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第2章
第6夜 未来天象儀(1)
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8月の最終週。無限に続くと思っていた夏休みも、気づけば残りわずか一週間。俺は理科室で、複雑な思いを抱えていた。
突然、理科室のドアが勢いよく開いた。顔を上げると、いつもの明るい笑顔で桜井未来が立っていた。風に揺れる短い茶髪が、幼さの残る丸い顔を優しく縁取っている。大きな琥珀色の瞳には少し不安げな光が宿り、小さな鼻とわずかに開いた唇が、何か言いたげだった。
未来は俺の幼なじみで、天文部の仲間だ。不眠症で〈移住不適合〉とされているのに、いつも前向きで明るい。そんな彼女を見ていると、永遠の夜の街に巨大な電球がともったような気分になる。今日も、彼女の姿に元気をもらった。
「やっほー! みんな、学園祭の話し合い始まってた?」
未来の元気な声が静かな理科室に響き、一気に空気が明るくなった。俺は少し緊張がほぐれるのを感じた。
「ああ、ちょうどその話をしようとしてたとこ。来てくれてよかった」
「ふふふーん」
彼女の白いシャツの襟元から覗く首筋には、どこで焼いたというのか、かすかに夏の日差しの痕が残っている。 正直、学園祭の企画を考えるのは苦手で頭を抱えていたけど、未来が来てくれて少しホッとした。きっと面白いアイデアが出るはず。そう期待しながら、密かに先輩の方へ視線を向けた。
先輩が優しく声をかけ、哲も顔を上げた。みんなの表情に、未来のアイデアへの期待が見てとれた。
未来は目を輝かせ、小さく深呼吸をした。
「みんな、聞いてビックリするようなアイデアを思いついちゃった!」
俺たちは息を呑んで身を乗り出した。未来のアイデアはいつも型破りで斬新だ。時に突飛すぎることもあるけど、必ず新しい可能性を見せてくれる。今回はどんなものだろう?
「これ、マジで革命起こせるかも!」
「分かった分かった。早く聞かせてくれよ」
俺は身を乗り出して尋ねた。未来は大げさに深呼吸すると、ゆっくり口を開いた。
「忘れられた朝焼けの音楽プラネタリウム!」
未来の言葉が理科室に響き渡ると、一瞬の静寂が訪れた。永遠の夜の世界に生きる俺たちにとって「朝焼け」は遠い昔話だ。祖父母が懐かしそうに語る思い出の中にしか存在しない、幻のような存在。
「音楽……プラネタリウム……? それって、どういうこと?」
先輩の声には戸惑いと期待が混ざっていた。
未来は目を輝かせながら、熱心に説明し始めた。
「仮設ドームで朝焼けの映像を流すんです。真っ暗な中、少しずつ光が差し込んでいく。そこに音楽を重ねて……みんなで忘れかけた朝の美しさを体験するんだ!」
未来の言葉には、失われた光を取り戻そうとする強い思いが込められていた。俺は胸が熱くなるのを感じた。
哲は眉をひそめながらも、興味を示した。
「面白い発想だな。でも、仮設ドームの設営って結構難しそうだぞ」
俺は急に天文部の備品庫にあるエアドームのことを思い出し、口を開いた。
「そういえば、昔は天文部でエアドーム使ってたんだよな。でも潮汐ロックで日が昇らなくなってから、ずっと使ってない」
俺の言葉に、一瞬空気が重くなった。しかし未来は、その雰囲気を吹き飛ばすかのように両手を挙げ、自信満々に答えた。
「大丈夫だよ! 私たちには天才エンジニアの哲がいるんだから。ねえ、哲?」
俺は未来のアイデアに心を奪われつつも、現実的な懸念が頭をよぎった。
「確かに面白そうだけど……本当に実現できるのかな。予算とか、技術的な問題とか……」
俺の不安をよそに、先輩は目を輝かせながら言った。
「でも、これって素敵なアイデアよ。永遠の夜を生きる私たちに、忘れかけた朝の光を取り戻させてくれる……」
先輩の言葉に、俺は胸が高鳴るのを感じた。先輩の瞳には、遠い星を見つめるような憧れの色が浮かび、まるで失われた朝を取り戻そうとしているかのようだった。その表情に、俺は言いようのない感動を覚えた。
哲は腕を組み、眉間にしわを寄せて考え込んでいた。まるで難解な方程式に挑む科学者のようだ。突然、彼が顔を上げた。瞳の奥で何かが閃いたのが見えた。
「360度全周映像か……確かに難しい挑戦だけど、面白いな」
哲は眼鏡を直しながら、次第に興奮を抑えきれない様子で続けた。
