上 下
27 / 33

027★教えてあげよう、君の罪を… 〈皇帝フリードリッヒ&皇子達 視点〉

しおりを挟む


 あまりにも自分本位なアマーリエに、私は内心で嘆息する。

 はぁ~…ここまでとはな………
 ならば、皇族としての義務も責任も権力も無い離宮で、書を読み。
 自給自足のまねごとをして穏やかに暮らす方が良いだろう。

 だか、この若さで、その暮らしは辛いだろう………。
 何かで、恩赦を与えるのも良いかな………。

 この会話が終わったら、皇妃は、皇子達の廃嫡によって、心労により倒れて人事不詳になり儚くなったと発表して、アルレスハイム王国に返還しよう。

 適当な理由を付けて、ヘルマンの妻になれるようにしてやる。
 こんな愚か者にした原因は、ヘルマンにもあるはずだから………。
 そして思う、甘やかしばかりでは、爛熟して腐り堕ちる………と

 アマーリエを甘やかしたヘルマン、お前が、生涯面倒をみるが良い。
 イラッとした気持ちと、呆れた思いと、憐れみを感じながら、私は淡々と答える。

 「正妃の王女は君だけだった、格下の側妃の王女を娶れと?
  それこそ、政略として何の意味も無いだろう?」

 皇妃は思う、私の価値は、正妃の産んだ王女という立場だけだと……。
 陛下は、それを残酷に告げる。

 この人は、私を人間だと思っていないんだわ。
 同盟の証しが人の形をしている……という程度にしか感じていないのね。

 愛しいヘルマンに似ているから、我慢できると思って嫁いだけど………。 
 こうなったら、可愛いナイトハルトがどうなるかだけを聞いて、何とか出来ないか考える必要があるわね。

 「私の不義の子供と判っていたのに、どうして、ナイトハルトの方を
  皇太子にしたの?」

 まっとうな会話も出来ない女。
 こんな女を押しつけられた、この帝国も私も不運としか言いようが無いな。
 もっとも、あの当時、この帝国は、災害と飢饉と疫病でぼろぼろになっていたからな。

 アルレスハイム王国に、侮られても仕様が無い状態だったしな。
 だから、アマーリエとの婚姻も…………。

 私の血は、ここで絶える……が、まぁ…何人も側妃を娶っても子供が出来なかった皇帝もいるから、これは、不運だったとあきらめるしかない。

 ナイトハルトにフィリシアを娶らせ、フィリシアを皇帝に、ナイトハルトを王配にする。
 ギルバードを溺愛していたが、ナイトハルトだとて我が子として慈しんで育てた。

 私の望む皇太子の理想を体現していたナイトハルトは、愛しかった。
 私と違って、愛しい女フィリシアの為に、熱くなるナイトハルトを本当に可愛いと思ってしまった。

 この性格や資質、才能は、あの気の良いヘルマンから受け継いだものだろうなぁ~………。
 ああ、勿体無いと思うだろうなぁ~あちらは………くすくす…私には嬉しいコトだが。

 だが、この愚かな女を、娶った不運を跳ね返すほど優秀なナイトハルトを得たコトで、お釣りがくる。
 くすくす……内心を隠して、建前だけを言ったら、君はどう反応するのかな?少しぐらいの意地悪はイイ薬だろう。
 私は、苦労したのだから………。

