朝起きるとミミックになっていた ~捕食するためには戦略が必要なんです~

めしめし

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第2章 ダンジョン攻略前編

第45話 ハルクの記憶

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このままハルクが人間タイプに対し無抵抗のままでは、戦局的に不利だ。
確かにわだかまりを食べるという、チュートリアルの話には一理ある。
しかし、本当に人の記憶を操作してもいいものか?
僕は罪悪感にさいなまれながらも、【視覚】スキルを使用し、ハルクの記憶を覗き見た。

覗き見た時間は10秒にも満たないだろう。
しかし、僕には何時間も続くドラマのように感じた。
全てのハルクの記憶を覗き見るには、僕のスキルレベルは不足しているらしい。
前半はノイズが生じており、見ることは出来なかった。

僕が覗き見たハルクの記憶はごく最近のようだ。
誰かと戦っている?
ハルクの記憶は戦闘シーンから始まった。

ハァハァ、ゼーぜー
ハルクの息切れが酷い。
どうやら額から出血をしているらしい、
両目に血が入り込み、視界を著しく悪くしている。

これはダンジョンの中だろうか。
薄暗い回廊の中、息切れをしながらも懸命に顔を上げようとしている。
気を抜けばそのまま倒れてしまいそうな様子だ。
かなりのダメージを受けているのだろう。

それでも誰かに向かって攻撃を仕掛けるハルク。
ハルクの渾身の右フックが空を切り、何者かの剣がハルクの胸を切りつける。
この攻撃が決め手だったようだ。
地面が急速に近づき、やがて地面しか見えなくなった。

「カッカッカッ。魔人のまがい物にしてはやるじゃねえか。結構楽しめたぜ。」
勝利した男の声が、朦朧と耳に響く。
魔人のまがい物?一体何のことだ。
でも、この声の主、僕はどこかで聞いたことがある…!?

倒れているハルクに男の声が近づいてくる。

「てめぇの持っているレアアイテムをよこしな。持っているのは知ってんだよ。」
男はハルクの腰に手を当て、何かを引きちぎった。

「そで、オデの大切なもの…」
ハルクの声は、か細く弱々しかった。
それでも男に必死の抵抗をみせる。

「だったら取り返しに来な。てめぇは面白れぇから生かしといてやる、いつでも相手してやるよ。」
顔を上げたハルクが見た男の姿は、以前僕をぶった斬った獣人の戦士だった。

あいつがハルクを倒した!?一体どれだけ強いんだよ…。

ここでハルクの記憶にノイズが走る。
ハルク自身もこの間の記憶は不明瞭なようだ。


再び記憶が開くと、ハルクはまた誰かと戦っていた。
薄暗い石造りの回廊で、壁の至る所に苔やキノコが生育している。
見覚えのあるフロアだ。
5階層に間違いないだろう。

ハルクの傷は癒えていないらしく、視界がぼやけ額から血も流れているようだ。

相手は3人。
いずれも人間だ。
ハルクよりは小柄だが、目に大きな傷を持つ大柄な男性。
緑色のローブをまとった魔法使い風の男性。
機械式の弓矢を構えた小柄で細い男性の3人だ。
男たちは十分な距離を取りながら、ハルクを威嚇している。

ハルクが動こうとした瞬間、前方の魔法使い風の男の杖が光った。
その瞬間、大きなツララがハルクに向かって発射される。
しかし、ハルクは難なく片手でツララをつかみ、そのまま握りつぶしてしまった。
ハルクは動きを止めず、魔法使いに向かってゆっくり歩を進める。

引きつった表情を見せる魔法使いの男は、何度もツララを飛ばしてきたが、今度はハルクも避けるつもりが無い様子。
顔や胸、肩にツララが当たるもお構いなしに魔法使いに近づき、捕まえようとその手を伸ばした。

グサッ
その伸ばした手に横から飛んできた矢が刺さる。
弓矢を構えた小柄の男が、射ってきたのだ。
しかし、まったく意に介さないハルクは、怯える魔法使いの頭をつかむ。

グシャ。
まるで卵を割るかのように、ハルクは魔法使いの頭を握りつぶしてしまったのだ。
仲間を倒されたことに恐怖したのか、弓矢の男は連続で何発も射ってきた。
大柄の男も、ハルクに向かって突進してきた。

ハルクの顔は相手の方を向いていない。
ただ、地面の方を向き何かを考えているようだ。

突然ハルクは砂場の砂をすくうように、石造りの床を片手でむしり取った。
特に力を込めていた様子もない。ただ、むしり取ったのだ。

ハルクは石をつかんだまま肩の高さまで持ち上げ、突進してくる戦士にその石を投げつけたのだ。
いきなり高速で飛んできた石に、大柄な男は反応すらできない。
ハルクの投げた石が顔面にまともにヒットし、顔の半分が吹き飛んでしまった。

逃げる弓矢の男にもハルクは容赦はしない。
投げつけた石が男の背中を貫通して、前方の壁に当たって砕け散った。

この頃のハルクは人間相手でも容赦はしない。それが一体どうして…?
記憶にはまだ続きがあるようだ。


回廊を彷徨い続けるハルク。
まるで何かを探しているかのようだ。

しかし、すでに大きなダメージを受けているハルクは、その場でしゃがみ込んでしまった。
座り込んで呼吸を整えるハルクだったが、回廊の先に青白く光るドアを発見した。

ハルクは何かに導かれるかのように、青白い光の方へゆっくりと歩き始めた。
そのハルクが見ているドアは、今僕たちがいるガイコツの住処のようだ。

僕に会う前にハルクはすでに一人でこの部屋に入っていたのだ。

ドアを開け、部屋に入ったハルクはそこで部屋いっぱいの人間たちを見た。
人間だけではない。
エルフやノーム、蝶の羽を持つ小さい人型の生物もいる。

彼らは部屋に入ったハルクを恐れる様子はない。
それどころか、笑顔を見せながら彼に食べ物を持ってきてくれたのだ。
ダンジョンでは決して手に入らないような果物や、部屋中に香ばしい香りが広がる美味しそうな肉、こんがり焼けた魚まである。

困惑したハルクの前に、カツン、カツンと音を立てながら真っ黒いローブを着た者が現れた。
身長で言うと180㎝くらいだろうか?痩せ型ですらっと縦に長い印象を受ける。
足元まで届く黒光りするローブをまとい、首にいくつも玉が付いたネックレスを吊り下げている。
フード付きのローブからは、真っ白な顔がのぞく。
顔には皮膚がなく、鼻や目の位置が大きく窪んでいる。
ガイコツだ。
ガイコツがハルクの前に現れたのだ。
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