送で歌詞のテロップも出るし、ちゃんと頭に叩き込んで置かないと……」



「だ――いじょうぶだって!」



まだ目を離さない美名から譜面を奪い取ると、真理は肩を強引に抱いて立ち上がった。



「ま……真理くん?」


「おっさん!食い物がくるまでの少しの間、散歩行ってくる」



「真理、美名ちゃんを襲うなよ?」
「真理君、知らない人に喧嘩を売ったらダメよ?」



「お前ら――失礼だな!
散歩してくるだけだっつーの!
じゃあ、すぐに戻るからな」



真理は美名の手を握り、出ていってしまう。








志村は溜め息を付いた。


「美名ちゃんも気分転換になって良いかもね」



「あの……ところで……
被害届はどうするんですか?」



「う――ん……
それをする事によって美名ちゃんが余計に辛い思いをするかも知れないからね……
この事が表沙汰になったら面白おかしく噂されるとも限らないしね」



「翔大は……silent wolfは?あれから活動の様子がわかりませんけど……」


由清の表情が曇っている。
美名の事だけでなく、かつての仲間を気にかけているようだ。



「大室が退院したら、あいつに聞いてみるわね……そろそろじゃないかしら……」



「……明日……
俺、正直不安です……これからの事も」



「由清君……」



志村は由清の頭をポンと優しく叩くが、次の瞬間には軽々とその身体を抱えて、尻を思いきり殴った。



「い――――っ!?」



「んもう――!そういうマイナスな言葉を言ったらダメよ!
美名ちゃんだって頑張ってるのに――!」








「ひいっ!す、すいませんっ」


許しを乞う由清の尻を、志村は尚叩いた。



「いい?あなたはプリキーのリーダーなの!
リーダーはバンドのムードメーカーよ?
つまり顔なの!
由清君が笑顔じゃなくちゃ困るのよ――!」



更に叩かれて、由清は身体をエビみたいに仰け反らせた。



「ぎゃっ!……て、俺がリーダー!?
いつ決まったんですかそんな事――っ」



「今!たった今決めたわ――!
あなたしか居ないじゃない!
ほーっほほ」



「ヒイイイイ」




スタジオに由清の悲鳴が響いた。



――――









「ふ――やっぱりアチいな~!」


真理に手を引かれるまま、近くの大きな公園に辿り着く。



噴水と大きな水場があり、小さな子供達が入って遊んでいるのを母親達が見守りながら談笑したり、仕事の合間にベンチで顔にハンカチを載せて横たわる営業マン、噴水の脇に座り熱心に読書をする学生――


色んな人々が集まっている。



真理は自販機でジュースを二つ買うと、ニカッと笑い豪快に振ってみせた。



「真理くん……止めて――!それを開けろって言うの?」



「モチのロンさ!
普通に飲むんじゃ芸がないだろ?それっ」



真理はコーラの缶を放り投げて来て、美名は必死になりキャッチした。


「きゃ――!っとっ取れた!」



「なーいす!ハハハ!」



シュポという清涼感のある音を立ててプルトップを開けると、予想通り琥珀色の液体が噴き出した。








「溢れた!溢れた!キャア」


缶を体から遠ざけてバタバタする美名を見て真理は笑う。



「溢しちゃだめだ!
噴き出したコーラをいかに溢さずに飲めるかがポイントなんだよ……て……ふぐっ!」



凄い勢いで噴き出すコーラを飲もうとすると鼻に直撃し、真理は噎せた。



「アハハハ……
飲めてないじゃない……」



「……やっと笑ってくれたな」



「……」



思わず黙る美名を見て、真理は噴水の水を頭から浴びに行った。



「ぷはー!
生き返る!」



「真理君ったら!何してるのよ!」



水から上がった犬の様に頭をブンブン振る真理を、親子連れが目を丸くして見ている。








「んん――なあにかなあ――ちびっ子――!
お兄さんが面白いか――!?」



ベロベロバーのポーズをして子供達の前に立ちはだかると、子供達が一斉に泣き出してしまった。



「ありっ?……おいおい君達!何故泣くんだい?
怖くないよ――!
お兄さんは優しいお兄さんだ――よ――」



「ギャアアアアア――こわい――ママ――!」



真理のマジ顔に本気で恐怖した子供達が泣き出し、辺りは異様な雰囲気になってしまった。



あやす母親達が咎める様な目で見て、真理は小さくなってしまった。





「どうしたの?僕?
なんてお名前?」



美名がしゃがんで三歳位の男の子と同じ目線になり優しく語りかけると、男の子はしゃくり上げながら



「たいち……」


と答えた。



美名はニッコリ笑う。



「たいち君ね?
たいち君は、好きなお歌ある?」








「"ヒーローライダー"のうた!」


たいち、と言う男の子は母親にしがみつきながら、目に涙を溜めて、ハッキリと答えた。



「ヒーローライダーね!カッコいいよね~!
お姉さんも歌が好きなんだ~!
一緒に歌お?」



「本当~!?わーい!
うたおう!うたおう!」



「真理君も!」



美名は手拍子を始めると、真理を振り返った。


「お、おう」


真理も手を叩き、美名に合わせて歌う。



たいちは、いつの間にか泣き止んで一緒に歌っていた。



周りの子供達や母親も美名の歌声に引き込まれ、皆笑顔になって手拍子をする。
通りかかりの人までが足を止めて、歌い終わる頃には人だかりが出来ていた。








ワッと歓声が上がり、二人は大きな拍手に包まれた。


「お姉ちゃん、凄い――!」
「ありがと――!」
「お兄ちゃん、肩車やって――!」
「あの、握手してください!とっても良かったです!」


大人や子供、沢山の人達に次から次へと握手をせがまれて美名と真理は狼狽える。



「おい、美名……そろそろ戻らないと……ひえっ!」


真理は、ちびっこ達に腕にぶら下がれている。


美名は握手をしながら、よく通る声で人々に向けて言った。



「ありがとうございます!私達、音楽が大好きなんです……
私達と一緒に音楽を楽しんでくれてありがとうございました……!
何処かでまた、お会いしたら宜しくお願いします!」



二人は手を振りながら逃げる様にその場から走り出した。









暫く走ると、美名はへたりこむ。



肩で息をする美名の手を取ると、そっと立たせて真理は笑いかけた。


美名も笑顔になる。



「やっぱ、その顔が似合うぜ、お前は」


「……」



「沈んだ顔になるのも無理はねえけどさ……」



「真理君……」



後ろから急ぎ足で歩いてきた人にぶつかられ、よろめいた美名を抱き留めると、守る様に壁側へと肩を抱き連れていく。



「お前さ……
あの夜……
飛び降りるつもりだったんか?」



「――」



美名は、真理から顔を逸らす。



「……俺さ、中学の頃に、スッゲー好きなアイドル歌手の女の子が居てさ……」



真理は、側にあったベンチに美名を座らせると、空を見上げて眩しそうにした。



「……本当に大好きだったんだよ。
声も、歌ってる顔もめちゃ好きだったな……」



「……」








「俺、勉強が大嫌いでさ。テストで二点取ってオカンにマジ怒られて……
でも反抗期の俺が、親の言うこと聞く訳ないだろ?
……そしたら、親父が
"男は努力と根性だ!そんな男に女は惚れるんだ!
お前の大好きな赤坂 早苗だってそうだぞ!
勉強が嫌いとか抜かしてないで、根性で何とかしてみろ!
その根性が無くて、好きな女を落とせると思うのか――!"
……てビシーって怒鳴ったんだよ。
赤坂早苗っていうの。そのアイドル。親父もファンだったんだけどな。
……で、俺単純だからさ頑張ったのよ。
二点しか取れなかった俺が八十点取ったんだぜ?」


真理は得意気だった。
美名は、微笑みながら黙って頷いた。








真理はそこで少し声のトーンを変えた。



「そしたらさ……
その子、自殺したんだ……」



「……!」



「色々噂があったけど、どうやら彼氏にフラれたとか何とか、そんな事らしい。
会社の屋上からまっ逆さまに飛び降りて……
その写真が週刊紙に載ったんだぜ?
酷い話だろ?今の時代、そんな事考えられないよな」



美名は言葉を失って、ただ話を聞いていた。



「人気のある子だったからさ……当時は後追いする若者も居たわけよ。
他の奴等からすりゃ、何でそんなバカな事を、の一言で終わる。
でも……その本人にしてみれば、重大で真剣なんだよな……
まあ、俺はそんな事する気はなかったし、しなかったけれど……
勿論大ショックだったさ」


「……」







真理は、美名に向き直り、肩にそっと手を置いて真っ直ぐに見つめた。



「歌手ってのは……
音楽家ってのは、音楽だけを届けてるんじゃないんだよ。
自分の知らない処で、誰かが夢や勇気を受け取ってるんだ。
……美名も、もうそういう力を持っているんだ……さっきの子供達の顔……見ただろう?
美名の歌は、特別なんだよ……」



「真理く……」



「綾波の事で……
何があっても……
頼むから……バカな事だけはしないでくれよ!」



真理は、振り絞る様に言うと、美名をきつく抱き締めた。



「真理君……っ……私」



美名の目から涙が溢れる。



「大丈夫……
大丈夫だ!何があっても……
もし……何かあったとしても……皆が……俺が……居る……」



「ま……ことく」



真理の力強い腕に抱き締められながら、美名はいつしか腕を背中に回していた。




―――――――――――





「お帰りなさ――い!丁度今届いたところよ~!
さあ~美名ちゃん!食べて食べて!」


二人が帰るなり、志村が美名の手を引いて椅子に座らせる。



「あ――っ
ちょっとした運動してきたからな!
腹ペコ腹ペコ!」



真理が騒ぐが、お茶を淹れてきた由清が顔をしかめた。



「食べる時は静かにしてくれよ?」



「マルゲリータに~スタンダードサラミ~!
……ワイン飲んじゃおうかしらっ」



志村はウキウキとグラスとボトルを持ってくる。


「オッサン!
昼間から飲むのかよ?
仕事する気ねえだろっ」



「うふふっ!バレた~?
もうジタバタしても仕方ないし!
明日は明日の風が吹くのよ――!
今日はもうおしまいっ!」


「お――!」



真理と志村はハイタッチした。







「え……おしまいって」


目をパチクリする由清の尻を志村は思いきり叩いた。



「ひ――いっ」



「聞いた通りよ!
練習はおしまい!
……寧ろ禁止よっ!」



「え……でも」



志村は不安げにする美名の肩をポンと叩きウィンクした。



「今までだってあんなに練習したんだし!
……あなた達なら大丈夫!」



「……」



何か言いたげに見つめる美名に真理はグラスに飲み物を注いで渡した。



「そうそう!
何とかなるぜ!
それに俺や由清も付いてっからな!
さ――乾杯しようぜ!」



「プリキーのデビューに、乾杯!」



志村はグラスを高々と上げた。







それから、プリキーの面々はワインを志村に飲まされてワイワイとパーティの様に騒いだ。

最初はぼんやりしていた美名も、アルコールが入り次第に陽気になっていった。



陽も落ちて、すっかり良い気分になった志村が時計を見て「あ――っ」
と叫ぶ。




「なっ……ななななんだよ!びっくりさせるな――!」


真理と由清が突然の大声に耳を塞いだ。



「もう夜の九時だわ!
楽しくて時間を忘れてたわっ……
お開きにして帰りましょ~!
もうすぐお肌のゴールデンタイムが来ちゃう!」



志村は食べ散らかしたゴミやらコップや食器を手際よく片付けていく。


由清や真理も手伝って五分もしない内に終わった。



美名は、たった一杯のワインで酔っぱらってしまい、ソファでクタリとしている。









「大丈夫かな?美名ちゃん」


由清がテーブルを拭きながらチラリと見た。



「今日はこのまま休ませてあげましょ……
真理君、運んであげてね?
さーて、綾波君に迎えに来て貰わなきゃ……て」



志村は口を手で押さえる。


真理が美名の方を見たが、美名は寝息を立てていて気づいていない様だ。



「おっさん……
何をボケてんだよ」



「私ったらやだわ……
いつも綾波君が居たからつい……」



三人の間で、重苦しい沈黙が生まれた。



「――今日は、病院は休みましょう……
ご家族の方が毎日行ってくれているらしいし……美名ちゃんを休ませないと」



「そうですね……」



志村の言葉に二人は頷いた。








