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0279★やっと朝食にありつけました

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 ようやく、翼に絡まるマントを外せた白夜は、ホッとしたような表情で神護を見上げて言う。

 「ありがとうございます 父上」

 「ああ、気を付けろよ、白夜
  無理にマントや服を引っ張って

  成長途中の翼を怪我したら
  お前が痛てぇーんだからな

  少しでも自分じゃ無理だと思ったら
  すぐに言えよ

  いくらでも手伝ってやるからな

  ちゃんと翼が育つまでは
  絶対に無理するなよ」

 そう言って、白夜の頭を撫でる神護は、立派な過保護になっていた。
 なにぶん、卵の時から白夜を育てたということが、神護の父性愛?を持たせたようだった。

 「はい 父上」

 暑苦しいマントを脱いだことで、機嫌の良くなった白夜は、背中の翼をパタパタとさせながら、楽しそうに奥へと入って行く。
 その後ろ姿を見て、無意識に微笑いながら、神護も編み上げの革靴を脱ぎ、棚にしまって、白夜の後に続きながら言う。

 「さーて、白夜の期待どうりに
  用意できたかな?」

 そして、自分の肩にしがみついたまま熟睡しているリンクを見て、クスッと笑い口中で呟く。

 「リンクの朝メシは……熟睡してっから
  こりぁ~………起きたからだな」

 居住区に入る、ふわりとした良い匂いが鼻を擽〈くすぐ〉る。
 良い匂いを立ち上らせる朝食が乗ったテーブルの隣りにある、小さなテーブルには、口をゆすぐ為の水と、手水が用意されていた。

 衛生管理を心がける神護は、なるべく、外に出たらうがいと手洗いを習慣付けるようにしていた。

 なにぶん、背中に翼が生えていようと、小さな子供の相手をしているという思いが、そうさせるのだ。

 流石、医者の息子である。

 神護から、そうするものだと教えられている白夜は、用意されている手水で手と顔を洗い、タオルで濡れた手と顔を拭う。

 そして、その隣りに置かれている、瀟洒な水入れを取り、一緒に用意されているコップに水を注ぎ、うがいをすませる。

 一通りをすませ、白夜が朝食を並べたテーブルに着くのを見ながら、
神護も手と顔を洗い、タオルで濡れた顔と手を拭い、口をゆすぎながら、つい考えてしまう。

  考えてみたら、ここしばらく
  あっち還ってないけど

  俺が本来生活している
  現実に戻ることがないのは
  どうしてなんだろう?

  これはこれで、面白いけど……
  高校を留年するのは厭だなぁ……

  それとも、このファンタジーな
  異世界の夢を見ている間と

  起きている現実世界で
  高校に通っている時間の記憶が
  曖昧なだけだろうか?

  白夜が入っていた
  小さな卵を受け取った最初の頃は

  どちらかというと
  記憶に残らない夢としか
  認識してなかったけど……

  もしかして、記憶には無いけど
  この世界で眠ると

  あっちの現実の世界で
  俺は、何時もとなんら変わりない
  日常生活しているのかな?

  まっ…何をどうしたら
  現実の世界の方に

  意識変換できるかは
  判らないから

  今の俺にはどうしようもないけどな

  今出来るコトって言ったら
  白夜を無事に育て上げるコトかな
  それが、今の俺の使命かな?

  本当に、何時まで、俺の手を
  必要としてくれるかな?白夜は

 神護はそんなことを考えながら、濡れた口元をタオルで拭きつつ、白夜を見るのだった。

 神護がテーブルに着くのをジッと待っていた白夜が、その視線を感じて、にこっと嬉しそうに笑う。

  ホント、何時も思うんだけど
  白夜は何が嬉しいのかなぁ?

  俺の顔を見ると、自然にニコニコするけど
  愛想笑いじゃねぇーのは判るから
  本心から笑ってるんだろうけど

 そんなことを考えながら、神護は白夜の待つテーブルに着き、イスに座る。
 勿論、その足元にはちょこなんとリオウが自分用の食器とご飯を前に、お行儀よく胸を張って待っていた。
 肩のリンクは熟睡真っ只中なので静かなものだった。


 お行儀よく待つ白夜とリオウに、神護は声を掛ける。

 「お待たせ…そんじゃ食べようか
  白夜 リオウ」

 「はい 父上」

 「クルルぅ~……」

 嬉しそうに自分を見上げて笑う白夜とリオウに、神護はなんともいえない幸福感を感じながら言う。

 「それじゃ………
  今日の糧となってくれた

  全てのモノに感謝して
  食べような

  いただきます」

 「いただきます」

 「ガルゥ~ルゥ~」

 ちなみに、テーブルに置かれている料理は…………。
 馬車を手に入れる切っ掛けになった虹色オオトカゲの肉を《ショウ》と蜂蜜と生姜に、馬車の中にあった香辛料とで甘辛く味付けして焼いたモノ。

 魔法を駆使して作った、柔らかいパン。
 乾燥野菜と《ちかご》に、味付けしたまま保存しておいた火熊の肉をダシにしたスープ。
 あとは、李紅〈りく〉の実に風糖〈ふうとう〉がデザートとして用意されていた。


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