32 / 70
第3章 思春期
第32話 聖女が入学してきましたわ
しおりを挟む嵐の婚約発表から半年、私は王立学園の2年生になっていた。
あれ以来ヘンリー殿下との関係もどこかギクシャク。
お互いに微妙な距離を取ることが多くなった。
以前友達だったカロリーヌとは、一切口を聞いていない。
彼女が私の所に来ることは無くなった。
絵画大好きファビアンも同様だ。
彼とも話すことがなく、また元のいじめられっ子キャラに戻っていた。
侯爵令嬢のドリアーヌは変わりなく、私に絡んでくる。
いくらKOされても向かってくる、彼女の精神力は大したものだ。
学園に新入生たちも入学し、私たちは先輩となった。
個性的な新入生も多いが、一際目立っているのがこの世界初と呼ばれる聖女が入学したことだ。
彼女の名前はドロシー。
平民の出身であまり裕福な家庭では無いとのこと。
首席で入学し、新入生代表も務めた才女だ。
噂では魔法特製が過去最高クラスで、闇魔法を除く全ての属性魔法が100%以上という私以上にチート能力の持ち主だ。
人柄も良く、同級生の人気も上々。上級生にも彼女のファンが多いらしい。
オットーの情報によれば、彼女は困っている人を助けたいという視点で物事を考えるらしい。
母性が強く慈愛に満ちているように感じる人が多いが、私にとってはただの偽善だ。
彼女の言うことは、私が何とかしてやろうという上から目線に他ならない。
しかも彼女の周りはイベントに満ちている。
ヘンリー殿下に廊下でぶつかって転んだり、ファビアンが落とした画材を届けたり、ドレファス先生に誕生日のプレゼントを渡したりと男がらみが多い。
男性陣も満更でなさそうなのがまた腹が立つ。
どうやら私は彼女とはそりが合わなさそうだ。
でも聖女が後輩に登場するなんて、本当に乙女ゲームっぽくなってきたわね。
・・・・・・・・・・・
ある日の午後、私はミレーユと共にヘンリー殿下を探していた。
なんてことはない、一緒にお昼をたべるためだ。
カロリーヌとファビアンが離れてからは、昼食はほとんど殿下とミレーユと一緒に食べていた。
今日も一緒に食べようと殿下を探していたのだ。
あっ、中庭にヘンリー殿下がいますわ。
「でん・・・」
声をかけようとした私だったが、そこにはドロシーと一緒に談笑する殿下がいた。
私に見せる笑顔とは違う、全く隙だらけの笑顔だ。
ちょっと殿下、鼻水垂れてるわよ。
いくらなんでもリラックスしすぎでしょ。
もやっもやっ
今まで感じたことのないモヤモヤ感が私を襲う。
あれは私のチワワくんなのよ。
誰もが可愛がっていいわけがないわ。
私がそう感じた瞬間、私の代わりに悪役令嬢語が火を噴いた。
「あら、あなたは勇気がおありね。平民が王族に慣れ慣れしく話しかけるなんて、よっぽどの胆力が無ければ出来ませんのよ。」
しかし、彼女も負けてはいない。瞬時に私に返答したのだ。
「メリー様、お褒めに預かり光栄でございます。この学園の方針である男女・身分平等に沿ってお話してさせていただきています。」
かなり打たれ強い女のようだ。悪役令嬢語に負けずに食い付いてくる。
「それは素晴らしいですわ。ドロシー様はこの学園の校風を、ご自身で実践していますのね。
ただ、王族に対して少々行き過ぎてませんか?節度というものがございますでしょ?」
「メリー様、お気遣い頂きありがとうございます。
さすが学園一の才女とお噂されるメリー様ですね。気のお遣い方が全く違いますね。
ただ私、節度というものを理解しておりません。
一体どう言ったものか、教えていただけませんか?」
丁寧に受け止めながらも棘のついた言葉を返すドロシー。
彼女も悪役令嬢語を使っているのではなかろうか?
そう思ってしまう強さが彼女にはある。
やるわねあなた。
この恵ちゃんを本気にさせるなんて、前世での私の妹に残しておいたアイスを食べられた時以来よ。
「ご質問承りましたわ。節度というのは行き過ぎのない適当な程度のことは言いますのよ。
あなたご自身の姿を鏡で見たことはございませんの?
髪の毛がところどころはねていますわ。服もずいぶん皺が寄っていますわね。
お化粧もずいぶん雑ですわ。
王族・平民関係なく、女性としてその姿はどうかと思いますわよ。
まずはご自身の姿を鏡で見てみたらよろしいのじゃなくて?」
ドロシーははっとした表情で私を見る。
さすがに少し恥ずかしくなったようだ。みるみる彼女の顔が赤くなる。
「メリー様、ご忠告感謝します。それでは私、メリー様のおっしゃる通りお化粧直しに行ってまいります。
ヘンリー殿下、私ごときとお話して頂き、ありがとうございました。」
「お、おう。」
ヘンリー殿下は、どもりながら返答する。
殿下、目が完全に泳いでますわよ。
女って恐ええって顔に書いておりますわ。
後で油性マジックでしっかりと書いてあげますわね。
ドロシーはパタパタと音を立てながら、1学年の校舎へと走っていった。
0
お気に入りに追加
37
あなたにおすすめの小説
悪役令嬢になりたくないので、攻略対象をヒロインに捧げます
久乃り
恋愛
乙女ゲームの世界に転生していた。
その記憶は突然降りてきて、記憶と現実のすり合わせに毎日苦労する羽目になる元日本の女子高校生佐藤美和。
1周回ったばかりで、2週目のターゲットを考えていたところだったため、乙女ゲームの世界に入り込んで嬉しい!とは思ったものの、自分はヒロインではなく、ライバルキャラ。ルート次第では悪役令嬢にもなってしまう公爵令嬢アンネローゼだった。
しかも、もう学校に通っているので、ゲームは進行中!ヒロインがどのルートに進んでいるのか確認しなくては、自分の立ち位置が分からない。いわゆる破滅エンドを回避するべきか?それとも、、勝手に動いて自分がヒロインになってしまうか?
自分の死に方からいって、他にも転生者がいる気がする。そのひとを探し出さないと!
自分の運命は、悪役令嬢か?破滅エンドか?ヒロインか?それともモブ?
ゲーム修正が入らないことを祈りつつ、転生仲間を探し出し、この乙女ゲームの世界を生き抜くのだ!
他サイトにて別名義で掲載していた作品です。
悪役令嬢は婚約破棄したいのに王子から溺愛されています。
白雪みなと
恋愛
この世界は乙女ゲームであると気づいた悪役令嬢ポジションのクリスタル・フェアリィ。
筋書き通りにやらないとどうなるか分かったもんじゃない。それに、貴族社会で生きていける気もしない。
ということで、悪役令嬢として候補に嫌われ、国外追放されるよう頑張るのだったが……。
王子さま、なぜ私を溺愛してらっしゃるのですか?
【完結】悪役令嬢のトゥルーロマンスは断罪から☆
白雨 音
恋愛
『生まれ変る順番を待つか、断罪直前の悪役令嬢の人生を代わって生きるか』
女神に選択を迫られた時、迷わずに悪役令嬢の人生を選んだ。
それは、その世界が、前世のお気に入り乙女ゲームの世界観にあり、
愛すべき推し…ヒロインの義兄、イレールが居たからだ!
彼に会いたい一心で、途中転生させて貰った人生、あなたへの愛に生きます!
異世界に途中転生した悪役令嬢ヴィオレットがハッピーエンドを目指します☆
《完結しました》
オバサンが転生しましたが何も持ってないので何もできません!
みさちぃ
恋愛
50歳近くのおばさんが異世界転生した!
転生したら普通チートじゃない?何もありませんがっ!!
前世で苦しい思いをしたのでもう一人で生きて行こうかと思います。
とにかく目指すは自由気ままなスローライフ。
森で調合師して暮らすこと!
ひとまず読み漁った小説に沿って悪役令嬢から国外追放を目指しますが…
無理そうです……
更に隣で笑う幼なじみが気になります…
完結済みです。
なろう様にも掲載しています。
副題に*がついているものはアルファポリス様のみになります。
エピローグで完結です。
番外編になります。
※完結設定してしまい新しい話が追加できませんので、以後番外編載せる場合は別に設けるかなろう様のみになります。
【完結】ヒロインに転生しましたが、モブのイケオジが好きなので、悪役令嬢の婚約破棄を回避させたつもりが、やっぱり婚約破棄されている。
樹結理(きゆり)
恋愛
「アイリーン、貴女との婚約は破棄させてもらう」
大勢が集まるパーティの場で、この国の第一王子セルディ殿下がそう宣言した。
はぁぁあ!? なんでどうしてそうなった!!
私の必死の努力を返してー!!
乙女ゲーム『ラベルシアの乙女』の世界に転生してしまった日本人のアラサー女子。
気付けば物語が始まる学園への入学式の日。
私ってヒロインなの!?攻略対象のイケメンたちに囲まれる日々。でも!私が好きなのは攻略対象たちじゃないのよー!!
私が好きなのは攻略対象でもなんでもない、物語にたった二回しか出てこないイケオジ!
所謂モブと言っても過言ではないほど、関わることが少ないイケオジ。
でもでも!せっかくこの世界に転生出来たのなら何度も見たイケメンたちよりも、レアなイケオジを!!
攻略対象たちや悪役令嬢と友好的な関係を築きつつ、悪役令嬢の婚約破棄を回避しつつ、イケオジを狙う十六歳、侯爵令嬢!
必死に悪役令嬢の婚約破棄イベントを回避してきたつもりが、なんでどうしてそうなった!!
やっぱり婚約破棄されてるじゃないのー!!
必死に努力したのは無駄足だったのか!?ヒロインは一体誰と結ばれるのか……。
※この物語は作者の世界観から成り立っております。正式な貴族社会をお望みの方はご遠慮ください。
※この作品は小説家になろう、カクヨムで完結済み。
王様とお妃様は今日も蜜月中~一目惚れから始まる溺愛生活~
花乃 なたね
恋愛
貴族令嬢のエリーズは幼いうちに両親を亡くし、新たな家族からは使用人扱いを受け孤独に過ごしていた。
しかし彼女はとあるきっかけで、優れた政の手腕、更には人間離れした美貌を持つ若き国王ヴィオルの誕生日を祝う夜会に出席することになる。
エリーズは初めて見るヴィオルの姿に魅せられるが、叶わぬ恋として想いを胸に秘めたままにしておこうとした。
…が、エリーズのもとに舞い降りたのはヴィオルからのダンスの誘い、そしてまさかの求婚。なんとヴィオルも彼女に一目惚れをしたのだという。
とんとん拍子に話は進み、ヴィオルの元へ嫁ぎ晴れて王妃となったエリーズ。彼女を待っていたのは砂糖菓子よりも甘い溺愛生活だった。
可愛い妻をとにかくベタベタに可愛がりたい王様と、夫につり合う女性になりたいと頑張る健気な王妃様の、好感度最大から始まる物語。
※1色々と都合の良いファンタジー世界が舞台です。
※2直接的な性描写はありませんが、情事を匂わせる表現が多々出てきますためご注意ください。
この異世界転生の結末は
冬野月子
恋愛
五歳の時に乙女ゲームの世界に悪役令嬢として転生したと気付いたアンジェリーヌ。
一体、自分に待ち受けているのはどんな結末なのだろう?
※「小説家になろう」にも投稿しています。
別に要りませんけど?
ユウキ
恋愛
「お前を愛することは無い!」
そう言ったのは、今日結婚して私の夫となったネイサンだ。夫婦の寝室、これから初夜をという時に投げつけられた言葉に、私は素直に返事をした。
「……別に要りませんけど?」
※Rに触れる様な部分は有りませんが、情事を指す言葉が出ますので念のため。
※なろうでも掲載中
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる