#星色卒業式 〜きみは明日、あの星に行く〜

嶌田あき

文字の大きさ
上 下
31 / 50
第3章

第10夜 異星入植録(5)

しおりを挟む
 冷たい夜風が頬をなでる中、俺たち3人は重い足取りで天文ドームへ向かっていた。未来と哲の白い息を見て、俺は身震いした。手に握りしめた先輩のノートが、鉛のように重い。

 ドームの扉を開けると、懐かしい埃っぽい匂いが鼻をくすぐった。壁の星座早見盤がかすかに揺れている。俺たちは無言でテーブルを囲んだ。

「蛍だけで読んで」

 未来が震える声で言った。哲は眼鏡を直しながら頷く。

「ああ、きっとひかり先輩、蛍に見てほしかったんだ」

 彼の声は冷静を装っているが、緊張が滲んでいた。
 俺は深呼吸をして、ゆっくりとノートを開いた。表紙をめくる音が、異様に大きく響く。最初のページには、先輩の整った字で「異星入植録」と書かれていた。その文字を見た瞬間、俺の背筋に冷たいものが走った。

「異星……?」

 俺が呟くと、未来が首を傾げた。

「どうしたの?」
「あ、いや……先輩のユーモアかな。部長としての活動メモかも」

 そう言ってみたものの、まったく確信はない。3人で顔を見合わせ、恐る恐る次のページをめくった。

 4月15日——今日、蛍、未来、哲が天文部に入部してくれた。彼らの目の輝きに言葉にならない喜びを感じた。この星での孤独が少し和らいだ気がする。蛍の真っすぐな瞳、未来の優しい笑顔、哲の知的な眼差し。みんなと過ごす時間が使命を忘れさせそうで、怖いくらいだ。

 俺は息を呑んだ。先輩の孤独感が胸に突き刺さる。横目で見ると、未来は目を潤ませ、哲は眉をひそめていた。

 5月3日——不眠症が続く私を、蛍が屋上に連れ出してくれた。星空の下で寝袋に横たわり、星座の話をする。彼の音楽を聴いて心が温かくなる。でも、彼の「どうせ」という言葉に隠された諦めに胸が締め付けられた。限られた時間。でも、この経験が特別な意味を持ち始めている。任務を考えると胸が痛むが、蛍の存在が私の心を溶かしていく。

「先輩、こんなに苦しんでたんだ……」

 俺は思わず呟いた。あの頃の記憶が蘇る。先輩の憔悴した表情、そして少しずつ元気になっていく姿。「任務」って何だろう。天文部の仕事のことかな。でも、どこか引っかかる。

 6月20日——蛍が寝台列車で朝焼けを見に連れて行ってくれた。海沿いの無人駅からの景色は息を呑むほど美しい。彼の目に映る私が気になった。もう打ち明けようかと思ったけど、彼は「今はこのままでいい」と言ってくれた。彼の手の温もりに、受け入れられていると感じる。決意が揺らぐ。あの星に行きたくないと言うと、彼の表情が変わった。彼の願いは私が眠れるようになることだという。その真剣な眼差しに、使命と想いが交錯する。この感情は何? 観察対象への興味を超えてる。別れが辛くなるから深入りしたくない。

 9月15日——文化祭で朝焼けプラネタリウムを作った。停電で混乱したけど、蛍たちの機転で最高の出来に。お客さんのスマホの光で作る世界は本物の朝焼けみたい。蛍の音楽、哲のプログラム、未来の司会。4人の力が生んだ奇跡。後で見直したとき、未来が眠りについた。予想外だった。彼女が移住適合になる光が見えて嬉しい。

 10月10日——合宿最終日、みんなが誕生日サプライズをしてくれた。天文ハウスの屋根が開き、満天の星空。言葉を失った。床暖房の部屋で流星群観察という贅沢。蛍たちの優しさに涙が止まらない。勘違いも解け、心がすっきりした。手作りケーキを食べながら昔話に花が咲く。最後は皆で眠りについた。この温かさと安らぎ。任務を忘れ、この瞬間を永遠に記憶に刻みたいと思った。

 俺は思わず、自分の胸に手を当てた。あの時の先輩の表情が、まぶたに焼き付いている。

 11月23日——海辺で蛍が「好き」と言ってくれた。嬉しかった。心が震えた。私も「好き」と答えたけど、この感情が人間の「好き」と同じか自信がない。でも、彼の温かさ、優しさ、守ろうとする強さに心が揺れている。任務を思うと胸が痛むけど、彼との時間は何より大切。列車で彼の肩で眠るのが最高の安らぎ。この気持ちを忘れたくない。でも、別れは避けられない。葛藤する心をどう整理すればいい?

 俺は顔が熱くなるのを感じた。あの日の記憶が、鮮明によみがえる。先輩の柔らかな唇の感触、潮の香り、そして胸の高鳴り。全てが昨日のことのように生々しい。
しおりを挟む
感想 6

あなたにおすすめの小説

如月さんは なびかない。~片想い中のクラスで一番の美少女から、急に何故か告白された件~

八木崎(やぎさき)
恋愛
「ねぇ……私と、付き合って」  ある日、クラスで一番可愛い女子生徒である如月心奏に唐突に告白をされ、彼女と付き合う事になった同じクラスの平凡な高校生男子、立花蓮。  蓮は初めて出来た彼女の存在に浮かれる―――なんて事は無く、心奏から思いも寄らない頼み事をされて、それを受ける事になるのであった。  これは不器用で未熟な2人が成長をしていく物語である。彼ら彼女らの歩む物語を是非ともご覧ください。  一緒にいたい、でも近づきたくない―――臆病で内向的な少年と、偏屈で変わり者な少女との恋愛模様を描く、そんな青春物語です。

乙男女じぇねれーしょん

ムラハチ
青春
 見知らぬ街でセーラー服を着るはめになったほぼニートのおじさんが、『乙男女《おつとめ》じぇねれーしょん』というアイドルグループに加入し、神戸を舞台に事件に巻き込まれながらトップアイドルを目指す青春群像劇! 怪しいおじさん達の周りで巻き起こる少女誘拐事件、そして消えた3億円の行方は……。 小説家になろうは現在休止中。

「南風の頃に」~ノダケンとその仲間達~

kitamitio
青春
合格するはずのなかった札幌の超難関高に入学してしまった野球少年の野田賢治は、野球部員たちの執拗な勧誘を逃れ陸上部に入部する。北海道の海沿いの田舎町で育った彼は仲間たちの優秀さに引け目を感じる生活を送っていたが、長年続けて来た野球との違いに戸惑いながらも陸上競技にのめりこんでいく。「自主自律」を校訓とする私服の学校に敢えて詰襟の学生服を着ていくことで自分自身の存在を主張しようとしていた野田賢治。それでも新しい仲間が広がっていく中で少しずつ変わっていくものがあった。そして、隠していた野田賢治自身の過去について少しずつ知らされていく……。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

キャバ嬢(ハイスペック)との同棲が、僕の高校生活を色々と変えていく。

たかなしポン太
青春
   僕のアパートの前で、巨乳美人のお姉さんが倒れていた。  助けたそのお姉さんは一流大卒だが内定取り消しとなり、就職浪人中のキャバ嬢だった。  でもまさかそのお姉さんと、同棲することになるとは…。 「今日のパンツってどんなんだっけ? ああ、これか。」 「ちょっと、確認しなくていいですから!」 「これ、可愛いでしょ? 色違いでピンクもあるんだけどね。綿なんだけど生地がサラサラで、この上の部分のリボンが」 「もういいです! いいですから、パンツの説明は!」    天然高学歴キャバ嬢と、心優しいDT高校生。  異色の2人が繰り広げる、水色パンツから始まる日常系ラブコメディー! ※小説家になろうとカクヨムにも同時掲載中です。 ※本作品はフィクションであり、実在の人物や団体、製品とは一切関係ありません。

学園のアイドルに、俺の部屋のギャル地縛霊がちょっかいを出すから話がややこしくなる。

たかなしポン太
青春
【第1回ノベルピアWEB小説コンテスト中間選考通過作品】 『み、見えるの?』 「見えるかと言われると……ギリ見えない……」 『ふぇっ? ちょっ、ちょっと! どこ見てんのよ!』  ◆◆◆  仏教系学園の高校に通う霊能者、尚也。  劣悪な環境での寮生活を1年間終えたあと、2年生から念願のアパート暮らしを始めることになった。  ところが入居予定のアパートの部屋に行ってみると……そこにはセーラー服を着たギャル地縛霊、りんが住み着いていた。  後悔の念が強すぎて、この世に魂が残ってしまったりん。  尚也はそんなりんを無事に成仏させるため、りんと共同生活をすることを決意する。    また新学期の学校では、尚也は学園のアイドルこと花宮琴葉と同じクラスで席も近くなった。  尚也は1年生の時、たまたま琴葉が困っていた時に助けてあげたことがあるのだが……    霊能者の尚也、ギャル地縛霊のりん、学園のアイドル琴葉。  3人とその仲間たちが繰り広げる、ちょっと不思議な日常。  愉快で甘くて、ちょっと切ない、ライトファンタジーなラブコメディー! ※本作品はフィクションであり、実在の人物や団体、製品とは一切関係ありません。

処理中です...