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061★もうひとり、獣人の子を買いました
しおりを挟む隷属の誓約の呪術が成立したコトを確認し、ニールはシアに問いかける。
「ソレとの隷属契約が成立しましたが、
こちらの2人はいかがいますか?」
聞かれたシアは、2人を見た途端、プルプルしながら首を振られたので、シアはニールに言う。
「えっと、要らないです
なんか、怖がっているんで‥‥‥」
「わかりました
それでは、あの藍白の髪の子は
いかがですか?
お嬢さんの生活全般を
見れると思いますが‥‥‥
ただ、お出しする前に言うのは
ちょっとなんですが、あの子も
少々難ありなんですよ」
シアは小首を傾げてから、問いかける。
「どんな難があるんですか?」
「ウチに来るまで色々とあったようで
こころが壊れているんです」
その言葉に、イリスが眉を顰めて聞く。
「その壊れているってーのは
どんな風になんだ?」
「なんと言えば良いのですか
ソレと同じ、下手すると
もっと酷い症状ですね
ソレは怒りますからね
あの子は、ただただ
こちらの命令に従います
教えたコトは何でもこなします
だから学習はします
ただ、こころが存在しないので
笑わない怒らない泣かない
ようするに喜怒哀楽が無いんですよ
こころを手放したくなるような
酷い目にあったのだろうと
思われます
ただ、美味しい物は好きなようで
僅かにですが笑いますよ
そんなのですから、世間知らずな
お嬢さんでも飼えると思いますよ
あの子には、裏切るという思考も
有りませんから‥‥‥
そういう意味での心配はありません
とりあえず、外訓練の後なんで
身繕いさせてありますので
お嬢さん自身が検分し
飼うかどうかを決めてください」
そう言ってニールが別室へとシアを案内する。
その斜め後ろに、ピッタリと深紅の髪の青年が付き従う。
その様子を少し後ろを歩きながら、イリスとグランツ団長は見ていた。
「とりあえず、シアに害意は無いようだな」
「ああ、隷属が成立しているしな
主としての素質を備えていたんだろう
なんか、執着を感じるからな
あいつは強いぞ‥嬢ちゃんにとっては
良い買い物だと思うぞ
まっ金を出すのは俺だけどな
予想外に安かったぜ」
などと言っている間に、先導していたニールとシア、それに続いて深紅の髪の青年が、一室へと入る。
イリスとグランツ団長もソレに続いた。
室内には藍白の髪の少年がイスにちょこんと座っていた。
その姿は、獣人のお人形を置いてあるかのような姿だった。
頭部の犬科の特徴的な立ち耳は、他の犬科の獣人よりもかなり大きめのようだった。
その瞳の色は、珍しい朱銀色だった。
無機質な朱銀の瞳を覗き込んだシアに、微かな声が聞こえた。
{空の器だぁ~‥‥まま‥欲しい
‥‥‥この身体‥器が欲しいよぉ‥‥}
不可思議な頭の中に響いた声の意味を、シアは何となく納得する。
(空の器‥‥‥っていうコトは‥‥‥
ああこの子は‥もう生きてないんだ
肉体が命令通りに動いているだけ
まるで本人が生きているように
そう‥‥‥そう見えるだけで‥‥‥
こころは‥‥‥魂は‥‥身体から‥
もう離れちゃっているんだ‥‥‥
って?‥‥‥もしかして、今の声って
この胸に抱えている繭から?
とりあえず、買えるなら買っちゃおう)
そんなシアの様子に気付かないニールは、後から入室して来たイリスとグランツ団長に言ってみる。
「どうですか? この子には
高位貴族の侍女や侍従の仕事も
仕込んであります
剣も魔法も、一応それなりに
使えますし
お嬢さんの身の回りのお世話も
十分にできますよ
それに、この子は見ての通り
ソレの存在に怯えるというコトも
ありませんから‥‥‥
お嬢さん、このこころを失くした
可哀想な子を飼ってやりませんか?」
そう言われて、シアは後ろを振り返り、イリスとグランツ団長を見る。
「飼えると思うなら買った方が良い
剣と魔法が使えて、侍女や侍従並に
仕込んであるなら、シアの生活を
支えてくれるだろう」
そういうイリスの腰をさりげなく抱きながら、グランツ団長は言う。
「要るなら、買うぞ」
シアはその言葉に頷いた。
「はい、この子が欲しいです」
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