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第4章 国外逃亡編

第36話 幽閉されてしまいましたわ

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ヘンリー殿下にとどめを刺そうとする私の前に、悪魔の選択肢が現れる。

1.背中を踏む
2.頭を踏む
3.お尻を踏む

公式の大会で、しかも国王陛下や観客たちの見ている前で王族を踏む。
絶対に許されるはずがないのだ。

しかし、私にはこの選択肢を拒むことなんてできない。
駄女神の力は絶対なのだ。
それならせめて一番影響の薄い選択肢を選ぼう。
この中だと・・・。

私は1の背中を踏むを選択。
選択肢を選ぶとすぐに、時間は元通りに動き出した。

私の体に強制力が働く。
私は陛下の背中を靴のまま踏み、悪役令嬢語が間髪入れずに悪魔のセリフを述べる。

「ホーッホッホッホッホッホ!殿下降伏しなさい!
この勝負は私の勝ちね。」

それがこの学校における私の最後の言葉だった。


・・・・・・・・・・・・


私は今王都の牢屋に幽閉されている。
ヘンリー殿下を足蹴にした瞬間、今まで感じたことのないほどの非難の声が会場中を震撼させた。
それからほどなくして数人の衛兵が私の前に現れ、私を王都の地下牢へと連れて行ったのだ。

薄暗い牢屋の中、簡易なトイレと薄っぺらい毛布以外は何も置かれていない。
1日2回、釘が打てるほどの堅さのパンと冷え切った味の無いスープが私の食事だ。
ダイエットには最適ね。

王都の牢屋には門番以外、他には誰もいない。
牢屋に幽閉されているのは私だけのようね。
かなり平和な国らしい。

私の両手首には枷がつけられ、行動が制限されている。
枷なんて前世のドラマで見た以外は見たことが無い。
まして、この世界で見たことは・・・あった。
確かアンポワネット領の中心街のモリーヤの婦人洋品専門店「淑女館」で売られていた。
その時は気にも留めてなかったけど、確かに売られていたわ。
手枷を見ると、小さくMADE BY 淑女館と彫られている。
一体何なのあのお店!? 

公衆の面前で殿下を踏む。
本来なら有無を言わさず処刑されるわね。
しかし、身分差のない学園での一行事であったこと、私が殿下の婚約者であったことも踏まえて即座の処刑だけは免れたようね。

あの騒動の後、大魔法トーナメントは再開された。
なんと聖女ドロシーを倒してトーナメントを制したのは、元私の親友カロリーヌ。
魔力で圧倒的に劣るカロリーヌが、他の強敵を抑えて優勝したようだ。
私と殿下との婚約は解消。その際、母や父、陛下との間で少々揉めたらしい。
その情報は牢屋番のキャホリンが教えてくれた。
彼女は私の唯一の話し相手なのよ。


・・・・・・・・・・・

私が幽閉されてから一体どのくらい経ったのだろう?
私はみるみるやせ細り、体力も低下した。
何もせず寝ているだけの毎日。
囚人って贅沢なご身分ね。

2食昼寝つき、週に一度の清拭用の布巾が渡される以外は何もさせてもらえない。
面会すらない。
私、このままここで死ぬのかな。
これが女神が臨んだ結末?
だとしたら、全然面白くも無いですわ!


・・・・・・・・・・・


さらに数日経ったある日、数人の衛兵が私の元へ訪れた。
「メリー、出ろ。」
どうやら牢屋から出されるらしい。
話し相手になってくれたキャホリンに軽く会釈をして、牢屋から外へと連れ出された。

ああ、きっと処刑されるのだ。
転生しても短い人生だった。
これも全てあの駄女神のせいだ!
あの女が私の人生をめちゃくちゃにしたのよ。
そう思うと無性に腹が立ってきた。
死ぬ前に一度グーで殴ってやらないと気が済まない。

私は力を込めて拳を握ると、手首部分でメキッと音が鳴る。
ゴトッ。
私の両手枷が音を立てて地面に落下したのだ。

「お前、何をした!」
慌てて私の方を振り返る衛兵だったが、そこにはもう私の姿はない。
正面を向いていた彼の視界が天井方向から地面へと急加速で変化した。
私のジャーマンスープレックスが衛兵に炸裂。
綺麗な孤を描いて、彼は地面に叩きつけられたのだ。

やっちゃった。
怒ると体が勝手に動いちゃうのよね。
でもどうしよう?

やっちゃったものは仕方がない。
私は出口に向かって急ぎ足で歩いた。

地下牢の階段を上がると、まぶしい光が差し込む。
久しぶりの太陽の光、私はその眩しさに目がくらんでしまった。
少しすると目が明るさに慣れてきた。
私の目の前に2つのシルエットが浮かび上がる。
そこには専属執事のオットーと専属メイドのマーサが立っていた。

えっ何で?
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