「でも、絶対に不可能ってわけじゃない。デジタルプラネタリウムの技術を応用して……そうだな、複数のプロジェクターを同期させれば……」
哲の声には、問題を解決しようとする冷静さと、新しい発見への期待が混ざっていた。俺は未来のアイデアの可能性に、はっとして気づいた。これは単なる学園祭の出し物じゃない。もっと大きな意味がある。そう確信した瞬間だった。
「おい、これってマジですごいことになるかもしれないぞ」
俺は興奮で声が震えるのを感じながら言った。
「これ、単なる企画じゃない。過去と未来をつなぐ——そんな重要な意味があるんじゃないか?」
俺の言葉に、未来は目を輝かせ、嬉しそうに大きく頷いた。
「そう! それだけじゃなくて、ひかり先輩の不眠症の解決にも役立つかもしれないって思って……」
先輩は驚いた様子で未来を見つめた。
「私の……?」
先輩の声には戸惑いと共に、かすかだが確かな希望の色が混じっていた。
俺は未来の言葉に胸が熱くなった。彼女が先輩のことを真剣に考えて、このアイデアを思いついたことに深く感動した。同時に、先輩の抱える問題に少しでも近づけるかもしれないという期待が、俺の中で大きくなっていった。
先輩は一瞬躊躇したが、次第に表情が柔らかくなり、小さく頷いた。
「素敵ね、このアイデア。私も大好き。きっと誰もが心動かされる体験になるわ」
先輩の声には、懐かしさと新しい希望への期待が混ざっていた。その表情は、久しぶりに光を見た人のようだった。
俺は部屋の空気が一変したのを感じた。最初は半信半疑だった全員の目が、今や期待と興奮で輝いている。未来の提案は、単なる学園祭の出し物を超えた。それは、俺たちの暗い世界に新たな光をもたらす可能性を秘めていた。俺はその瞬間、何か大きなものが始まろうとしているのを感じた。
「じゃあ、みんな賛成だよね?」
未来の問いかけに、全員が強く頷いた。その瞬間、理科室に小さな希望の光が灯ったような気がした。未来は喜びのあまり、両手を挙げて小さくジャンプした。
「やったー! みんな、絶対に最高の企画にしようね!」
彼女の声は、永遠の夜を照らす明るい星のように、希望に満ちて輝いていた。
俺は未来の輝く笑顔を見つめながら、胸の内で固い決意を感じた。この企画は単なる学園祭の出し物じゃない。先輩の不眠症を解決する糸口になるかもしれない。そして、永遠の夜に慣れてしまった僕たちに、忘れかけていた朝の美しさを呼び覚ますんだ。それは、この閉ざされた世界に新たな希望の光をもたらすかもしれない。俺は、その可能性に胸が高鳴るのを感じた。
永遠の夜の街で、忘れられかけた朝を取り戻す。皮肉なことに、夜空を見るための装置を使って。それは大げさに革命と呼べるようなものじゃないかもしれない。でも、この小さな試みは、夜の寒さに凍えていた俺たちの心を溶かすのに十分な熱を持っていた。そして、その温もりは確実に、俺たちの世界に変化をもたらすはずだ。
突然、理科室のドアが勢いよく開いた。顔を上げると、いつもの明るい笑顔で桜井未来が立っていた。風に揺れる短い茶髪が、幼さの残る丸い顔を優しく縁取っている。大きな琥珀色の瞳には少し不安げな光が宿り、小さな鼻とわずかに開いた唇が、何か言いたげだった。
未来は俺の幼なじみで、天文部の仲間だ。不眠症で〈移住不適合〉とされているのに、いつも前向きで明るい。そんな彼女を見ていると、永遠の夜の街に巨大な電球がともったような気分になる。今日も、彼女の姿に元気をもらった。
「やっほー! みんな、学園祭の話し合い始まってた?」
未来の元気な声が静かな理科室に響き、一気に空気が明るくなった。俺は少し緊張がほぐれるのを感じた。
「ああ、ちょうどその話をしようとしてたとこ。来てくれてよかった」
「ふふふーん」
彼女の白いシャツの襟元から覗く首筋には、どこで焼いたというのか、かすかに夏の日差しの痕が残っている。 正直、学園祭の企画を考えるのは苦手で頭を抱えていたけど、未来が来てくれて少しホッとした。きっと面白いアイデアが出るはず。そう期待しながら、密かに先輩の方へ視線を向けた。
先輩が優しく声をかけ、哲も顔を上げた。みんなの表情に、未来のアイデアへの期待が見てとれた。
未来は目を輝かせ、小さく深呼吸をした。
「みんな、聞いてビックリするようなアイデアを思いついちゃった!」
俺たちは息を呑んで身を乗り出した。未来のアイデアはいつも型破りで斬新だ。時に突飛すぎることもあるけど、必ず新しい可能性を見せてくれる。今回はどんなものだろう?
