52 / 120
第2章 ダンジョン攻略前編
第51話 リッチ
しおりを挟む
必死で命乞いをするリッチを僕は、容赦なく食べた。
無理やりこの世界に連れてこられたゲームプレイヤーを、僕は食べてしまったのだ。
不思議と罪悪感は感じない。
僕がこの世界に慣れてしまったのか、それとも闇落ちルートを選んだ結果なのか。
ただ、他の敵を食べるのとは意味合いが違うようだ。
彼の記憶が僕の中に入り込む。
リッチ、本名 立花 正(たちばな ただし)。
製薬会社に勤めるエリート系サラリーマンのようだ。
幼い頃から生物の体の仕組みについて興味を持っていた彼は、カエルや昆虫を解剖して中身を調べるのが好きだったらしい。
その衝動は高校生になっても変わらない。
野良犬を解剖しているところを、近所の人に通報され一時学校を停学させられている。
彼は将来医師になりたかったようだが受験に失敗し、滑り止めで受けた薬学部のある大学に受かったようだ。
滑り止めで薬学部に入れるぐらいだから、頭は良かったらしい。
大学在学中に何人か彼女は出来たようだが、どの彼女とも長くは続かない。
どうやら彼自身の物事を徹底的に追及する性格が災いしたらしい。
彼は彼女よりも、大学での研究にほとんどの時間を費やしていた。
彼は何よりも実験が好きだった。
彼の奇抜なアイデアは大学の教授たちを驚かせた。
いくつもの研究室から招待を受け、彼はその才能を披露し続けたのだ。
しかし、彼の研究は大学の倫理規定を大きく逸脱したものが多かった。
多くの成果を挙げた一方で、彼の研究の多くは大学からストップがかかってしまった。
研究を継続できない苛立ちと、他の研究生からの批判が彼を深く傷つけた。
彼はそれ以来、研究室に顔を出すことは無かった。
大学卒業後、大手製薬会社に入社。
そつなく仕事をこなし、会社でも評判は悪くはない。
ただ、一人を好む彼には友達と呼べる人物はいなかったようだ。
彼にとって会社は満足のいくものだったが、生物の体の仕組みをより深く知りたいという幼いころからの衝動はむしろ高まっていた。
彼がはまったのは、R18指定のホラーゲーム。
特に襲ってくるゾンビから逃げる脱出系のゲームが気に入っていたようだ。
彼の興味はゲームのクリアではない。
ゾンビがどのようにプレイヤーを襲うのか、どのようなバッドエンドを向かえるかのルートを探し続けていたのだ。
ある日、彼が目が覚めると見慣れない場所に横たわっていた。
僕の時と同じ、ダンジョンの1階層だ。
当てもなく歩き回っていた彼だったが、自分の体が通常では無いことに気付く。
そう、彼の体はガイコツになっていたのだ。
レベルが上がるまでこの世界についての解説が無いのは、彼の場合も同じだった。
おそらくここでゲームのプレイヤーがふるいにかけられるのだろう。
自分の置かれている状況が分からず、ダンジョン内を歩き回る彼。
そんな彼にモンスターたちから洗礼を受けた。
芋虫の姿をしたモンスター「クロウラー」だ。
僕もこのモンスターには殺されそうになった。
初めてのモンスターに驚き戸惑っている彼に、クロウラーの強力な体当たりが炸裂。
数メートルほど吹き飛ばされ、回転しながら床を激しくバウンドした。
骨が折れる音がはっきりと聞こえる。
彼は、そのまま動かなくなった。
幸いにもクロウラ―はそれ以上の攻撃を仕掛けてこなかった。
見た目がガイコツなので食べるところが無いと判断したのだろうか。
どれくらいの時間が経過したのだろう。彼の折れていた骨が修復し始めたのだ。
どうやら彼には【自動回復】がデフォルトになっているのだろう。
ようやく今の自分が置かれている環境を理解した彼は、なんとか生き延びようとした。
死んでいる冒険者たちの武器や衣類を剥ぎ取り、死んだふりをしながら敵や冒険者たちに襲いかかる。
