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0002★傷付いたこころ
しおりを挟む置き去りにされた母・明音は、あまりの哀しさにこころを閉ざしてしまい、悠虎の声にすら反応しなくなってしまった。
勿論、妹の悠美の声にも、生まれたばかりで泣く赤子の悠希の声にすら反応しなかった。
父が一族と呼ばれるところから来た女性に連れ帰られ、母が哀しみのあまり正気を手放したコトで、伊槻家は家庭崩壊したのだった。
…………能力無し…ってなんだろう?…俺にそれが無かったから…………
…………父さんは、女の人に連れられて行ってしまった…………
…………母さんは、父さんを連れて行かれて、正気を失った…………
…………俺に、何か能力とやらがあれば、こうはならなかった?…………
…………あの女の人が言っていた、能力ってなんなんだろう?…………
…………顕現化って…何か目に見えるカタチなのか?…………
…………七つまでに現れなかったら…もう発現しないモノなのか…………
…………もし、俺にその能力とか言うモノがあったなら…………
そんな思考の迷路へと悠虎が彷徨っている間に、気が付いたら、児童養護施設の伊槻学園に引き取られたていたのだった。
後から知ったコトだが、名前の通り児童養護施設の伊槻学園は、悠虎達の父方が経営する施設のひとつだった。
児童養護施設に引き取られてからは、何時も優しかった人達が、気軽に声を掛けてくれていた人達が、掌を返したように冷たく素っ気なくなったっていた。
母が正気を失い救護施設へと入れられ、父が世間的に行方知れずになったコトで、悠虎達から、暖く優しい包容の空気を剥ぎ取ってしまったのだった。
そして、母方の親族は、明音が救護施設へと入ったにもかかわらず、誰一人として現れなかった。
たまに見かける父方の親族は、悠虎達の姿を見ると、嫌悪の表情と汚いモノを見るような視線を投げて来るだけで、けして暖かい言葉などひとつも掛けて来なかった。
そんなコトが重なった中で、悠虎は父母の結婚を、彼らがおもわしく思っていなかったコトを知った。
それでも、比較的に父のコトをそれなりに理解していた父の叔父が出資し、経営する児童養護施設に放り込まれた。
だから、悠虎は早く自分で妹弟を守れる存在になろうと必死で背伸びをしていた。
が、その願いも空しく、悠虎が中学二年生に成った時、妹弟が子供のいない裕福な夫婦に引き取られるコトになったのだった。
先日………と、いっても、もう既に三ヶ月ほど前のコトであるが、悠虎の妹弟は、気の良い養父母に引き取られた。
その時、悠虎自身も、妹弟の養父母に、一緒に養子に来ないかと誘われたのだ。
が、しかし、悠虎はそれを辞退した。
弟妹を引き取って、養父母となってくれたコトだけでも心苦しいのに、この上自分まで世話になるコトは出来ないと思ったのだ。
その他にも、悠虎には、大きなトラウマがあった。
心に負った大きな疵の痛み故に、どうしても、悠虎は妹弟を引き取った養父母と暮らすコトが出来なかった。
幼い身で、実の父親と母親の繰り広けた激しいまでの《愛》を目の当たりにしたせいもあって、悠虎は血縁ですらない人の庇護に入るコトが出来なかった。
それゆえに、妹弟を養子として引き取った神崎夫妻の再三の誘いを、どうしても受け取るコトが出来なかった。
そして、今回も悠虎はすまなそうに首を振るしかなかった。
妹弟の養父となった神崎優は、少し残念そうに言って、悠虎の肩をポンと叩く。
「悠虎君
どうしても私達と暮らすコトは出来ないのかい?」
養父の優の言葉に、悠虎は双眸を哀しそうに閉じて首を振る。
そんな悠虎に、優は憂いを滲ませながらも頷く。
「この家から、学校に通うコトが自分に許せないなら
それは仕様が無いね
残念だが、今は、それは諦めるとしよう」
そんな優しい気遣いをしてくれる養父だからこそ、悠虎も心底すまなく思いつつ、とりあえず、今の自分を引き取るコトを諦めてくれたのを知ってフッと脱力する。
「本当にすみません」
年に似合わない答え方をする悠虎を、優は不憫に思った。
…………悠虎君は、まだ、十三歳になったばかりなのに…………
…………もっと早く、悠虎君の存在を知っていたら………
…………こんなにも、こころが傷付く前に出会えていたら…………
…………悠美や悠希と一緒に引き取れたかもしれないのに…………
…………悠美や悠希という弟妹から離されて…………
…………まさか、他の児童養護施設に移されているなんて…………
…………どうも、悠美や悠希の話しからして…………
…………児童養護施設内で、陰湿なイジメがあったようだし…………
…………イジメの原因は、悠虎君というコトになっていた…………
…………弟妹を庇ったコトをイジメと断定し、理由を聞かずに…………
…………今の悠虎君は、きっとすべてが敵なのだろう…………
…………理不尽に断罪されて、他の児童養護施設に送られて…………
…………言われない理由で、弟妹達から引き剥がされ…………
…………勝手に、養子へと出されていたのだから…………
だから、優は傷付き切った悠虎の負担にならないように、やんわりと言葉を選んで話しかける。
「いや、気にしないでくれ
しかし、その気になったら何時でも言ってくれよ
私達は何時でも悠虎君を歓迎するよ」
にこにこと、笑みを浮かべながら、優は悠虎を見詰める。
「はぁ…でも、妹達がお世話になってますから
俺は、自分で………」
自分の手を拒絶する悠虎に、優はさりけなく言葉を遮って言う。
「ああ、それからね、悠虎君
私の知り合いに、私立の学校を経営している人がいてね
そこに編入試験を受けて行かないかい?」
優の言葉に、悠虎は微妙な表情になる。
それを読んだ優は、言葉を付け足す。
…………ああ、やはり私の金で学校に行くのはイヤなんだね…………
…………だったら、自力でって言えば行ってくれるかな?…………
…………今の中学校には、もう通わせたくないんだよね…………
…………私は知っているよ、君が何時も耐えているコトを…………
…………イジメを受けて、何度も怪我を負っているコトを…………
…………それを、教師達は見て見ぬフリをしている…………
…………いや、これ幸いと、君を生贄にしているコトを知った…………
…………だから、私は安全な私立の学園に悠虎君を入れたい…………
「ああ、私が君の学費を出すつもりだが…………
なんなら、自力で通う権利を獲得してみるかい?
確か、特待生制度も取っていたはずだから
それを、まずは受けてみないかい
今通っている中学校の教師達をちょっと観察してみたけど
はっきり言って、あれで教師かというような論外な者ばかりだし
この際だから、通う学校を替えちゃおうよ
私立條清学園って言うんだけどね
悠虎君が好きな、サッカーにも力入れているし
私立だから融通も聞くしね
悠虎君は、サッカーがとても上手だからきっと受かるよ
もしもダメだったら、私が学費を出すから、普通に通えばイイしね」
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