279 / 328
0279★やっと朝食にありつけました
しおりを挟むようやく、翼に絡まるマントを外せた白夜は、ホッとしたような表情で神護を見上げて言う。
「ありがとうございます 父上」
「ああ、気を付けろよ、白夜
無理にマントや服を引っ張って
成長途中の翼を怪我したら
お前が痛てぇーんだからな
少しでも自分じゃ無理だと思ったら
すぐに言えよ
いくらでも手伝ってやるからな
ちゃんと翼が育つまでは
絶対に無理するなよ」
そう言って、白夜の頭を撫でる神護は、立派な過保護になっていた。
なにぶん、卵の時から白夜を育てたということが、神護の父性愛?を持たせたようだった。
「はい 父上」
暑苦しいマントを脱いだことで、機嫌の良くなった白夜は、背中の翼をパタパタとさせながら、楽しそうに奥へと入って行く。
その後ろ姿を見て、無意識に微笑いながら、神護も編み上げの革靴を脱ぎ、棚にしまって、白夜の後に続きながら言う。
「さーて、白夜の期待どうりに
用意できたかな?」
そして、自分の肩にしがみついたまま熟睡しているリンクを見て、クスッと笑い口中で呟く。
「リンクの朝メシは……熟睡してっから
こりぁ~………起きたからだな」
居住区に入る、ふわりとした良い匂いが鼻を擽〈くすぐ〉る。
良い匂いを立ち上らせる朝食が乗ったテーブルの隣りにある、小さなテーブルには、口をゆすぐ為の水と、手水が用意されていた。
衛生管理を心がける神護は、なるべく、外に出たらうがいと手洗いを習慣付けるようにしていた。
なにぶん、背中に翼が生えていようと、小さな子供の相手をしているという思いが、そうさせるのだ。
流石、医者の息子である。
神護から、そうするものだと教えられている白夜は、用意されている手水で手と顔を洗い、タオルで濡れた手と顔を拭う。
そして、その隣りに置かれている、瀟洒な水入れを取り、一緒に用意されているコップに水を注ぎ、うがいをすませる。
一通りをすませ、白夜が朝食を並べたテーブルに着くのを見ながら、
神護も手と顔を洗い、タオルで濡れた顔と手を拭い、口をゆすぎながら、つい考えてしまう。
考えてみたら、ここしばらく
あっち還ってないけど
俺が本来生活している
現実に戻ることがないのは
どうしてなんだろう?
これはこれで、面白いけど……
高校を留年するのは厭だなぁ……
それとも、このファンタジーな
異世界の夢を見ている間と
起きている現実世界で
高校に通っている時間の記憶が
曖昧なだけだろうか?
白夜が入っていた
小さな卵を受け取った最初の頃は
どちらかというと
記憶に残らない夢としか
認識してなかったけど……
もしかして、記憶には無いけど
この世界で眠ると
あっちの現実の世界で
俺は、何時もとなんら変わりない
日常生活しているのかな?
まっ…何をどうしたら
現実の世界の方に
意識変換できるかは
判らないから
今の俺にはどうしようもないけどな
今出来るコトって言ったら
白夜を無事に育て上げるコトかな
それが、今の俺の使命かな?
本当に、何時まで、俺の手を
必要としてくれるかな?白夜は
神護はそんなことを考えながら、濡れた口元をタオルで拭きつつ、白夜を見るのだった。
神護がテーブルに着くのをジッと待っていた白夜が、その視線を感じて、にこっと嬉しそうに笑う。
ホント、何時も思うんだけど
白夜は何が嬉しいのかなぁ?
俺の顔を見ると、自然にニコニコするけど
愛想笑いじゃねぇーのは判るから
本心から笑ってるんだろうけど
そんなことを考えながら、神護は白夜の待つテーブルに着き、イスに座る。
勿論、その足元にはちょこなんとリオウが自分用の食器とご飯を前に、お行儀よく胸を張って待っていた。
肩のリンクは熟睡真っ只中なので静かなものだった。
お行儀よく待つ白夜とリオウに、神護は声を掛ける。
「お待たせ…そんじゃ食べようか
白夜 リオウ」
「はい 父上」
「クルルぅ~……」
嬉しそうに自分を見上げて笑う白夜とリオウに、神護はなんともいえない幸福感を感じながら言う。
「それじゃ………
今日の糧となってくれた
全てのモノに感謝して
食べような
いただきます」
「いただきます」
「ガルゥ~ルゥ~」
ちなみに、テーブルに置かれている料理は…………。
馬車を手に入れる切っ掛けになった虹色オオトカゲの肉を《ショウ》と蜂蜜と生姜に、馬車の中にあった香辛料とで甘辛く味付けして焼いたモノ。
魔法を駆使して作った、柔らかいパン。
乾燥野菜と《ちかご》に、味付けしたまま保存しておいた火熊の肉をダシにしたスープ。
あとは、李紅〈りく〉の実に風糖〈ふうとう〉がデザートとして用意されていた。
0
お気に入りに追加
604
あなたにおすすめの小説

