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音符に乗って君をさらいに行く~by勇人
しおりを挟む人、人、人。
ライヴは大勢の人間が集まる物だから当たり前なのだが、物販の行列に並んでいると早くも心が折れそうだ。
人に酔いそうだ……
(もう、リバースはごめんだ!)
茜を助けたは良いが盛大にリバースアゲインした僕。
茜は、僕がリバースするのを目撃するのは二回目だからだろうか。
平然としていた。
まさにリバース中、背中を亜太にするようにトントン叩いて子守唄を口ずさんだのだ。
「♪音符に~乗って~君の全てを~さらいに行くよ~」
クレッシェンドの人気曲『恋をさらって』
そうだそうだ。この状況から誰かさらってくれ――!
と内心僕は絶叫した。
しかし、吐いてスッキリした……
身も心も!気分爽快オロナミンC!
ノーリバース!
僕は大丈夫だ――!
これで、ライヴで暴れても平気だ―!
いや、暴れないけど。
「勇人君、吐いたのがライヴ始まる前で良かったね?」
物販の列で二列に並びながら茜が隣でニッコリした。
(吐いた言わないでくれ!)
「う、うん。そうだね」
「これで心置きなく暴れられるね!あ――楽しみ!暴れなくちゃ――!」
ウキウキしている茜の言葉に耳を疑う。
は?
今、youは何て言いました?
背中のデイバックからジャムが頭を出した。
「アバレヨウ!楽シクアバレヨウ!ケケケ」
ジャムの頭を右手で掴むが、手が、にゅる――と延びてきて親指の指毛を器用にブチリと抜かれて痛みに絶叫する。
「ぐぎゃ―――っ」
回りの客にギロリと睨まれて僕は身を縮めた。
「スイマセンスイマセン。オチツキの無い勇人クンですから赦シテたもーれ☆」
ジャムが指の間から顔を出して大声で喚く。
「おまっ!黙れ――!」
手で頭を掴もうとするとシュルと抜け出して僕の頭に乗って、何処から出したのかスピーカーで演説口調で話し始めた。
「崖ノ下中学二年D組、出席番号7番、部活ハ花ノ帰宅部!薄目細目薄毛がチャームポイントの鈴木勇人君ヲドウカ!皆様ドウカ!4946(シクヨロ)デス――!
チナミにお家は此処ノ隣ノ隣☆
皆、遊ビニキテアゲテネ――!」
「個人情報を何晒しとんじゃ――!」
ぬらぬらぬら
「ぬらぬらじゃねーよ!」
∥∥∪。△。)⊃―☆∥∥
ペコリーヌが眼前に逆さまで現れて、僕は腰を抜かした。
「ギャアアア」
「ペ子ちゃん!びっくりした~!何処から飛んできたの?全然わからなかった~」
「∪。△。)⊃勿論お空からぬらよ☆」
「もう~ぺ子ちゃん面白いっ」
茜とペコリーヌはケラケラ笑っている。
呆然としていると不意にジャムに腹に頭突きされた。
「て――っ」
「タチドマルナ!社会ノ迷惑ダ――!」
「お前に言われたくないわ――!」
「スイマセン、スイマセン」
僕は回りにぺこぺこしながら立ち上がる。
「゜▽゜)沢山人がいるのう。これだけいればお前に勝るとも劣らないネガティブ少年が一人や二人居そうなものだが……」
ペコリーヌは目を緑に光らせて辺りを見回した。
「∩゜▽゜)∩む――ん、やはり勇人程の“存在しててごめんなさい謝ります”級のネガティブ少年は居ないな……流石だな勇人!」
「オメデトーハヤト!」
「おめでとう!……て言えばいいの?」
「ギャア――河本まで止めてくれっ」
物販の列は進み、いつの間か僕達が先頭になっていた。
マッシュルームカットの小顔スタッフがけだるそうに接客している。
「どうしようなあ、缶バッジカワイイ!メンバーの似顔絵そっくりだねえ!」
茜はウキウキしてグッズを物色する。
スタッフが茜と僕を見比べて腑に落ちない表情をしたのに気がついてしまった。
(何だよコイツ……
“教室の隅で一人存在を消してるような薄い顔のお前が、魔法少女☆サキリンみたいな茜と、何故に一緒にライヴに来てリア充してるんだ!おかしくね?
今にお前は禿げるぞバーカバーカ”
とか思ってる様な目で見やがって――!
あ――そうだよ!俺は今に禿げるさ!
華々しく禿げてやるとも!悔しかったらお前も禿げてみやがれ――!
フハハハハ!)
「フハハハハヒハハヒ」
僕は本当に笑っていた。
……て、ジャムが服の中ではい回ってるからだよ!
やめろおおお!
「勇人君が楽しそうで良かった!うふふ」
「うふ……えへ…っグハハハ」
僕はジャムの縦横無尽な擽り攻撃に涙を流し身を捩って耐えるしかなかった。
「゜▽)゜▽゜)そうそう☆いつも仏頂面ではいかん!
“笑う角には悪魔が来たりて笛を吹く”と云うではないか!」
「それっ……違うっ!グヒヒャー!」
スタッフは化け物でも見るような目で二、三歩後ずさる。
「勇人君、ガチャがあるよ!」
「ヒヒヒ―っ!ガチャ?」
「一回五百円でハズレなし。缶バッジか、パーカか、ステッカー、大当たりは楽屋招待ですよ!」
スタッフが茜に鼻をでろでろに伸ばして説明した。
「ふ、ふ――ん、一回ずつやって見ようか?」
茜がキャーと黄色い声を出した。
「やろうやろう!当たったらどうしよ――!」
僕と茜は一回ずつガチャをやった。
タオルもお揃いで一本ずつ購入し、僕らは列から 外れてライブハウスの自販機の前に座り込み、イソイソとガチャを開けたが、茜は途端に落胆の表情をした。
「ざんね――ん……でも、滅多に当たらないもんね」
その顔を見ていたら、是が非でも当ててやりたいと一瞬思った。
∥∥∥。△。)∥∥∥∥
当ててやりたいか!?
当ててやりたいか勇人!!
ペコリーヌがまた逆さまで登場した。
「ギャア!」
「ペ子ちゃんすごーい!運動神経がいいんだねえ、羨ましい~」
「∪。△。)⊃おーっほほほ」
「ハヤト!ネガイを叶えて欲シイノカ!」
ジャムが前髪にぶら下がって喚いた。
「えっ……出来るの?」
「∪。△。)⊃当たり前ぬら!わたくしを誰だと思っている!」
「誰って、ただのペコリーヌだろ」
「∪。△。)⊃シャーッ!わたくしはただのペコリーヌではない!一万年に一人のスーパー魔法使いぬら!」
「ギャーッ」
ペコリーヌに耳元で叫ばれ、ジャムには脛毛を引っこ抜かれた。
「な、ななな何だよお前ら――!」
ジャムを捕まえようとすると、素早く茜の肩へ飛び乗った。
「皆、仲良しで楽しそうだねえ」
「仲良し違う!」
「∪。△。)そうそう☆私達仲良しなの☆
茜ちゃんとも仲良しよね――っ!
のう勇人?」
「ハヤト!」
ペコリーヌとジャムの目が緑に光る。
僕は恐怖におののき、頷くしかなかった。
「うん!仲良し――!嬉しいなあ……私、女の子の友達て居なかったから……男の子も」
「え……そうなの?」
「うん……でも、ペ子ちゃんと勇人君とジャムちゃんが居るから、もう寂しくない!」
茜は嬉しそうに笑う。
また頭の中でエレクトリカルパレードが始まったが、ペコリーヌにスティッキでバシイ!と殴られてパレードは強制終了した。
「な、何すんだ――!」
「゜▽゜)どうするのだ!ガチャの当たりが欲しいのか!」
「ホシイノカ!」
どうしても僕にイエスと云わせたいらしい。
「わかった、わかった頼むわ!当ててくれ――!」
「∪。△。)∪よしきた――!」
快晴だった空が突如真っ暗になり、稲光が堕ちる。
辺りに悲鳴が起こった。
。△。)△。)。△。))。)。)△。)。△。)
あわれなほそめうすめウスラハゲうずらのたまごかけごはんだいすきはやとのねがいをかなえたまえはやとをくらいせいしゅんからすくいたまえ――っ
「なんだ――!?」
「ま、まぶしい!」
客達が空の緑の稲光を見てどよめいた。
「わあ、すごーい!きれーい!」
茜は手を叩いて喜んでいる。
僕は身の危険(毛根の危険)を感じて頭を手で隠した。
∥∥∥∥∥
∥∥∥∪。△。)⊃―☆∥∥∥∥∥∥∥∥∥∥∥∥
ぬらぬら
シャーッ!
ドカーン!ミシミシ!
「うわ――っ」
「きゃ――」
「地震みたいに揺れたぞ!」
「ひい――――っ」
僕も絶叫する。
「キャアア!やった――!当たってる!当たってるよ勇人君!」
茜がカプセルを開けて狂喜してペコリーヌと手を取り合い跳び跳ねていた。
真っ暗だった空は黒い幕を一気に引いた様に快晴になり、周りの客達は皆首を傾げている。
「何だったんだ?今の」
「ツイッターにも地震速報出てないよ?」
僕が顔をひきつらせていると、ライブハウスの中から陽気なおじさんが出てきてスピーカーで言った。
「楽屋招待に当選したお客さん、いたらどうぞ入ってね――!メンバーと記念撮影するよ――!
ちなみに、Calling店長&社長のこの僕、浜田敏正(はまだとしまさ)君と2ショット撮影も受け付けてるからね――ん!
遠慮しないで言ってきてね――!」
「∪。△。)⊃ほれ茜!行ってこい!」
「レッツゴー茜!メンバートアクシュシテ手形トカ足形トカ歯形デモナンデモ貰ッテコイ!」
「え……本当にいいの?勇人君」
僕はブンブンと頷くと、茜は花の様な笑顔を向けてライブハウスの中へスキップしながら入って行った。
僕は茜に手を振った。
「ねえ……今回の願いで毛根何本無くなるのかな……」
渇いた声で質問する僕にペコリーヌとジャムは緑に光る目を向けてニヤリとした。
「。△。)今回は毛根ではないぞ。今日じゅうに何かの試練がお前に訪れるのら」
「ソウナノラ」
「はあ――!?何だよそれっ」
「試練の度合いはランダムで決まるのだ。△。)さあ!ジャム!ルーレットスタート!」
ジャムの首がくるくる凄い速度で回転し始めた。
さっき茜の家で亜太とペコリーヌの首廻し対決を見たが、あれよりも速いスピードだ!
「ルルルルルル――!」
ジャムは楽しそうだが、見ている僕は又吐き気が込み上げて来そうだ。
「さあ!勇人!好きなタイミングでストップをかけるのら!∪。△。)⊃」
「す、ストップ!ストップストップ――もう止めたげて――ヒイッ」
ガッチャン!
という音と共にジャムの動きが止まる。
その目には数字が浮かんでいる。
「∪。△。)⊃はいっ!勇人に与えられる試練は25番――!」
「何だよ25番て――!」
「まあ、試練が来てからのお楽しみぬら。△。)⊃ひょっとすると無いかも知れぬしな」
「ウケケヒヒヒヒヒ!楽シミダナハヤト!」
「うええ……怖いよ」
その時、バイクの集団がライブハウスの前の大きな交差点をゾロゾロ通った。
ピポパポ ピポパポ
パッパー
ピッピー
蛇行運転しながら道に大きく広がって15台位だろうか。
特攻服みたいな趣味の悪い長い服を着ている奴等だ。
そのど真ん中に、岳人が木刀を持ってバイクに跨がっていて、僕は二度見した。
「∪。△。)おや?岳人ではないか!何やら楽しそうだのう!」
「ふふ……はは」
僕は思った。
見なかった事にしよう。
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