18 / 20
十六歳の誕生日
⑧
しおりを挟む
「なにか甘いものほしくないかい?ケーキとか……かき氷も美味しそうだよ」
慎がメニュー表を広げてみせた。この店は、バラエティー豊かなスイーツが揃っている。一番の人気の、丸いデニッシュ生地のケーキを慎が指差した。
「ほら、これでも頼もうか」
山盛りのクリームの頂上にはつやめいたサクランボが載っている。真由の目には、サクランボがふてぶてしく映った。こんなの、ただのサクランボじゃない。お洒落なお皿、香ばしい生地、純白のクリームで飾られて、まるでお姫様みたい。フォークでグチャグチャにかき回されれば見る影もなくなるのに。
“なんて可愛いの!まるでお姫様ね”
母の声が頭の中でこだまする。ドレス姿の五歳の真由に向かってこぼれる笑顔を向けた母。真由は、手もとのおしぼりを千切れんばかりに握りしめる。なぜ、今、あの人の顔なんか思い出してしまうのか。優しかった頃の母。
「真由……?気分でも悪いの?」
深いバリトンの声が耳に届く。慎が首をかしげ、柔らかい眼差しを向けていた。
ーーやっぱり、お父さんの声が好き。
真由は指の力をゆるめ、口の端を少し上げた。慎が安堵したように白い歯を見せる。まるで、俳優のようにハンサムな父の笑顔。
ーーでも、それだけじゃ、どうにもならない。
真由の表情はまたかたくなった。
慎がメニュー表を広げてみせた。この店は、バラエティー豊かなスイーツが揃っている。一番の人気の、丸いデニッシュ生地のケーキを慎が指差した。
「ほら、これでも頼もうか」
山盛りのクリームの頂上にはつやめいたサクランボが載っている。真由の目には、サクランボがふてぶてしく映った。こんなの、ただのサクランボじゃない。お洒落なお皿、香ばしい生地、純白のクリームで飾られて、まるでお姫様みたい。フォークでグチャグチャにかき回されれば見る影もなくなるのに。
“なんて可愛いの!まるでお姫様ね”
母の声が頭の中でこだまする。ドレス姿の五歳の真由に向かってこぼれる笑顔を向けた母。真由は、手もとのおしぼりを千切れんばかりに握りしめる。なぜ、今、あの人の顔なんか思い出してしまうのか。優しかった頃の母。
「真由……?気分でも悪いの?」
深いバリトンの声が耳に届く。慎が首をかしげ、柔らかい眼差しを向けていた。
ーーやっぱり、お父さんの声が好き。
真由は指の力をゆるめ、口の端を少し上げた。慎が安堵したように白い歯を見せる。まるで、俳優のようにハンサムな父の笑顔。
ーーでも、それだけじゃ、どうにもならない。
真由の表情はまたかたくなった。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
7
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる