朝起きるとミミックになっていた ~捕食するためには戦略が必要なんです~

めしめし

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第3章 ダンジョン攻略中編

第66話 ネクロマンシー

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僕はすでに命が尽きている大ワニの前で止まった。
6階層での大規模戦闘は、大ワニにこの部屋に連れてこられたことによって始まった。
水路を渡り、宝物庫に飾られ、他種族にも襲われる。
本来なら迷惑な話だ。

しかし、7階層、ダンジョン自体を攻略するためにはもっと強くならなくてはならない。
結果として僕は、さらにパワーアップすることに成功したのだ。

新しい仲間(?)である関西弁ミミックにも遭遇出来た。
ハルクの装備も強化できた。
この戦いに巻き込まれた僕は良かったと思っている。
感覚がズレて来た証拠だろう。
誘拐されて感謝する…現実世界では絶対にあり得ない話だ。

敵として戦ったが、僕は大ワニを高く評価している。
大ワニは何者かに与えられた任務を忠実に全うした。
戦闘が始まると、自ら前線に赴き、味方達を自らの行動をもって鼓舞し続けた。
僕との戦いもそうだ。
明らかに実力差があった僕に対し、果敢に向かってきた。
彼はそんな彼をどうしても味方に引き入れたかった。
たとえゾンビだとしても。

もちろん、大ワニから裏にいる奴の情報を聞きたいという下心も否定できない。
ネクロマンシーで使役した対象は、主人の命令には逆らえない。
しかしそれ以外では、感情や考えを持ち、自らの意思で行動できるようになるのだ。

【ネクロマンシー】の魔法スキルの一つ【死者使役】は、十分血抜きの済んだ死体を復活さえ使役させるという死者を冒涜するスキルだ。
しかし、今僕に必要なことは「道徳感」や「倫理論」ではない。
確実にダンジョンを攻略し、元の世界に戻ることだ。
そのためなら、僕は何だってする。
その行為が人から非難されることだったとしても、構ってられる余裕なんてないのだ。

僕は大ワニの背中に舌を置き、意識を集中し始めた。
僕とワニの体が黒い光に包まれる。
僕の体の中から「何か」が抜きとられ、舌をつたってワニの体にその「何か」を注入するイメージだ。
特に痛みや不快感などは感じない。
ただ、どこかもの悲しさを感じてしまうだけだ。

興味津々に食い入るように一連の流れを見学する関西弁ミミックに対して、見ようともせずその場を離れるハルク。
僕らを包む黒い光は、一層闇を帯びて僕らの姿を包み隠し始めた。

僕からもすぐ近くにいる関西弁ミミックは見えない。
黒い靄が周りを全てシャットアウトしているかのようだ。
僕が見えているのは大ワニだけ。


次の瞬間僕の視界が急に真っ暗になる。
周りだけではない、大ワニの姿も見えなくなった。
完全なブラックアウト状態。
真っ暗闇の中に僕は一人取り残されたのだ。

先ほどまでの空間ではない。
真っ暗なだけのだだっ広い空間に僕は一人で立っている。
・・・立っている!?
そう、僕は今二本足で立っている。
僕を包む箱もない。
僕は元の姿で、この暗闇の空間の中に一人立っているのだ。

これは僕の意識の中なのか?
僕はキョロキョロとしながら、暗闇の中を歩き始めた。
久しぶりの二足歩行。慣れないせいか何度もつまずきそうになる。
そんな僕に向かって大型の爬虫類が歩いてきた。
大ワニだ。
大ワニが僕に近づいてくるのだ。

僕は今ミミックじゃない。
このまま襲われると勝ち目がないじゃないか。

しかし、大ワニは僕の目の前まで来ると、その場でクルッと方向転換をした。
元来た道を引き返す大ワニ。
まるでついて来いと言っているようだ。
僕は黙って大ワニについて行った。

しばらく暗闇の中を大ワニと歩く。
突然気が変わって襲いかかって来ないかと内心ドキドキしていたが、その心配は杞憂だった。
大ワニに案内されてたどり着いた場所は、石で作られた十字架が立ち並ぶ墓地だった。
その一つずつに鎖で何かが吊り下げられている。
吊り下げられているものは心臓。
無数の心臓が十字架に吊り下げられているのだ。

大ワニは墓地の中をわき目も振らず真っすぐ進む。
この異様な光景に恐怖しながらも、僕は大ワニの後をついて行った。

大ワニが立ち止まったところは、一際大きな十字架の下。
同じように心臓がチェーンで吊り下げられているが、他のものよりも2回りは大きいようだ。
大ワニは十字架から鎖ごと心臓を引きちぎり、その心臓をくわえて僕に差し出したのだ。

おそらくこれが、【死者使役】の儀式だろう。
差し出された心臓を受け取ることで儀式が完了する。

僕は恐る恐るその心臓を受け取ると、止まっていたはずの心臓が音を立てて動き出したのだ。

ドクン、ドクン。
僕の手に心臓の鼓動と温度がはっきりと伝わる。
僕は今大ワニの心臓を手にしているのだ。

そこで視界が少しずつ明るくなる。
僕はいつの間にかミミックにもどり、大ワニの背中に舌を置いていた。

僕らを包む黒い光は徐々にその闇が薄れ、周囲の状況がわかるようになった。
大ワニの背中に置いた僕の舌にかすかな振動が伝わる。

大ワニはゆっくりとその両眼を開けたのだ。

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