上 下
12 / 20
十六歳の誕生日

しおりを挟む
「水波ーー!寝てるのかーー?」

 頭上で、少しくぐもった聞きおぼえのある声がした。

 寝てるのか、も何も。今日の最後の授業からホームルームが終わった今までずっとこの格好でいる。

 そんなことわざわざ聞かないでよね、と真由は狸寝入りを続行した。

 

「細井(こまい)、そいつに声をかけても無駄だぜ?いい加減諦めろよ」

 この声の主は米田(こめだ)。

 クラスメイトには「こめちゃん」と呼ばれているけれど、真由は彼の下の名前をいまだに覚えられない。

 

「えーーだって、こいつよく休むし、学校来たときに話さないと、次はいつになるかわからんじゃん」

 言い返したのは細井修二郎(こまいしゅうじろう)。

 細い、とも読める苗字なのに体形は真逆で、学年一の巨体を誇る男子だ。

 
 細井は、真由の頭上に向かい語りかける。

「頼むよーー水波ーー!バンドやるにはベースとドラムだけじゃ、足りないじゃん!」

 

 真由は、はあ、とため息を吐きたくなるのをこらえた。

 このクラスになってからというもの、彼は真由の顔を見るたびに同じ台詞を言う。

『なあ、バンドやろうぜ!絶対に楽しいから!』と。

 飽きもせずによくも毎回……と思う。

 米田は「こめちゃん」というニックネームのイメージどおり、小粒な感じの体型だ。クラスで一番小さな女子と並んでも米田の方が小さく、顔立ちも幼い。一部の女子からは「カワイイ、育てたい」と人気がある。そんな彼と巨体の細井はよくつるんでいるが、見た通りの凸凹コンビだ。

 
  
しおりを挟む

処理中です...