異世界なんて救ってやらねぇ
千三屋きつね
ファンタジー
勇者として招喚されたおっさんが、折角強くなれたんだから思うまま自由に生きる第二の人生譚(第一部)
想定とは違う形だが、野望を実現しつつある元勇者イタミ・ヒデオ。
結構強くなったし、油断したつもりも無いのだが、ある日……。
色んな意味で変わって行く、元おっさんの異世界人生(第二部)
期せずして、世界を救った元勇者イタミ・ヒデオ。
平和な生活に戻ったものの、魔導士としての知的好奇心に終わりは無く、新たなる未踏の世界、高圧の海の底へと潜る事に。
果たして、そこには意外な存在が待ち受けていて……。
その後、運命の刻を迎えて本当に変わってしまう元おっさんの、ついに終わる異世界人生(第三部)
【小説家になろうへ投稿したものを、アルファポリスとカクヨムに転載。】
【第五巻第三章より、アルファポリスに投稿したものを、小説家になろうとカクヨムに転載。】

150年後の敵国に転生した大将軍
mio
ファンタジー
「大将軍は150年後の世界に再び生まれる」から少しタイトルを変更しました。
ツーラルク皇国大将軍『ラルヘ』。
彼は隣国アルフェスラン王国との戦いにおいて、その圧倒的な強さで多くの功績を残した。仲間を失い、部下を失い、家族を失っていくなか、それでも彼は主であり親友である皇帝のために戦い続けた。しかし、最後は皇帝の元を去ったのち、自宅にてその命を落とす。
それから約150年後。彼は何者かの意思により『アラミレーテ』として、自分が攻め入った国の辺境伯次男として新たに生まれ変わった。
『アラミレーテ』として生きていくこととなった彼には『ラルヘ』にあった剣の才は皆無だった。しかし、その代わりに与えられていたのはまた別の才能で……。
他サイトでも公開しています。

我が家に子犬がやって来た!
もも野はち助(旧ハチ助)
ファンタジー
【あらすじ】ラテール伯爵家の令嬢フィリアナは、仕事で帰宅できない父の状況に不満を抱きながら、自身の6歳の誕生日を迎えていた。すると、遅くに帰宅した父が白黒でフワフワな毛をした足の太い子犬を連れ帰る。子犬の飼い主はある高貴な人物らしいが、訳あってラテール家で面倒を見る事になったそうだ。その子犬を自身の誕生日プレゼントだと勘違いしたフィリアナは、兄ロアルドと取り合いながら、可愛がり始める。子犬はすでに名前が決まっており『アルス』といった。
アルスは当初かなり周囲の人間を警戒していたのだが、フィリアナとロアルドが甲斐甲斐しく世話をする事で、すぐに二人と打ち解ける。
だがそんな子犬のアルスには、ある重大な秘密があって……。
この話は、子犬と戯れながら巻き込まれ成長をしていく兄妹の物語。
※全102話で完結済。
★『小説家になろう』でも読めます★

[完結] 邪魔をするなら潰すわよ?
シマ
ファンタジー
私はギルドが運営する治療院で働く治療師の一人、名前はルーシー。
クエストで大怪我したハンター達の治療に毎日、忙しい。そんなある日、騎士の格好をした一人の男が運び込まれた。
貴族のお偉いさんを魔物から護った騎士団の団長さんらしいけど、その場に置いていかれたの?でも、この傷は魔物にヤられたモノじゃないわよ?
魔法のある世界で亡くなった両親の代わりに兄妹を育てるルーシー。彼女は兄妹と静かに暮らしたいけど何やら回りが放ってくれない。
ルーシーが気になる団長さんに振り回されたり振り回したり。
私の生活を邪魔をするなら潰すわよ?
1月5日 誤字脱字修正 54話
★━戦闘シーンや猟奇的発言あり
流血シーンあり。
魔法・魔物あり。
ざぁま薄め。
恋愛要素あり。

