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歌姫を愛でる獣

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ピンポーン

ピンポーン
ピンポーン

ピンポンピンポン



意識の遠くから聴こえていたチャイム音がどんどん大きくなる。


美名は玄関先でタオルケットを抱き締めたまま眠りこけていたらしい。



ピンポンピンポン


チャイムはまだ鳴り続けている。


美名は目を擦り、寝惚けたままでドアを開けた。


ドアの隙間からピンクの肌の黒い大きな目をした、そして大きな長い耳の生き物がヌッと顔を出した。



「ひ、ひいいいいっ?」


美名は一気に覚醒し、腰を抜かす。



ピンクの生き物はモソモソと部屋へ入って来て、美名は恐怖で叫んだ。



「キャ――!何?何?私、ピンクのウサギに知り合いなんて……え?」



そう、それはウサギの巨大な縫いぐるみ。

大人気の『バニっぴー』だ。



硬直していると、ウサギの後ろから綾波が仏頂面をヌッと出した。



「あ、あああ」


綾波さん、と叫ぶ前にいきなり物凄い力で抱き締められた。




「無事か……美名……良かった」



「……!」



綾波は美名の肩先に顔を埋めて消え入る様に呟いた。


胸がズキンとする。




「電話には出ないわマンションにも居ないわ……しかもお前あんなに怒り狂ってただろうが!俺は生きた心地がしなかったぞ!おいっ」



「いっ痛たたたた」



綾波は美名の頭を両手の拳でグリグリやり始めた。




「綾波さんなんて、だいっ嫌い?……だと?」



鋭い目がすぐ前にある。


「お……怒って……ます?」



「おう!怒ってる怒ってる!」



「うう……で、でも」



電話の向こうで聞こえた女の人の声の事が頭を過る。


(昨日、貴方は何処にいたの?
誰といたの?)