何度も攻撃が失敗し倒されるも、【自動回復】スキルのおかげか一命をとりとめ続けてきた。
そして彼は遂にレベルが上がり、チュートリアルにこの世界についてを聞く。
彼が頭角を現したのは、世界について知った時からだ。
不意打ちで敵をしとめ、【使役】スキルで倒した相手を操りスキルを取得する。
彼はただ相手を殺すだけではない。
倒した相手を解剖し、その特徴を探っていたのだ。
幼いころからの願望がこの世界で叶った彼。
彼が今の強さになるまでに、何百もの命が奪われた。
しかもその多くが、強くなるためではない。
彼の知的好奇心の餌食となっていたのだ。
彼はさらなる敵を求め、第7階層に向かう。
十分な冒険者やモンスターを従え、7階層も支配してやろうと考えていたのだ。
しかし、惨敗。
彼の力をもってしても、7階層は歯が立たなかった。
逃げるように5階層に戻ってきた彼は、前回以上に強い兵達を見つけるしかなかったのだ。
そして見つけたのが、ハルク。
彼の強さを目の当たりにした彼は、何としても彼を従えようとした。
すぐに使役は出来なかったものの、彼を操ることには成功した。
後は彼の命を奪って使役するだけ。
彼にとって物事は順調に進んでいた。新しい使役兵も増えた。
そんな彼の計画を邪魔する者が現れた。
僕だ。
彼は何度も隙を見て、僕やハルクを捕らえ使役しようとした。
しかし、その願いは叶わず僕らをコントロールすることは出来なかった。
それなら直接手を下してやろう。
私のアジトに招待して、奴らを倒してしまえばいい。
彼の記憶はここで途切れていた。
僕は戦闘の静けさが残る部屋で、一人ぼっちで留まっていた。
彼は記憶ごと僕の体内で完全に吸収されてしまったようだ。
無理やりこの世界に連れてこられたゲームプレイヤーを、僕は食べてしまったのだ。
不思議と罪悪感は感じない。
僕がこの世界に慣れてしまったのか、それとも闇落ちルートを選んだ結果なのか。
ただ、他の敵を食べるのとは意味合いが違うようだ。
彼の記憶が僕の中に入り込む。
リッチ、本名 立花 正(たちばな ただし)。
製薬会社に勤めるエリート系サラリーマンのようだ。
幼い頃から生物の体の仕組みについて興味を持っていた彼は、カエルや昆虫を解剖して中身を調べるのが好きだったらしい。
その衝動は高校生になっても変わらない。
野良犬を解剖しているところを、近所の人に通報され一時学校を停学させられている。
彼は将来医師になりたかったようだが受験に失敗し、滑り止めで受けた薬学部のある大学に受かったようだ。
滑り止めで薬学部に入れるぐらいだから、頭は良かったらしい。
大学在学中に何人か彼女は出来たようだが、どの彼女とも長くは続かない。
どうやら彼自身の物事を徹底的に追及する性格が災いしたらしい。
彼は彼女よりも、大学での研究にほとんどの時間を費やしていた。
彼は何よりも実験が好きだった。
彼の奇抜なアイデアは大学の教授たちを驚かせた。
いくつもの研究室から招待を受け、彼はその才能を披露し続けたのだ。
しかし、彼の研究は大学の倫理規定を大きく逸脱したものが多かった。
多くの成果を挙げた一方で、彼の研究の多くは大学からストップがかかってしまった。
研究を継続できない苛立ちと、他の研究生からの批判が彼を深く傷つけた。
彼はそれ以来、研究室に顔を出すことは無かった。
大学卒業後、大手製薬会社に入社。
そつなく仕事をこなし、会社でも評判は悪くはない。
ただ、一人を好む彼には友達と呼べる人物はいなかったようだ。
彼にとって会社は満足のいくものだったが、生物の体の仕組みをより深く知りたいという幼いころからの衝動はむしろ高まっていた。
彼がはまったのは、R18指定のホラーゲーム。
特に襲ってくるゾンビから逃げる脱出系のゲームが気に入っていたようだ。
彼の興味はゲームのクリアではない。
ゾンビがどのようにプレイヤーを襲うのか、どのようなバッドエンドを向かえるかのルートを探し続けていたのだ。
ある日、彼が目が覚めると見慣れない場所に横たわっていた。
僕の時と同じ、ダンジョンの1階層だ。
当てもなく歩き回っていた彼だったが、自分の体が通常では無いことに気付く。
そう、彼の体はガイコツになっていたのだ。
レベルが上がるまでこの世界についての解説が無いのは、彼の場合も同じだった。
おそらくここでゲームのプレイヤーがふるいにかけられるのだろう。
自分の置かれている状況が分からず、ダンジョン内を歩き回る彼。
そんな彼にモンスターたちから洗礼を受けた。
芋虫の姿をしたモンスター「クロウラー」だ。
僕もこのモンスターには殺されそうになった。
初めてのモンスターに驚き戸惑っている彼に、クロウラーの強力な体当たりが炸裂。
数メートルほど吹き飛ばされ、回転しながら床を激しくバウンドした。
骨が折れる音がはっきりと聞こえる。
彼は、そのまま動かなくなった。
幸いにもクロウラ―はそれ以上の攻撃を仕掛けてこなかった。
見た目がガイコツなので食べるところが無いと判断したのだろうか。
どれくらいの時間が経過したのだろう。彼の折れていた骨が修復し始めたのだ。
どうやら彼には【自動回復】がデフォルトになっているのだろう。
ようやく今の自分が置かれている環境を理解した彼は、なんとか生き延びようとした。
死んでいる冒険者たちの武器や衣類を剥ぎ取り、死んだふりをしながら敵や冒険者たちに襲いかかる。
何度も攻撃が失敗し倒されるも、【自動回復】スキルのおかげか一命をとりとめ続けてきた。
そして彼は遂にレベルが上がり、チュートリアルにこの世界についてを聞く。
彼が頭角を現したのは、世界について知った時からだ。
不意打ちで敵をしとめ、【使役】スキルで倒した相手を操りスキルを取得する。
彼はただ相手を殺すだけではない。
倒した相手を解剖し、その特徴を探っていたのだ。
幼いころからの願望がこの世界で叶った彼。
彼が今の強さになるまでに、何百もの命が奪われた。
しかもその多くが、強くなるためではない。
彼の知的好奇心の餌食となっていたのだ。
彼はさらなる敵を求め、第7階層に向かう。
十分な冒険者やモンスターを従え、7階層も支配してやろうと考えていたのだ。
しかし、惨敗。
彼の力をもってしても、7階層は歯が立たなかった。
逃げるように5階層に戻ってきた彼は、前回以上に強い兵達を見つけるしかなかったのだ。
そして見つけたのが、ハルク。
彼の強さを目の当たりにした彼は、何としても彼を従えようとした。
すぐに使役は出来なかったものの、彼を操ることには成功した。
後は彼の命を奪って使役するだけ。
彼にとって物事は順調に進んでいた。新しい使役兵も増えた。
そんな彼の計画を邪魔する者が現れた。
僕だ。
彼は何度も隙を見て、僕やハルクを捕らえ使役しようとした。
しかし、その願いは叶わず僕らをコントロールすることは出来なかった。
それなら直接手を下してやろう。
私のアジトに招待して、奴らを倒してしまえばいい。
彼の記憶はここで途切れていた。
僕は戦闘の静けさが残る部屋で、一人ぼっちで留まっていた。
彼は記憶ごと僕の体内で完全に吸収されてしまったようだ。
0
お気に入りに追加
52
あなたにおすすめの小説
欲張ってチートスキル貰いすぎたらステータスを全部0にされてしまったので最弱から最強&ハーレム目指します
ゆさま
ファンタジー
チートスキルを授けてくれる女神様が出てくるまで最短最速です。(多分) HP1 全ステータス0から這い上がる! 可愛い女の子の挿絵多めです!!
カクヨムにて公開したものを手直しして投稿しています。
勇者一行から追放された二刀流使い~仲間から捜索願いを出されるが、もう遅い!~新たな仲間と共に魔王を討伐ス
R666
ファンタジー
アマチュアニートの【二龍隆史】こと36歳のおっさんは、ある日を境に実の両親達の手によって包丁で腹部を何度も刺されて地獄のような痛みを味わい死亡。
そして彼の魂はそのまま天界へ向かう筈であったが女神を自称する危ない女に呼び止められると、ギフトと呼ばれる最強の特典を一つだけ選んで、異世界で勇者達が魔王を討伐できるように手助けをして欲しいと頼み込まれた。
最初こそ余り乗り気ではない隆史ではあったが第二の人生を始めるのも悪くないとして、ギフトを一つ選び女神に言われた通りに勇者一行の手助けをするべく異世界へと乗り込む。
そして異世界にて真面目に勇者達の手助けをしていたらチキン野郎の役立たずという烙印を押されてしまい隆史は勇者一行から追放されてしまう。
※これは勇者一行から追放された最凶の二刀流使いの隆史が新たな仲間を自ら探して、自分達が新たな勇者一行となり魔王を討伐するまでの物語である※
【改訂版】 戦艦ミカサを奪還せよ! 【『軍神マルスの娘と呼ばれた女』 2】 - ネイビーの裏切り者 -
take
SF
ノベルアッププラスへの投稿に併せて改訂版に改編中です。
どうぞよろしくお付き合いください!
数百年後の未来。人類は天変地異により滅亡寸前にまで追い込まれ、それまでに彼らが営々と築いてきたものは全て失われた。
わずかに生き残った人々は力を合わせ必死に生き延び、種を繋ぎ、殖やし、いくつかの部族に別れ、栄えていった。その中の一つがやがて巨大な帝国となり、その周囲の、まつろわぬ(服従しない)いくつかの未開な部族や頑なな国との間で争いを繰り返していた。
就役したばかりの帝国の最新鋭戦艦「ミカサ」に関する不穏な情報を得た皇帝直属の特務機関を統べるウリル少将は、一人のエージェントを潜入させる。
その名は、ヤヨイ。
果たして彼女は「ミカサ」の強奪を防ぐことが出来るのか。
異世界でぺったんこさん!〜無限収納5段階活用で無双する〜
KeyBow
ファンタジー
間もなく50歳になる銀行マンのおっさんは、高校生達の異世界召喚に巻き込まれた。
何故か若返り、他の召喚者と同じ高校生位の年齢になっていた。
召喚したのは、魔王を討ち滅ぼす為だと伝えられる。自分で2つのスキルを選ぶ事が出来ると言われ、おっさんが選んだのは無限収納と飛翔!
しかし召喚した者達はスキルを制御する為の装飾品と偽り、隷属の首輪を装着しようとしていた・・・
いち早くその嘘に気が付いたおっさんが1人の少女を連れて逃亡を図る。
その後おっさんは無限収納の5段階活用で無双する!・・・はずだ。
上空に飛び、そこから大きな岩を落として押しつぶす。やがて救った少女は口癖のように言う。
またぺったんこですか?・・・

俺は善人にはなれない
気衒い
ファンタジー
とある過去を持つ青年が異世界へ。しかし、神様が転生させてくれた訳でも誰かが王城に召喚した訳でもない。気が付いたら、森の中にいたという状況だった。その後、青年は優秀なステータスと珍しい固有スキルを武器に異世界を渡り歩いていく。そして、道中で沢山の者と出会い、様々な経験をした青年の周りにはいつしか多くの仲間達が集っていた。これはそんな青年が異世界で誰も成し得なかった偉業を達成する物語。
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる