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第2章
第6夜 未来天象儀(2)
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体育館の中央に立ち、周りのざわめきを聞きながら、俺は深いため息をついた。
学園祭まであと2週間。音楽プラネタリウムの準備は、思うように進んでいなかった。
テストで映し出された映像は、まるで俺たちの不安そのものみたいにちらちらしていた。
「もう、なんでこんなにうまくいかないのよ!」
未来の苛立った声が響く。彼女は映像編集ソフトと格闘しながら、イライラと髪をかき上げていた。
「これじゃあ、朝焼けどころか夕焼けにしか見えないじゃん。ねぇ、蛍、見てよ」
俺は未来のところに駆け寄って、画面を覗き込んだ。たしかに、すごく鮮やかな赤やオレンジ色が画面いっぱいに広がっていた。
「うーん、まぁこれはこれで悪くないけど」
俺は本当のことを言えずにごまかした。「夕焼けみたい」って正直に言いたかったけど、そんなことで未来を怒らせたくなかったんだ。
哲を見ると、黙々とプラネタリウムの機械をいじっていたけど、顔には疲れがにじんでいた。
「くそっ」
珍しく哲が感情をあらわにして呟いた。様子を見に行くと、両手で頭を抱えていた。
「この部品、思ったより傷んでる。直すのに時間かかりそうだ」
特に得意分野があるわけでもない俺は、全体の調整役だったけれど、無力感を感じてもいた。
目の前に山のように積まれた問題は、俺が頑張るだけじゃどうにもならないものばかりだった。
「まいったな……」
心の中でつぶやいた言葉が、思わず口に出てしまった。
そんなとき、難しい顔をした先輩がやってきた。
「蛍くん、ヘルプミー」
相変わらずふざけた態度の先輩だけど、ピンク色の舌を出して「てへへ」って笑うから、俺はつい許してしまう。
甘やかしちゃダメだって分かってるのに、と俺は心の中で自分を少しだけ責めた。
「音楽の方もちょっと行き詰まっちゃって」
先輩の瞳は、いつもは海みたいに深い青だけど、今は嵐の海みたいに荒れてた。
「朝焼けにぴったりの音楽って、めちゃくちゃ難しい……」
「まぁ、たしかにそうですよね」
「楽曲生成AIでさくっとできるもんだと思ってたのに」
俺は眉をひそめた。役割決めのとき、先輩が真っ先に音楽担当に手を挙げたから、てっきり得意なのかと思ってたんだ。
その時、作業していた未来が突然、大きな声を上げた。
「あーもう、やってられない!」
未来はノートパソコンをバタンと閉じて、立ち上がった。
「ちょっと休憩する」
俺は慌てて未来を追いかけようとしたけど、哲が静かに止めた。
「少し一人にさせてあげた方がいいんじゃないか」
哲の声は落ち着いてたけど、目には心配そうな色が浮かんでた。
俺は立ち止まって、未来の背中が体育館の出口に消えるのを見送った。
胸の中で後悔がぐるぐる渦を巻いた。みんなが限界まで疲れてることにもっと早く気づくべきだった。
「みんな、疲れちゃってるのね」
先輩のつぶやきに、俺は小さく頷いた。
たしかに、みんながぎりぎりの状態で頑張ってる。でも、このままじゃ、せっかくの音楽プラネタリウムは絶対完成しない。バラバラのままの4人じゃ、きっと学園祭で人を喜ばせる展示なんてできない。
どうにかする方法はないか——。俺は深呼吸して、落ち着こうとした。
俺は一旦休憩することにして、ペットボトルの麦茶を飲みながらひかり先輩に声をかけた。
「先輩、そういえば、どうして音楽を希望したんです? 特技だったり?」
「ううん、別に。どうして?」