そう聞きたくなるけど怖くて言葉を出せない。



「何だ」



鋭く熱い瞳は真っ直ぐに美名を見ている。


その中に疚しい色は全く窺えない。


――寧ろ、疚しい事があるのは私の方なんだ。

昨日……私はしょう君に抱き締められて……キスされて……




綾波の瞳が揺れた。


「どうした……」



いつの間にか流れていた涙を大きな指がそっと拭う。



「さ……寂しかった……の……」



――私はずるい。
泣いて誤魔化して、しょう君の事を隠そうとしている。

何故泣いているのか、悲しいのか分からない。



しゃくりあげる美名を綾波がそっと抱き締める。



「すまなかったな……」


「う……うぐ……うえええ」


「よしよし……いい物をやるから喜べ」



ポン、と頭を叩き、綾波は巨大な『バニっぴー』を美名に持たせた。



「……?」


美名はバニっぴーを抱いて綾波を見た。



「お前に土産だ。キャラクターストリートで買ってきた。限定品だぞ。ラスト一個だったんだからな」


大真面目な顔で力説する綾波に可笑しくなって吹き出してしまう。



女性ばかりであろうキャラクターストリートに、綾波が人形を買うために並ぶ様子を想像してしまうと堪らなく可笑しかった。



――それに私の為にしてくれたという事が嬉しい……




「ありがとう……凄く嬉しい」



「おう。抱き枕でもサンドバッグでも好きなようにしろ」



「ウフフ。サンドバッグになんかしないよ……大事にするね」



綾波の目が妖しく光る。


視線が美名の身体にある事に気付き、透け透けの部屋着だった事を思い出した。


慌てて身体を人形で隠すが、綾波は美名の両腕を乱暴に掴んだ。


バニっぴーが床に落ちる。


手で隠す事も出来ず、部屋着に透けた身体を綾波は舐める様に見つめた。


恥ずかしくて目を逸らした時、床に倒されていた。




鋭い瞳で見られるだけで切り裂かれそうな気がして身がすくむ。



「どうした……そんなに俺が怖いか」



綾波はニヤリとする。



――真っ直ぐに揺れる髪、私の何もかもを射抜く様な激しくて時に優しい瞳……
逞しい腕……

一日離れただけで、こんなにも私はカラカラに渇いてしまった。



美名は会えない一日を取り戻すかの様に、組み敷かれながら愛しい人を見つめた。



戸惑う瞳が、目の前でまた揺れている。



「美名……」



「剛さ……ん」



二人の唇が重なり合うかと思われた時に、強い力で顎を掴まれた。



甘くトロンとした意識は、綾波の鋭い声で現実に引き戻される。



「この痕は、何だ」



「あっ……」



背筋が凍る。




(昨夜、しょう君が付けた首筋の痕……!)




「俺は……覚えがないぞ」


綾波は、赤い徴を指でなぞりながら射す様に見る。



「……」



美名は言葉が見つからず、只その瞳を見返した。



「何か言わないと……滅茶苦茶に抱くぞ」



「あっ」



両手を纏められ、熱い唇に耳を甘噛みするようにされ、美名は悲鳴を上げた。



「これだけでそんな反応をするのか……堪らんな」



目に獣が宿り、同時に嫉妬の炎が燃える。



「こんな風に誰かに触らせたのか……ん?」



唇がうなじから首筋、鎖骨へと下りてきて膨らみをなぞる。



「あ……あっ」



「お前を抱くのは……俺だけだ、と言った筈だ!」




物凄い力で乳房を掴まれる。



「い……痛っ」



「美名……俺をこんな風に狂わせるな……っ」



掌が頭を掴み、噛みつく様なキスをして来る。




嵐の様に全てを浚うような口づけだった。

息継ぎをする間も与えられず長い時間唇と咥内を塞がれて掻き回され、舌を吸われる。



「んんっ……ん」



「答えろ……」



唇を離すと、顎を乱暴に持ち上げ綾波の方を向かせられた。



こんな時なのに、彼の目元や唇に見とれて心が奪われる。



浅はかな彼女の頭の中は、この場をどんな言葉でやり過ごしたら良いのか判断出来ない。




――嫉妬されて喜ぶ自分が心の奥に居る……

そして、嫌われたくない……



そう思い涙が勝手に流れてくる。




「言わないと……このままお前を犯し続けるぞ」



美名は、彼に太股を掴まれて左右に拡げられる。



「お前に触れた奴は……どうしてくれようか……半殺しにしてやろうか?」



「……!」



綾波の瞳が悲しげに揺れたが、また凶暴な色で満たされる。



上のシャツに手をかけられ、引き裂こうと力を籠められた時、何かが凄いスピードで飛んできて綾波の頭に当たった。



「?」


美名の上に居る綾波が頭を押さえて動きを止め、ぽとり、と美名の胸元にライオンの編みぐるみが落ちた。



「何だ?」


「きゃっ」



また飛んできたが、綾波が今度はがっちりとキャッチして、手の中の灰色の編みぐるみを真剣な眼差しで見た。



「……これは、何だ。カバか?」


「カバじゃなくてサイだよ――!バーカバーカ!姉ちゃんを苛めるな――っ」




桃子が次から次へと編みぐるみやらお手玉を綾波に向かって投げつけてきた。



「も、桃子!」



ベッドで寝ていた桃子の存在をすっかり忘れていた。


綾波は投げつけられた物を器用に全て跳ね返した。


桃子は悔しそうに舌打ちする。



「姉ちゃん、こいつ何者?」
「美名、こいつは誰だ」


二人は同時に叫んだ。



「え……えっと」



美名は身体を起こして何処から説明しようか暫し悩んだ。




――――――――――――





一時間後、三人は綾波のマンションのリビングに居た。



美名は、順序立てて桃子に綾波との出会いから(初対面で連れ込まれて……の下りは省いたけれど)
デビューの事までを話したが、桃子が頑として信用しなかったのだ。



「こんなに格好良くて鋭い男の人が、よりによってクレッシェンドのマネージャーだとか出来すぎてる!
お姉ちゃんが人のいいのにつけこんで弄んで飽きたらポイ!のつもりなんじゃないの?」



「出来すぎも何も事実だからな。それに、実は弄ばれるのは意外に俺の方かも知れんぞ」


綾波の言葉に美名はギョッとする。


「な、何を言ってるんですか――!
どう考えても綾波さんの方が『弄びキャラ』でしょ――?」



綾波は美名をギロリと見る。


「さあ、どうだかな。お前は自分の事を良く分かってないからな。自覚無く周囲に波紋を呼び寄せるタイプだぞ」



「な、何の事です?意味分かんない」




桃子が割って入ってくる。


「お姉ちゃんを苛めるんじゃないわよ!このエセ西本祐樹が――!
あんたが似てるのは顔だけで中身は似ても似つかないデロデロのドロドロの愛欲野郎よね!」



「おい。祐樹に似てるとか言うな!何気にNGワードだぞっ!
ドロドロ野郎で結構な事だ!
それに言わせて貰えばなあ、祐樹は爽やかボーイと違うからな!
それはお前らファンが作った勝手なイメージだ!」



「ほっほお――!
天下のクレッシェンドのマネージャーさんが、そんな事言っていいのかしらね?
余程何か焦ってるか追い込まれてるのかしら?
お姉ちゃんに何か隠してるマズイ秘密の一つや二つや十個くらい余裕であるでしょ?
それを棚に上げてお姉ちゃんを苛めるんじゃないわよ――!」



二人の言い争いがおかしな方向に行っている。



「苛めてなんかないさ。お前は男女間の微妙な波を知らんのか?ほっとけ!」



もう既に会話というレベルでは無く、お互いを指差し罵り合っている。


瓶底眼鏡の中から桃子は殺意を持って綾波を睨み付けた。




「き――っ感じ悪い!
全ての問題を男女間のなんちゃらで片付けられたら何もかも滅茶苦茶よっ!
あ~だからやっぱり三次元の男は面倒なのよっふんっ!
あんたなんかより、お姉ちゃんには
"しょう君"の方が相応しいわよ――!」



「なにぃ――!?」



「ち、ちょっと二人とも!」



綾波と桃子は、暫し蛇とマングースの対決の如く睨み合っていたが、均衡を破ったのは綾波だった。



「ここで平行線のやり取りをしていても仕方ない。場所を変えて話し合おう」



そういう事になり、一同は綾波のマンションへ移動したのだ。




「まあまあの部屋じゃない」


桃子は入るなり、鼻を鳴らして上から目線だ。



「も、桃子!」



綾波は苦虫を噛み潰した様な顔で桃子を見る。


「親族の信用を得ないでデビューさせる訳にはいかんからな……
こうなったら非常手段だな」



綾波は、ポケットからスマホを出して誰かと話を始めた。



「……そうだ……ちょっとお前にしか出来ない特命指令がある。すぐに来いよ」



(――特命指令?)


