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転生して4日目・5日目は、あっという間に過ぎた。
オアシスを一周してみたりしたが、人にも会えず、特に何も見つからなかった。
その分、シェルやコーマとさらに仲良くなれた(と思う)。
ーーー事件が起こったのは、6日目の朝だった。
いつも通りに起き、そこらの木の実を拾って、朝御飯を食べた。
スイカとメロンを足したような実で、ジュースが作れたのが収穫だった。
シェルが昨日の夜にコーマに人化を教え込んだらしく、披露してくれた。耳と尻尾は出ていたが、初めてにしては上出来。『耳と尻尾も隠せるようになろうな』って言いながら撫でてやったら、すごい勢いで尻尾をぶんぶん振っていた。可愛かった。
そういえば僕は、ちょっぴり身長が伸びた。少なくとも、人化した2人よりは背が高くなった。
将来、どれくらいまで伸びるのだろうか?
それはともかく。
朝食後、森に出かけた。パトロールと人探しの為だ。
ガサガサと、茂みを掻き分けながら進む。獣道だから通り難いが、狩りをしている人は、きっとここを通る筈。獣を追うのに獣道を使わない人などいないだろう。
ちなみに、シェルとコーマはちゃんと人化している。うっかり撃たれたら困るからだ。人間とちゃんと認識さえされれば、撃たれはしないだろうと思う。体のパーツは隠せていないが、何とかなるだろう。
ガサガサ、てくてく。
と、急にすぐそばで銃声がした。
かなり近い。やっと人に会えるのか!
期待しながら進むと、ぽっかりと開けた芝生の空き地に出た。男が、こっちに向かって銃を向けている。
「ひっ!」
思わず喉の奥から悲鳴が出た。両手が反射的に上がる。視界の端では、2人もガタガタと震えて怯えているのが確認できる。
「何だ、人間か」
男はボソッと言い、すっと銃を降ろした。
「危なかったな、坊主たち。危うく撃ちかけたぞ」
え。
「ここらでは、野犬がよく出るんだ。その野犬を狩るのが、俺の仕事」
野犬って・・・。よく出くわさずに済んだな。出くわしてたら、大惨事になっていたかもしれない。危なかった。
「そうだ、まだ名乗っていなかったな。俺はジューク。野犬狩りのハンターだ」
「あ、すみません。僕はリョウと言います」
僕が名乗ると、2人も次々と名乗った。
「シェルです」
「コーマです」
と、ふっと男・・・ジュークさんが笑った。
「君らみたいな素直な子供らは久しぶりだ」
普通に名乗っただけだが・・・素直の分類に入るのか?
「そうだ君たち、行く当てはあるのか?」
思い出したように、ジュークさんが言った。ちょっと肩身が狭い。
「それが・・・ないんです」
僕が言うと、後ろで2人もこくこくと頷いているのが分かった。
「んー・・・そうだ」
ちょっと悩んだような素振りを見せるジュークさん。そして、言った。
「君ら、俺についてこないか?1番近くの里まで、送り届けてやるよ。今回は野犬が狩れなかったし、ちょうど帰ろうと思っていたところだったからな」
おおっ!
