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獣の求愛①

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警察の事情聴取を受けた翔大はその日の夜中帰されたが、綾波は翌日になって釈放された。


三広が「Dream adventure」のスポンサーの岸智也に連絡すると、綾波の保釈金を払って他にも色々と手を回してくれたらしい。


美名と志村が迎えに行った時、岸智也は綾波と一緒に居た。


丁度、署長と話をしているところだった。


智也は美名を見ると、少し神経質そうな眉を僅かに上げたが、直ぐ様紳士な笑みを浮かべて挨拶してきた。

とてもハンサムな彼に、美名は緊張してしまう。



「初めまして。岸コーポレーション社長の岸智也です。今回は大変でしたね……志村さんにもご迷惑をかけまして」


「イエイエ!迷惑をかけたのは私よ!
私の管理下でこんな事になって……本当に申しわけなかったわあ!
お金は、私が出すから!スポンサーとはいえ、智也さんに悪いわ!」


「いえ、いいんですよ。何の問題もありません」



志村と智也が話している間、美名は綾波をじっと見つめていたが、綾波は目を合わせてこない。



一晩じゅう絞られていたのだろうか。
いつもは見せない疲れた色が瞳に浮かんでいた。




「岸さんに免じて今回は無罪放免ですが……
もう二度と来ることが無いようにしてくださいよ!?
まあ、男女関係の縺れってのは……まあまあ、わかりますけどねえ――
大事な恋人に心配をかけたらダメですよ!ねえ?綾波さん?」



人の良さそうな署長は、美名に目配せした。


「す、すいませんでした……私のせいで……」


美名は恐縮して頭を下げる。


(そうだ。
私がしょう君をはっきりと突き放していればこんな事にならなかった。
しょう君も傷付いて綾波さんまでが……
志村さんや智也さんにも迷惑をかけて……)


自分が情けなく思え、美名の目から涙が溢れた。



「あらあらあら~美名ちゃんが悪いなんて、あるわけないでしょう?
……悪いのは自制出来なかった翔大君に綾波君よ?ほら、泣いたら目が腫れちゃうわよ……ね?」


志村の暖かい手が背中をポンポン叩いた。



「うっ……でもっ……」


「気にするな、てのも無理かも知れないけどねえ。翔大君も派手にやられた割には怪我も軽い打撲で一週間で治るそうよ?
それに腕とか手は無傷だからギターも問題なく弾けるわよ」



「ほ、本当です……か?」


「ハッハハ!
しかしお嬢さんも罪作りだねえ!
あのお兄さんも本当に君に惚れてるみたいじゃないか……
まあしかし、こればっかりはなあ」


「……署長さん」


署長が軽く言って美名が青ざめると、智也が静かに言葉を挟む。


志村は美名をぎゅうと抱き締め、署長をキッと睨んだ。


「んもう――!それは禁句!」


「ははははは!すまんすまん!」



「し、志村さん……ぐるじ」


「あらあらごめんね?
てか、綾波君!あなたの役目でしょ!ほらっ」


志村は美名を綾波の方に軽く突き飛ばした。


「きゃあっ」


綾波の虚ろだった目は途端に輝きを取り戻し、その腕が美名を強く抱き締めた。





「綾……波……さんっ」


「美名……」



少し汗の混ざった綾波のいつもの香りに包まれて、美名はようやく安堵する。


「良かった……もう……会えないかもって……」


「大袈裟だぞ」



低く笑われ、コツンと頭を叩かれる。

目の前に優しい彼の顔があって、美名の瞳からまた涙が溢れた。



「綾波さん……っ」


首にしがみついてオイオイ泣く美名を、綾波はずっと抱き締めていた。




それから、智也とは署の前で別れた。


車に乗り込む時に美名をチラリと見て、何か言いたげな顔をしたが、ニッコリ笑って行ってしまった。



「智也さ――ん!
是非とも今度一緒に飲みましょうね~!」


志村は走り去る車に向かって投げキッスをした。




駐車場では、マイクロバスの前で真理と三広が熊みたいにぐるぐる歩きながら待っていた。


皆の姿を見て跳び跳ねて手を振ってくる。



「出迎え御苦労だな」


「も……もうっ……綾ちゃんのおばか――!」


「うおっ」


泣き顔の三広が飛び蹴りをして来るが綾波は間一髪でかわし、三広は盛大にコケた。



「はははは!大丈夫か」


綾波が起こしてやると、三広は真っ赤になって怒る。



「んもう!昨日は昼間ほなみちゃんの事で祐樹にボコられて夜は翔大君を半殺しにしてるとか……
どんだけ心配をかけたら気がすむのさ――!」


「ハハハ、悪い悪い」



何度も殴りかかっては綾波に避けられて、三広はキーキー怒る。


美名は、三広の口から出てきた名前に固まっていた。



(……"ほなみ"?
みっちゃんも、知っている人なの……?
ほなみちゃんの事で殴られたって……
どういう事?)



「オイオイ、じゃれあいもいい加減にしろよ!
早く乗れ!桃子がシチュー作って待ってるぞ!」


真理が先に運転席に乗り込み窓を開けて怒鳴った。


「あらっ真理君、貴方がお腹すいてるからじゃない?ふふふ」


志村が笑って乗り込む。



「わ、悪いかよ!
育ち盛りなんだよ俺は!」



綾波も三広の肩を抱いてバスに乗り込んだ。




"ほなみ"

その名前が頭の中をぐるぐる廻り、美名はその場に立ち尽くしていた。



「美名――!ボサッとすんな!早く来い!
俺は腹の虫が限界なんだ――!」


真理の声に我に返り、駆け足でバスに乗り込むと、美名は綾波に手を引っ張られた。



「こっちに来い」


綾波は強引に美名を一番後ろの座席まで引っ張り、いきなりそこに倒してキスした。


「ん……んん」


有無を言わさない激しく咥内を浚う様なキスだった。


髪と身体を激しく指で愛撫されながら瞼や耳、頬や唇にキスを何度もされる。


「あっ……剛さん……」


「美名……っ……ずっと触れたかった……」



ここが皆も乗っている車中だと忘れそうになったが、



「はい!全員乗ったな――!倉田真理号、出発進行――」


と、平坦な声がして美名は我に返った。



バスが動き出し、ずり落ちそうになる美名を綾波がきつく抱き締める。



「も、もう……剛さんったら!」


「……ここでは此処までにしておいてやる」


「――!?」


「後で、クタクタになるまで抱かせろ」


耳元で甘く囁かれて、それだけで気を失いそうになった。


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