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0297★今日は、早く動いて距離を稼ごう

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 早朝、日が昇る少し前、夜明け直前の黎明時の明るさを帯びて来た時間に、神護は目を覚ました。
 就寝時、再び胸元から腹部にかけて作った【ルシフェル】の籠の中に入れた雛の【レパルドフィン】が、まるで子猫のように神護の鳩尾の辺りをモミモミしたセイで目が覚めてしまったのだ。

 うわぁ~…懐かしいなぁ……あいつ等もやったっけなぁ……
 この子みたいに籠に入れてたわけじゃないけどなぁ
 俺が寝ている時、胸や腹に乗ってモミモミしてたなぁ……ふふふふ…可愛いなぁ

 元の世界で飼っていた愛猫を思い出しつつ、神護は両腕を上に上げて、くぅ~っと上半身を伸ばし、残った眠気をはらうように、軽く頭を振る。

 じゃなくて、今日は少し早めに動くかな
 小まめに休憩とりながら、走らせるしかないな
 出来る限り、距離を稼ぎたいしな

 もしもを考えてしまったコトで、神護は焦る気持ちを持て余しつつも、自分の庇護する対象となった白夜を見詰める。
 その視線の先では、白夜がうつぶせで眠り、小さな翼をパタパタとはためかせながら、スヨスヨと眠って居た。

 うん…白夜はまだ眠って居るようだなぁ…くすくす…小さな翼をはためかせて、いったいどんな夢を見ているのかなぁ?
 俺に色々な《ちから》を譲渡して、自ら禁断とされる【転生術】なんてモンを施したって言うんだからな
 元は成人男性だったようだけど、だいぶ今の身体に影響されているようだしな

 言動や行動に幼さがあるからな…本人は気付いてないみたいだけど………
 一生懸命、背伸びをしているようで、可愛いんだよなぁ
 じゃなくて、軍馬達を馬車から出して、走るのに影響ない程度に軽く食べさせて、胃が落ち着いたら出発しないとな

 いっくら、厳しい訓練された軍馬達だって、あんまり無茶は出来ないしな
 俺に《転移》できる魔力があっても、三台の馬車を全部運ぶのは無理だからなぁ
 だいいちに、あの《いにしえ》の神殿内に入れるにはキツイ
 いや、別に入らなくはないけどな………じゃない

 神護は気を取り直して、ソッと白夜やリオウ達を起こさないように備え付けられたベッドから抜け出て、面倒な編み上げの革靴を履いて、軍馬達の世話をしに出る。

 勿論、衣服の下には聖獣【レパルドフィン】の雛を抱いたままなので、いくら【ルシフェル】が触手で支えていようと、大きな動きははばかられた。
 だから、神護は慎重に動くしか無かった。

 それでも、神護は軍馬達を外に出し、フード付きの馬衣を脱がせて畳み、しばしの放牧をする。
 馬達も心得たもので少し離れたところでおトイレをして、さっさと戻って来る。

 中には軽く準備運動とばかりに走るモノもいるが、大半は神護が用意したモノを食べて飲んで、まったりとハーネスに付けられる時を待っていたりする。

 神護は、時間短縮をする為に、各馬車のリーダー馬達に、内緒でカエスの干した切り身を口へと入れてやる。

 「良い子だなぁ~…んじゃ、そろそろ所定位置に誘導してくれ」

 神護がそう言えば、リーダー馬達は軽くいなないて、所定位置へと向かうのだった。
 一番目の馬車の馬達が所定位置に到着したのを確認し、神護はハーネスを留めて行く。

 はぁ~…コレだけでも、やってくれる人員がいると助かるんだよなぁ~…
 いっくら器用なリーダー馬達も、ハーネスの留め金を外すコトは出来ても、繋ぎなおしは流石にできないからなぁ
 とにかく、白夜の弟をなんとしても、早急に確保しないとな

 この際、使えるモノはなんでも使って、とにかく新しい飛翔族ひしょうぞくをゲットしないとな
 グレンとシレイだったっけか? そんな名前だったよなぁ…確か
 とにかく、そいつらを保有している奴等は、どうせろくでもない奴等だろうからな

 この際だ、力尽くでもなんでも、むしり取ってやる
 その為にも、出来るだけ早く彩湖さいこ王国の東の端美里みさと街とやらに行かないとな
 流石に、軍馬達の世話のほかに、もろに絶滅危惧種の雛の世話があるからな

 それに、そろそろホタルの卵達のいくつかにも、孵化の兆候が出てきているから、なお焦るんだよなぁ
 白夜の弟・グレンが手に入るのが先か? ホタルの卵が孵化するのが先か?
 これ以上、面倒を見る雛が増えたら、確実に手が足りなくなるだろう

 そんなコトを考えながら、神護は三台分の馬達をハーネスに繋ぎ、ついでに今日の分の朝食と昼食の分の食料品を後部の馬車から取り出して一番目の馬車へと向かうのだった。

 その際に、三台目の馬車の軍馬達から一台目の馬車に繋がれた軍馬達まで、全頭に干し風糖ふうとうをひと粒ずつ口に放り込んでやった神護だった。

 そういう甘い扱いをしてもらえるだけに、軍馬達は嬉々として神護の意思に従い、素直に走るのだ。
 神護は神護で、家でのペット達と同じように愛でるコトを、別に特別とも思っていない無意識の講堂である。

 軍馬達は、それまでの扱いに比べれば極上の天国なだけに、ずっと自分のあるじでいて欲しいと思っていた。勿論、全頭である。

 神護が出来るだけ早く、彩湖さいこ王国の東の端美里みさと街に行きたいと無意識に呟いていたのを聞き逃すコトなく拾っていたので、街道に入ったところでじょじょにスピードを上げて、突っ走りはじめるのだった。

 神護は、軍馬達がいななきを上げながら、それぞれが交信して速度調整をしながら走り始めたのを確認し、後を軍馬のリーダーのトップにまかせて、馬車の中へと入るのだった。

 勿論、リーダー馬に指示を出す間、足元において置いた、後の馬車から持って来た食料品を腕に抱えて戻ったコトは言うまでもない。








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