やっと、いっぱい人がいる所に戻れるのか!前世以来だな。
「良いんですか⁉︎」
僕が身を乗り出して尋ねると、
「何だ坊主、えらい乗り気だな。そんなに人が好きなのか?」
と苦笑されてしまった。単純に嬉しかっただけなんだが。
「着いてこい」
オアシスの外に向かって行くジュークさんに着いて行く。流石は大人の男の人だ。歩幅がかなり大きい。油断すると置いていかれて、見失いそうになる。
オアシスの外は、相変わらずの荒野だった。名残惜しくて、振り返る。何日かお世話になったこのオアシスとも、きっと当分お別れだろう。たった数日だったのに、まるで家のように感じていた自分に気付く。ちょっと驚きだ。人間はこんな短時間でも、情が芽生えるものなのだな。
くるっとオアシスの外を回って行くと、突然前にラクダが現れた。2頭いる。
1頭が、僕に顔を近付けてきた。
「子供とは、久しぶりねぇ。数年ぶりぐらいかしら。坊やたち、この人に滅多やたら懐くんじゃないわよ。子供の扱い、ものすごく下手だからね?」
思わず、笑ってしまった。確かにジュークさんは、無愛想だ。
「でもジュークさんは優しい人ですよ?わざわざ僕らを拾ってくれたんですから」
ラクダが驚いたように一歩引いた。
「おっと、見た目より賢いようね。舐めてたわ」
僕ら、ラクダに舐められてたのか。
「そこまでにしろ」
さっきまで喋っていたのとは別のラクダが、口を開いた。
「あんまり無駄口叩いってっと、また鞭で引張たかれっぞ」
ジュークさんの意外な一面を知ってしまった瞬間だった。
「そうね」
僕に話しかけてきていたラクダも、黙った。
ジュークさんは僕らが喋っているのには我関せずという感じで、黙々と手綱や座席の鞍の準備をしている。
まだかかりそうだったので、僕はラクダに自己紹介した。
「僕はリョウと言います。こっちはコーマで、こっちはシェルです」
ついでに2人もまとめて言った。2人はやっぱり人と話すのが苦手らしく、ホッとした顔をしている。てか人見知りなのか?まあ、さっきの自己紹介で一言しか喋らなかったのを見たら、大体分かる。
ラクダも、名乗ってくれた。メスの方はラッテラ、オスの方はスルバというらしい。何処から名付けたのか、さっぱり分からない名前だ。
そんなこんなのうちに、準備が出来たらしい。僕らを1人ずつ持ち上げて、鞍の上に乗せてくれた。
コーマはラッテラの上にジュークさんと一緒に、シェルと僕はスルバの上に乗った。
「揺らさねえようにするから、安心して乗っとけ」
ニヤッと笑ってスルバは言った。怪しい感じの笑みだ。当てにして良いのか、悪いのか。
ーーーまだ、この時にも思っていなかった。
ーーー僕が口を滑らせたことで、悲劇が起こること。
オアシスを一周してみたりしたが、人にも会えず、特に何も見つからなかった。
その分、シェルやコーマとさらに仲良くなれた(と思う)。
ーーー事件が起こったのは、6日目の朝だった。
いつも通りに起き、そこらの木の実を拾って、朝御飯を食べた。
スイカとメロンを足したような実で、ジュースが作れたのが収穫だった。
シェルが昨日の夜にコーマに人化を教え込んだらしく、披露してくれた。耳と尻尾は出ていたが、初めてにしては上出来。『耳と尻尾も隠せるようになろうな』って言いながら撫でてやったら、すごい勢いで尻尾をぶんぶん振っていた。可愛かった。
そういえば僕は、ちょっぴり身長が伸びた。少なくとも、人化した2人よりは背が高くなった。
将来、どれくらいまで伸びるのだろうか?
それはともかく。
朝食後、森に出かけた。パトロールと人探しの為だ。
ガサガサと、茂みを掻き分けながら進む。獣道だから通り難いが、狩りをしている人は、きっとここを通る筈。獣を追うのに獣道を使わない人などいないだろう。
ちなみに、シェルとコーマはちゃんと人化している。うっかり撃たれたら困るからだ。人間とちゃんと認識さえされれば、撃たれはしないだろうと思う。体のパーツは隠せていないが、何とかなるだろう。
ガサガサ、てくてく。
と、急にすぐそばで銃声がした。
かなり近い。やっと人に会えるのか!
期待しながら進むと、ぽっかりと開けた芝生の空き地に出た。男が、こっちに向かって銃を向けている。
「ひっ!」
思わず喉の奥から悲鳴が出た。両手が反射的に上がる。視界の端では、2人もガタガタと震えて怯えているのが確認できる。
「何だ、人間か」
男はボソッと言い、すっと銃を降ろした。
「危なかったな、坊主たち。危うく撃ちかけたぞ」
え。
「ここらでは、野犬がよく出るんだ。その野犬を狩るのが、俺の仕事」
野犬って・・・。よく出くわさずに済んだな。出くわしてたら、大惨事になっていたかもしれない。危なかった。
「そうだ、まだ名乗っていなかったな。俺はジューク。野犬狩りのハンターだ」
「あ、すみません。僕はリョウと言います」
僕が名乗ると、2人も次々と名乗った。
「シェルです」
「コーマです」
と、ふっと男・・・ジュークさんが笑った。
「君らみたいな素直な子供らは久しぶりだ」
普通に名乗っただけだが・・・素直の分類に入るのか?
「そうだ君たち、行く当てはあるのか?」
思い出したように、ジュークさんが言った。ちょっと肩身が狭い。
「それが・・・ないんです」
僕が言うと、後ろで2人もこくこくと頷いているのが分かった。
「んー・・・そうだ」
ちょっと悩んだような素振りを見せるジュークさん。そして、言った。
「君ら、俺についてこないか?1番近くの里まで、送り届けてやるよ。今回は野犬が狩れなかったし、ちょうど帰ろうと思っていたところだったからな」
おおっ!
やっと、いっぱい人がいる所に戻れるのか!前世以来だな。
「良いんですか⁉︎」
僕が身を乗り出して尋ねると、
「何だ坊主、えらい乗り気だな。そんなに人が好きなのか?」
と苦笑されてしまった。単純に嬉しかっただけなんだが。
「着いてこい」
オアシスの外に向かって行くジュークさんに着いて行く。流石は大人の男の人だ。歩幅がかなり大きい。油断すると置いていかれて、見失いそうになる。
オアシスの外は、相変わらずの荒野だった。名残惜しくて、振り返る。何日かお世話になったこのオアシスとも、きっと当分お別れだろう。たった数日だったのに、まるで家のように感じていた自分に気付く。ちょっと驚きだ。人間はこんな短時間でも、情が芽生えるものなのだな。
くるっとオアシスの外を回って行くと、突然前にラクダが現れた。2頭いる。
1頭が、僕に顔を近付けてきた。
「子供とは、久しぶりねぇ。数年ぶりぐらいかしら。坊やたち、この人に滅多やたら懐くんじゃないわよ。子供の扱い、ものすごく下手だからね?」
思わず、笑ってしまった。確かにジュークさんは、無愛想だ。
「でもジュークさんは優しい人ですよ?わざわざ僕らを拾ってくれたんですから」
ラクダが驚いたように一歩引いた。
「おっと、見た目より賢いようね。舐めてたわ」
僕ら、ラクダに舐められてたのか。
「そこまでにしろ」
さっきまで喋っていたのとは別のラクダが、口を開いた。
「あんまり無駄口叩いってっと、また鞭で引張たかれっぞ」
ジュークさんの意外な一面を知ってしまった瞬間だった。
「そうね」
僕に話しかけてきていたラクダも、黙った。
ジュークさんは僕らが喋っているのには我関せずという感じで、黙々と手綱や座席の鞍の準備をしている。
まだかかりそうだったので、僕はラクダに自己紹介した。
「僕はリョウと言います。こっちはコーマで、こっちはシェルです」
ついでに2人もまとめて言った。2人はやっぱり人と話すのが苦手らしく、ホッとした顔をしている。てか人見知りなのか?まあ、さっきの自己紹介で一言しか喋らなかったのを見たら、大体分かる。
ラクダも、名乗ってくれた。メスの方はラッテラ、オスの方はスルバというらしい。何処から名付けたのか、さっぱり分からない名前だ。
そんなこんなのうちに、準備が出来たらしい。僕らを1人ずつ持ち上げて、鞍の上に乗せてくれた。
コーマはラッテラの上にジュークさんと一緒に、シェルと僕はスルバの上に乗った。
「揺らさねえようにするから、安心して乗っとけ」
ニヤッと笑ってスルバは言った。怪しい感じの笑みだ。当てにして良いのか、悪いのか。
ーーーまだ、この時にも思っていなかった。
ーーー僕が口を滑らせたことで、悲劇が起こること。
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