タクシーに揺られてマンションに着いたが、志村は車中で散々お喋りしていたのが途端に無口になり、早々に自分の寝室に籠ってしまった。



一分もしない内に大きな鼾か聞こえてきて、真理と由清は顔を見合わせる。



「俺らも、とっとと寝るか……」



真理は、リビングのソファに美名を降ろすと、その頬をそっと撫でた。



由清は自分のバッグからパジャマを出すと、真理をじっと見た。



「俺……先にシャワー借りる」



「お、おお!
借りたら返せよ?」



美名の寝顔に見とれていた真理は、我に返ると、取って付けた様なおかしな返答をする。




「……手を出したらダメだよ?真理」



由清は静かに言うと、バスルームへ入って行った。









「ばっ……」



閉まったドアを呆然と見て、真理は赤面した。



「しっ失礼な!
まるで俺を痴漢か何かみたいによ――っ」



真理は拳を握りしめジタバタするが、寝息を立てる美名を見て、ますます顔を赤くした。



短い間ではあったが、恋人同士だったのだ。

正直、今でも恋心は抱いている。


だが、美名は綾波の物なのだ……


自分は、自分の総てで美名を幸せにできる、と、付き合っていた時には思っていた。



……けれど、綾波の様に激しく、命を懸けて愛する事が自分には出来るのか?


と、今は思う。




マンションの高層階から落ちた美名を、何の迷いもなく受け止めようと動いた綾波。



スーパーマンでも何でもない普通の人間が、ああした行動を取るだろうか。









(自分がどうなるかを考えるより、美名を助ける事しか頭に無いんだろう……)




正直、敵わないと思った。

多分、翔大もそう感じたに違いない。



美名の存在は、翔大を狂わせて、翔大をある意味道から踏み外させたのかも知れない。




「けれど、それは美名のせいじゃない……
頼むから……自分を責めるなよ……」



真理は小さく呟いて、眠る美名にタオルケットをフワリとかけた。







そのまま真理は、美名の傍でいつの間にか眠っていた。




「ふ、ふふぶえーくしょいっ!」



盛大なクシャミをして目覚めたが、由清がかけてくれたのか、タオルケットが肩まで被さっている。



ソファに凭れて座ったままで居たせいか、体が痛む。



「ふああ……
美名をベッドに運んで……俺がここで寝ようか……いや起こしたら可哀想だし……
ううむ……」


欠伸をしながらブツブツ言っていたら、美名の唇が僅かに動いた。




「……さん……
つよし……さん」



「……」



思わず真理はその手を握った。
すると強く握り返してきて、譫言が次第に大きくなる。



「剛さ……
来ちゃ……だめ……
だめ……
あ……ああああっ!」



「――美名っ!」




真理は、うなされる美名を抱き締めた。








「いやあ……いやあっ!……しょう君っ……止めてえっ……」



美名は錯乱したように真理の腕の中で暴れた。



「美名……!」



身体中を震わせながら、真理の胸を叩いている美名の目は何処も見ていなかった。


あの日の光景を意識の中で追っているのかも知れない。



「剛さん……
剛さん――っ!」



「美名……!」




真理は、暴れる美名の顎を掴むと、荒々しく口付けた。



美名の身体はビクリと震えると、やがて嵐が止んだ様に静かになり、真理の背中に腕を回した。



落ち着かせる為の口付けだったが、真理は次第に我を忘れそうになっていく。



柔らかい美名の胸の感触や唇の甘さに、身体に絡み付く腕に堪らなくなってしまい、ソファの上に乗り組敷く体勢になってしまった。









(――これ以上は……ダメだ……)


崩れ落ちそうな理性を必死に保ちながら、真理は深呼吸して気を逃そうとするが、腕の中で無防備に横たわる美名の姿を目にすると、全ての事情や状況など放り出して、この手で奪いたくなってしまう。



「美名……俺……
最低だよな」



その長い髪を一筋指に取りそっと口付けた時、美名の瞳がさ迷い一周し、ようやく焦点が合う。


その目に真理の姿を認めると、一瞬驚きの表情をしたが、柔らかく笑った。



「真理君……今……何時?」



その無邪気な様子に、真理は一瞬でもかつての恋人に欲情した己の邪を恥じながら、時計を見た。


「……もうすぐで11時だな」










「――っ?」


微睡みの中に居た美名は、目を見開いて身体を素早く起こして自分で時計を確認すると、何かの呪文の様に呟いた。



「……ちゃ……なくちゃ……かなくちゃ……」



真理が肩を掴むと、美名は振り返った。



「剛さんに……会いに……っ……かなくちゃ……」



「美名……」



美名の目に涙が溢れる。


「一目……でも……
剛さん……に……」



「……明日大事な生収録だぜ?
終わってから……会いに」


美名は激しくかぶりを振った。



「明日じゃダメっ!
今……今会いたいの……っ」



「美名っ」



落ち着かせようと抱き締めて背中を叩くが、美名はしゃくりあげて泣き止みそうになかった。










「剛……さん……
剛さ……っ……」



声は次第に弱々しくなり、最後にはしゃくり上げる苦しい息遣いだけが残る。



「……全く……
俺はどこまでもお前に甘いかもな……」



真理は諦めた様にため息を吐くと、美名の頬を掌で挟み見つめた。




「本当に、一目見るだけだぞ……」



「ま……真理くん」



美名の目が涙に揺れながら輝いた。



「一目見たらすぐに帰って休むんだ!
約束出来るか?」



美名は涙を流しながら何度も頷く。




真理は大きな手を頬から美名の頭へ移動させるとくしゃくしゃにして笑った。



「さて……じゃ、カボチャの馬車で騎士(ナイト)の所へ連れてくぜ?
お姫さんよ!」




――――










志村の眠る部屋のドアを音を立てずに開けて目を細めて中を伺う。



真理は大きな身体を屈め、暗い部屋の中をソロソロと爪先で歩く。



志村の車のキーはこの部屋に置いてある。



真理は慎重に、衣擦れの音にも気を遣いながらキーのありそうな場所を手で探った。



「……おかしいな……
この辺に前はあったんだけど……」



「……真理くん……大丈夫?」



美名がドアの入り口で顔を覗かせると、真理は無言で親指を立てて見せた。




「どこだ……?」




目がようやく慣れてきて、真理は眠る志村の胸に抱いた大きなクマの編みぐるみに注目した。



「何か光っている……」



泥棒になったかの様な気分でハラハラしながら編みぐるみに近づくと、クマの首にキーがかけられていた。



「……これだあ!」



真理はそっとキーに手を伸ばした。









「んん~」


キーに触れようとした時、志村がクマを抱きながら身体の向きを変えた。


「……っ」
「……!」



真理と美名はヒヤリとした。




志村はクマを強く抱き締めて薄ら笑いを浮かべて眠っている。




「たく……
脅かすなよな……
大体何だよ……このふざけた帽子とパジャマ……」


真理は、水玉のパジャマを着て、ボンボンが付いた帽子を被っている志村を見て苦々しく溜め息を付いた。




「うん……
編みぐるみは……桃子からのプレゼント……みたい」



美名は笑いを噛み殺した。



「全く……
こんなややこしいやり方で鍵の保管すんなよな」



クマの首にかかるキーを掴んだ時、志村がカッと目を開いた。








「――!」



美名は口を押さえて見守る。


志村は、驚愕して固まる真理の腕を物凄い力で掴むと、ニッコリ笑った。



「うふふ~ん……
なあにい?
生意気に……私に夜這い~?うふふ……」



怪力で真理は頭を捕まれると、志村に思いきりディープキスをされる。




「――――!」



真理は涙目でされるがままにしていたが、空いた手で何とかクマの首からキーを取ると、美名に投げた。



美名は慌ててキャッチすると手の中でジャラリと音がする。



「……ごちそ……さま……うひふ……ふ……ぐ――」


志村は、真理から唇を離すとコテンとベッドへ倒れ、再び寝息を立て始めた。



「……ひっ……ひいっ……ゲホッ」



口を押さえて目を白黒させながら真理が逃げるように小走りしてきた。



「ま……真理くん……」



美名は慰めの言葉が見付からない。



「ひいっ……
俺……男……とはファーストちっす……
ぐえっ……
ま、まあ……とにかく……行くか……」



真理に手を引かれ、美名はマンションのドアを閉めた。





