28 / 50
第3章
第10夜 異星入植録(2)
しおりを挟む
「哲、未来、そうだよな? 俺たちの記憶が間違ってるわけないよな?」
俺は、藁をも掴む思いで言った。二人とも必死に頷いてくれた。未来の目には涙が浮かび、哲は唇を噛みしめている。
「あたりまえでしょう」
「ああ。ひかり先輩が居なかったなんて、ありえないだろ。先輩との思い出は、こんなにもはっきりしているのに」
先輩は確かに存在していたはずなのに、学校の生徒管理システムからはデータが削除されていた。俺は愕然とした。まるで、現実が少しずつ崩れていくような感覚だった。
「先生」
俺は、震える声を押し殺しながら、必死に冷静さを保とうとして言った。
「保管施設の登録データも調べてもらえませんか? さすがに、そこには、ひかり先輩の身体が保管されているはずですよね? もし、そこにもなければ…」
月城先生は、俺の顔をまじまじと見て、ゆっくりと頷いた。
「わかった。確認してみよう」
先生が作業を始めると、天文ドームに重苦しい空気が満ちた。俺は、自分の心臓の鼓動が聞こえるほどだった。静寂の中、キーボードを叩く音だけが響く。
未来が俺の袖を引っ張る。その手が小刻みに震えているのが伝わってくる。
「蛍、大丈夫? 顔色悪いよ」
俺は何も答えられなかった。
「きっと、何かの間違いだよ」
しかし、月城先生の表情を見て、俺の不安は確信に変わった。先生の目に浮かぶ困惑と悲しみが、すべてを物語っていた。
「——登録されていないみたい。天野ひかりさんの記録が、どこにも見当たらないの」
先生は静かに、しかし確かな声で言った。
このままでは先輩が居たことさえ、嘘になってしまうのか。俺は頭を抱えた。未来が小さく泣き声を上げ、哲は「ありえない……」と呆然と立ち尽くしていた。
そのとき、月城先生が何かを思い出したように、急に顔を上げて言った。その目に、小さな希望の光が宿る。
「あ、そうだ、私、天野さんの家の場所ならわかるわ。入学したころに、一度、行ったから。データにはないけど、私の記憶には確かに残っているの」
「えっ? 本当ですか!?」
俺は顔を上げた。微かな希望の光が見えた気がした。心臓が高鳴り、手のひらに汗が滲む。
「どうしてですか? 先生、先輩の家に行ったことがあるんですね」
「うん。そうなのよ」
月城先生は少し照れくさそうに笑った。
「天野さん、入学直後に体調を崩して、しばらく学校を休んでいたのよ。こっちでの生活にまだ慣れていないとかで。だから、担任として様子を見に行ったの。あの日のことは、今でもはっきりと覚えているわ」
俺は月城先生の目をまっすぐ見つめた。
「先生、その場所を教えてもらえませんか? 先輩のノート、今からでも届けたいんです。それに……先輩が本当にいたという証明を、この目で確かめたいんです」
先生は少し迷った様子だったが、俺たちの真剣な表情を見て、深いため息をついてから最終的に頷いた。
「わかった。必ず、結果を知らせてね」
俺たち三人は顔を見合わせた。未来の目には決意の光が、哲の表情には緊張が浮かんでいる。データからは消えてしまったけれど、確かに存在していたはずのひかり先輩。その希望の光を胸に、俺たちは天文ドームを後にした。
窓の外では、漆黒の夜空に無数の星々が煌めいていた。その中のどれかが、俺たちを導くひかり先輩からの合図であるかのように感じられた。「きっと、答えは見つかるはず」と、俺は心の中で呟いた。
俺は、藁をも掴む思いで言った。二人とも必死に頷いてくれた。未来の目には涙が浮かび、哲は唇を噛みしめている。
「あたりまえでしょう」
「ああ。ひかり先輩が居なかったなんて、ありえないだろ。先輩との思い出は、こんなにもはっきりしているのに」
先輩は確かに存在していたはずなのに、学校の生徒管理システムからはデータが削除されていた。俺は愕然とした。まるで、現実が少しずつ崩れていくような感覚だった。
「先生」
俺は、震える声を押し殺しながら、必死に冷静さを保とうとして言った。
「保管施設の登録データも調べてもらえませんか? さすがに、そこには、ひかり先輩の身体が保管されているはずですよね? もし、そこにもなければ…」
月城先生は、俺の顔をまじまじと見て、ゆっくりと頷いた。
「わかった。確認してみよう」
先生が作業を始めると、天文ドームに重苦しい空気が満ちた。俺は、自分の心臓の鼓動が聞こえるほどだった。静寂の中、キーボードを叩く音だけが響く。
未来が俺の袖を引っ張る。その手が小刻みに震えているのが伝わってくる。
「蛍、大丈夫? 顔色悪いよ」
俺は何も答えられなかった。
「きっと、何かの間違いだよ」
しかし、月城先生の表情を見て、俺の不安は確信に変わった。先生の目に浮かぶ困惑と悲しみが、すべてを物語っていた。
「——登録されていないみたい。天野ひかりさんの記録が、どこにも見当たらないの」
先生は静かに、しかし確かな声で言った。
このままでは先輩が居たことさえ、嘘になってしまうのか。俺は頭を抱えた。未来が小さく泣き声を上げ、哲は「ありえない……」と呆然と立ち尽くしていた。
そのとき、月城先生が何かを思い出したように、急に顔を上げて言った。その目に、小さな希望の光が宿る。
「あ、そうだ、私、天野さんの家の場所ならわかるわ。入学したころに、一度、行ったから。データにはないけど、私の記憶には確かに残っているの」
「えっ? 本当ですか!?」
俺は顔を上げた。微かな希望の光が見えた気がした。心臓が高鳴り、手のひらに汗が滲む。
「どうしてですか? 先生、先輩の家に行ったことがあるんですね」
「うん。そうなのよ」
月城先生は少し照れくさそうに笑った。
「天野さん、入学直後に体調を崩して、しばらく学校を休んでいたのよ。こっちでの生活にまだ慣れていないとかで。だから、担任として様子を見に行ったの。あの日のことは、今でもはっきりと覚えているわ」
俺は月城先生の目をまっすぐ見つめた。
「先生、その場所を教えてもらえませんか? 先輩のノート、今からでも届けたいんです。それに……先輩が本当にいたという証明を、この目で確かめたいんです」
先生は少し迷った様子だったが、俺たちの真剣な表情を見て、深いため息をついてから最終的に頷いた。
「わかった。必ず、結果を知らせてね」
俺たち三人は顔を見合わせた。未来の目には決意の光が、哲の表情には緊張が浮かんでいる。データからは消えてしまったけれど、確かに存在していたはずのひかり先輩。その希望の光を胸に、俺たちは天文ドームを後にした。
窓の外では、漆黒の夜空に無数の星々が煌めいていた。その中のどれかが、俺たちを導くひかり先輩からの合図であるかのように感じられた。「きっと、答えは見つかるはず」と、俺は心の中で呟いた。
14
お気に入りに追加
25
あなたにおすすめの小説
文バレ!②
宇野片み緒
青春
文芸に関するワードを叫びながらバレーをする、
謎の新球技「文芸バレーボール」──
2113年3月、その全国大会が始まった!
全64校が出場する、2日間開催のトーナメント戦。
唄唄い高校は何者なのか? 万葉高校は?
聖コトバ学院や歌仙高校は全国でどう戦うのか?
大会1日目を丁寧に収録した豪華な中巻。
皆の意外な一面が見られるお泊り回も必見!
小題「★」は幕間のまんがコーナーです。
文/絵/デザイン他:宇野片み緒
※2018年に出した紙本(絶版)の電子版です。
幼なじみとセックスごっこを始めて、10年がたった。
スタジオ.T
青春
幼なじみの鞠川春姫(まりかわはるひめ)は、学校内でも屈指の美少女だ。
そんな春姫と俺は、毎週水曜日にセックスごっこをする約束をしている。
ゆるいイチャラブ、そしてエッチなラブストーリー。
女子高生が、納屋から発掘したR32に乗る話
エクシモ爺
青春
高校3年生になった舞華は、念願の免許を取って車通学の許可も取得するが、母から一言「車は、お兄ちゃんが置いていったやつ使いなさい」と言われて愕然とする。
納屋の奥で埃を被っていた、レッドパールのR32型スカイラインGTS-tタイプMと、クルマ知識まったくゼロの舞華が織りなすハートフル(?)なカーライフストーリー。
・エアフロってどんなお風呂?
・本に書いてある方法じゃ、プラグ交換できないんですけどー。
・このHICASってランプなに~? マジクソハンドル重いんですけどー。
など、R32あるあるによって、ずぶの素人が、悪い道へと染められるのであった。
可愛すぎるクラスメイトがやたら俺の部屋を訪れる件 ~事故から助けたボクっ娘が存在感空気な俺に熱い視線を送ってきている~
蒼田
青春
人よりも十倍以上存在感が薄い高校一年生、宇治原簾 (うじはられん)は、ある日買い物へ行く。
目的のプリンを買った夜の帰り道、簾はクラスメイトの人気者、重原愛莉 (えはらあいり)を見つける。
しかしいつも教室でみる活発な表情はなくどんよりとしていた。只事ではないと目線で追っていると彼女が信号に差し掛かり、トラックに引かれそうな所を簾が助ける。
事故から助けることで始まる活発少女との関係。
愛莉が簾の家にあがり看病したり、勉強したり、時には二人でデートに行ったりと。
愛莉は簾の事が好きで、廉も愛莉のことを気にし始める。
故障で陸上が出来なくなった愛莉は目標新たにし、簾はそんな彼女を補佐し自分の目標を見つけるお話。
*本作はフィクションです。実在する人物・団体・組織名等とは関係ございません。
13歳女子は男友達のためヌードモデルになる
矢木羽研
青春
写真が趣味の男の子への「プレゼント」として、自らを被写体にする女の子の決意。「脱ぐ」までの過程の描写に力を入れました。裸体描写を含むのでR15にしましたが、性的な接触はありません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる