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十六歳の誕生日

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「なにか甘いものほしくないかい?ケーキとか……かき氷も美味しそうだよ」

 慎がメニュー表を広げてみせた。この店は、バラエティー豊かなスイーツが揃っている。一番の人気の、丸いデニッシュ生地のケーキを慎が指差した。

「ほら、これでも頼もうか」

 山盛りのクリームの頂上にはつやめいたサクランボが載っている。真由の目には、サクランボがふてぶてしく映った。こんなの、ただのサクランボじゃない。お洒落なお皿、香ばしい生地、純白のクリームで飾られて、まるでお姫様みたい。フォークでグチャグチャにかき回されれば見る影もなくなるのに。

“なんて可愛いの!まるでお姫様ね”

 母の声が頭の中でこだまする。ドレス姿の五歳の真由に向かってこぼれる笑顔を向けた母。真由は、手もとのおしぼりを千切れんばかりに握りしめる。なぜ、今、あの人の顔なんか思い出してしまうのか。優しかった頃の母。

「真由……?気分でも悪いの?」

 深いバリトンの声が耳に届く。慎が首をかしげ、柔らかい眼差しを向けていた。

 ーーやっぱり、お父さんの声が好き。

 真由は指の力をゆるめ、口の端を少し上げた。慎が安堵したように白い歯を見せる。まるで、俳優のようにハンサムな父の笑顔。

ーーでも、それだけじゃ、どうにもならない。

 真由の表情はまたかたくなった。

 
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