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0322★成長が不安定な理由のひとつは【名被せ】にあった

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 ケロリとそう言う神護に、マデルはびっくりする。
 少し離れた場所で、使用人に品出しを指示していたミデルも、その話しがしっかり聞こえたらしく、不可解そうな顔をする。
 それ故に、ミデルは不躾にならないように気を配りつつ、神護達の遣り取りをうかがっていた。

 「えっ? そっ…そういうモンなんですか?
 でも…【名被せ】の一族は、昔語りでも、とうの昔に滅んだって
 そう言われていますが?」

 「あのなぁ~マデル、そういう伝承が昔語りであるってことはだぞ
 過去に【名被せ】の一族が存在して居たって証拠だろうが……

 第一、俺は正真正銘【名被せ】の民だぜ
 【名隠し】じゃねぇ~からなぁ~…隠す必要もねぇ~しな……

 クスクス……名前に使う文字に、幾つもの意味が存在する上
 名前を重ねて付ける種族だからな」

 ケロケロと笑いながら、堂々とそう言われて、マデルは首を傾げる。

 「はぁ~…秘めたる《真名》を、狡猾な呪術者に
 【名盗り】されないなんてイイですねぇ……

 でも、本当に《真名》を奪われて支配される心配って無いんですか?

 そのぉ~…こう言っちゃ身も蓋もありませんがねぇ
 だんなが、そう思ってるだけってコトはありませんかねぇ……」

 マデルの言葉に、神護が首を傾げる。

 あははは……もしかしなくても、マデルってすげぇ~心配性だな
 アデルの弟ってわりに、神経が細いのかもなぁ……
 だから、旅商人じゃなくて、街で普通の商人をしているんだなぁ

 「そうだなぁ~…それは、ほぼ絶対に無いって言えるな
 まっ…言うなれば、名前に本人の自由や意思を奪えるだけの
 【呪力】なんてモンは、最初っから存在しないからな

 だから、そういう心配は、必要ないんだ
 ああ、勿論、息子の白夜の名前にも同じコトしてあるぞ

 あの子が誕生した時に、同音で幾つもの意味を持った名前を
 がっちりと付けてあるから、大丈夫なんだ

 それに、新しい意味や文字を思い付くたびに
 新たに付け加えて、幾重にも重ねているしな

 ついでに言えば、初期の方に付けた古い名前なんて
 もう覚えて無いしなぁ……

 まっ【名付け】した俺が、その意味をケロッと忘れちまうんだから
 それを赤の他人が奪うなんて千年経とうが、万年経とうが無理さ」

 ケクケクとわらいながら言う神護の言葉から、初めてその事実を知った白夜は、びっくりする。

 〔私の《真名》が 邪悪な呪術者に【名盗り】されたりしないように
 そういう特殊なモノが 私の名前に付加されているとは

 という事は 父上は本当に【名被せ】の一族なのか?
 名前に支配されない【名被せ】の一族は 先史文明と呼ばれる
 古い時代には存在したらしいが

 大規模な天変地異によって とうの昔に滅んだという伝承が
 わずかに残っているのみだと思っていたが……

 だから父上は 他人に自分の名前を名乗っても
 ああも 平気な顔をしていられたのか 知らなかった

 父上が名乗る 真城ましろ神護しんごという名前は
 てっきり通り名だと思っていたのだが………

 まさか本当に自分の名前だったというコトか
 じゃない……なるほど…どうりで 私の成長が極端に遅い筈だ

 私の成長具合が まるっきり予測がつかないほど
 不安定な状態となっている理由が これでようやく理解わがった

 父上の【名付け】によって
 私が自身が【名被せ】の一族の者になっていたセイだったのか
 ……そうか……ちょっと ほっとしたな

 本来 輝く峰という国(場所)に住む
 我々飛翔族ひしょうぞくの成長は 城壁に守られて
 生活している一般的な住人よりも よほど早い筈なのに

 こんなにも私の成長が不安定で 身体の成長が遅いのは
 【名被せ】の一族の者になったセイだったのか

 幾つもの意味がある名前を 複雑に重ねられているセイで
 名前の重さを支える為に 成長がゆっくりなのかもしれないな

 はぁ~…納得できても こういうのはあんまり嬉しく無いものだな
 私は 早く成人体になって 父上に求婚したいのに……

 これでは 何時 この身体が成熟した ちゃんとした成人体に…
 求愛出来る身体になれるか …全然判らない……くっすん〕

 内心でちょっと項垂れる白夜に気付くこともなく、神護は物陰から白夜を値踏みするやからをチロリッと流し見て、即決する。

 マデルが交渉してくれるとは言ったが……さてさて
 それが白夜をつり出す為のおとりだったら手放さないだろうな

 クックククク…白夜の弟であるグレンの交渉が上手く行かなかったら
 飛翔族ひしょうぞくの者を、現在所有している奴等から
 力業でゆずってもらうしかないよなぁ

 ちいーっとばかり、こころは痛むけどなぁ
 俺も白夜の為に、出来るだけ多くの飛翔族ひしょうぞくの者が欲しいからなぁ

 そう思ってから、神護はマデルの交渉が成功しなかった時にとる手段を考える。
 そんな神護を、白夜はちょっと切なそうに見上げるのだった。

 〔嗚呼 父上に抱き上げられるのは嬉しい……けど
 はやく…私が抱き上げられるようになりたいなぁ〕








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