美名の耳がダンボになる。


桃子は水槽の色鮮やかな魚達を目を細めて眺めていた。



「で、あんたが本当にクレッシェンドのマネージャーで、お姉ちゃんのデビューの事も本当だとしてさ、どうなのよ」



「どう、とは何だ」



桃子は水槽から目を離し綾波を真っ直ぐに見た。




「お姉ちゃんの事を本気で引き受ける気持ちがあるの?
ちゃんと本気で愛してるわけっ?」



美名はドキリとして、綾波を見た。



綾波はその視線を受け止めて、うっすら笑った様に見えた。



「俺は……」



その唇が動いた時、インターホンが鳴った。






「おう、もう来たか。入れ」


バタバタという足音と共に高い声がする。



「綾ちゃん、どしたの?たまたま俺らこの辺に居たからさ~電話来てビックリしたよ」



「たまたまじゃないだろっ?美名ちゃんに会いに来たんだろ~?ヒューヒュー!」



「ち、ちがわあ――亮介のぼけぇっ!」



「綾ちゃ―ん!特命ってな~に~?」



リビングのドアがバーンと開かれた。

やって来たのは亮介と三広だった。




「亮介君!みっちゃん!」


目を丸くして叫ぶと、桃子も振り返る。


そして二人を見て口をあんぐりと開けて固まった。



亮介は綾波の肩を揉む。


「綾ちゃ~ん!相変わらずのいい男~!」


綾波は口を歪ませた。

「……いきなりゴマスリか。何も出ないぞ」



「美名ちゃん、こんにちは!綾ちゃんに苛められてない?」


「泣かされたらいつでも言っておいで?」


「綾ちゃんSだしな~美名ちゃんの事が俺ら心配でさ」


「それにドスケベだしね!百回位妊娠するかも知れないよ?」



「亮介っそれセクハラ発言!」


二人に囲まれた美名の腕を綾波が引っ張り抱き寄せた。




「お姉ちゃんに触るな――!このエセ西本祐樹!」


桃子が綾波の腕に噛みついて来て、綾波は眉をしかめながら、もう片腕では美名をしっかりと抱き離さない。



「お前なあ……その呼び方は止めろ!」



桃子は噛みついたままぶら下がり綾波を睨む。



「ガルルル」


うなり声を上げる桃子を見て、亮介と三広はたじろいだ。



「……て、美名ちゃんの、妹……さん?」



「う、うん……そうなの」



美名は苦笑いした。



「おいっ!お前!いい加減に離れろこの子猿――!」


綾波が腕を振り回すが桃子は食い付いたまま離れない。



「も、桃子!止めなさい!」


「ガルルル」



「お前はスッポンか――!」



この騒ぎを亮介と三広は目を点にして遠巻きに見ていた。



「おい、お前ら見物してる場合じゃないぞ!何とかしろ!」


綾波が叫ぶと、二人はハッとしてお互い顔を見合わせた。



「り、亮介が行けよ」


「いや、俺猛獣の扱いは慣れてなくて」


「そんなん俺だってそうだよ――!」


二人はすったもんだ言い合いを始めた。



「目には目を!歯には歯を!猛獣には猛獣を!珍獣には珍獣を!
三広、今こそお猿の底力を見せる時だぞ――!」


亮介は三広の首を締め上げる。
三広も手を伸ばすがリーチが足りなくて亮介の首まで届かない様だ。


「ぐ……ぬぬ……何をわけワカメな事をっ」



「男を見せろ三広――!」


亮介は三広を思いきり突き飛ばした。



「うわあああ」



その勢いで三広は桃子に向かってタックルを決めた。



桃子の口が綾波の腕から離れて、弾みで二人は床に転がる。



三広は桃子を抱えたまま観葉植物の鉢に頭を強打した。



「み、三広!」
「みっちゃん!」



亮介が三広に駆け寄り、身体を起こした。

桃子は蒼白になる。


「三広!おい三広!」


何度か頬を叩くと、三広の鼻から血がつつ、と一筋垂れた。



「キャア――!」


桃子が口を押さえて叫ぶと、亮介は冷静に言った。



「大丈夫。鼻血はいつもの事だから」



「まあ、そうだな。寧ろ元気な証拠だ」



綾波も頷いている。


「ど……どうしよう!根本君っ」


桃子は震えて三広を見ている。


「心配ないよ。少し寝かせて置けば良くなる」


亮介は気を失った三広の鼻にティッシュを突っ込んだ。



「みっちゃん……」


思わず呟く美名の耳元に、熱い囁きが流れ込む。


「他の男の心配をしてる場合じゃないぞ……」


「!」



美名は綾波にいきなり抱きあげられた。



「亮介、俺達は寝室で話し合う。三広とそいつを頼んだぞ。念のために言うが、寝室には絶対に入って来るな」



「あ、綾波さん」



何だか怖くなりじたばたするが、そんな美名を綾波は鼻で笑う。



「覚悟しろよ、美名」



「そ、そんな……り、亮介君っ助け」



オロオロしてこちらを見る亮介に思わず叫ぶが、抱き上げられたまま綾波に唇を塞がれる。



「んっ」


「他の奴を見るな!」



綾波の剣幕に美名は震え上がる。



「亮介、頼んだぞ!」



綾波はズカズカと寝室まで早足で歩くと乱暴にドアを開けた。



「あ、綾ちゃん、あんまり苛めるなよ――!」



リビングから亮介の声が聞こえた。



「きゃっ」


部屋に入るなり、ベッドに乱暴に倒された。



服の上からでも、綾波の獣が屹ち上がり固くなっているのが分かるとゾクリと蕾が反応した。


綾波は何も言わずに美名のシャツを引き裂いた。



「や、やあっ……」



怯える美名に構わず、Gパンに手をかけ力任せに引っ張り脱がされる。



付けている下着は桃子特製の面積の小さなブラと、紐のショーツだった。


綾波は目をギラつかせ、自らも着ている物を脱ぎ捨てていく。


いつもなら上着やシャツをハンガーに掛けるのに、無造作にその辺に放り投げる。


トランクスも脱ぎ、ムクリと勃った獣が現れた。


綾波はベッドに上がり美名にじりじりと近付いて来た。


後ずさるが、勿論逃げ場などない。


物凄い力で抱き締められ、美名は小さく悲鳴を上げた。


「あっ」



胸に鼻先を埋めた綾波は小さく呟く。

その声が微かに震えている様に聞こえた。



「美名……っ」





怖いのに、この先の行為を期待して全身が熱い。
鼓動が早くなる。

綾波の鼓動なのか美名の物なのか――分からない位身体がぴったりと合わさる。



「一晩でも離れるんじゃなかった……」




低く呟くと、顔を上げて首筋の赤い痕に触れて来て、ちくりと美名の胸が疼いた。



「誰がつけた……あいつか……junkの」


「……!」



美名は思わず身体を震わせる。


綾波の瞳が大きく揺れ、その中に焔が燃えていた。



「……殺してやる……俺の美名を……」



「――綾波さんっ」



美名は、彼の首にすがりつき頬にキスした。


綾波の身体が大きく震え、美名を抱き締める。



「美名……っ俺は」



「剛さん……」




美名は、彼の震える唇にそっと触れた。



――剛さんが、取り乱している……
私の為に……



愛しさが込み上げて涙が溢れた。



「……笑ってるのかお前」


顎を乱暴に掴まれて上を向かされると、熱い瞳とぶつかる。



好き、という気持ちが溢れて苦しくなった。



「……抱いて……剛さん」





目の前の瞳がギラリと輝いた。



「泣き喚く事になっても知らんからな……」



「あっ」



綾波の手が素早くショーツに伸びて紐をほどくと太股を掴み拡げられる。


もう、蕾が潤っているのが自分にも分かる。


綾波に愛して欲しくて、貫いて欲しくて震えている。



綾波の視線が注がれて、恥ずかしくて脚を閉じようとするけれど勿論それは許されなかった。

強い力で太股を掴まれ拡げられたまま、目で存分に犯される。




「たまらんな……これは……」



綾波の指がいきなり蕾に侵入して来た。


途端に水音が響く。



「あ……!」



蕾は快感に震え、綾波の指を早速締め付けている。



「奴にも……こんな風にさせたのか……えっ?」



指の動きが激しくなり、淫らな音を鳴らす。



