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決心
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決心したものの、ふとした瞬間に胸が痛むのは、今まで一緒に過ごしてきた智也への情なのか。
物思いに耽るほなみの肩を、智也が素早く抱き顎をつかみ、唇を重ねた。
その一瞬の出来事を目撃したあぐりは、顎が外れそうな程に大きな口を開けた。
ほなみは強く抱き締められながら通行人たちの好奇の視線を感じ、苦笑いする。
「気をつけて、行ってくるんだぞ」
「大丈夫……だよ」
「東京でナンパされてもついて行くなよ」
「えっ……」
智也がこんな事を言うのは、初めてだった。
あぐりが横から口を挟む。
「そうならない為に私が一緒に行くんだから大丈夫――!それに仕事で行くんだからさ!
あああ、それにしても忙しくなりそうね!期間限定とは言え、クレッシェンドのサポートするわけだし責任重大よ!
私もほなみのお手伝い頑張るからねっ!……ナンパなんかされてる暇は残念ながらないわよっ!要らん心配ばかりしてると抜け毛が増えるわよ――っ?あんた、二十代で植毛するつもり?」
「……馬鹿言え」
智也はあぐりに一言返すと、妻をそっと離し、荷物を手にエスカレーターに乗り込み上から手を振った。
ほなみも、笑顔で手を振り返す。
智也の姿が見えなくなった所で、あぐりは大きな溜め息を吐き、ほなみを軽く睨んだ。
「――で?一体全体、どういう事なのよっ!」
ほなみは、気の置けない女友達が肩を竦めるのを見て「ごめんね……」と小さく頭を下げる。
あぐりは諦めたような、呆れたような表情を浮かべ、念入りに綺麗に手入れされた指先でこめかみを押さえた。
「はあ……私もとことん、あんたに甘いわよね~
……あの夜、電話が来てびっくりしたわよ。智也が寝た隙にあんたが電話してきていきなり
『一緒に東京へ行って!』……てさあ。
あの短い時間で、あんたの説明を理解して、智也へのマストな対応方法を考えたんだからねっ!親友の為にここまでする女は、世界じゅう何処を探しても、吉岡あぐり様しかいないからねっ?感謝しなさいよ!
それと!ライブの日、西君と何があったのか、ちゃーんと話しなさいよねっ!今日は何か奢りなさいっ!」
「……ねえ……」
ほなみは、マシンガンの如く喋るあぐりを他所に、何処か遠くを見つめる。
「んっ?」
「私、ちゃんと演じてた?」
「えっ?」
あぐりがキョトンとした。
ほなみは、何かを振り切る様に、結わえていた髪を解くと外へ向かって歩き出した。
「待って……何処へ行くの?」
追いかけて来るあぐりにほなみは朗らかに笑った。
その笑顔は光り輝いている。
「……callingで、魔法のマカロンを御馳走してあげる!」
**
新幹線に揺られながら、智也はある人物に、メールを打っていた。
『至急の案件がある。ライブハウス「calling」の社長、浜田敏正と、ロックバンド
「クレッシェンド」のメンバーについて。
素行を調べて欲しい』
送信ボタンを押して、窓の流れる景色を眺める。
その瞳には鈍い色が宿っていた。
決心したものの、ふとした瞬間に胸が痛むのは、今まで一緒に過ごしてきた智也への情なのか。
物思いに耽るほなみの肩を、智也が素早く抱き顎をつかみ、唇を重ねた。
その一瞬の出来事を目撃したあぐりは、顎が外れそうな程に大きな口を開けた。
ほなみは強く抱き締められながら通行人たちの好奇の視線を感じ、苦笑いする。
「気をつけて、行ってくるんだぞ」
「大丈夫……だよ」
「東京でナンパされてもついて行くなよ」
「えっ……」
智也がこんな事を言うのは、初めてだった。
あぐりが横から口を挟む。
「そうならない為に私が一緒に行くんだから大丈夫――!それに仕事で行くんだからさ!
あああ、それにしても忙しくなりそうね!期間限定とは言え、クレッシェンドのサポートするわけだし責任重大よ!
私もほなみのお手伝い頑張るからねっ!……ナンパなんかされてる暇は残念ながらないわよっ!要らん心配ばかりしてると抜け毛が増えるわよ――っ?あんた、二十代で植毛するつもり?」
「……馬鹿言え」
智也はあぐりに一言返すと、妻をそっと離し、荷物を手にエスカレーターに乗り込み上から手を振った。
ほなみも、笑顔で手を振り返す。
智也の姿が見えなくなった所で、あぐりは大きな溜め息を吐き、ほなみを軽く睨んだ。
「――で?一体全体、どういう事なのよっ!」
ほなみは、気の置けない女友達が肩を竦めるのを見て「ごめんね……」と小さく頭を下げる。
あぐりは諦めたような、呆れたような表情を浮かべ、念入りに綺麗に手入れされた指先でこめかみを押さえた。
「はあ……私もとことん、あんたに甘いわよね~
……あの夜、電話が来てびっくりしたわよ。智也が寝た隙にあんたが電話してきていきなり
『一緒に東京へ行って!』……てさあ。
あの短い時間で、あんたの説明を理解して、智也へのマストな対応方法を考えたんだからねっ!親友の為にここまでする女は、世界じゅう何処を探しても、吉岡あぐり様しかいないからねっ?感謝しなさいよ!
それと!ライブの日、西君と何があったのか、ちゃーんと話しなさいよねっ!今日は何か奢りなさいっ!」
「……ねえ……」
ほなみは、マシンガンの如く喋るあぐりを他所に、何処か遠くを見つめる。
「んっ?」
「私、ちゃんと演じてた?」
「えっ?」
あぐりがキョトンとした。
ほなみは、何かを振り切る様に、結わえていた髪を解くと外へ向かって歩き出した。
「待って……何処へ行くの?」
追いかけて来るあぐりにほなみは朗らかに笑った。
その笑顔は光り輝いている。
「……callingで、魔法のマカロンを御馳走してあげる!」
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新幹線に揺られながら、智也はある人物に、メールを打っていた。
『至急の案件がある。ライブハウス「calling」の社長、浜田敏正と、ロックバンド
「クレッシェンド」のメンバーについて。
素行を調べて欲しい』
送信ボタンを押して、窓の流れる景色を眺める。
その瞳には鈍い色が宿っていた。
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