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身体が先か、恋が先か?

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「お仕置きって……なにを……するの……?」

「な、何って――」



 しのは純粋な疑問を口にしたのだが、堺は狼狽える。どちらかと言うと――いや間違いなくしのに押され気味なのが悔しくて、年上の男として少しは優位に立ちたいがために出た言葉だったのだろうか? 

 いや、堺にとっては決死の覚悟の口説き文句のつもりだった。言われたしのは頬をピンクに染め、恥じらいながら言葉だけの抵抗をして、堺はそんな彼女を優しく宥めながら抱くつもりだったのだが――

 しのは澄みわたった大きな瞳を堺にまっすぐ向け、言った。





「つまり……最後までするっていう事が……お仕置きだって言いたかったの?」

「そ、そそそそうなんだよ!」

「堺さんて……バカね」

「ええっ?」




 溜め息混じりに言われ、堺はガーンと衝撃を受ける。





「……大バカよ」

「えっえええっ!」



 溜め息を吐きながらまた大バカと呼ばれ、堺はハンマーで殴られた様にショックを受ける――が、しのの柔らかい唇が彼の口を塞ぎ、沸き上がろうとしていた劣等感は消し飛び、狂おしい恋情と劣情で頭も身体も一杯になってしまった。

 しのは短いキスを何回か繰り返し、唇を離すと彼の目を見詰め小さく言った。



「乱暴でもいいから……て……私は……言ったわ」

「……っ」

「好きなようにしてって……言ったわ……っ」

「し……しの……」



 しのは、きゅっと唇を結ぶと、腰を浮かしながら彼の猛りに自ら秘部を宛がった。



「このまま……お願い――」

「――うあっ!」



 僅かに触れた刺激で堺は烈しく反応してしまい、思わずしのの腰を強く掴み、自分の腰を一気に沈めた。






「……っ!」



 突然身体の中心の一番柔らかい場所へと熱く硬い楔を打ち込まれたしのは、経験したことのない裂かれそうな痛みに叫んだのだが、同時に堺にキスで唇を塞がれ、言葉にならない呻きが僅かに漏れる。

 しのの腰をしっかりと掴み、結合したままで堺は貪るようにしのの唇と咥内を犯しながら必死に堪えていた――腰を動かすのを。

 挿れた瞬間、彼女の大きく開かれた目と開かれた口、色を失った頬を見て、強烈な後悔が押し寄せた。
 
 やはり、踏みとどまるべきだった。女の初めての痛みは永遠に男には理解出来ない。それがどんなに苦痛なのか、代わってやる事も出来ない。
 
 乱暴でもいい、と彼女は言ったが、それを良いことに欲を晴らそうとする自分は最低だ――

 


 『最低よ!貴方は!』



 突如、遠い記憶の断片が堺の胸に鋭く突き刺さり、その痛みに顔を歪めた。
 
 甦る色彩と音が、彼を過去に引き戻す――あの日、打たれた頬の熱さ、虚しく流した涙、目の前で泣き崩れる人の震える肩――



(そうだ……僕は……最低な人間だ……)








 フワリ、と頬に柔らかい感触。

 気付けば、しのが痛みを堪えているのだろう――額に汗をうっすらと滲ませながら笑顔を堺に向けていた。光が溢れるような微笑みに、堺の胸にあった抉られるような苦しさがスッと引いていく。



「泣いてるの……?」

「――?」




 堺は、その時初めて涙が自分の頬を濡らしているのに気付いた。

 拭き取るようにゆっくりと彼の頬をしのの指がゆっくりとなぞって首筋で止まる。



「何か……悲しいの?」

「しの……っ」



 痛いのはしのの方ではないのか。初めて男に身体を開かれ引き裂かれ、涙を流したいのはしのの方ではないのか――?

 堺は込み上げるいとおしさをぶつける様に、彼女をきつく抱き締めた。
 






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