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0008★多勢に無勢は無謀の極み
しおりを挟む悠虎は、この私立條清学園に、編入した当時から何かと絡まれやすかった。
そして、今もまた、先日サッカー部を自分で辞めた上級生に絡まれていた。
待って生まれた才能ゆえに、悠虎はサッカーを志す者達から特に妬まれていた。
着崩した制服で、数人がかりで悠虎を取り囲んだ集団の中の一人が、襟首を押さえて言いがかりを付ける。
「………解ったか………おいっ…貴様っどこを見てやがるつっ」
襟首を両手で掴み、締め上けていた上級生の坂田は、その時になって、悠虎が自分を見ていないコトに気付いた。
その瞬間、坂田は馬鹿にされたと思い、更に憤る。
実際、悠虎は自分の力を磨きもせずに、こういう低俗なコトをする坂田及び、その取り巻きを馬鹿にしていた。
「だいたい、貴様は生意気なんだよっ」
そう叫んだ眼前の坂田に、漸く視線を向けて、静寂に満ちた双眸で見詰め返す。
途端、その真っすぐな視線に、自分が蔑まされたと思った坂田は、悠虎を殴りつけた。
…………いってぇーな………つたく、なんだってんだ…………
…………勝手に、自分でサッカー部を辞めたんだろう…………
…………今度は、意味不明な言いがかり付けた上に暴力かよ…………
…………本当に、情けねぇ一ヤツだな…………
…………つーか…マジで、何処にでも居るんだよなぁ…………
…………こういう、はき違えた輩ってさ…………
言われない暴力に、悠虎は無言で、内心の激情のままに強い視線で睨み返す。
「なんだその目はよぉー………たかが、特待生のくせにっっ………」
言った瞬間、悠虎の勘に触った。
その選択しかなかった、自分の不甲斐ないという押し殺した気持ちの琴線に触れた。
次の瞬間、今まで襟首を締め上げられていても、だんまりを通して来た悠虎の忍耐の緒が、ブチッという音と共にあっさりと千切れた。
「…ったくうっせぇ一んだよ…ごちゃごちゃきゃんきゃんと………
躾けのなってねぇー…犬みてーによぉー…………
自分でサッカーを辞めるって決めて、辞めたんだろぉーが…………
そんなのを俺のセイにすんじゃねぇーよ…負け犬がっ………」
そう言い放った刹那、悠虎は激情のままに自分の襟首を締め上けていた坂田の向こう脛を思いっきり蹴り上げたのだった。
「…ヴッ……ギャァァ………っ………」
途端に上がる情けない坂田の悲鳴。
そして、悠虎に蹴り上げられた足を抱えて、ゴロゴロと転がりながら苦痛の声をもらす。
それと同時に、悠虎の襟首を締め上げた坂田の取り巻き達は、いっせいに悠虎に殴り掛かったのだった。
「テメェー」
「このクソガキっ」
「言うじゃねぇーかっ」
口々に口汚く罵りつつ襲い掛かって来る上級生達の攻撃を避けつつ、悠虎は怒りのままに手足を繰り出した。
しかし、多勢に無勢である。
どうしても、時間と共に不利になる。
いかにケンカ慣れしていようと、悠虎は所詮一人なのだ。
体力の限界もあり、しだいに動きが鈍って行く。
敏捷さで、大勢の相手と張っているので、動きが鈍り始めた悠虎の方がジリジリと不利になって行く。
…………ちっ…不味いなぁ…………
…………こいつら、意外としぶてぇー…………
…………クソッ…手加減なんかすんじゃなかった…………
…………マズイッ……このままじゃ…………
悠虎が、現状から逃れられず、ヤバいと思った次ぎの刹那、足がもつれて避け切れなかった拳を鳩尾に受けてしまった。
瞬間、グラリッと躯がよろめく。
…………ウッ………不味った………きしょぉー…………
悠虎の躯がバランスを崩し、思いっきり傾く。
そんな様子に、坂田の取り巻き達は悠虎の体力が既に限界に来ており、弱りつつあるコトを知って、カサにかかって殴りかかるのだった。
「へへへ………おい、足にキてるぜ………」
一人が薄ら笑いを浮かべると、残りが下卑た嗤いを唇の端に浮かべる。
「ああ……なぁ~……」
喉に絡んだ淫靡さを秘めた声掛けに、漸く悠虎君に蹴り上げられた坂田が立ち上がり、ニヤリっと下卑た嗤いを浮かべて頷き、意味深に目配せする。
「そうだな、こいつは自分の立場っつーのを全然理解してねぇーようだ
こういうヤツには、カラダで思い知らせるのがいい
………ですよね、センパイ」
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