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背中にささやく「すき」

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 その後何日間かにわたって、ほなみは部屋の大掃除に明け暮れた。
 キッチンやベランダ周り、クローゼットの中なども総点検し、何年間か着ていない服、使っていない物は迷い無く処分した。
 テレビも見ず、パソコンも開かず、携帯の電源も切った。
 朝起きて片付けをし、お腹が空いたらキッチンにある物を食べ、また片付けをして眠くなったら眠る。その繰り返しだった。
 没頭していると、余計な事を考えずに済んだ。
 しかし、いつまでもそんな事ばかりしている訳にはいかない。キッチンの食品がとうとう底をついた。

 ――何か買いに出かけなければ。

 ほなみは深く溜め息をつく。何日か振りにテレビを点け携帯の電源を入れたが、途端に着信音が引っ切りなしに鳴り出した。
 メール着信が50件以上もあって、ほなみはおののいた。
 殆どあぐりからだ。
 履歴を確認していると間髪入れずに電話が鳴った。

「……はい」
「あ――っ!やっと電話繋がったわね!心配したわよ――っ!パソコンにもメールしたのよ!?一体全体、どうしたのよ!?」


 ぎゃんぎゃん高い声で喚かれ耳が痛い。

「ごめんね、体調が悪くって寝込んでて……」
「そうなの?もう良くなったの?
 智也が、あんたにパソコンでメールしたけど返事がないって、連絡してきたのよ?」

 ドクンと心臓が重く鳴り、携帯を持つ手が微かに震えた。

「……智也が?」
「そうよ!心配してたわよ?
『来週、何日間か日本に帰るからほなみに連絡してくれ』って言ってた」

 思わず椅子にへたり込んだ。

 ――帰ってくる。智也が――

 何の感情も湧いてこない自分にショックを受けていた。
 その時、テレビから聞こえたワイドショーのコメンテーターの声に、ほなみの全神経が集中する。

『人気ピアノロックバンド"クレッシェンド"のボーカル西本祐樹さんが、右手の負傷の為3月14日に予定していた日本武道館ライヴを延期するというニュースが入ってきました』

 ほなみの目は、テレビに釘付けになった。

 ――右手を怪我?

 数日前、ここで別れた時の事を思い起こし、思わず叫びそうになる。

「どうしたの?」

 あぐりが怪訝な声で聞いてきた。

(私のせいだ……私のせいで西君が……)

 頭の中でそんな思いが渦巻く。

「……ううん……何でもない」

 震えてしまう声に気づかれないよう、ほなみは努めて平静を装った。



 
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