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答えはないのに
④
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「お久しぶりです!」
「相変わらずお綺麗で何よりです!」
庶務課の芽衣と、第二業務課の伊藤が、競うように挨拶してくる。
「お二人さん、相変わらずラブラブなのかしら?」
「ぜーんぜんですよ!伊藤君たら、浮気しやがったんですよっ?」
「だから、悪かったって謝っただろ?」
伊藤は、苦虫を噛み潰すように顔を歪め肩身が狭そうに背を丸めた。
「このバカップルは事件を乗り越えたらしいです……はあ――のろけるんじゃないわよ全く……いただきます!」
カナは芽衣たちを憎々しげに一瞥してから、マカロンを頬張り顔を綻ばせた。
「芽衣ちゃんも結婚は近いのかしら?」
ほなみが冷やかすと、伊藤は照れて頭を掻く。
「わかりません!」
芽衣がバッサリ言う。
伊藤がずっこけた。
「そういえば!村田君と陽子、結婚したんですよ!」
「そうなの?」
「今、新婚旅行中なんですよ」
「いいなーー新婚旅行でカナダ……憧れ……はあああ」
カナは、二個目のマカロンを味わいながら遠い目をする。
「村田君てね、仁科さんの事が好きだったんですよ」
芽衣がひそひそ声で言うと、カナ慌ててその口を塞いだ。
「それは言っちゃダメだって!」
「ふぇえ?ほーなの?」
村田は違う課の、三歳下の明るい後輩で、一度だけ誘われて食事をした事がある。
「ええ~もう時効じゃないですか?村田君もめでたく結婚して、仁科さんだって智也さんと仲睦まじいご夫婦だし」
芽衣がカナの手を振り払った。二人は睨み合い、ソファーの上で取っ組みあいを始める。ほなみが止めようとすると、伊藤がボソリと話し始めた。
「智也さん、優しいですか?」
「え?」
「黙ってようかと思ったんですけど……気を付けた方がいいかもです」
「?」
「仁科さんを、気に入ってた男共が何人か居たんですよ。いや、実は僕も……」
伊藤は少し赤くなり口ごもる。ほなみがじっと見つめると、咳払いをして話を続けた。
「智也さんは、常にその辺に目を光らせていました。仁科さんに近づいた奴には、必ず後で何かやったんです」
「やった……て?」
「まるで壁に目や耳が付いてるみたいに、仁科さんが誰と何処に出掛けたかとか、誰に誘われたとか、把握していたらしいんです。
村田は後日、智也さんに飲みに誘われて行ったらしいんですけど……その場でかなり恐ろしい思いをしたみたいです」
「……恐ろしい思い?」
一度だけ村田と出掛けたことがあったが、その後彼が元気が無くなり、避けられるようになったような記憶がある。
「奴は何があったのか言わなかったですけど……智也さんは社長の息子だし、自分が何か訴えても取り合ってもらえない、とでも思ったんじゃないでしょうかね」
ほなみの血の気の引いた顔を見て、伊藤が慌てて明るい声を出した。
「まあ~、それだけ惚れ抜いてるって事ですよ!でも今、あるじゃないですか。夫が妻をストーキングするとかね?何かあったら相談して下さ……ぐぼっ!」
伊藤が、突然腹を押さえて崩れ落ちる。
芽衣の足蹴りが腹にヒットしたのだ。
「どさくさに紛れて人妻を口説いてんじゃないわよ――!こんのエロ男!」
「め……いちゃ……ぐげぼっ!」
芽衣は立ち上がりかけた伊藤に頭突きをかました。
「あんたは一回死ななきゃわからないのかしら――?」
芽衣は伊藤を締め上げ、彼が絶叫する。
「お二人さんてば――!頼むから、社内で壮大な痴話喧嘩は遠慮してよ――っ!三面記事に載っちゃうわよ!
外でやって!外で!……ああでも外でやられても困るわ!
そうだ!甘いものでも食べて落ち着いて!ほらっ!
