11 / 57
混・乱・事変
2
しおりを挟む
「――っ!」
額に冷たく濡れた感覚――というよりも痛い。かなり暴力的な刺激で堺は夢から目覚めた。
身体を起こすとジャラ、という音と共に氷の入ったポリ袋が膝の上に落ちた。
「あら、お目覚め?」
ペコが体温計を手に簡易ベッドの傍らに立っていて、堺は思わず「きゃ――」と叫び毛布を頭まで被った。
「失礼しちゃうわねええ!暑さで倒れた部下を見舞ってる心優しいペコ様をまるでお化けを見たみたいに――っ」
「ひいっ!あ、ありがとうございます――っすいません――っ」
毛布をひっぺがそうとするペコに、堺は情けない声で言った。
「はいはいはい、なんか真っ赤な顔をして唸ってたから熱があるのかしらって心配したけど、それだけ喚く元気があるなら大丈夫ねっ」
「びえええ」
ペコは思いきり堺の背中を叩き、堺は悲鳴をあげる。
堺が使っているベッドの隣にもうひとつ簡易ベッドがあり、回りは白い壁。壁と言うか、ここはテントらしい。
ペコと堺の他にも三人ほどのスタッフらしき男性がいて、小さなテレビモニターの画面を見ながら人気バンド『black』の曲を口ずさんでいた。
堺は、先程まで見ていた生々しい夢の光景が過り、ペコに言われた言葉に今更恥ずかしくなってくる。
――赤い顔をして唸っていただって?つまり、夢の中であの子と、美佳原しのと、セッ……セ……セセセ……
まずい……まずいような気がする……いや、本当にまずいぞ。仕事中に初対面のあの子で妄想をして、夢の中とはいえあんな……っ――
しのの甘い声と白い裸体を思い出して、堺は頬と身体が火照る。
ハッとして、堺は毛布で隠しながらズボンの中を捲って中の状態を確認して、安心したようにため息を吐いて脱力する。
(よ……よかった……出しちゃってはなかった……あの子の夢を勝手に見て勝手にエッチなことをした上に……実際にむ……むむ夢精なんてした日にはもう……犯罪者じゃないか……っ……
あっ!で、でででも、キキキキキキ……)
唇と唇が触れあったのを思い出し、堺は指で思わずそこに触れて真っ赤になった。
「ききききききききっ」
ベッドの上でモゾモゾしていたかと思うと髪をかきむしり意味不明な奇声を発する堺をペコは不審な目で見ていたが、咳払いをひとつすると、籠盛りの果物と紙袋を持ってきてベッドの脇へ置き、命令口調で言った。
「今からJWEの社長のお宅までこれ持ってきて行ってきてちょうだい」
堺は目を点にして、間抜けな声で訊ねた。
「じぇーだぶりゅー……いー?」
「ピンと来ないのも無理はないかもねえ。JWE……ジャパニーズワンダフルエンターテイメント社。今人気急上昇の女性アイドルユニットオリオン21の他にも沢山のアイドルグループを束ねる業界の三本の指に入るプロダクションよ……」
ペコはテントの中のテレビをチラチラ見ながら堺にメモ紙を渡した。
堺は受け取るが、まだいまいち飲み込めなくてペコに訊ねる。
「あ……あの……その凄い会社と僕が一体何の関係が?」
「今日のお詫びをしにご挨拶に行くのよ。もうアポイントメントは取ってあるわ。そこへ行ったら堺ちゃんは直帰でいいから」
「えっ?」
「まあ、忙しい人だから、話は一分で終わるでしょ……だから、気を楽にしていいからね?」
「はあっ?あの……」
「堺ちゃんの癒し系イケメンスマイルで乗り気って頂戴」
「あ……あの……よく意味がわからないんですが」
「車を手配したから、運転手にその住所まで行って貰って頂戴ね。そのお菓子、あの方の好物らしいからご機嫌は取れるはずよ……」
ペコは視線をテレビと堺といったり来たりで落ち着かない。
堺は籠盛りの果物と紙袋の印刷を見て「……ああ……成る程……人気の高屋のカステラ饅頭ですね」と呟くが、まだ彼の頭は回転していなかった。
今からJWEの社長宅へいってこいと言われたのは理解したが、何が「お詫び」なのかさっぱりわからない。
ペコは、そんな堺の表情を読み取ったように頷いて言った。
「そうよね、本当は堺ちゃんが詫びる事なんて無いのよ……寧ろお礼を言って貰ってしかるべきよ!……堺ちゃんが助けなかったら、今や会社の看板アイドルグループのリーダーで、しかも愛娘のみかしのちゃんは大怪我をしてたかも知れないんですからね!」
「……へ……まなむすめ……へ―……ええええええっ?」
愛娘、という言葉の意味が十秒程してやっと頭の中へ入ってきた堺は驚愕した。
額に冷たく濡れた感覚――というよりも痛い。かなり暴力的な刺激で堺は夢から目覚めた。
身体を起こすとジャラ、という音と共に氷の入ったポリ袋が膝の上に落ちた。
「あら、お目覚め?」
