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0022★また、紫條さんに助けられたようです
しおりを挟む悠虎は、長い夢からフッと意識が引き戻される。
ぼやけていた視界が開くと、知った顔が心配そうに覗き込んでいる。
…………うん?……あれ……紫條さん?…………
…………俺ってば…まだ、夢の中なのかなぁ~…………
そう悠虎が思った頃、その瞳が開いたのをきっかけに、ホッとしたような、落ち着いた優しい声が響く。
「悠虎」
その呼び声に、やっと現実に戻って来た悠虎が、彪煌の前でしかみせない幼い仕草ではにかむ。
「紫條さん、ご迷惑かけてすみません
どうやら、また、助けてもらっちゃったみたいですね」
ムクッと上半身を起こし、肩を竦める悠虎に、彪煌が咎めるような声音で言う。
「あれ程、気を付けろと言ったのに、まったく…………」
と、説教に近い言葉を言い出した彪煌をよそに、悠虎はまだ、夢に浸っていた。
…………あの後、結局、ふたりして授業が終わった頃に迎えに来て…………
…………優さんが借りてくれた家まで送ってくれたんだよなぁ…………
…………それでもって、翌日の朝も迎えに来てくれたりしてさ…………
その時の嬉しさにを思い出して、悠虎は内心でクスッと笑い、更にその後のコトも思い出す。
…………ライブハウスには一緒に連れていってくれたし…………
…………それが、バイクだったりしたから驚いたけど…………
…………平気な顔して『大丈夫』だもんなぁー…………
つぎつぎと当時を回想して、悠虎は自然と口端に薄く微笑みを浮かべる。
…………あれにはまいったよ、ほんと…………
…………でも、楽しかったよなぁー…………
当時に浸るように現実逃避していた悠虎は、彪煌の顔面アップにあって、正気に戻る。
「聞いてるのか?悠虎」
…………うわっ…びっ……びっくりしたぁ~…ドアップはキツイ…………
「あっはい、聞いてます」
内心は慌てつつ、悠虎は彪煌に返事を返す。
「本当に、気を付けないと、大好きなサッカーが出来なくなるぞ」
…………大好きなサッカー…か……確かに好きだけどね…………
…………あの環境から現実逃避する為に始めたコトだからなぁ…………
…………実は、そこまでサッカーに執着無いんだよねぇ~…………
…………ただ、身を立てる手段だったから…………
…………実はサッカーが出来なくても、そこまで哀しくないんだ…………
…………だいたい、職業にしたって長くできるモンじゃないしな…………
…………まっ心配してくれているんだし、それは言わないけどさ…………
…………どっかのスポコン漫画みたいな強烈な情熱は無いから…………
まるで脅すように言う彪煌に、悠虎は苦笑するコトしか出来なかった。
「それは、流石に困りますね」
「困るなら、もっと慎重に行動しろ
本当に、馬鹿で見境の無い者はどこにでも居るんだからな」
「はいはい」
おざなりに答えて、悠虎はベッドから降りる。
「今日はもう部活ないだろう…送ってこう」
…………ふふふふ…あれから、もう2年も経ったんだなぁ~…………
…………高校一年にもなって、いまだに送迎されるのって…………
…………ちょっと恥ずかしいけど、紫條さんと帰れるなら良いか…………
…………そう言えば、今日は紅條さんは居ないんだな…………
…………紫條さんとふたりっきりで帰れるって嬉しいかも…………
「クスッ………本当に、紫條さんて心配症ですね
それと、まだ、帰りませんから、少しサッカーの練習して行きます」
内心をよそに、悠虎はまた肩を竦める。
「それは、悠虎が何時も危ないコトばかりするからだろう
それと、サッカーの練習をするなら、十分に気を付けるんだぞ
お前はとにかく絡まれやすいんだから…………
絡まれたからって、何時でも俺が現れるとは限らないんだからな」
「はーい…気を付けまぁーす」
ベッドの下に置かれたカバンを手に待って、彪煌の隣りに立つ。
「それじゃ、グランドに行くか」
ガラッと医務室のドアを開け、彪煌は何時も通り悠虎の隣りを歩きながら、こころを決めていた。
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