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不思議な疼き

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「おやおや、ほなみちゃん、こんにちは!今日はお友達も一緒なの?」

 開場30分前にライヴハウス"calling"に行き整理番号順に並んでいると、いつもこの前を通り掛かる時にあいさつする浜田が、ほなみを見つけ声をかけた。
 ほなみはぺこりと頭を下げる。

「こんにちは……今日はライヴを見に来ました」

 浜田はうれしそうに、隣のあぐりを見て笑う。

「いや――美人の友達はやっぱり美人さんだねえ。
 こんな美女たちが来たら、メンバーが喜ぶこと間違いなしだよ!」
「そんなぁ~とんでもないですぅ~!」

 あぐりは、ぱあっと笑顔になり、首をかしげ、上目遣いで浜田を見つめる。
 それはまるで、好みの男を見つけた時のスイッチが入った表情に見え、ほなみは焦った。


「ちょっと!」
「何よ?」
「浜田さんにまで媚びを売ってどうするのよ!」
「失礼ね!そんなんじゃないってば!あんたのご近所様だし、いつもお世話になってますねってあいさつしようとしてるだけよ!」

 ふたりの会話が丸聞こえで、浜田に豪快に笑われる。
 すると、若い男性のスタッフが奥からやって来た。

「社長!お電話です」
「……はいは~い」

 社長、と呼ばれた浜田はスタッフににこやかにうなずく。

「じゃあ今日は楽しんで。よかったらライヴ後に上のカフェで打ち上げをするから、ほなみちゃん達もおいで。」

 浜田はそう言ってライブハウスの中へと入って行った。


「あのオッサンが社長!?」

 あぐりが口をぽかんと開けてつぶやき、ほなみも驚いて絶句した。
 大きな通りに面したcallingの周囲には、客が続々と集まって来る。
 日が暮れてきて空気も冷たい。だが、寒さに反比例するように、今夜への期待から生まれる熱気が人々から立ちのぼっている。
 ふたりはおしゃべりしながら開場を待つ。それもライヴの楽しみのひとつだ。

「ねえ、今日のチケットはどうやって取れたの?」
「チケットの神様が私に譲ってくれたのよ。ふふふ」

 あぐりはいたずらっぽくほほ笑んだ。彼女はいつも人気のチケットでも抽選を外した事がない。



 ロックからポップスまで、幅広いジャンルの音楽をあぐりは知っている。

「音楽を聴くのは一人でも楽しいけれど、ライヴってさ、家を出発してから帰るまでがライヴでしょ?どうせなら丸一日ドーンと楽しみたいの!始まる前の女子トークだってあるし、終わってからは感想を話し合いながらご飯食べたりとか……
 ひとりより、ふたりの方が断然楽しいわよね?それに、そういうのは仲良しのあんたとしたいのよ!」と、ライヴがある度に誘ってくる。

 ほなみは音楽は好きだが、特定の好きなミュージシャンはいない。
 だから、あぐりに誘われるのは全く自分が知らない名前のミュージシャンのライヴである事も珍しくはなかった。





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