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音符に乗って、君をさらいに行く
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なんだかんだ言って、好きなことをさせてもらっているのだから文句は言えない、と思う。
あぐりには「あんたはゼータクなの!」とバッサリ言われて終わりだ。
今日は‘’プロポーズ記念日‘’だが智也は帰ってこないし、連絡もない。
24歳で結婚してから4年目の今日も、こんな風に過ぎようとしていた。
ほなみはブラインドを開けてまぶしさに目を細める。
(いいお天気だし散歩でもして来ようかな)
何となくつけていたテレビを消そうとリモコンを手に取ったその時、弾むようなリズムの歌が流れ、画面にくぎ付けになる。
――どこの景色なんだろう。
美しい夕焼けが映り込む湖畔で白のグランドピアノを立って弾いている男の子から目が離せない。
時に身を屈め、鍵盤に指をたき付けるように曲を奏で歌っている……年齢は、多分20代なのだろうけれど「男の子」に見える。
ドラム、ベース、ギターの人たちも居るが、ピアノが一番目立つ。
キラキラした笑顔を振りまきながら伸びやかにリズミカルに唄っている。
"君は 旋律(恋)を奏でた
君は旋律(恋)を撒いた
乾いた 砂に 染み込むように もっと もっと もっと欲しいよっ て
泣いているようだよ"
画面の字幕の歌詞が、メロディーと共に頭の中へガンガン入り込んでくる。
寒気を覚え思わず腕を組んだ時、自分の肌が総毛立っていた。
最後に男の子がこちらに向かって手を伸ばしてアップになったかと思うと突然画面が切り替わり、CDのジャケットと"クレッシェンド 3rd アルバム「 be a star」"という文字が映った。
既にテレビ画面には女優が草原でビールをおいしそうに一気飲みするCMが流れていたが、リモコンを持ったまま、ぼうっと立ちすくんでいた。
再び先程のCMが映るような事はなく、苛立ちともどかしさが混じったようなため息を吐く。
今のは誰?
今のは何?
「……クレッシェンド……」
そうだ。インターネットで調べれば情報はある。なぜすぐ思いつかなかったんだろう。
慌ててパソコンを開いた時インターホンが鳴る。
「ひゃっ!!」
驚き胸を押さえると、いつも意識していない心臓の動きが今、良くわかる。
一体いつからこんな風になっていたのか。
あのバンドの音を聴いたから?あの声を聴いたから?
心中ではパニックだったが、インターホンにつとめて冷静な声で返事をした。
「はい。岸でございます。」
5秒位の沈黙の後、向こうで爆笑している女の声がして、ほなみは耳を押さえ顔をしかめた。
「……その声は、あぐりね?」
「ひっ……何十回聴いてもおかしい……"岸でございます"て……あんた、普段の声と、ぜんっぜん違うんだもの……」
あぐりはまだ笑い続けている。
ほなみは、やれやれと苦笑し、ロック解除した。
あぐりには「あんたはゼータクなの!」とバッサリ言われて終わりだ。
今日は‘’プロポーズ記念日‘’だが智也は帰ってこないし、連絡もない。
24歳で結婚してから4年目の今日も、こんな風に過ぎようとしていた。
ほなみはブラインドを開けてまぶしさに目を細める。
(いいお天気だし散歩でもして来ようかな)
何となくつけていたテレビを消そうとリモコンを手に取ったその時、弾むようなリズムの歌が流れ、画面にくぎ付けになる。
――どこの景色なんだろう。
美しい夕焼けが映り込む湖畔で白のグランドピアノを立って弾いている男の子から目が離せない。
時に身を屈め、鍵盤に指をたき付けるように曲を奏で歌っている……年齢は、多分20代なのだろうけれど「男の子」に見える。
ドラム、ベース、ギターの人たちも居るが、ピアノが一番目立つ。
キラキラした笑顔を振りまきながら伸びやかにリズミカルに唄っている。
"君は 旋律(恋)を奏でた
君は旋律(恋)を撒いた
乾いた 砂に 染み込むように もっと もっと もっと欲しいよっ て
泣いているようだよ"
画面の字幕の歌詞が、メロディーと共に頭の中へガンガン入り込んでくる。
寒気を覚え思わず腕を組んだ時、自分の肌が総毛立っていた。
最後に男の子がこちらに向かって手を伸ばしてアップになったかと思うと突然画面が切り替わり、CDのジャケットと"クレッシェンド 3rd アルバム「 be a star」"という文字が映った。
既にテレビ画面には女優が草原でビールをおいしそうに一気飲みするCMが流れていたが、リモコンを持ったまま、ぼうっと立ちすくんでいた。
再び先程のCMが映るような事はなく、苛立ちともどかしさが混じったようなため息を吐く。
今のは誰?
今のは何?
「……クレッシェンド……」
そうだ。インターネットで調べれば情報はある。なぜすぐ思いつかなかったんだろう。
慌ててパソコンを開いた時インターホンが鳴る。
「ひゃっ!!」
驚き胸を押さえると、いつも意識していない心臓の動きが今、良くわかる。
一体いつからこんな風になっていたのか。
あのバンドの音を聴いたから?あの声を聴いたから?
心中ではパニックだったが、インターホンにつとめて冷静な声で返事をした。
「はい。岸でございます。」
5秒位の沈黙の後、向こうで爆笑している女の声がして、ほなみは耳を押さえ顔をしかめた。
「……その声は、あぐりね?」
「ひっ……何十回聴いてもおかしい……"岸でございます"て……あんた、普段の声と、ぜんっぜん違うんだもの……」
あぐりはまだ笑い続けている。
ほなみは、やれやれと苦笑し、ロック解除した。
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