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第3章 思春期

第32話 聖女が入学してきましたわ

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嵐の婚約発表から半年、私は王立学園の2年生になっていた。
あれ以来ヘンリー殿下との関係もどこかギクシャク。
お互いに微妙な距離を取ることが多くなった。

以前友達だったカロリーヌとは、一切口を聞いていない。
彼女が私の所に来ることは無くなった。
絵画大好きファビアンも同様だ。
彼とも話すことがなく、また元のいじめられっ子キャラに戻っていた。

侯爵令嬢のドリアーヌは変わりなく、私に絡んでくる。
いくらKOされても向かってくる、彼女の精神力は大したものだ。

学園に新入生たちも入学し、私たちは先輩となった。
個性的な新入生も多いが、一際目立っているのがこの世界初と呼ばれる聖女が入学したことだ。

彼女の名前はドロシー。
平民の出身であまり裕福な家庭では無いとのこと。
首席で入学し、新入生代表も務めた才女だ。
噂では魔法特製が過去最高クラスで、闇魔法を除く全ての属性魔法が100%以上という私以上にチート能力の持ち主だ。

人柄も良く、同級生の人気も上々。上級生にも彼女のファンが多いらしい。
オットーの情報によれば、彼女は困っている人を助けたいという視点で物事を考えるらしい。
母性が強く慈愛に満ちているように感じる人が多いが、私にとってはただの偽善だ。
彼女の言うことは、私が何とかしてやろうという上から目線に他ならない。

しかも彼女の周りはイベントに満ちている。
ヘンリー殿下に廊下でぶつかって転んだり、ファビアンが落とした画材を届けたり、ドレファス先生に誕生日のプレゼントを渡したりと男がらみが多い。

男性陣も満更でなさそうなのがまた腹が立つ。
どうやら私は彼女とはそりが合わなさそうだ。
でも聖女が後輩に登場するなんて、本当に乙女ゲームっぽくなってきたわね。


・・・・・・・・・・・

ある日の午後、私はミレーユと共にヘンリー殿下を探していた。
なんてことはない、一緒にお昼をたべるためだ。
カロリーヌとファビアンが離れてからは、昼食はほとんど殿下とミレーユと一緒に食べていた。
今日も一緒に食べようと殿下を探していたのだ。

あっ、中庭にヘンリー殿下がいますわ。

「でん・・・」
声をかけようとした私だったが、そこにはドロシーと一緒に談笑する殿下がいた。
私に見せる笑顔とは違う、全く隙だらけの笑顔だ。

ちょっと殿下、鼻水垂れてるわよ。
いくらなんでもリラックスしすぎでしょ。

もやっもやっ

今まで感じたことのないモヤモヤ感が私を襲う。
あれは私のチワワくんなのよ。
誰もが可愛がっていいわけがないわ。

私がそう感じた瞬間、私の代わりに悪役令嬢語が火を噴いた。

「あら、あなたは勇気がおありね。平民が王族に慣れ慣れしく話しかけるなんて、よっぽどの胆力が無ければ出来ませんのよ。」

しかし、彼女も負けてはいない。瞬時に私に返答したのだ。

「メリー様、お褒めに預かり光栄でございます。この学園の方針である男女・身分平等に沿ってお話してさせていただきています。」

かなり打たれ強い女のようだ。悪役令嬢語に負けずに食い付いてくる。

「それは素晴らしいですわ。ドロシー様はこの学園の校風を、ご自身で実践していますのね。
ただ、王族に対して少々行き過ぎてませんか?節度というものがございますでしょ?」

「メリー様、お気遣い頂きありがとうございます。
さすが学園一の才女とお噂されるメリー様ですね。気のお遣い方が全く違いますね。
ただ私、節度というものを理解しておりません。
一体どう言ったものか、教えていただけませんか?」

丁寧に受け止めながらも棘のついた言葉を返すドロシー。
彼女も悪役令嬢語を使っているのではなかろうか?
そう思ってしまう強さが彼女にはある。

やるわねあなた。
この恵ちゃんを本気にさせるなんて、前世での私の妹に残しておいたアイスを食べられた時以来よ。

「ご質問承りましたわ。節度というのは行き過ぎのない適当な程度のことは言いますのよ。
あなたご自身の姿を鏡で見たことはございませんの?
髪の毛がところどころはねていますわ。服もずいぶん皺が寄っていますわね。
お化粧もずいぶん雑ですわ。
王族・平民関係なく、女性としてその姿はどうかと思いますわよ。
まずはご自身の姿を鏡で見てみたらよろしいのじゃなくて?」

ドロシーははっとした表情で私を見る。
さすがに少し恥ずかしくなったようだ。みるみる彼女の顔が赤くなる。

「メリー様、ご忠告感謝します。それでは私、メリー様のおっしゃる通りお化粧直しに行ってまいります。
ヘンリー殿下、私ごときとお話して頂き、ありがとうございました。」

「お、おう。」
ヘンリー殿下は、どもりながら返答する。

殿下、目が完全に泳いでますわよ。
女って恐ええって顔に書いておりますわ。
後で油性マジックでしっかりと書いてあげますわね。

ドロシーはパタパタと音を立てながら、1学年の校舎へと走っていった。
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