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第3章

第10夜 異星入植録(2)

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「哲、未来、そうだよな? 俺たちの記憶が間違ってるわけないよな?」

 俺は、藁をも掴む思いで言った。二人とも必死に頷いてくれた。未来の目には涙が浮かび、哲は唇を噛みしめている。

「あたりまえでしょう」
「ああ。ひかり先輩が居なかったなんて、ありえないだろ。先輩との思い出は、こんなにもはっきりしているのに」

 先輩は確かに存在していたはずなのに、学校の生徒管理システムからはデータが削除されていた。俺は愕然とした。まるで、現実が少しずつ崩れていくような感覚だった。

「先生」

 俺は、震える声を押し殺しながら、必死に冷静さを保とうとして言った。

保管施設リポジトリの登録データも調べてもらえませんか? さすがに、そこには、ひかり先輩の身体が保管されているはずですよね? もし、そこにもなければ…」

 月城先生は、俺の顔をまじまじと見て、ゆっくりと頷いた。

「わかった。確認してみよう」

 先生が作業を始めると、天文ドームに重苦しい空気が満ちた。俺は、自分の心臓の鼓動が聞こえるほどだった。静寂の中、キーボードを叩く音だけが響く。
 未来が俺の袖を引っ張る。その手が小刻みに震えているのが伝わってくる。

「蛍、大丈夫? 顔色悪いよ」

 俺は何も答えられなかった。

「きっと、何かの間違いだよ」

 しかし、月城先生の表情を見て、俺の不安は確信に変わった。先生の目に浮かぶ困惑と悲しみが、すべてを物語っていた。

「——登録されていないみたい。天野ひかりさんの記録が、どこにも見当たらないの」

 先生は静かに、しかし確かな声で言った。
 このままでは先輩が居たことさえ、嘘になってしまうのか。俺は頭を抱えた。未来が小さく泣き声を上げ、哲は「ありえない……」と呆然と立ち尽くしていた。

 そのとき、月城先生が何かを思い出したように、急に顔を上げて言った。その目に、小さな希望の光が宿る。

「あ、そうだ、私、天野さんの家の場所ならわかるわ。入学したころに、一度、行ったから。データにはないけど、私の記憶には確かに残っているの」
「えっ? 本当ですか!?」

 俺は顔を上げた。微かな希望の光が見えた気がした。心臓が高鳴り、手のひらに汗が滲む。

「どうしてですか? 先生、先輩の家に行ったことがあるんですね」
「うん。そうなのよ」

 月城先生は少し照れくさそうに笑った。

「天野さん、入学直後に体調を崩して、しばらく学校を休んでいたのよ。こっちでの生活にまだ慣れていないとかで。だから、担任として様子を見に行ったの。あの日のことは、今でもはっきりと覚えているわ」

 俺は月城先生の目をまっすぐ見つめた。

「先生、その場所を教えてもらえませんか? 先輩のノート、今からでも届けたいんです。それに……先輩が本当にいたという証明を、この目で確かめたいんです」
 先生は少し迷った様子だったが、俺たちの真剣な表情を見て、深いため息をついてから最終的に頷いた。

「わかった。必ず、結果を知らせてね」

 俺たち三人は顔を見合わせた。未来の目には決意の光が、哲の表情には緊張が浮かんでいる。データからは消えてしまったけれど、確かに存在していたはずのひかり先輩。その希望の光を胸に、俺たちは天文ドームを後にした。

 窓の外では、漆黒の夜空に無数の星々が煌めいていた。その中のどれかが、俺たちを導くひかり先輩からの合図であるかのように感じられた。「きっと、答えは見つかるはず」と、俺は心の中で呟いた。
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