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最初で最期の……②
しおりを挟む彼が私を見詰める目が一瞬強く輝いたが、何処からか青い風船がゆらゆらと飛んできて、二人の背中側にある木の枝に引っ掛かる。
私も彼も何となく風船の動きを目で追っていたら、小さな女の子が泣きながら走ってやって来て、風船を指差した。
彼は女の子に笑いかけて、小さく頷くと腕捲りをして、足踏みをしてから高くジャンプして風船の紐を掴んだ。
「はい……大事な物は手から離しちゃダメだよ」
泣きべそをかいていた女の子は、彼が風船を渡した途端に溢れんばかりの笑顔になり、何度も彼に手を振りながら母親の元へと走っていった。
彼は暫く女の子の姿を目で追っていたが、ふと小さく呟いた。
「風船ひとつであんなに嬉しそうな顔が出来るなんて、いいね」
「森本くん……?」
「菊野さん」
彼は振り向き、私の手を取った。
「はっ……はい」
その真剣な眼差しに思わず私は背筋を伸ばした。
彼は頬を膨らましプッと吹き出して私に寄り掛かるように抱き着いた。
吐息と、柔らかな髪が首筋に触れてこそばゆくて身を縮める私に、彼は小さい声で言った。
「貴女が泣くのを見たくない」
「――」
「酷い事をしたのに、虫がいいって思うけど……許して欲しい……」
「森本くん……?」
「もう、困らせないから……ひとつだけお願いしていいですか」
「……なあに?」
森本は、私の肩を掴んだまま身体を離して熱く見詰め、その綺麗なピンクの唇を動かした。
「一度だけ……恋人のキスをしてください」
「な……っ」
頬が一気に熱くなり、身体中の血が沸騰するかのように熱さを感じ、口までが回らなくなった。
「ななな……ど……どういっ……う……意味で……そそそ」
「どういう意味って……そのままの意味で取ってくれれば……」
「そのままてっ……こ、ここ恋人って!」
動揺して大きな声を出してしまう私の口を彼が掌で塞いだ。
信じられない事に、彼の頬には赤みが差している。
通り過ぎる親子連れがチラリと私達を見やり、カップルにはクスクスと笑われる。
彼は咳払いをして、俯き加減で怒ったように言う。
「あ――こっぱずかしい!!
こんな胸が焼ける台詞言ったの初めて……
ねえ……菊野さん、どうなの、キスしていいのっ?」
「い、いいのって……だって……森本くん……今まで散々無理矢理」
「うん……そうだけどさ。これはそれと別なの!」
「どこがどう別なのよっ……」
頬の火照りが鎮まらぬまま、私は彼を睨んだ。
彼は栗色の髪を長い指でクシャクシャに乱し、益々頬を染めて私を見て、顔を逸らす。
「……だからっ……要するに、菊野さんを抱くのは諦めてあげるから、その代わりに濃厚なキスをしたいって事ですよ!」
「のっ濃厚って」
「やらせてくれないなら、キス以上の事をやっちゃいますけど、いいですか?」
彼は振り向き私の肩を強引に抱くと、早足で歩きだす。
「ちょ……それはダメ!!ダメ!!」
「――なら、濃厚キスコースでいいですね」
「ま、待って」
「待ちません。言わせてもらいますけど、僕がここまで譲歩する事なんてレアですよ。
菊野さんは大人しく言うことを聞いて下さい」
「む……無茶苦茶……っ」
私は引きずられるように、人気のない芝生まで連れていかれた。
彼は羽織っていたGジャンを脱ぐと、下に敷いて私に
「ここに横になって」
と指示する。
「な……なんで」
「ここでキスするから」
「や……っ」
首を振る私に焦れたのか、彼が肩を掴み私を座らせ、私の目を鋭く見据えながらゆっくりと倒していく。
彼の肩越しには青空が見え、少し離れた所からジェットコースターの音と狂乱の悲鳴が聞こえてくる。
スカートから出ている脹ら脛に芝が触れてチクチクするが、彼に頬をそっと撫でられ、甘い震えに身体の感覚が支配される。
くるりとした彼の栗色の前髪が私の額に触れる程に彼は私に近付いて小さく囁いた。
「……お願いします……今だけ……何もかも忘れて……僕の恋人になって」
「……っ」
「菊野さん……菊野……」
