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壊れたきらきら星
⑩
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(あれは、本当に私のお母さんなの?悪い魔女が魔法をかけて、お母さんをあんな風にしてしまったの?)
真由は、母の変貌が信じられない。手を引いてその場から離そうとする先生に逆らって、両足を踏ん張った。
急に重くなった真由の体に気付き、先生が大きな声を出す。
「真由さん、こっちへ来て……!ここに居たらダメよ!」
「やだぁっ!」
渾身の力で先生の手を振り払い、両親のもとへと駆け出す。
悪い魔法にかけられた母を救わなければーー幼心にそう強く思ったのだ。
いつの間にか、三人の大人達の周りには人だかりができていて、両親の姿が見えない。
真由は、何度もジャンプして、中の様子を見ようとするが、ふと聴こえるメロディーに、振り返った。
「ーーキラキラ……星……」
ステージで、透太がピアノを弾いていた。
他の皆は、真理子の金切り声の迫力に注目して、彼の行動に気づいていない。
真由は、吸い寄せられるように、ステージの階段を登り、彼の後ろ姿へ向かって手を伸ばす。
その瞬間、母の叫びが真由の動きを止めた。
「真由ーー!アバズレの息子に近づくんじゃありませんーー!
この女の血を引いてる息子もねぇ、ろくなもんじゃないのよーー!」
(……さっきから何を言ってるの?とーた君のママとお父さんがネタ……とか……アバズレ……とか……全然わからないよ……
とーた君の何がいけないの?私はお母さんも、お父さんも、とーた君の事も大好きなのに……どうして……こんな事になってるの?)
透太は、演奏を止めなかった。
真由と一緒に弾いたキラキラ星なのに、何故だろう、もの悲しい響きに思えるのはーー
「とーた君……」
彼の背中に向かい、呼び掛ける。
いつもの優しい涼やかな笑顔で振りかえって、こう言ってくれる事を期待してーー
『大丈夫だよ、僕がいるから』
指を叩きつけるようにピアノを弾く彼は、真由の呼び掛けに反応しない。
もう一歩近づき、呼んでみる。
「とーた君」
何も聴こえていないかのように、彼は演奏に没頭している。
真由は、絶望感で立ち尽くす。
そこに見えない壁がそびえているのだろうかーーと疑いたくなった。
「とーた君……とーたくんっ……!」
身体中で叫んだその時、空間を切り裂くような高笑いが響いた。
涙でぼやけた真由の視界に、髪を振り乱し、大きな口を開けたまま動かない母と、憔悴しきった表情で母を抱き締める父と、そんなふたりを指差し、身体を折って笑う透太の母がよぎった。
キラキラ星のクライマックスのフレーズを奏でる透太の髪が揺れ、ライトに照らされ金色に輝いた刹那、真由の意識は途切れた。
あれから11年。
真由は16歳になった。
あの日の出来事を1日たりとも忘れた事はない。
いったいあれは何だったのか。
夢だったのだろうか。
いっそのこと、奇妙な白昼夢であって欲しいのに。
だが、指先に、そして耳の奥に刻まれたキラキラ星のメロディーが、これは現実なのだ、と真由に教えていたーー
真由は、母の変貌が信じられない。手を引いてその場から離そうとする先生に逆らって、両足を踏ん張った。
急に重くなった真由の体に気付き、先生が大きな声を出す。
「真由さん、こっちへ来て……!ここに居たらダメよ!」
「やだぁっ!」
渾身の力で先生の手を振り払い、両親のもとへと駆け出す。
悪い魔法にかけられた母を救わなければーー幼心にそう強く思ったのだ。
いつの間にか、三人の大人達の周りには人だかりができていて、両親の姿が見えない。
真由は、何度もジャンプして、中の様子を見ようとするが、ふと聴こえるメロディーに、振り返った。
「ーーキラキラ……星……」
ステージで、透太がピアノを弾いていた。
他の皆は、真理子の金切り声の迫力に注目して、彼の行動に気づいていない。
真由は、吸い寄せられるように、ステージの階段を登り、彼の後ろ姿へ向かって手を伸ばす。
その瞬間、母の叫びが真由の動きを止めた。
「真由ーー!アバズレの息子に近づくんじゃありませんーー!
この女の血を引いてる息子もねぇ、ろくなもんじゃないのよーー!」
(……さっきから何を言ってるの?とーた君のママとお父さんがネタ……とか……アバズレ……とか……全然わからないよ……
とーた君の何がいけないの?私はお母さんも、お父さんも、とーた君の事も大好きなのに……どうして……こんな事になってるの?)
透太は、演奏を止めなかった。
真由と一緒に弾いたキラキラ星なのに、何故だろう、もの悲しい響きに思えるのはーー
「とーた君……」
彼の背中に向かい、呼び掛ける。
いつもの優しい涼やかな笑顔で振りかえって、こう言ってくれる事を期待してーー
『大丈夫だよ、僕がいるから』
指を叩きつけるようにピアノを弾く彼は、真由の呼び掛けに反応しない。
もう一歩近づき、呼んでみる。
「とーた君」
何も聴こえていないかのように、彼は演奏に没頭している。
真由は、絶望感で立ち尽くす。
そこに見えない壁がそびえているのだろうかーーと疑いたくなった。
「とーた君……とーたくんっ……!」
身体中で叫んだその時、空間を切り裂くような高笑いが響いた。
涙でぼやけた真由の視界に、髪を振り乱し、大きな口を開けたまま動かない母と、憔悴しきった表情で母を抱き締める父と、そんなふたりを指差し、身体を折って笑う透太の母がよぎった。
キラキラ星のクライマックスのフレーズを奏でる透太の髪が揺れ、ライトに照らされ金色に輝いた刹那、真由の意識は途切れた。
あれから11年。
真由は16歳になった。
あの日の出来事を1日たりとも忘れた事はない。
いったいあれは何だったのか。
夢だったのだろうか。
いっそのこと、奇妙な白昼夢であって欲しいのに。
だが、指先に、そして耳の奥に刻まれたキラキラ星のメロディーが、これは現実なのだ、と真由に教えていたーー
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