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女帝との対面

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 愛人、という言葉の意味が直ぐに頭に入らず目を丸くして唖然とする堺の頬を、小百合は軽く引っ張った。



「そんなにビックリしたお顔をなさらなくても……知ってるでしょう?愛人っていう言葉」

「はっは……はいっ……わ、分かりますけど……でもその愛人と僕が何ですって?」



 まだ話が繋がらない堺は、頬を引っ張られたり指で弾かれたりされながら、彼女を見上げるしかない。

 小百合は眉を下げて軽く首を傾げた。



「貴方に、しのの愛人になって貰いたいの」

「僕が……しのちゃんの……って……ええええっ?」

「しのはね、表面はしっかりした子だけど……とても脆い心を隠してるのよ」

「は……はい……ひえええええっ!」



 堺は小百合に腕を引っ張られ身体を起こし正座するが、痺れの切れた足には拷問の様な仕打ちだった。またしても奇妙な叫び声をあげてしまう。






「あらあら……大丈夫?」

「ら……らいろうふれふ……っへっ……」


 堺は、痺れが切れた上に、また脹ら脛がこむら返りを起こし、激痛にまともな返事が出来ない。小百合はヒクヒク震える堺をよそに、リビングのテレビボードの上にあったメモ紙を一枚ちぎると、薔薇の柄の入った高価そうな万年筆で何かを書き始めた。



「このマンションに貴方が入っていく所を万が一記者に見られていると不味いし……貴方達の住む部屋を別に用意するわね」

「――っ?」

「貴方には一年間、しのの愛人になってもらいます。その間は何よりもしのの事を最優先して頂くわ」

「っ??」

「お仕事もしてくれて構わないのだけど……優先順位はしのの事よ。貴方の上司の芝原さんとポキノンの社長さんには話を通して置きますから」

「……?」



 小百合はメモを呆然とする堺の手に握らせ、艶やかに笑った。




「私の携帯番号とLINEのIDよ。また連絡します」





「あっあの……っ」

「まだ呑み込めない?……しのの愛人になって下さらないかしら、というのはお願いでなく命令よ」



 小百合は堺のパジャマの前を掴み引き寄せ、鋭い眼光で彼を射抜いた。



「め……命令ってそんな」



 唖然とする堺は開いた口が塞がらない。



「しのはね、強く見えても脆い子だって言ったでしょ?」

「そ……それはわかるような気がしますけど……だからって何故そんな」

「あの子を支えるのよ、貴方が」

「……?」

「しのは、強気なリーダーを演じているけど……あまりにもその演技が達者すぎて……一部のファンからは憎まれているの……それが心配なのよ」


 堺はフェスでの出来事を思い出す。ステージに向かって熱狂の声をあげる沢山の客達の中に、異質な物が存在していた。しのに向かって「飛び込め」と煽っておいて、飛び降りたしのを受け止めようとしなかった。明らかに、彼女に悪意を持っている者達が居るのだ。

 嫌われている、ではなく「憎まれている」と小百合は言ったが、確かにあの行為には憎しみが感じられる。



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