「これ、マジで革命起こせるかも!」
「分かった分かった。早く聞かせてくれよ」
俺は身を乗り出して尋ねた。未来は大げさに深呼吸すると、ゆっくり口を開いた。
「忘れられた朝焼けの音楽プラネタリウム!」
未来の言葉が理科室に響き渡ると、一瞬の静寂が訪れた。永遠の夜の世界に生きる俺たちにとって「朝焼け」は遠い昔話だ。祖父母が懐かしそうに語る思い出の中にしか存在しない、幻のような存在。
「音楽……プラネタリウム……? それって、どういうこと?」
先輩の声には戸惑いと期待が混ざっていた。
未来は目を輝かせながら、熱心に説明し始めた。
「仮設ドームで朝焼けの映像を流すんです。真っ暗な中、少しずつ光が差し込んでいく。そこに音楽を重ねて……みんなで忘れかけた朝の美しさを体験するんだ!」
未来の言葉には、失われた光を取り戻そうとする強い思いが込められていた。俺は胸が熱くなるのを感じた。
哲は眉をひそめながらも、興味を示した。
「面白い発想だな。でも、仮設ドームの設営って結構難しそうだぞ」
俺は急に天文部の備品庫にあるエアドームのことを思い出し、口を開いた。
「そういえば、昔は天文部でエアドーム使ってたんだよな。でも潮汐ロックで日が昇らなくなってから、ずっと使ってない」
俺の言葉に、一瞬空気が重くなった。しかし未来は、その雰囲気を吹き飛ばすかのように両手を挙げ、自信満々に答えた。
「大丈夫だよ! 私たちには天才エンジニアの哲がいるんだから。ねえ、哲?」
俺は未来のアイデアに心を奪われつつも、現実的な懸念が頭をよぎった。
「確かに面白そうだけど……本当に実現できるのかな。予算とか、技術的な問題とか……」
俺の不安をよそに、先輩は目を輝かせながら言った。
「でも、これって素敵なアイデアよ。永遠の夜を生きる私たちに、忘れかけた朝の光を取り戻させてくれる……」
先輩の言葉に、俺は胸が高鳴るのを感じた。先輩の瞳には、遠い星を見つめるような憧れの色が浮かび、まるで失われた朝を取り戻そうとしているかのようだった。その表情に、俺は言いようのない感動を覚えた。
哲は腕を組み、眉間にしわを寄せて考え込んでいた。まるで難解な方程式に挑む科学者のようだ。突然、彼が顔を上げた。瞳の奥で何かが閃いたのが見えた。
「360度全周映像か……確かに難しい挑戦だけど、面白いな」
哲は眼鏡を直しながら、次第に興奮を抑えきれない様子で続けた。
「でも、絶対に不可能ってわけじゃない。デジタルプラネタリウムの技術を応用して……そうだな、複数のプロジェクターを同期させれば……」
哲の声には、問題を解決しようとする冷静さと、新しい発見への期待が混ざっていた。俺は未来のアイデアの可能性に、はっとして気づいた。これは単なる学園祭の出し物じゃない。もっと大きな意味がある。そう確信した瞬間だった。
「おい、これってマジですごいことになるかもしれないぞ」
俺は興奮で声が震えるのを感じながら言った。
「これ、単なる企画じゃない。過去と未来をつなぐ——そんな重要な意味があるんじゃないか?」
俺の言葉に、未来は目を輝かせ、嬉しそうに大きく頷いた。
「そう! それだけじゃなくて、ひかり先輩の不眠症の解決にも役立つかもしれないって思って……」
先輩は驚いた様子で未来を見つめた。
「私の……?」
先輩の声には戸惑いと共に、かすかだが確かな希望の色が混じっていた。
俺は未来の言葉に胸が熱くなった。彼女が先輩のことを真剣に考えて、このアイデアを思いついたことに深く感動した。同時に、先輩の抱える問題に少しでも近づけるかもしれないという期待が、俺の中で大きくなっていった。
先輩は一瞬躊躇したが、次第に表情が柔らかくなり、小さく頷いた。
「素敵ね、このアイデア。私も大好き。きっと誰もが心動かされる体験になるわ」
先輩の声には、懐かしさと新しい希望への期待が混ざっていた。その表情は、久しぶりに光を見た人のようだった。
俺は部屋の空気が一変したのを感じた。最初は半信半疑だった全員の目が、今や期待と興奮で輝いている。未来の提案は、単なる学園祭の出し物を超えた。それは、俺たちの暗い世界に新たな光をもたらす可能性を秘めていた。俺はその瞬間、何か大きなものが始まろうとしているのを感じた。
「じゃあ、みんな賛成だよね?」
未来の問いかけに、全員が強く頷いた。その瞬間、理科室に小さな希望の光が灯ったような気がした。未来は喜びのあまり、両手を挙げて小さくジャンプした。
「やったー! みんな、絶対に最高の企画にしようね!」
彼女の声は、永遠の夜を照らす明るい星のように、希望に満ちて輝いていた。
俺は未来の輝く笑顔を見つめながら、胸の内で固い決意を感じた。この企画は単なる学園祭の出し物じゃない。先輩の不眠症を解決する糸口になるかもしれない。そして、永遠の夜に慣れてしまった僕たちに、忘れかけていた朝の美しさを呼び覚ますんだ。それは、この閉ざされた世界に新たな希望の光をもたらすかもしれない。俺は、その可能性に胸が高鳴るのを感じた。
永遠の夜の街で、忘れられかけた朝を取り戻す。皮肉なことに、夜空を見るための装置を使って。それは大げさに革命と呼べるようなものじゃないかもしれない。でも、この小さな試みは、夜の寒さに凍えていた俺たちの心を溶かすのに十分な熱を持っていた。そして、その温もりは確実に、俺たちの世界に変化をもたらすはずだ。
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