「いや、音楽で苦戦してるみたいだから。てっきり得意なのかと思ってました」
「ないよ。やっぱりダメだった?」
「いえ、ダメじゃないです。ただ、どうして選んだのか気になって」
「別にいいじゃん。今それ聞く必要ある?」
先輩は少し口を尖らせて、拗ねるように呟いた。
俺は笑顔で何も言わず、ただ黙って先輩の様子を眺めていた。
しばらくして、根負けしたみたいにひかり先輩が話し始めた。
「——ねぇ蛍くん、前に屋上で曲聴かせてくれたよね」
「えっ、ああ。眠れる方法探してるとき?」
「そう。だから、なんか、いいなーって思っちゃって。もちろん、あれはプロの曲だから、そんなの作れるわけないんだけど。ただ、蛍くんが聴いてる世界を、もうちょっと知りたいなって。ほんとそれだけ!」
「先輩……」
「はい、もうこの話おしまい!」
先輩は赤くなった頬を両手で扇ぎながら、照れ隠しみたいにへらへらと笑ってた。
そんな話をしてるとき、ふと俺はあることを思いついた。
「あ、哲、ちょっと来てくれない?」
休憩も取らずに黙々と作業してた哲は手を止めて、汗を拭きながら俺たちのところに来た。
「今の状況だと、みんな自分の仕事に集中しすぎてて、問題を一人で抱え込みすぎてると思う。でも、得意な人なら簡単に解決できる問題もあるはずなんだ。もちろん俺も含めてね」
俺は言葉を選びながら、慎重に話を進めた。
「だから、一旦みんなが抱えてる問題の一部を、それぞれ得意な人に任せて、お互いにカバーし合おうよ」
「どういうこと? 具体的には?」
哲が眉を上げながら言った。その声には疑問と期待が混ざっていた。
俺は少し考えてから、ゆっくりと説明し始めた。
「例えば、哲はプログラミングが得意だから、映像編集の難しい部分で未来を助けられるんじゃないかな。でも、未来を手伝うだけじゃ哲が大変になっちゃうから、今度は哲の問題を先輩に手伝ってもらおう」
「え? 私が?」
「そうです。先輩、機械得意ですよね? だから哲が困ってる装置の修理を手伝ってほしいんです」
「なるほど。誰か得意な人に問題を渡して、その空いた手で別の人が苦手にしている問題を解くわけか。これはいいな。全体最適化だ」
哲が納得したように頷いた。
「じゃあ私の音楽作りは、蛍くんが手伝ってくれるの?」
先輩の目が期待に輝いた。
「先輩がメロディライン作ってくれたら、リズムと和音は俺がつけますよ」
「最高じゃん! めっちゃ楽しそう!」
そのとき、体育館の扉が開いて未来が戻ってきた。少し休憩できたみたいで、顔つきがスッキリしてて、さっきまでのイライラは消えてたみたいだった。ホッとして、俺は胸をなでおろした。
「未来、ちょうどよかった」
俺は声をかけた。
「みんなで相談して、新しいやり方を考えたんだ」
未来は少し警戒した目つきで近づいてきた。
「どんなの?」
俺たちは、新しい役割分担と助け合いの仕組みを説明した。未来の表情が少しずつ柔らかくなっていくのが分かった。
「そっか……なるほどね」
未来はゆっくりと頷きながら、考えてるみたいだった。
「じゃあ私は蛍を手伝えばいいんだね。蛍はみんなに気を遣ってて全然調整できてないみたいだから、私が進行管理を担当するよ。そもそも音楽プラネタリウムをやろうって言い出したのは私だしね」
俺はホッと息をついた。まだやることはたくさんあるけど、みんなの雰囲気は良くなったみたいだ。俺は天井に映し出された星空を見上げた。星たちが希望に満ちた光を放ってるように見えた。
「よし、じゃあ早速始めよう」
未来の声に、みんなが頷いて新しい気持ちで作業を始めた。俺は、みんなの顔が少しずつ明るくなっていくのを見て、小さな希望を感じた。まだ大変なことはたくさんあるけど、みんなで力を合わせれば乗り越えられる。そう信じて、俺も自分の仕事に向かった。
