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0004★過剰な慈愛は苦手です
しおりを挟むトントンと話しを勝手に進める優に、話しの内容に追い付けずに悠虎はあわあわする。
…………えっとぉ~……どうして、そうなる?…………
…………いや、どこか借りるって無駄金じゃねぇ?…………
…………つーか…どうしてそんなにウキウキしてるんだ?…………
…………何が楽しいんだ?無駄な出費だろう?…………
「……しっ…しかし………」
その言葉に、悠虎は優を振り返る。
が、そこは年の功で、悠虎の言葉の先を見澄ましたようにやんわりと、拒絶をさせないような声音で言う。
「これは、私のお願いだよ
少しぐらい、私に悠虎君の世話を焼かせてくれても良いだろう
………そうだなぁ~……んー……そうだねぇ~
私立條清学園に、特待生で無事編入出来たコトへの
お祝いのプレゼントというコトでどうかな………」
随分と度が外れたプレゼントである。
やはり一つの会社の社長をしているだけあって、普通の常識からはズレているコトはいなめなかった。
が、こんな風に、どこか、嬉しそうに言われてしまえば、悠虎としても拒むコトも出来ず、戸惑いつつも優の申し出に頷くしかなかった。
「それじゃー、よろしくお願いします」
頭を下ける悠虎に、神崎夫人が静かに笑う。
「たまには、ここに帰って来てね、悠虎君
くすくす………貴方のコトだから、私達に遠慮して
顔を出さないなんてコトしそうだけど
私達も、悠美や悠希も
悠虎君が帰って来るのを待っているのだから」
内心を見透かされたような夫人の言葉に、悠虎は赤面する。
「あらあら…やっぱり、そう考えてたのね
ちゃんと、週末やお休みの時は顔を出してね
そうね、毎週末とは言わないけど
最低でも三週間に一回は帰ってきてね」
にっこりと笑いながら、そう念を押された悠虎は、泣き笑いに近い表情で頷いた。
…………嗚呼…何で…なんで……俺は、素直に…………
…………この人達と一緒に暮らせないんだろう…………
…………それでも、信じられないと俺の中のこころが叫ぶ…………
…………救いの無い暗闇に堕ちて行った、幼いこころが啼く…………
…………また、きっと裏切られる……と…痛みが走る…………
…………誰も、救ってはくれない…と…信じるな…と…………
自分の中にある、自分でも気付かない大きなトラウマによって、悠虎は他人から自分が庇護を受けるのを良しとしないのだというコトを知らない為に、尚一層自分を蔑む。
この暖かい神崎夫妻の好意を、素直に受け入れられない自分を、悠虎は卑下した。
「はい、きっと………帰って釆ます………」
だから、悠虎は自分に妥協出来る範囲でしか、神崎夫妻の好意に応えるコトが出来なかった。
しんみりとなった雰囲気を無意識に感じた二つ下の妹である悠美が、悠虎の服の裾を引っ張って笑う。
「あのね、お兄ちゃん、これ凄く美味しいのよ
お母さんがよく作ってくれるの」
その言葉を聞いた時、悠虎はズキッと胸が痛んだ。
離れていたのは、たったの三ヶ月。
…………おかあさん?…か…今の言葉には…義理も無かった…………
…………お義母さんじゃなく…お母さんだった…………
…………そうだよな…もう悠美も悠希も俺の庇護を必要とはしないんだ………
…………一緒に養子に来て欲しいという言葉を断ったのは自分…………
…………神崎夫妻のこころからの好意に対して疑念が消えるまで…………
…………自分が、その言葉に応えるコトが出来るようになるまで…………
…………結局、三ヶ月もかかってしまった…………
悠虎は、自分の中の矜持に妥協する時間が、それだけかかってしまったのだ。
その間に、妹弟は神崎夫妻をなんの躊躇いもなく父母と呼ぶようになっていたのだ。
悠虎は、一抹の哀しさと、今の自分には何にもない、すべてにおいて脆弱で非力ゆえに、世間から妹弟を守れない自分に憤りを覚える。
そして、実際に幼い妹弟を保護したのは、自分ではない。
血縁関係の者でもない、全くの赤の他人である神崎夫妻の慈愛だった。
やり切れない感情に、こころをかき乱されながらも、悠虎は悠美に不安を与えないように感情を圧し殺して、優しく笑いかける。
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