――――









セルを回すと、真理は右手を挙げていつもの掛け声をする。




「倉田真理号~
出発~進行~!」



「お~!」



美名も助手席で、つられて手を突き出す。




「さ~安全にすっ飛ばして行くぜ!」




対向車のヘッドライトに時折照らし出される真理の表情が、頼もしくて美名はじっと見つめた。



真理は美名の視線にドギマギして、隠すようにわざとおどけた。



「なんだっ?
そんな熱い目で見て!
惚れたかい!ハハハ」



「私……
真理君……好きだよ」



「――!?」



ギョッとして、危うく対向車線にはみ出してしまい慌てて急ハンドルを切る。



「きゃっ」



美名はよろめいて、真理に凭れる体勢になった。








「す……すまんっ」


真理は耳まで赤くなる。

「ううん」


美名は姿勢を正しながら笑いかけた。



「てか、お、お前が変な冗談を言うから……」



口ごもりながら、何とか運転に集中しようと頑張っているのが端から見ても分かる。



「冗談じゃないよ……
私、真理君が好きだもん」



「ぴ――っ」



「ぴ?」



真理の顎がカクカクと不自然に震える。




「い、今のは……
警報だ警報!
ぴ、ピンク警報!」



美名は首を傾げた。



「何……それ?」



「だ――っ!
だからとにかく、ヤバい時に鳴るんだよ!」



怒った様に言うと、黙りこんでしまう真理を、美名は暫くじっと見ていたが、ポツリと話し始める。









「真理君は優しくて楽しくて……
付き合ってた時、本当に面白かったな」



「面白……」



真理はハンドルを握り前を注視しながら、ショックを受けていた。



「今でも……真理君の事、好きだよ……
けど……
剛さんは……全然違うの……」



「……」



真理は黙って聞いている。



「剛さんと居ると……
幸せで……同時に苦しくて……
泣きたくなったり……
色んな感情で一杯になるの……
好き、ていう言葉じゃ全然足りない位……なの」



美名は、話している内に感情が昂ってきたのか、唇を小さく震わせて、涙がポツリと手の甲に落ちた。



「……うん」




真理が左手を美名の右手にそっと重ねた。







美名が目を閉じると、大粒の雫が落下する。


ライトに照らされて煌めき、真理は運転中という事を忘れて見とれてしまいそうになる。



「……だから……
凄く怖いの……
剛さんに……何かあったら……って。
もし……居なく……っ」



しゃくり上げて、話せなくなる美名の肩をギュッと掴むと真理は力強く励ました。



「だから……
さっき言っただろ?
何かあっても……
皆が居るって。それに……綾波の事だ、ぜってーに大丈夫だって!
あれだけ鬼畜的にスケベな奴の生命力は凄まじいんだぜ?」



「……そ……そうか……な」



美名は泣きながらも、可笑しくなり笑う。



「そーだそーだ!
そういうもんさ!多分な!」



話している内に病院に到着し、駐車場に車を停め、二人は通用口のドアを開けた。







ガラスの小さな引き戸の向こうで、年配の守衛が船を漕いでいる。

真理が軽く叩くと、守衛が欠伸をしながら顔を出す。



「……時間外だよ?許可は?」



面倒臭そうに言う守衛に、真理の後ろから美名がペコリと頭を下げて



「おじさん、こんばんは」


と笑いかけると、コロッと態度を変えた。



満面の笑みで



「美名ちゃん~
今日は遅かったね~
本当はこの時間はアレなんだけど……特別だよ?」


と言った。



美名は愛想よく笑いながら手を振り、唖然とする真理を引っ張りロビーへと歩いて行く。









「……何だよあのオッサン……」


むくれる真理にクスリと笑い、美名はエレベーターの矢印のボタンを押した。




「そういや、家族が来てるって言ってたけど……」


「うん……
お母さんが来てるみたい……私も病院には来てるけど、まだ会ったことがないんだ」


「どこをどうしたら、ああいう息子になるのか聞いてみたいぞ俺は!」


「もう……真理君たら」



ピンポンという音と共に扉が空いて、二人は乗り込む。








階の数字が変わっていくのをじっと見る美名を、真理は複雑な心境で見つめた。



綾波がもし、このまま目覚めなかったら……
美名は歌手としても立ち直れなくなるのでは無いだろうか。



(いや……
そんな事にならない様に支えるんだ……
俺が綾波みたいになれないからって、美名を放って置く理由にはならない)



チンと鳴り扉が開いた時、真理は密かに決心をしていた。



(もしもの時は……
何がなんでも俺が守る)




「真理くん?珍しく真面目な顔してる……
どうしたの?」



美名が本気で心配そうにしている。



「し、失礼な事を言うなよっ!
俺は真面目な男だぞ」



「ふ――ん?」



「……」



反論をあっさりスルーされて、真理は傷ついた気持ちのまま美名の後ろをトボトボ歩く。









次第に美名の足取りが速くなる。

真理も大股に歩き追い掛けた。


後ろ姿だけで、美名の気持ちが逸っているのがわかる。



愛する男の元へ一秒でも早く行きたいのだろう。





緑の非常灯がある突き当たりの病室の前まで行くと、立ち止まり深呼吸して扉をそっと横へと引いた。



真理も後から入る。




小さな灯りが一つだけ点いた広い病室のベッドに仰向けに横たわる綾波が居た。



数値を測る機械に囲まれて、プツプツと規則的な電子音が響く中で眠る綾波は、一見ただ普通に眠っているかの様に見える。


今にも起きて、皮肉の一つでも言いそうだ。



美名が瞳を揺らして傍に立った。



「剛さん……」









今、大好きなその唇が、返事をする事はない。


美名が見つめると、熱い蕩ける様な眼差しを返してくれるその瞳も、開かれる事は無い。



つまづいたり、よろけると直ぐ様支えてくれるそのしなかやな腕も……




喉の奥が堪らなく痛み、視界がぼやける。



辛い涙がポツリと、綾波の手の甲に落ちた。




しゃがんでその手を握りしめ、頬擦りするのを真理はじっと見ていた。




「剛さん……
明日は……いよいよデビューなの……」




美名は、泣きながらも笑顔を向ける。




「志村さんが、デビューの記念に、て……
オーダーメイドのギターをプレゼントしてくれたの……
凄くかっこよくて、可愛いんだから……
剛さんにも……見せたいな……」




「……」



真理は、肩を震わせる美名の後ろに立った。









「私……
剛さんに……とびきりの歌姫にしてやるって言われたけど……
何が"とびきり"なのか……教えて貰ってないよね……」



美名は、涙を拭った。




「私……
明日……とびきりの歌をうたって見せるから……見てね?
早く……起きてくれないと……見逃しちゃうよ?」


美名は、クスリと笑うが、それは嗚咽に変わり、顔を両手で覆って下を向いてしまう。



「だか……ら……
お願……
早く……起きて……っ」




真理が、後ろから美名を支えて立たせた。



「……しっかりしろ、美名……
いつもみたいに……笑うんだ」




美名は首を振るが、真理の大きな掌が頬を挟み、綾波の方を向かせた。




「泣き顔じゃなくて……可愛い笑顔を綾波だって見たいだろうよ。
なあ?そうだろ?」



真理は綾波に語りかける。








「安心しろっ!綾波!
お前が居なくても美名は俺が守る!」



真理は自分の胸をバーンと思いきり叩いたは良いが、噎せた。



「ま……真理君?」



「……ゲホッ……
美名を……取られたくなけりゃ、さっさと起きて来い!
……さもなきゃ……かっさらうからな!
……ぐへっ……げほぉっ」



「……真理く」




「本気で好きなら……
意識不明になってる場合じゃねーからな!」





まだ涙目の美名の手を取ると、真理は綾波に向かってもう一言放ち、病室の扉を開けた。




「帰るぞ」



「ま、待って……」



「早く帰って休む約束だろ?」



「……」



美名は、綾波を振り返るが、真理に顎を掴まれる。








「言う事聞かなきゃ、ここでベロチューだぞ!」



「――っ?」



顔を近付けた時、美名の両手で思いきりビンタされ、真理は弾みで扉に頭をぶつけた。




「おおうっ」



「キャー!
ご……ごめんなさ……
そんなに強くするつもりは」



真理は打った鼻を押さえてニカッと笑う。




「よじよじ。
ぞの意気だぞ!びめ!」




「……!」




「そんだけ元気があるなら大丈夫だ!
綾波もお前の元気を貰ってきっとすぐに目覚めるさ!うん!
さー帰るぞ!」



「あっ」




真理は強引に美名を抱えて病室から出ると、忍者の様に素早く夜中の病院の廊下を走った。








「ま……真理くん!降ろして」



真理は、美名を抱えたままエレベーターでなく階段を駆け下りた。




美名が怖がってしがみついてくると、真理の胸が熱くなる。




ほんの一時、今だけでも、美名を抱き締めて走っていたい。


綾波が元通りになるその時までは、自分が一番に守って居たいと強く思った。




自分は、綾波に目覚めて欲しいのか、そうでないのか――



そんな葛藤が真理の中で渦巻いていたが、車に乗り込みセルを回し、時計で日付が変わった事を確認した時、唇をキッと結んだ。




(……今は、デビューの日をミュージックスタイルで飾る事をだけを考えよう。
美名を演奏でサポートするんだ……)




「いよいよ今日だな、美名……」



車を走らせながら、横に話し掛けると、美名は寝息を立てていた。




記念すべきデビュー当日。


何者かの黒い企みが、プリキーの周りに蠢いている事を、この時誰も知らなかった。





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