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第3章
第10夜 異星入植録(4)
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「これ……先輩が天文ドームに忘れていったノートなんです」
管理人の男性は驚きと興味が混ざった表情を浮かべた。
「忘れ物ですか。これだけ一人で移住の準備をしっかりとされていた天野さんらしくないですね」
ノートを開こうとする衝動を抑え、表面を撫でた。表紙には先輩の名前が控えめに書かれている。紙の質感が、先輩の思い出を呼び起こす。中には、きっと先輩の几帳面な観測記録や、繊細な星座のスケッチが並んでいるんだろう。想像するだけで、先輩の熱意が伝わってくる。
「妙だな……」
哲が眉をひそめ、眼鏡を直した。
「管理人さんが言っていたスキャンサービス。大切なものはデータ化して持っていけるんでしょう?」
「そうね」
未来が首を傾げながら続けた。
「だとしたら、こんな大事そうなノートを忘れるなんて……ひかり先輩らしくないよね」
その言葉に、俺の中で何かが引っかかった。そうだ、先輩は妙なことを口走ったりはするけど、そんなうっかりした人じゃない。だったら、なぜ?
「待てよ……」
俺は思わず声に出していた。
「もしかして……これって」
未来と哲が食い入るように俺を見つめる。
「先輩は……このノートを『わざと』置いていったんじゃないか」
俺は息を呑むように言った。
「俺たちに、メッセージとして残してくれたんだ」
「え? どういうこと?」
未来が小さく声を上げ、目を丸くした。
「考えてみてくれ」
俺は息を整えながら、興奮を抑えて説明し始めた。
「先輩が本当に大切にしていたものなら、スキャンしてデータで持っていったはずだ。でも、このノートは天文ドームにあった。しかも、俺たちが見つけやすい場所に」
哲が眼鏡を直しながら頷いた。その目に理解の光が浮かぶ。
「なるほど。つまり、ひかり先輩が意図的に置いていったということか」
俺は胸が熱くなるのを感じた。心臓が早鐘を打つ。
「先輩は、最後まで俺たちのことを考えてくれていた。このノートで、何か大切なことを伝えたかったんだ」
管理人さんも静かに頷いた。
俺はノートを見つめ直した。これは単なる忘れ物じゃない。先輩から俺たちへの最後のメッセージ、そして新たな旅立ちへの励ましなんだ。
管理人さんに礼を言って部屋を出る時、俺は最後にもう一度振り返った。空っぽの部屋に、先輩が確かに居たという証が満ちていた。俺たちは無言で、でも強く頷き合った。
春の夜風が頬を撫でる。見上げた夜空に、無数の星が瞬いていた。その中のどこかで、きっと先輩も同じ星を見上げているんだろうか。そう思うと、不思議と心が温かくなった。
ノートを抱きしめた。これからの道のりは長いかもしれない。でも、この星の輝きと手元のノートが、俺たちを導いてくれるはず。いつかきっと、先輩との再会の日が来ると信じている。
管理人の男性は驚きと興味が混ざった表情を浮かべた。
「忘れ物ですか。これだけ一人で移住の準備をしっかりとされていた天野さんらしくないですね」
ノートを開こうとする衝動を抑え、表面を撫でた。表紙には先輩の名前が控えめに書かれている。紙の質感が、先輩の思い出を呼び起こす。中には、きっと先輩の几帳面な観測記録や、繊細な星座のスケッチが並んでいるんだろう。想像するだけで、先輩の熱意が伝わってくる。
「妙だな……」
哲が眉をひそめ、眼鏡を直した。
「管理人さんが言っていたスキャンサービス。大切なものはデータ化して持っていけるんでしょう?」
「そうね」
未来が首を傾げながら続けた。
「だとしたら、こんな大事そうなノートを忘れるなんて……ひかり先輩らしくないよね」
その言葉に、俺の中で何かが引っかかった。そうだ、先輩は妙なことを口走ったりはするけど、そんなうっかりした人じゃない。だったら、なぜ?
「待てよ……」
俺は思わず声に出していた。
「もしかして……これって」
未来と哲が食い入るように俺を見つめる。
「先輩は……このノートを『わざと』置いていったんじゃないか」
俺は息を呑むように言った。
「俺たちに、メッセージとして残してくれたんだ」
「え? どういうこと?」
未来が小さく声を上げ、目を丸くした。
「考えてみてくれ」
俺は息を整えながら、興奮を抑えて説明し始めた。
「先輩が本当に大切にしていたものなら、スキャンしてデータで持っていったはずだ。でも、このノートは天文ドームにあった。しかも、俺たちが見つけやすい場所に」
哲が眼鏡を直しながら頷いた。その目に理解の光が浮かぶ。
「なるほど。つまり、ひかり先輩が意図的に置いていったということか」
俺は胸が熱くなるのを感じた。心臓が早鐘を打つ。
「先輩は、最後まで俺たちのことを考えてくれていた。このノートで、何か大切なことを伝えたかったんだ」
管理人さんも静かに頷いた。
俺はノートを見つめ直した。これは単なる忘れ物じゃない。先輩から俺たちへの最後のメッセージ、そして新たな旅立ちへの励ましなんだ。
管理人さんに礼を言って部屋を出る時、俺は最後にもう一度振り返った。空っぽの部屋に、先輩が確かに居たという証が満ちていた。俺たちは無言で、でも強く頷き合った。
春の夜風が頬を撫でる。見上げた夜空に、無数の星が瞬いていた。その中のどこかで、きっと先輩も同じ星を見上げているんだろうか。そう思うと、不思議と心が温かくなった。
ノートを抱きしめた。これからの道のりは長いかもしれない。でも、この星の輝きと手元のノートが、俺たちを導いてくれるはず。いつかきっと、先輩との再会の日が来ると信じている。
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