「あっ……」
彼の唇が額に、頬に、顎に落とされ、くすぐったさと込み上げる寒気に身体が震える。
「貴女が好きだ……」
彼は、私の首筋にはらり、と舞い落ちた木の葉を指で掬い取ると、自分の唇を其処に押し当ててきた。
「……あっ……だめっ……やあ……っ」
「乱暴な事はしませんから……じっとして」
彼は、私の暴れる太股をスカートの上から軽く押さえると、唇を胸元に埋めた。
思わず身体が跳ねてしまう。
「あっ……な、何を」
「……言ったでしょう……キスですよ」
「な……っ……あっ」
彼は片手でブラウスの胸元のボタンを外し、膨らみに音を立てて口付けた。
「や……こんなのっ……ずるい……っ」
「すいません……今だけ……触れさせて」
「……森本く……っ……」
彼の指がブラの中へと入ってきて、突起を探し当て軽く摘まむ。
電流が身体じゅうに走り、彼の背中に爪を立てて啼いてしまった。
「あん……っ」
「……今日は……嫌がらないんですね……
この間みたいに……」
「……え……っ」
私はその言葉に驚き戸惑う。
そう、この間は怖くて、恐怖から過呼吸になってしまったのに。
彼は息を荒くしながら巧みに突起を押し潰したり指先で転がしながら、耳たぶを噛んだ。
「――っ」
「可愛い……可愛い……菊野……っ」
「森本く……だめえっ……そんなっ」
彼は、私の僅かな抵抗などものともせずに唇を耳朶から首筋に移動させ、指で乳房を揉みしだきながら囁いた。
「怖くないなら……よかった……」
「……っ」
涙がはらはらと溢れるが、それは恐怖の涙ではなかった。
身体が熱くて、甘く疼いてどうしようもなくて溜め息を漏らすと、彼の瞳がキラリと輝き、長い指がスカートの中へと入ってきた。
「――や……だ!こんなの……話が違うじゃない……ってああっ」
「ごめんね……菊野……可愛くてつい……」
「もう……っ謝ればいいってものじゃ……ああ――っ……」
彼の指がショーツの中へと入ってきて、いち早く敏感な蕾を探し当ててしまう。
私は必死に身体を捩り、彼を止めようと声をあげた。
「だめ……それはダメっ……っ
人が来ちゃう……んっ」
彼は素早く私の唇を塞ぎ、舌を侵入させる。
彼は、私が息苦しくならないように気を配りながら、時には優しく、かと思うと烈しく咥内を舌で蹂躙する。
そして、長い指が乳房と蕾を緩急を付けた動きで愛撫をし、一度に責められて私は正気を保っていられない。
悟志でもなく、愛する剛でもない少年にこんな事をされて感じているなど、自分が信じられなかった。
躊躇や嫌悪を感じる暇もない程に、彼の指と舌の動きは巧みに私を蕩けさせ、確実に絶頂へと導いていく。
風に揺れる木々のざわめきの音、遠くで聞こえる人々の笑い声――
そんな現実がすぐ其処にあると忘れてしまいそうになる程、私は彼に翻弄されて快感に溺れつつあった。
「菊野……綺麗だよ……凄く、可愛い……」
彼は囁きながら、胸の突起を口に含み舌で転がした。
「あ……ああ……あんっ!だめ、それはダメっ……」
彼のシャツを強く引っ張り甘く啼いてしまう。
誰かに聞こえたら、という躊躇いはもう消しとんでしまっていた。
「……菊野……僕が思いっきり気持ちよくするから……何も考えないで、夢中になって……」
彼は、長い睫毛に覆われた瞳を更に甘く潤ませて、せつなげに囁いて、唇にキスした。
触れるだけのキスを何度か繰り返していたが、次第に深く凌辱するものに変わっていき、私は目眩さえおぼえた。
気が付けば、彼の唇と舌の動きに付いていこうと自らも舌を絡ませていた。
そして彼の指は蕾の中を割って入り、中を広げながら掻き回す。
唇を貪り合いながら、彼の指に与えられる快感に夢中になり、無意識に腰を振っている自分がいた。
閉じた瞼の裏に白い靄がかかり光が見えてくる。
もう、私は限界が近付いている。
「ん……ん、ん……!ん――!」
彼の唇を塞がれていて言葉にならないが、私は確かに『もう……いっちゃう』と叫んでいた。
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