転生幼女のチートな悠々自適生活〜伝統魔法を使い続けていたら気づけば賢者になっていた〜
犬社護
ファンタジー
ユミル(4歳)は気がついたら、崖下にある森の中にいた。
馬車が崖下に落下した影響で、前世の記憶を思い出す。周囲には散乱した荷物だけでなく、さっきまで会話していた家族が横たわっており、自分だけ助かっていることにショックを受ける。
大雨の中を泣き叫んでいる時、1体の小さな精霊カーバンクルが現れる。前世もふもふ好きだったユミルは、もふもふ精霊と会話することで悲しみも和らぎ、互いに打ち解けることに成功する。
精霊カーバンクルと仲良くなったことで、彼女は日本古来の伝統に関わる魔法を習得するのだが、チート魔法のせいで色々やらかしていく。まわりの精霊や街に住む平民や貴族達もそれに振り回されるものの、愛くるしく天真爛漫な彼女を見ることで、皆がほっこり心を癒されていく。
人々や精霊に愛されていくユミルは、伝統魔法で仲間たちと悠々自適な生活を目指します。
5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?
gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。
そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて
「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」
もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね?
3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。
4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。
1章が書籍になりました。

【完結】勘当されたい悪役は自由に生きる
雨野
恋愛
難病に罹り、15歳で人生を終えた私。
だが気がつくと、生前読んだ漫画の貴族で悪役に転生していた!?タイトルは忘れてしまったし、ラストまで読むことは出来なかったけど…確かこのキャラは、家を勘当され追放されたんじゃなかったっけ?
でも…手足は自由に動くし、ご飯は美味しく食べられる。すうっと深呼吸することだって出来る!!追放ったって殺される訳でもなし、貴族じゃなくなっても問題ないよね?むしろ私、庶民の生活のほうが大歓迎!!
ただ…私が転生したこのキャラ、セレスタン・ラサーニュ。悪役令息、男だったよね?どこからどう見ても女の身体なんですが。上に無いはずのモノがあり、下にあるはずのアレが無いんですが!?どうなってんのよ!!?
1話目はシリアスな感じですが、最終的にはほのぼの目指します。
ずっと病弱だったが故に、目に映る全てのものが輝いて見えるセレスタン。自分が変われば世界も変わる、私は…自由だ!!!
主人公は最初のうちは卑屈だったりしますが、次第に前向きに成長します。それまで見守っていただければと!
愛され主人公のつもりですが、逆ハーレムはありません。逆ハー風味はある。男装主人公なので、側から見るとBLカップルです。
予告なく痛々しい、残酷な描写あり。
サブタイトルに◼️が付いている話はシリアスになりがち。
小説家になろうさんでも掲載しております。そっちのほうが先行公開中。後書きなんかで、ちょいちょいネタ挟んでます。よろしければご覧ください。
こちらでは僅かに加筆&話が増えてたりします。
本編完結。番外編を順次公開していきます。
最後までお付き合いいただき、ありがとうございました!

一家処刑?!まっぴらごめんですわ!!~悪役令嬢(予定)の娘といじわる(予定)な継母と馬鹿(現在進行形)な夫
むぎてん
ファンタジー
夫が隠し子のチェルシーを引き取った日。「お花畑のチェルシー」という前世で読んだ小説の中に転生していると気付いた妻マーサ。 この物語、主人公のチェルシーは悪役令嬢だ。 最後は華麗な「ざまあ」の末に一家全員の処刑で幕を閉じるバッドエンド‥‥‥なんて、まっぴら御免ですわ!絶対に阻止して幸せになって見せましょう!! 悪役令嬢(予定)の娘と、意地悪(予定)な継母と、馬鹿(現在進行形)な夫。3人の登場人物がそれぞれの愛の形、家族の形を確認し幸せになるお話です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる