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22店目 「迷宮レストラン 中編」

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「迷宮レストラン」

怪しげな紫色の光りを放つ建物が、僕たちが目指していた店だった。
外観は古い煉瓦造りで、お店というより古い洋館のようだ。
建設されてからかなりの年月が経過しているのか、ところどころ煉瓦が朽ちて崩れている。
格子状の柵が付いた窓からは、うっすらと中の光りが漏れている。
入り口扉の前の亀裂の入った数段の石段と、煉瓦を積み重ねた古いアーチ壁も印象的だ。

辺りを見渡すとこのフロアはお店以外は壁に囲まれている。
どうやら、この店に入るか引き返すしかのどちらかしかないのだ。

しばらく呆然と眺めていると、他のメンバーたちが追い付いてきた。

「何だここは?」
「迷宮レストラン……。」
「ダンジョンはどうなったんだよ?この造りはおかしいじゃねえか?」

驚き、動揺するパーティメンバーたち。
ただ、カシムだけは何かを感じ取ったようだ。

「ミツル、気づいたか?ここは俺たちがいたロストワールドに似ている」
「ああ、僕もそれを感じていた。どうやら僕たちはここに誘いこまれたらしい」

迷宮レストランに行った者が帰って来ない理由がこれでわかった。
彼らはこの異空間に閉じ込められてしまったのだろう。
ただ、ロストワールドほど完全な異空間では無さそうだ。
スマートウオッチを見ると今まで最大だった電波は、今ではかろうじて2本立っているだけだ。

「ミツル、ここはダンジョンではないのか?」

アインツの質問に、メンバーたちは一斉に僕の方を見る。

「恐らく、僕がいたように異空間に引き寄せられてしまったらしい。元来た道を戻っても帰れないだろう。この店に入るしか道は無いように思う」
「ミツルがそう言うのならそうなのだろう。どうやら覚悟を決めなければいけないらしいな」

アインツはセリナに視線を送る。
セリナは無言で頷いた。

「よし、俺たち『虎の牙』は、これより『迷宮レストラン』に突入する!」
「おう」

アインツは自らを鼓舞するように号令をかけると、先頭に立って入り口へと向かった。

扉は重厚な木製の両開きのドアだ。
ドアノブのようなものはなく、扉の中央に髑髏のレリーフとその口から金属の輪が掛かっている。
どうやら悪趣味なノッカーのようだ。
この金属の輪でドアを叩いて合図をするのだろう。

ドン、ドン、ドン。

アインツは金属の輪でドアを叩く。
静まり返った空間に鈍い音が響き渡る。

ギギギギギィ……

すると、軋む音を立てながら両扉は内側に開いた。
扉から中を覗き込むも、真っ暗で何も見えない。
人の気配すらない。
どうやら扉は勝手に開いたようだ。不気味な空気が僕らの背筋を凍らせる。

扉の中に足を踏み入れると、突然壁に掛かっていたロウソクの火が一斉に灯った。
しかも、店全体に灯ったわけではない。
まるで僕たちを導くかのように、一方向のみ灯り、その他のロウソクの火は消えたままだ。

「案内してくれてるのよね?」

ミトラもこの時ばかりは慎重だ。進行方向を指さしながらも、なかなか一歩が踏み出せない。
「罠である確率が高いわ。みんな気を付けて」

最もダンジョン経験が長いリノアが警鐘を鳴らす。
どうやら相当リスクが高そうだ。

「俺らは客だ。ビクビクするんじゃねぇ」

セリナは強がって見せるも、小刻みに震えている。

「そうだな、怖がっていても仕方がない。せっかく案内をしてくれているんだ。構わず行こうじゃないか」

アインツはそう言って、先頭を歩き始める。
僕らはその後をついて行った。

通路を抜けると、大きなホールに出た。
いくつもの円卓席があるも、燭台が置かれた机は一つだけだ。
ご丁寧に人数分ピッタリの椅子まで用意されている。
どうやらここが僕たちの席らしい。
僕らの他には客はいない。
20席はあろうとかいうホールの真ん中に、僕らの席が用意されていた。

テーブルには真っ白いテーブルクロスがかけられており、椅子も高級感漂うアンティークのものだ。
僕らが席に着くと、一人の男が僕らに向かって近づいてきた。
左目に大きな眼帯を付けた屈強の戦士風の男で、小奇麗な黒の制服のようなものを着ている。

「迷宮レストランにお越し頂きありがとうございます。このお店にはメニューがございません。一期一会の精神で、当店シェフの自慢を料理をご堪能下さいませ」

男はそれだけ言うと、くるりと背を向け元来た道を戻ろうとした。

「なぁ、お前ガルシアじゃねぇのか?少し前、一緒にパーティを組んだだろう?なぁ、アインツ」

セリナは戻ろうとする男に声をかけた。

「ああ、確かにガルシアだ。お前ここで働いていたのか?」

気づいたアインツも声をかける。
しかし、ガルシアと呼ばれる男は振り返ろうともせず、そのまま店の奥へと消えて行ったのだ。

「なんだあいつ?人違いではねぇよな?」
「いや、確かにガルシアだった。ただ、あまり生気が無いようにも感じたがな」

確かに話している時の無表情さは気になった。
まさか操られているのか?

しばらくすると、ガルシアは料理を持って現れた。

「こちらが本日の前菜でございます。」

出された料理は、白いお皿の上に盛られた3種類の前菜の盛り合わせだ。
現在の日本でも使われそうな斬新な盛り方で、見るからに食欲を誘う。
これは一体何の料理だろう?とても美味しそうだ。
ただ……何かが引っかかる。

料理の説明も無く、立ち去るガルシア。

何の料理かを調べようと僕はスマートウォッチで、料理の画像を撮った。
写真アプリとチャットGOTを紐づけしてあるため、画像情報からチャットGOTがその料理を認識し、情報を送ってくれるのだ。
いつもはスムーズにいくはずの流れだが、今回は違った。
なんとチャットGOTが、情報を送ると同時にアラートを鳴らしたのだ。
その内容を確認した僕は、慌てて今にも食べようとしているみんなに向かって大声で叫んだ。

「食べるな!この料理は毒だ!」
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