学園祭まであと2週間。音楽プラネタリウムの準備は、思うように進んでいなかった。
テストで映し出された映像は、まるで俺たちの不安そのものみたいにちらちらしていた。
「もう、なんでこんなにうまくいかないのよ!」
未来の苛立った声が響く。彼女は映像編集ソフトと格闘しながら、イライラと髪をかき上げていた。
「これじゃあ、朝焼けどころか夕焼けにしか見えないじゃん。ねぇ、蛍、見てよ」
俺は未来のところに駆け寄って、画面を覗き込んだ。たしかに、すごく鮮やかな赤やオレンジ色が画面いっぱいに広がっていた。
「うーん、まぁこれはこれで悪くないけど」
俺は本当のことを言えずにごまかした。「夕焼けみたい」って正直に言いたかったけど、そんなことで未来を怒らせたくなかったんだ。
哲を見ると、黙々とプラネタリウムの機械をいじっていたけど、顔には疲れがにじんでいた。
「くそっ」
珍しく哲が感情をあらわにして呟いた。様子を見に行くと、両手で頭を抱えていた。
「この部品、思ったより傷んでる。直すのに時間かかりそうだ」
特に得意分野があるわけでもない俺は、全体の調整役だったけれど、無力感を感じてもいた。
目の前に山のように積まれた問題は、俺が頑張るだけじゃどうにもならないものばかりだった。
「まいったな……」
心の中でつぶやいた言葉が、思わず口に出てしまった。
そんなとき、難しい顔をした先輩がやってきた。
「蛍くん、ヘルプミー」
相変わらずふざけた態度の先輩だけど、ピンク色の舌を出して「てへへ」って笑うから、俺はつい許してしまう。
甘やかしちゃダメだって分かってるのに、と俺は心の中で自分を少しだけ責めた。
「音楽の方もちょっと行き詰まっちゃって」
先輩の瞳は、いつもは海みたいに深い青だけど、今は嵐の海みたいに荒れてた。
「朝焼けにぴったりの音楽って、めちゃくちゃ難しい……」
「まぁ、たしかにそうですよね」
「楽曲生成AIでさくっとできるもんだと思ってたのに」
俺は眉をひそめた。役割決めのとき、先輩が真っ先に音楽担当に手を挙げたから、てっきり得意なのかと思ってたんだ。
その時、作業していた未来が突然、大きな声を上げた。
「あーもう、やってられない!」
未来はノートパソコンをバタンと閉じて、立ち上がった。
「ちょっと休憩する」
俺は慌てて未来を追いかけようとしたけど、哲が静かに止めた。
「少し一人にさせてあげた方がいいんじゃないか」
哲の声は落ち着いてたけど、目には心配そうな色が浮かんでた。
俺は立ち止まって、未来の背中が体育館の出口に消えるのを見送った。
胸の中で後悔がぐるぐる渦を巻いた。みんなが限界まで疲れてることにもっと早く気づくべきだった。
「みんな、疲れちゃってるのね」
先輩のつぶやきに、俺は小さく頷いた。
たしかに、みんながぎりぎりの状態で頑張ってる。でも、このままじゃ、せっかくの音楽プラネタリウムは絶対完成しない。バラバラのままの4人じゃ、きっと学園祭で人を喜ばせる展示なんてできない。
どうにかする方法はないか——。俺は深呼吸して、落ち着こうとした。
俺は一旦休憩することにして、ペットボトルの麦茶を飲みながらひかり先輩に声をかけた。
「先輩、そういえば、どうして音楽を希望したんです? 特技だったり?」
「ううん、別に。どうして?」
「いや、音楽で苦戦してるみたいだから。てっきり得意なのかと思ってました」
「ないよ。やっぱりダメだった?」
「いえ、ダメじゃないです。ただ、どうして選んだのか気になって」
「別にいいじゃん。今それ聞く必要ある?」