ペコが体温計を手に簡易ベッドの傍らに立っていて、堺は思わず「きゃ――」と叫び毛布を頭まで被った。
「失礼しちゃうわねええ!暑さで倒れた部下を見舞ってる心優しいペコ様をまるでお化けを見たみたいに――っ」
「ひいっ!あ、ありがとうございます――っすいません――っ」
毛布をひっぺがそうとするペコに、堺は情けない声で言った。
「はいはいはい、なんか真っ赤な顔をして唸ってたから熱があるのかしらって心配したけど、それだけ喚く元気があるなら大丈夫ねっ」
「びえええ」
ペコは思いきり堺の背中を叩き、堺は悲鳴をあげる。
堺が使っているベッドの隣にもうひとつ簡易ベッドがあり、回りは白い壁。壁と言うか、ここはテントらしい。
ペコと堺の他にも三人ほどのスタッフらしき男性がいて、小さなテレビモニターの画面を見ながら人気バンド『black』の曲を口ずさんでいた。
堺は、先程まで見ていた生々しい夢の光景が過り、ペコに言われた言葉に今更恥ずかしくなってくる。
――赤い顔をして唸っていただって?つまり、夢の中であの子と、美佳原しのと、セッ……セ……セセセ……
まずい……まずいような気がする……いや、本当にまずいぞ。仕事中に初対面のあの子で妄想をして、夢の中とはいえあんな……っ――
しのの甘い声と白い裸体を思い出して、堺は頬と身体が火照る。
ハッとして、堺は毛布で隠しながらズボンの中を捲って中の状態を確認して、安心したようにため息を吐いて脱力する。
(よ……よかった……出しちゃってはなかった……あの子の夢を勝手に見て勝手にエッチなことをした上に……実際にむ……むむ夢精なんてした日にはもう……犯罪者じゃないか……っ……
あっ!で、でででも、キキキキキキ……)
唇と唇が触れあったのを思い出し、堺は指で思わずそこに触れて真っ赤になった。
「ききききききききっ」
ベッドの上でモゾモゾしていたかと思うと髪をかきむしり意味不明な奇声を発する堺をペコは不審な目で見ていたが、咳払いをひとつすると、籠盛りの果物と紙袋を持ってきてベッドの脇へ置き、命令口調で言った。
「今からJWEの社長のお宅までこれ持ってきて行ってきてちょうだい」
堺は目を点にして、間抜けな声で訊ねた。
「じぇーだぶりゅー……いー?」
「ピンと来ないのも無理はないかもねえ。JWE……ジャパニーズワンダフルエンターテイメント社。今人気急上昇の女性アイドルユニットオリオン21の他にも沢山のアイドルグループを束ねる業界の三本の指に入るプロダクションよ……」
ペコはテントの中のテレビをチラチラ見ながら堺にメモ紙を渡した。
堺は受け取るが、まだいまいち飲み込めなくてペコに訊ねる。
「あ……あの……その凄い会社と僕が一体何の関係が?」
「今日のお詫びをしにご挨拶に行くのよ。もうアポイントメントは取ってあるわ。そこへ行ったら堺ちゃんは直帰でいいから」
「えっ?」
「まあ、忙しい人だから、話は一分で終わるでしょ……だから、気を楽にしていいからね?」
「はあっ?あの……」
「堺ちゃんの癒し系イケメンスマイルで乗り気って頂戴」
「あ……あの……よく意味がわからないんですが」
「車を手配したから、運転手にその住所まで行って貰って頂戴ね。そのお菓子、あの方の好物らしいからご機嫌は取れるはずよ……」
ペコは視線をテレビと堺といったり来たりで落ち着かない。
堺は籠盛りの果物と紙袋の印刷を見て「……ああ……成る程……人気の高屋のカステラ饅頭ですね」と呟くが、まだ彼の頭は回転していなかった。
今からJWEの社長宅へいってこいと言われたのは理解したが、何が「お詫び」なのかさっぱりわからない。
ペコは、そんな堺の表情を読み取ったように頷いて言った。
「そうよね、本当は堺ちゃんが詫びる事なんて無いのよ……寧ろお礼を言って貰ってしかるべきよ!……堺ちゃんが助けなかったら、今や会社の看板アイドルグループのリーダーで、しかも愛娘のみかしのちゃんは大怪我をしてたかも知れないんですからね!」
「……へ……まなむすめ……へ―……ええええええっ?」
愛娘、という言葉の意味が十秒程してやっと頭の中へ入ってきた堺は驚愕した。
0
お気に入りに追加
31
あなたにおすすめの小説
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
今日の授業は保健体育
にのみや朱乃
恋愛
(性的描写あり)
僕は家庭教師として、高校三年生のユキの家に行った。
その日はちょうどユキ以外には誰もいなかった。
ユキは勉強したくない、科目を変えようと言う。ユキが提案した科目とは。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる