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第3章
第11夜 彼女保管庫(4)
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ここに並んでいるのは保管容器なんかじゃない。これが「プリンター」植物だ!
「これは、先輩たちが送ってきたものだったんですね……」
きっと、哲の言っていたとおりだ。落ち着いてきた頭で考えると、地球の潮汐ロックも異星人の仕業だと考えるのが素直なんだろう。地球とあの星の環境を近づける、テラフォーミングってやつだ。ということは、先輩たち異星人の目的は----
「豪快すぎません?」
「ゴメン……って私が謝ることじゃないけど」
そう言って、先輩はピンク色の舌をちょこんと出した。
「いいですよ」
俺だって人類代表じゃない。ただ初恋の相手が、たまたま異星人だっただけだ。たまたま、ね。
彼女たちが地球に移住してくるのと同じ方法で、人類は系外惑星に移住しようとしていたわけだ。それが〈移眠〉。結局、異星人の移住に押し出されるようにして人類は地球を捨てる羽目になった。けど、計画は進んでいて、どうせ元には戻れない。人類と異星人は、このまま惑星を交換してしまうのか……?
「先輩。なんで、あの星に戻らなかったんですか?」
「それ聞いちゃう?」
「聞いちゃいます」
俺の質問に、先輩は少し赤面した。俺は、先輩が長い髪を耳にかけ、ためらいながら何かを話そうとするのをじっと眺めた。
「――キミのせい」
そこまで言って、先輩は恥ずかしそうに俯いてしまった。俺が先輩の顔をゆっくりと覗き込むと、彼女はいよいよ頬を赤らめた。
「だからぁ、キミに、恋しちゃったせいだって!」
「あ……」
その言葉に、俺の心臓が高鳴る。でも、先輩の表情に悲しみの影が見えた。
〈プリンター〉植物で恋愛感情を送れない問題は、先輩たちも同じだった。てっきり人類の技術不足だと思ってたいから、ちょっと驚いた。
「蛍くんのこと、忘れたくなかったから」
なんとなく、先輩は何度か地球とあの星を行き来しているように感じる。確証はないけど、少なくとも過去に1回、そして、今後も1往復はするのだろう。さっき見た〈プリンター〉で印刷されている先輩の身体は、先輩が次回来たときに使う予定のものなのだろう。そう考えるのが辻褄が合う。「要らないなら俺がもらいます」と提案すると、先輩に速攻で拒否された。顔を赤らめてブンブンと手を振るしぐさが可愛い。
「どうして……人間の姿をしているんですか?」
好奇心に混じるわずかな恐れが先輩に気づかれないよう、至って自然体の表情を取り繕った。先輩は僅かに目を伏せ、言葉を選ぶように少し間を置いてから答えた。
「通信相手とプロトコルをあわせるのは重要だからね」
「はい?」
全然わからなくて、首を傾げた。哲なら分かるかも。でも、ここにはいない。
「人間が聞き取れる高さの音声で話したり、人間が処理できるちょうどいい情報量の言語を使って、となると、結局は人間のかたちをしているのが一番なのよ」
「――なるほど」
そう言っても、頭の中は「?」だらけだ。
「擬態、って感じですか?」
「んー、むしろ、愛かな」
「愛?」
息を呑む。目の前の少女が全然違う姿かもしれない。戸惑いと、不思議な興奮を感じた。
「じゃあ、本当の姿は……?」
答えを聞くのは少し怖い。
「あはは。それ聞いてどうするの?」
「えっ、あ、いや……」
俺が言葉に詰まると、先輩は微笑んだ。人間と同じ温かい笑顔で、心が和んだ。
「私が蛍くんのことを気持ち悪がらない程度には、似てる、とでも言っておこう」
八重歯を見せて意地悪っぽく笑う先輩の表情に、俺は期待と不安が入り混じった複雑な感情を抱いた。目の前にいる先輩が、全く異なる存在だという事実と、それでも彼女への気持ちが変わらないという自覚に、戸惑いを覚えた。
「環境が似ていると、形は似てくるものなのよ。『収斂進化』っていうんだけどね」
「はぁ……」
先輩は気軽に笑うけど、俺は言葉が出ない。でも、勇気を出してもう一つの疑問を口にした。
「地球には、何しに来たんですか?」
「これは、先輩たちが送ってきたものだったんですね……」
きっと、哲の言っていたとおりだ。落ち着いてきた頭で考えると、地球の潮汐ロックも異星人の仕業だと考えるのが素直なんだろう。地球とあの星の環境を近づける、テラフォーミングってやつだ。ということは、先輩たち異星人の目的は----
「豪快すぎません?」
「ゴメン……って私が謝ることじゃないけど」
そう言って、先輩はピンク色の舌をちょこんと出した。
「いいですよ」
俺だって人類代表じゃない。ただ初恋の相手が、たまたま異星人だっただけだ。たまたま、ね。
彼女たちが地球に移住してくるのと同じ方法で、人類は系外惑星に移住しようとしていたわけだ。それが〈移眠〉。結局、異星人の移住に押し出されるようにして人類は地球を捨てる羽目になった。けど、計画は進んでいて、どうせ元には戻れない。人類と異星人は、このまま惑星を交換してしまうのか……?
「先輩。なんで、あの星に戻らなかったんですか?」
「それ聞いちゃう?」
「聞いちゃいます」
俺の質問に、先輩は少し赤面した。俺は、先輩が長い髪を耳にかけ、ためらいながら何かを話そうとするのをじっと眺めた。
「――キミのせい」
そこまで言って、先輩は恥ずかしそうに俯いてしまった。俺が先輩の顔をゆっくりと覗き込むと、彼女はいよいよ頬を赤らめた。
「だからぁ、キミに、恋しちゃったせいだって!」
「あ……」
その言葉に、俺の心臓が高鳴る。でも、先輩の表情に悲しみの影が見えた。
〈プリンター〉植物で恋愛感情を送れない問題は、先輩たちも同じだった。てっきり人類の技術不足だと思ってたいから、ちょっと驚いた。
「蛍くんのこと、忘れたくなかったから」
なんとなく、先輩は何度か地球とあの星を行き来しているように感じる。確証はないけど、少なくとも過去に1回、そして、今後も1往復はするのだろう。さっき見た〈プリンター〉で印刷されている先輩の身体は、先輩が次回来たときに使う予定のものなのだろう。そう考えるのが辻褄が合う。「要らないなら俺がもらいます」と提案すると、先輩に速攻で拒否された。顔を赤らめてブンブンと手を振るしぐさが可愛い。
「どうして……人間の姿をしているんですか?」
好奇心に混じるわずかな恐れが先輩に気づかれないよう、至って自然体の表情を取り繕った。先輩は僅かに目を伏せ、言葉を選ぶように少し間を置いてから答えた。
「通信相手とプロトコルをあわせるのは重要だからね」
「はい?」
全然わからなくて、首を傾げた。哲なら分かるかも。でも、ここにはいない。
「人間が聞き取れる高さの音声で話したり、人間が処理できるちょうどいい情報量の言語を使って、となると、結局は人間のかたちをしているのが一番なのよ」
「――なるほど」
そう言っても、頭の中は「?」だらけだ。
「擬態、って感じですか?」
「んー、むしろ、愛かな」
「愛?」
息を呑む。目の前の少女が全然違う姿かもしれない。戸惑いと、不思議な興奮を感じた。
「じゃあ、本当の姿は……?」
答えを聞くのは少し怖い。
「あはは。それ聞いてどうするの?」
「えっ、あ、いや……」
俺が言葉に詰まると、先輩は微笑んだ。人間と同じ温かい笑顔で、心が和んだ。
「私が蛍くんのことを気持ち悪がらない程度には、似てる、とでも言っておこう」
八重歯を見せて意地悪っぽく笑う先輩の表情に、俺は期待と不安が入り混じった複雑な感情を抱いた。目の前にいる先輩が、全く異なる存在だという事実と、それでも彼女への気持ちが変わらないという自覚に、戸惑いを覚えた。
「環境が似ていると、形は似てくるものなのよ。『収斂進化』っていうんだけどね」
「はぁ……」
先輩は気軽に笑うけど、俺は言葉が出ない。でも、勇気を出してもう一つの疑問を口にした。
「地球には、何しに来たんですか?」
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