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12.奇跡

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「レオ!!」
「ふっ、こやつが死ねばソフィア!お前は立ち直れるか?お前の命を取らないのは可愛い妹へのせめてもの情けだと思え。」
「なんで……」
「目的は達した。幼子の胸を矢が貫通したのだ。助かりはしない。引くぞ!」

テオドール達が姿を消し、血まみれになったレオンハルトをソフィアは抱きしめた。


「ソフィア様!急いで王宮へ!王宮の治癒士に診せるのです!!」
「マリベル……レオが息をしてない……」
「時間がありません、王宮へ向かいましょう!!私がレオンハルト様をお担ぎします」


青い魔法師団の制服に染みたレオンハルトの血。
抱きかかえたマリベルの白い近衛騎士の制服が赤く染っていく。

「心臓はまだ動いている……お前たちはソフィア様の警護を!私は先を急ぐ!」
「はっ!!」

スラムは帝都の外にある。
大きな城は見えても、かなりの距離があった。

「間に合え!」

レオンハルトの弱くなっていく心臓の音を感じながら、ひたすら走った。

まだ、帝都の街に差し掛かったところ。

もう微弱の心音しか感じ取れない。
走っているなら、なおさら心音を確認しにくい。

だが、そこに。


「マリベル。レオを……」

「え……」

「さあ、早く!」

「セリシア様……?どうして...城から出てしまっては……」

「母の直感かしらね?子供を助けたいと思うのは自然な事よ?」

目の前にはセリシアの姿があった。

「レオ。ちゃんとご飯を食べて。幸せになるのよ。《ハイヒール上級回復》」

それを唱え終えると、レオンハルトの傷は塞がり、心音が音を立て始めた。
魔力循環不全症のセリシアが上級魔法を使うと命は無い。
もっと言うなら城から出た時点で魔道具の効果はなく、体調が悪化しているセリシアにとって危険な事なのだ。

それはセリシアがレオンハルトの危機を察知したという事だ。

セリシアは優しく微笑み。
マリベルは、セリシアの最後の覚悟をしっかりと、目に焼き付けた。

「ママ?」
「起きたのね、レオ。ごめんね。ママはレオを助けられて満足しちゃったわ。元気に過ごすのよ?皇帝になんてならなくていいわ。自由に生きなさい。それがママの願いよ。」
「何言ってるの?」
「産まれてきてくれてありがとう。レオ。愛してるわ」


それはセリシアからの最後のキスだった。

「貴方が産まれてくれて、ママは幸せだったよ。」

キスをしたまま最後の言葉を述べた。

魔力循環不全症。
それは体内の魔力が減少する病である。
魔力枯渇状態の為、臓器への影響が元で衰弱していく。

だが、セリシアの清らかな魔力は死の寸前に戻った。

それは、子を想う母の奇跡なのか?
はたまた、確認されていないだけで、魔力循環不全症の定められた現象なのかは分からない。

だが、子を想う母の気持ちの奇跡は起きた。

キスをしたことにより、溢れた魔力が口からレオンハルトの中へと付与されたのだ。

その瞬間、レオンハルトは今まで感じた事の無い魔力を帯びた感じがした。

レオンハルトの魔力とセリシアの魔力が融合し、決して尽きることの無い魔力を得た瞬間だった。

どの文献を調べても、人から人への魔力付与の実例はない。

まさに奇跡。

ただ、それを喜べる精神力はレオンハルトにはなかった。

回復したとはいえ、多量の血を流した俺はショックも合わさり意識を失った。

数日後……
悲しみに包まれたセリシアの葬儀。
人目をはばからず抱きしめてくれているソフィア姉さん。

俺が立ち直るのには時間が掛かった。
気が付けば年月が経ち俺は10歳になっていた。
レオンハルトの暗殺未遂。
セリシアの死。
皇帝はそれを許さず。
3年かけてテオドール兄様を逆賊にしたてあげて、仇を打った。それも立ち直る原因だったのかもしれない。


セリシアの最後の願い。

「自由に生きなさい」

確かにそうだ。
前世のようにガムシャラに生きるより、俺は自由に生きよう。

あの時から魔力枯渇に悩まされることは無い。
自由自在に魔法を操れる。
肉体強化をする事で剣も力強く振れる。

いま、俺は最強の魔導士であり、最強の剣士となっていた。



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