仁科さんが持ってきてくれた美味しいマカロンだわよっ!」
カナは二人の口に無理矢理マカロンを詰め込んだ。
「相変わらずお綺麗で何よりです!」
庶務課の芽衣と、第二業務課の伊藤が、競うように挨拶してくる。
「お二人さん、相変わらずラブラブなのかしら?」
「ぜーんぜんですよ!伊藤君たら、浮気しやがったんですよっ?」
「だから、悪かったって謝っただろ?」
伊藤は、苦虫を噛み潰すように顔を歪め肩身が狭そうに背を丸めた。
「このバカップルは事件を乗り越えたらしいです……はあ――のろけるんじゃないわよ全く……いただきます!」
カナは芽衣たちを憎々しげに一瞥してから、マカロンを頬張り顔を綻ばせた。
「芽衣ちゃんも結婚は近いのかしら?」
ほなみが冷やかすと、伊藤は照れて頭を掻く。
「わかりません!」
芽衣がバッサリ言う。
伊藤がずっこけた。
「そういえば!村田君と陽子、結婚したんですよ!」
「そうなの?」
「今、新婚旅行中なんですよ」
「いいなーー新婚旅行でカナダ……憧れ……はあああ」
カナは、二個目のマカロンを味わいながら遠い目をする。
「村田君てね、仁科さんの事が好きだったんですよ」
芽衣がひそひそ声で言うと、カナ慌ててその口を塞いだ。
「それは言っちゃダメだって!」
「ふぇえ?ほーなの?」
村田は違う課の、三歳下の明るい後輩で、一度だけ誘われて食事をした事がある。
「ええ~もう時効じゃないですか?村田君もめでたく結婚して、仁科さんだって智也さんと仲睦まじいご夫婦だし」
芽衣がカナの手を振り払った。二人は睨み合い、ソファーの上で取っ組みあいを始める。ほなみが止めようとすると、伊藤がボソリと話し始めた。
「智也さん、優しいですか?」
「え?」
「黙ってようかと思ったんですけど……気を付けた方がいいかもです」
「?」
「仁科さんを、気に入ってた男共が何人か居たんですよ。いや、実は僕も……」
伊藤は少し赤くなり口ごもる。ほなみがじっと見つめると、咳払いをして話を続けた。
「智也さんは、常にその辺に目を光らせていました。仁科さんに近づいた奴には、必ず後で何かやったんです」
「やった……て?」
「まるで壁に目や耳が付いてるみたいに、仁科さんが誰と何処に出掛けたかとか、誰に誘われたとか、把握していたらしいんです。
村田は後日、智也さんに飲みに誘われて行ったらしいんですけど……その場でかなり恐ろしい思いをしたみたいです」
「……恐ろしい思い?」
一度だけ村田と出掛けたことがあったが、その後彼が元気が無くなり、避けられるようになったような記憶がある。
「奴は何があったのか言わなかったですけど……智也さんは社長の息子だし、自分が何か訴えても取り合ってもらえない、とでも思ったんじゃないでしょうかね」
ほなみの血の気の引いた顔を見て、伊藤が慌てて明るい声を出した。
「まあ~、それだけ惚れ抜いてるって事ですよ!でも今、あるじゃないですか。夫が妻をストーキングするとかね?何かあったら相談して下さ……ぐぼっ!」
伊藤が、突然腹を押さえて崩れ落ちる。
芽衣の足蹴りが腹にヒットしたのだ。
「どさくさに紛れて人妻を口説いてんじゃないわよ――!こんのエロ男!」
「め……いちゃ……ぐげぼっ!」
芽衣は立ち上がりかけた伊藤に頭突きをかました。
「あんたは一回死ななきゃわからないのかしら――?」
芽衣は伊藤を締め上げ、彼が絶叫する。
「お二人さんてば――!頼むから、社内で壮大な痴話喧嘩は遠慮してよ――っ!三面記事に載っちゃうわよ!
外でやって!外で!……ああでも外でやられても困るわ!
そうだ!甘いものでも食べて落ち着いて!ほらっ!
仁科さんが持ってきてくれた美味しいマカロンだわよっ!」
カナは二人の口に無理矢理マカロンを詰め込んだ。
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