朝起きるとミミックになっていた ~捕食するためには戦略が必要なんです~

めしめし

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第4章 7階層攻略編

第82話 再起動

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リュウの投げた槍はハルクと僕を貫いた。
ハルクの背中に刺さった槍が僕の箱ごと貫き、抜けずに留まっている。
今、僕はハルクと槍一本で繋がっているのだ。

どうやら槍は、僕の核をも貫いたようだ。
僕の視界にはノイズが入り、機械音が意味の無い言語を奏でている。
痛みはなぜか感じない。
全ての感覚がぼやけてきているのだ。
時々、視界が真っ黒になるが、意識はまだ保てている。
ただ、自分の意思では全く動く事ができない。
鍵をかけられているからではない。
自分の意思が上手く発動しないのだ。

ガバッ
ハルクは再び立ち上がり、ふらふらの足を一歩ずつ前に進め始めた。

どうやらリュウは追ってこないようだ。
なぜだか分からないが、今がチャンスだろう。

しかし、ハルクも相当のダメージだ。
逃げようにも行く場所がない。
ここは宝物庫。
ミミックたちの巣窟なのだ。

ハルクは槍を抜かずに歩を進める。
ハルク自信も分かっているのだろう。
槍を抜くとハルクは大出血を免れないこと、僕の核を再度傷つけてしまうこと。
確かにこのままで良いはずもない。
槍が突き刺さったままの状態は、僕たちの命を削っていることと同義だろう。

僕たちは一体どこに行こうとしているのだろう。
この7階層。どこにも行く場所がない。
二人が休める場所なんて存在しないのだ。
リュウから離れる。
それだけが僕らの合意事項。

ハルクは僕を抱えたままひたすら歩き続けた。
すれ違う冒険者たちは、無条件で道を空ける。
そのまま僕らが通るのを、ただ眺めているだけだった。

しかし、ミミックは違う。
傷ついた僕らは絶好の餌だと、彼らの傍を通るたびにハルクに襲いかかった。
何度噛みつかれても、呪文で体を焼かれても、ハルクはまるで何事も無かったかのように踏みつぶして進む。

ハルクが倒れる回数も増えてきた。
転がっている財宝につまずき、そのまま前方に倒れる。
倒れても倒れても起き上って歩き始めるハルク。
もうとっくに限界を超えているのだろう。
今のハルクにあるのは、僕を助けるという強い意思のみなのだ。

限界が近づいているのは僕も同じだ。
僕の視界もより不明瞭となり、視界の中央部分に真っ黒なスポットが出来てしまった。
つまり、視野の中心部分が真っ黒で何も見えないのだ。

雑音しか聞こえなかった僕の聴覚も、今では何も聞こえない。
ハルクの呼吸音、足跡、転倒した時の音など全て無音である。

記憶もところどころ消えている。
どうやら何度も意識も失っていたようだ。

それでもハルクは歩き続けた。
何度倒れても、ミミックに襲われてもハルクは常に前へ前へと進んだのだ。
しかし、それも長くは続かなかった。

前方に倒れこんだハルク。
僕らに突き刺さった槍が、そのまま床に突き刺さる。

バキッ。
槍が地面に突き刺さった時の衝撃だろうか。僕の蓋を閉めていた鍵が壊れ、僕の蓋が開いたのだ。
しかし、それと同時に突き刺さった槍が僕の核を更に傷つけた。

聞こえないはずの機械音が直接頭に響く。

「システムが完全に停止しました。【不死Lv1】を使用し再構築後、再起動します」

その瞬間。僕の視界は真っ暗となった。


・・・・。

・・・・・。

・・・・・・。

システム復元完了。

最新情報をアップデートします。

・・・・・・・。

・・・・・・・・。

・・・・・・・・・。

アップデート完了しました。

再起動します。

・・・・・・。

・・・・・・・。

・・・・・・・・・。

僕は夢を見ていた。

小学生の頃の僕だ。
僕は公園で友達たちと、ポータブルゲーム機でカードゲームをしている。
当時、僕はこのゲームで友達に負けたことが無かった。
僕は羨望の眼差しで見られ、僕もそれが誇らしかったのだ。
ゲームのことを徹底的に調べ、必要であれば課金してまでレアアイテムやキャラを求めていた。

あの日も僕らは公園で対戦を楽しんでいた。
誰も僕には敵わない。
僕はその日も彼らのリーダーとして振舞っていたのだ。

しかし、その関係も1人の不良高校生によって壊された。
ゲームをしている僕らの前に、身長180㎝ほどの体格のいい学生服姿の男が近づいてきた。
彼の制服は家の近所の有名進学校のものだ。
数多くの生徒を東大に輩出している名門中の名門だ。
しかし、彼の風貌は有名校の生徒らしくはなかった。

制服のボタンがところどころ外れ、シャツには赤い斑点がいくつも付着している。
目の下に大きな腫れと、頬にはいくつもの擦り傷が見られている。
まるで今ケンカをしてきたようだ。
彼が近づくたびに、僕らに緊張感が走る。

「それ俺にも貸してくれ。」
彼は、僕の友達の1人の顔の前に開いた手を伸ばした。

貸したら返ってこないことは、小学生の目でも明らかに分かる。

「嫌だ、これパパに勝ってもらった大事なゲーム…」
彼がそう言いかけた瞬間に、高校生の男の拳が彼の頭に振り下ろされた。

泣き叫ぶ彼から高校生はゲームを奪い、1人でプレイし始めた。
周りにも大人はいたが、誰も高校生を注意する者はいない。

友達は一斉に僕の方を振り返った。
「何とかしてくれ」
彼らは無言で僕に訴える。
しかし、非力な僕が屈強な彼に抗えるはずもないのだ。
周りの大人も一切関わろうとしない。
彼らも当てにはならないだろう。

「そうだ、父さんなら何とかしてくれるかもしれない」
思い立った僕は、友達の目を気にすることもなくその場を離れ、急いで自宅へと戻った。
僕の家は公園から徒歩すぐのところにあるマンションだ。
急いで助けを呼べば、すぐに何とかなるだろう。
その時、彼らは驚いた顔をしていたが、当時の僕は気付いていなかった。

急いで家に戻り父に電話をした。
しかし、何度かけても父に繋がることは無かった。
諦めた僕は、家にあるありったけの防犯グッズを持って公園に戻った。
しかし、すでに友達たちの姿も高校生の姿も無かった。

その日以来、友達の僕に対する態度は一変した。
話しかけても無視をされたり、明らかに怪訝そうな顔をされたのだ。
僕も彼らとは距離を取り始め、その関係は小学校を卒業するまで続いていた。

「システムが完全回復しました。通常起動可能です」
突然機械音が響き、僕は目が覚めた。
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