「ああ……やんっ」


美名はベッドのシーツを掴み身体を仰け反らせた。


「答えろ……っ奴に何をされた!」



片手の指では蕾を弄び、もう片手では乳房を責められて身体が激しく反応して狂ってしまいそうになる。



「や……そんな風にしたら……ああっ」





「奴に身体を触らせたのか――!」



「ああっ」



綾波は、大きく猛った獣で美名を突き刺した。

その動きでベッドのスプリングが大きく軋む。


突き刺してから直ぐ様激しく突き上げられて、美名は喋れない位に乱れた。

綾波はそんな美名を燃える目で見つめ、動きを緩めない。



「……お前の身体は……触れれば反応する厭らしい身体だ……」



獣を秘蕾に突き刺しながら、長いしなかやな指まで侵入させて、呼吸を荒くして綾波が呟く。


「あっ!ダメえっ!そんなっ……ああっ」



視界が白く染まり意識が飛びそうになる。



「奴にもこうされて感じたのか!えっ?」



指と熱く増大した獣で攻められて、狂いそうな位の快感に苛まれ、もう訳が分からなかった。
ただ、綾波の呼吸とその熱さを受け止めて感じるしか出来ない。




「答えられないか……答えるまでずっと攻めてやる……」



綾波は獣を引き抜き、美名を俯せにさせると後ろから突き刺してきた。


「あっ……」



また違う快感に声が漏れる。






「美名……美名っ」


切ない熱い吐息が首筋にかかる。


後ろから両の掌で乳房を掴まれ柔やわと揉まれ、獣は蕾を突き刺す動きを止めない。

動かされる度に蜜は溢れ続けて太股とシーツを濡らす。


肌のぶつかり合う音を聞いていると、気が遠くなりそうだ。



「あ、あ、あああっ」



愛してるの、という言葉が喉まで出かかるが、綾波の目を見つめて言いたい……



後ろから突かれる行為は、快感に震える身体とは裏腹に心はどんどん虚しく冷えていく。



「くっ……!いくっ」



後ろで綾波が低く叫び、ズンと突き刺してきた途端に熱い精が放たれた。



美名は身体を震わせながら受け止めてシーツに顔を埋めた。



「はっ……はあっ……」



綾波は息を乱しながら、俯く美名の腕を掴み上に向けさせると、頬に伝う涙を見てハッとしたように目を見開いた。


指で涙を掬い、優しくキスをされる。


美名は自分が泣いている事に初めて気が付いた。



「なんだ……ビックリした顔をして……自分が泣いてるのも分からんかったのかお前は」



「剛さん……私」



嵐の様に荒れていた綾波はもう居なかった。




――さっきまであんなに激しく私を犯して、野獣みたいだったのに……



今は散らばった羽毛を優しく拾うような仕草で、乱れた美名の髪を鋤き、口づけている。


「すまん……大丈夫か」


優しい声に、また涙腺が崩壊して涙が止めどなく溢れた。



綾波の顔が苦しげに歪み、美名は強く抱き締められる。




「う……ひっ……っく」


美名はしゃくり上げて綾波にしがみつく。


頬に優しくキスをする綾波の瞳は凪いだ湖みたいに静かだった。


強く掴まれた痕が付いた腕を見て、口を歪めると美名の肩先に頭を預けて呻く様に呟く。



「お前を傷つけるつもりはなかった……」



「剛さん……」



「お前が奴に……乗られている姿を想像したら……堪らなくなったんだ」



美名は、まだ震えと涙が止まらなかったが、頬をそっと両手で挟み、上から見つめる綾波の瞳がとても綺麗だと思った。



「俺が……嫌いになったか」



美名は首を振る。



「だったら……もう泣くな」


唇で涙を掬い取る綾波の方が泣きそうな顔をしている。



「ううん……私はただ」



「うん……」



頭を撫でるその掌の温もりが嬉しくて、違う涙が溢れると、綾波はまた困惑した表情をした。






「顔が見えないのはイヤ!」


「あ?」



叫ぶ美名に、キョトンとした目を向ける。



一度口に出すと、さっきから堪えていた感情が爆発してしまう。