 「そんなコトも判らないのかい、ナイトハルトの出来が良かったからだ

  能力と性格などを考えると、実子のナイトハルトはギルバードよりも
  確実に優秀だったからな………

  それに、いざとなったらフィリシアと婚姻させれば良いと思っていた
  ただ、それだけのコトだ」

 私の冷たいとも言える事実を述べた言葉に、アマーリエはヒステリックに叫ぶ。
 
 「陛下は、私とヘルマンの思いを嗤っていたのですね
  同盟の為だけの婚姻なら、側妃を娶り皇子を設ければ良かったのに…」

 何を言っても、君は、自分の思いにしか意識が向かない。
 王女の資質も資格も無い君は、私の皇妃で無ければ、ひっそりと殺されていただろう。

 正式な夫の跡取りを産む前から愛人の子を産む王女など、誰にでも足を開く娼婦以下だからな。

 ここは、君の祖国アルレスハイム王国では無い。
 アルレスハイム王国より、はるかに強国の同盟国。

 本来なら、君は、私の顔色をうかがいおとなしく過ごす存在でしかないんだよ。
 君は、限りなく人質に近い立場なのだから………。

 アマーリエ、君は意にそまない私と婚姻した当時の国力が落ちて、ぼろぼろの状態の我が国のコトしか頭に無いのだな。

 だから、我が帝国を無意識で侮ってバカにしている。
 同等の国力の国から嫁いできたつもりだろうが、あの当時と今の国力は、別の国ほどに違う………。

 君の今の暮らしを支えているのは、優秀な皇太子ナイトハルトと、皇帝に溺愛される皇子ギルバードを、産んだお陰だというコトにすら、全く気か付いていないとは………。
 もはや、呆れてモノも言えない……。

 君に興味が無くなりほったらかしにした結果、君のどうしようもない性格に気が付くのが遅れた私のミスかな?
 ふふふ……流石に、ナイトハルトもギルバードも呆れた顔で君を見ているよ。

 君を死んだことにしても、2人とも反対しないと確信できる。
 さて、何時まで、この茶番に付き合おうかな?

 「ほぉ~君は、婚姻による同盟をバカにしているのかな?

  君という皇妃がいるのに
  1人の子も生さずに側妃を娶れると思うのか?

  君は、皇帝である私と、この帝国
  それに君の祖国をないがしろにしろと言ったも同然なんだよ

  いったいどういう教育を受けてきたのか?
  話にもならない考え無しなのだね

  その空っぽの頭で、真面目なヘルマンを追い詰めて、無理やり関係を
  持ったのを、私が知らないと思っていたのか………
  ほんとうに、度し難い愚か者だな」

 「私は、愛しいヘルマンと同じ髪と瞳の色を持ち、身長も体型も声も
  ほとんど同じ陛下だから我慢できると思ったのよ」
 
 自分の感情を隠しもしない愚かな君………。
 私の指摘に怒り、ムッとして表情とイライラしている声で言い返す君は、本当に正妃の王女なのかな?と思ってしまうよ。

 アルレスハイム王国の王女に、王族としての教育は果たして行われていたのかと………。
 それでも、君とナイトハルトとギルバードに、あの頃の出来ごとを教える為に、丁寧に教えてやろう。

 「実際に、我慢出来なかったのは君でしょう?

  君は私に言ったよね

 『私の子供は、自分で育てたいの
  だから、乳母も守り役も自分で決めたいわ』

  そう言ったから、私は、君の望みを叶えた
  おとなしく忠実で忍耐強い人間達を用意した

  集めた彼らをどう使って、ナイトハルトを育てるのか?
  それを観察していたら………

  君は、ナイトハルトの世話をおざなりにして
  ヘルマンに絡むだけだった

  君は、自分の言いなりになる人間が、欲しかっただけだった

  そのコトに、直ぐに気が付いたヘルマンは
  ナイトハルトを何かと抱き上げてはかまっていた

  公爵家の三男とはいえ、王家の姫を母に持つ男が子守りをするとはね
  私は驚いて見ていたよ

  だが、ナイトハルトのオシメを換える姿を見て呆れたよ
  それを止めない君にね

  そして、ヘルマンは、ナイトハルトを我が子として愛していると
  それで確信したよ」








しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】いてもいなくてもいい妻のようですので 妻の座を返上いたします!

ユユ
恋愛
夫とは卒業と同時に婚姻、 1年以内に妊娠そして出産。 跡継ぎを産んで女主人以上の 役割を果たしていたし、 円満だと思っていた。 夫の本音を聞くまでは。 そして息子が他人に思えた。 いてもいなくてもいい存在?萎んだ花? 分かりました。どうぞ若い妻をお迎えください。 * 作り話です * 完結保証付き * 暇つぶしにどうぞ

やり直すなら、貴方とは結婚しません

わらびもち
恋愛
「君となんて結婚しなければよかったよ」 「は…………?」  夫からの辛辣な言葉に、私は一瞬息をするのも忘れてしまった。

お久しぶりです、元旦那様

mios
恋愛
「お久しぶりです。元旦那様。」

元妻からの手紙

きんのたまご
恋愛
家族との幸せな日常を過ごす私にある日別れた元妻から一通の手紙が届く。

別に構いませんよ、離縁するので。

杉本凪咲
恋愛
父親から告げられたのは「出ていけ」という冷たい言葉。 他の家族もそれに賛同しているようで、どうやら私は捨てられてしまうらしい。 まあいいですけどね。私はこっそりと笑顔を浮かべた。

初夜に「俺がお前を抱く事は無い!」と叫んだら長年の婚約者だった新妻に「気持ち悪い」と言われた上に父にも予想外の事を言われた男とその浮気女の話

ラララキヲ
恋愛
 長年の婚約者を欺いて平民女と浮気していた侯爵家長男。3年後の白い結婚での離婚を浮気女に約束して、新妻の寝室へと向かう。  初夜に「俺がお前を抱く事は無い!」と愛する夫から宣言された無様な女を嘲笑う為だけに。  しかし寝室に居た妻は……  希望通りの白い結婚と愛人との未来輝く生活の筈が……全てを周りに知られていた上に自分の父親である侯爵家当主から言われた言葉は──  一人の女性を蹴落として掴んだ彼らの未来は……── <【ざまぁ編】【イリーナ編】【コザック第二の人生編(ザマァ有)】となりました> ◇テンプレ浮気クソ男女。 ◇軽い触れ合い表現があるのでR15に ◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。 ◇ご都合展開。矛盾は察して下さい… ◇なろうにも上げてます。 ※HOTランキング入り(1位)!?[恋愛::3位]ありがとうございます!恐縮です!期待に添えればよいのですがッ!!(;><)

【完結】公爵令嬢はただ静かにお茶が飲みたい

珊瑚
恋愛
穏やかな午後の中庭。 美味しいお茶とお菓子を堪能しながら他の令嬢や夫人たちと談笑していたシルヴィア。 そこに乱入してきたのはーー

【完結】捨てられ正妃は思い出す。

なか
恋愛
「お前に食指が動くことはない、後はしみったれた余生でも過ごしてくれ」    そんな言葉を最後に婚約者のランドルフ・ファルムンド王子はデイジー・ルドウィンを捨ててしまう。  人生の全てをかけて愛してくれていた彼女をあっさりと。  正妃教育のため幼き頃より人生を捧げて生きていた彼女に味方はおらず、学園ではいじめられ、再び愛した男性にも「遊びだった」と同じように捨てられてしまう。  人生に楽しみも、生きる気力も失った彼女は自分の意志で…自死を選んだ。  再び意識を取り戻すと見知った光景と聞き覚えのある言葉の数々。  デイジーは確信をした、これは二度目の人生なのだと。  確信したと同時に再びあの酷い日々を過ごす事になる事に絶望した、そんなデイジーを変えたのは他でもなく、前世での彼女自身の願いであった。 ––次の人生は後悔もない、幸福な日々を––  他でもない、自分自身の願いを叶えるために彼女は二度目の人生を立ち上がる。  前のような弱気な生き方を捨てて、怒りに滾って奮い立つ彼女はこのくそったれな人生を生きていく事を決めた。  彼女に起きた心境の変化、それによって起こる小さな波紋はやがて波となり…この王国でさえ変える大きな波となる。  

処理中です...