先輩は少し口を尖らせて、拗ねるように呟いた。
俺は笑顔で何も言わず、ただ黙って先輩の様子を眺めていた。
しばらくして、根負けしたみたいにひかり先輩が話し始めた。
「——ねぇ蛍くん、前に屋上で曲聴かせてくれたよね」
「えっ、ああ。眠れる方法探してるとき?」
「そう。だから、なんか、いいなーって思っちゃって。もちろん、あれはプロの曲だから、そんなの作れるわけないんだけど。ただ、蛍くんが聴いてる世界を、もうちょっと知りたいなって。ほんとそれだけ!」
「先輩……」
「はい、もうこの話おしまい!」
先輩は赤くなった頬を両手で扇ぎながら、照れ隠しみたいにへらへらと笑ってた。
そんな話をしてるとき、ふと俺はあることを思いついた。
「あ、哲、ちょっと来てくれない?」
休憩も取らずに黙々と作業してた哲は手を止めて、汗を拭きながら俺たちのところに来た。
「今の状況だと、みんな自分の仕事に集中しすぎてて、問題を一人で抱え込みすぎてると思う。でも、得意な人なら簡単に解決できる問題もあるはずなんだ。もちろん俺も含めてね」
俺は言葉を選びながら、慎重に話を進めた。
「だから、一旦みんなが抱えてる問題の一部を、それぞれ得意な人に任せて、お互いにカバーし合おうよ」
「どういうこと? 具体的には?」
哲が眉を上げながら言った。その声には疑問と期待が混ざっていた。
俺は少し考えてから、ゆっくりと説明し始めた。
「例えば、哲はプログラミングが得意だから、映像編集の難しい部分で未来を助けられるんじゃないかな。でも、未来を手伝うだけじゃ哲が大変になっちゃうから、今度は哲の問題を先輩に手伝ってもらおう」
「え? 私が?」
「そうです。先輩、機械得意ですよね? だから哲が困ってる装置の修理を手伝ってほしいんです」
「なるほど。誰か得意な人に問題を渡して、その空いた手で別の人が苦手にしている問題を解くわけか。これはいいな。全体最適化だ」
哲が納得したように頷いた。
「じゃあ私の音楽作りは、蛍くんが手伝ってくれるの?」
先輩の目が期待に輝いた。
「先輩がメロディライン作ってくれたら、リズムと和音は俺がつけますよ」
「最高じゃん! めっちゃ楽しそう!」
そのとき、体育館の扉が開いて未来が戻ってきた。少し休憩できたみたいで、顔つきがスッキリしてて、さっきまでのイライラは消えてたみたいだった。ホッとして、俺は胸をなでおろした。
「未来、ちょうどよかった」
俺は声をかけた。
「みんなで相談して、新しいやり方を考えたんだ」
未来は少し警戒した目つきで近づいてきた。
「どんなの?」
俺たちは、新しい役割分担と助け合いの仕組みを説明した。未来の表情が少しずつ柔らかくなっていくのが分かった。
「そっか……なるほどね」
未来はゆっくりと頷きながら、考えてるみたいだった。
「じゃあ私は蛍を手伝えばいいんだね。蛍はみんなに気を遣ってて全然調整できてないみたいだから、私が進行管理を担当するよ。そもそも音楽プラネタリウムをやろうって言い出したのは私だしね」
俺はホッと息をついた。まだやることはたくさんあるけど、みんなの雰囲気は良くなったみたいだ。俺は天井に映し出された星空を見上げた。星たちが希望に満ちた光を放ってるように見えた。
「よし、じゃあ早速始めよう」
未来の声に、みんなが頷いて新しい気持ちで作業を始めた。俺は、みんなの顔が少しずつ明るくなっていくのを見て、小さな希望を感じた。まだ大変なことはたくさんあるけど、みんなで力を合わせれば乗り越えられる。そう信じて、俺も自分の仕事に向かった。
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