美名は綾波の胸を拳で叩いていた。




「後ろは……気持ち良くても……イヤ!」



「痛てっ!……うおっ……な、何?後ろが嫌いか?」


頬が熱い。恥ずかしくて悲しくて、訳が分からない。



更に拳を振り上げると、偶然にも彼のお腹にヒットししてしまった。



「うおっ」



綾波は美名の身体に崩れ落ちて呻いた。



「お前……少しは手加減しろっ」



「だって……悲しかったんだもん!剛さんの顔が見れなくて怖くて……悲しかったの!」



ポカポカ背中を叩きながら叫ぶと、綾波の瞳が大きく揺れる。



身体を起こし、顔を隠して泣く美名の手をそっと外すと呆れた様な溜め息を付いた。



「だから、そんな風に泣いたら目が腫れて大変だぞ……全く……お前は」



「うっ……何よ……さっきは物凄く怖い顔をして……"泣き喚いても知らん"て言ったくせに」



「そうだな……そう言ったが……やはりお前に泣かれたら俺はダメだ」



「え……」



サラリと頬に綾波の髪が触れた瞬間、美名は唇を奪われていた。


深く、優しい口づけは身も心も甘く溶かす。




唇を離すと、苦しげな表情で美名を見つめ大きくまた溜め息を付いた。



「ダメだな……俺は全く余裕がない……」



「好き……」



美名は呟いて、綾波を抱き締めた。


戸惑う様に宙をさ迷うその腕は、美名が胸元にキスをすると直ぐ様身体に絡み付く。



「あのね……しょう君があの日……訪ねてきて……それで……」



話し始めたら、腕に力が込められる。



「好きだ……て言われて……」



綾波の舌打ちが聞こえた。



「でも……剛さんが思うような事は無かったよ?」



美名はそこで嘘をつく。


見え見えかも知れないけれど、嘘を突き通す事に決めた。



「……じゃあ、その痕は何だ」



「……わかんない」



美名はすっとぼけた。



綾波が絶句している。



「私にも覚えがないも~ん。痒くて擦った痕かもね」


「お、お前っ!そんな言葉を信じると思うのか!」



「信じられないなら、いいよ。綾波さんなんて嫌いっ」



美名は綾波の腕を振りほどいてツーンとそっぽを向いた。



「お前……好きだって言ったばかりだろうが」



「言ったけど。
けど、いつまでもその話をするなら嫌いになるからねっ」



綾波が本気で狼狽えているみたいだ。


美名はそれが嬉しくて万歳したいのを必死で堪えていた。





何秒かの沈黙の後で、美名は再びベッドに沈められていた。


「あっ」



「分かった……分かったから……」



「んっ……」



綾波は美名の首筋から胸元に唇を這わせながら囁いた。



「お前の事は責めない……お前を憎む事は出来ん……何があったとしても……何故だかわかるか」



「……?」


くすぐったさに悶えながら、美名は綾波を見上げた。



綾波はフッと笑う。



「それだけ、お前に惚れてるからだ」



「――!」



全身がその言葉で一気に熱を持った。



綾波の唇が次から次へと美名の感じやすい処を探し当てては優しく、巧みに愛撫していく。


美名は背中にしがみついて啼いた。



「今度は……思いきり優しく……気持ち良くしてやる」



「ああっ……剛さんっ」



「美名……お前だけだ……」



囁かれる甘ったるい愛の言葉に酔いながら、ふと、電話で聞いた高い声の事が頭に過って瞬間不安になる。


けれど、今それを尋ねてこのふんわりと柔らかい愛しい時間を壊したく無かった。




(……剛さんの瞳は、今は私しか映して居ないよね……?)



「何だ……?」



身体を沈み込ませた瞬間に、綾波は物言いたげな顔の美名に聞いた。




「ううん……
剛さんを、愛してる、て言いたかったの……」



彼の動きに合わせて、そう答えたら、息が出来ない位の口付けが美名を襲った。



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