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第5章 内戦編

第65話 泣いているマーサを発見しましたわ

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「オットー、あなた私に何か隠しているわね?」

「何のことでしょう、お、お嬢様に私が隠し事なんて出来るわけがないですよ。」

怪しいわ。きっと何かを企んでいるわね。

「もう、お替りしたい人はいませんか?たっぷりコメを食べてくださいね。」
私から離れ群衆の方へ向かうオットー。
まったく持って怪しいわ。


・・・・・・・・・・


オットーが用意した鍋は全てなくなり、群衆はオットーの方に向き直る。

「おい、オットー。この『コメ』とか言うやつ、これからも食べられるんか?
『パンが無ければコメを食べればいい。』
メリー様が言ったことは、よくわかったよ。」

タンクトップ男は膨れ上がったお腹をポンと叩く。
一体どれほど食べたのだろう。
タンクトップが上にめくれ上がり、クロップトップスどころか腹出しルックとなっている。
男の腹出しルックには不快感マックスだ。
その出っ張ったへそを針でつついてやりたい。

「今大量に生産しているので、この街の人分くらいはありますよ。
さらに労働力が欲しいので、もしもお時間があれば手伝ってくださいませんか?
もちろんお給金はお出しします。」

「・・・・!!」

一瞬の沈黙の後、群衆から轟音のような歓声が上がる!

「これでこの冬が越せる!ありがたや」
「おれっちも働かせてくれ、報酬なんて安くてもいい!」
「私も働かせて!旦那が戦争に取られて仕送りもないのよ!」
「コメの試食係には某が!」

よっぽど生活に困っていたのだろう。
コメ以上に強い食いつきを見せる。

「分かりました。希望者は後ほどギルドの裏に来てください。
そこで内容を説明します。」

あなた冒険者よりも安い賃金で働かせようと思っているわよね?
今日ここにコメを持ってきた本当の理由は、労働者を確保するためのプレゼンをしたかったのでしょ。
あなたは本当に悪どいわ。

あっ、そうだ。お母様のことを聞かなくっちゃ。
オットー、お母様のこと知っているんでしょ?

私がオットーの方を振り返った時にはもうオットーの姿が無かった。
あれほど大量にあったゴミの残骸と、コメを入れてあった鍋は綺麗にその場から無くなっていた。

逃げられた。
でも綺麗に片づけていくところはオットーらしいわ。
怪しすぎるわ。
後で覚えてらっしゃい。

「キュー」
私の胸の中でマカロンが小さく鳴き声を上げる。
いつまでもこの場にいても仕方がない。
逃げたオットーはおいて、マーサを探しに行きましょう。
さて、マーサはどこに行ったのかしら?

マーサのいる場所は概ね分かっている。
彼女がこの街に来ると決まって行くのは、婦女の殿堂「淑女館」。
淑女のためのグッズや衣装のお店だけど、ちょっとアダルティな雰囲気なのよね。
私はどうも行くのをためらってしまうわ。

こ、怖いわけじゃないのよ。
き、気おくれよ。武者震いよ。
あんなお店なんともないんだから。

私は意を決して淑女館へ向かうことにした。

早くマーサを見つけて今後の作戦を立てないと。
お母様のことも気になるし、お父様は一緒じゃないの?

ブツブツと独り言を言いながら、私は淑女館への道を急ぐ。
途中何人か私に声をかけてくれたようだけど、私はまるで気づいていない。
一旦妄想モードに入ると私は何も見えなくなるのだ。

ガンッ!
お店の看板に頭を打ち付けようと、私の歩みは止まらない。

お母様がいるってことは、お父様もいるはずよ。
早くパラデュール伯爵を追い出して、また私はお母様たちと暮らすのよ。

ドンッ!
走ってきた男の人が私にぶつかり弾き飛ばされる。
「き、気をつけろ!」

私はまったく気づきもせず、そのまま歩き続けた。
「キュー」私の代りに、マカロンが彼におじぎをする。

そんなこんなで私は、ようやく淑女館についた。

扉を開けると私の目に飛び込んできたのは、床に跪いて泣いているマーサ。
その手には明らかに布面積が狭いパンツを握りしめている。

えっ、マーサ。パンツを握りしめてなぜ泣いてるの?

そのマーサの前で、涙を拭おうと布を近づけるふくよかな女性。
ねぇあなた、それは布じゃなくてTバックのパンツよ。あっ。

その女性こそ、お母様だったのだ。
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