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0174★とにかく、現状確認をしよう1

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 聖樹は、聖子が居ないことに困惑している灰茨に向かって震える唇で言う。

 「…聖子…なら…売店に…行った……
 アクエ…か…ポカリ…頼んだから……」

 途切れ途切れにそう言う聖樹を見て、灰茨は安堵する。

 〔どうやら、衝動的な自殺とかの自傷行為は
 大丈夫そうですね…ほっとしました〕

 そんな心配などおくびにも出さずに、灰茨は頷いて自己紹介する。

 「そうですか、だから外で待機しているはずの
 椎名が居なかったんですね

 あっ…私は、神無月聖様の側近の一人で
 灰茨 奨と(はいばら すすむ)と申します」

 そう言って頭を下げる灰茨に、聖樹は微かに頭を動かして答える。

 「そう…ですか…と…さん…の………」

 渇ききった喉のせいで、思うとおりに声が出せない聖樹は、困った顔をする。
 そこに、アクエとポカリを握った聖子が急ぎ足で戻って来た。

 「お待たせ、聖樹お兄様
 両方とも有りましたが
 どちらにします?」

 そう問われた聖樹は、ちょっと小首を傾げてから、灰茨を見て言う。

 「すみません、灰茨さん
 上半身を起こしてもらいたいのですが……」

 聖樹の要求に、灰茨は笑って答える。

 「あぁ…これば気が付きませんで………
 それから、私は灰茨で結構ですよ
 さんはいりませんから………」

 そう言いながら、灰茨はベットに備え付けられたスイッチをゆっくりと押す。
 同時に、モーター音が響き、自動で聖樹の上半身をゆっくりと起こして行く。
 聖樹が寝かされていたベットは、最新のシステムが組み込まれたモノだったのだ。
 
 「聖樹様、この辺でよろしいですか?」

 上半身を起こしてもらった聖樹は、ちょうど良いところで止まったなぁ~と思いながら頷く。

 「ありがとう…はい…ばら……」

 喉のいがらっぽさに顔を顰めた聖樹の前に、聖子はクイッと備え付けのミニテーブルを出して、二本の清涼飲料を置く。
 そして、ストローを探し出し、聖子は聖樹の方を見る。
 聖樹は、ちょっと考えてから言う。

 「先に…アクエを…くれるか?」

 少し唾液が出て来たらしく、喉のカサカサ感は減ったものの、潤いが足りないと訴える喉の為に、聖樹はアクエを望む。

 〔先に、ポカリを飲むと、味が濃いからなぁ
 アクエが水に感じちゃうだろうし………
 先に飲むなら、アクエかな?〕

 聖子は、聖樹の為にアクエの口を開けて、ストローを差し込んで差し出す。

 「…あ…りが…とう…」

 そう言ってから、聖樹はポカリを飲む。
 ストローを通って口腔を満たし、喉へと滑り落ちるヒンヤリとした感覚に、聖樹はうっとりする。

 〔はぁ~……生き返るぅぅ~……美味しい
 喉のカサカサ感も消えたような気がするし……

 って、まったりしている場合じゃないよな
 とにかく、状況判断できる材料となる情報を
 聖子達からもらわないと………

 あそこから救出されたのは良いとして………
 父さんや、母さんにどう報告されているか
 現在の状況を聞かないとな

 あの男(明宏)や、その弟(明仁)のことも
 色々といやなことはされたが、気になるし………

 クスクス…あぁ…俺ってば、喉元過ぎればの
 タイプだったみたいだなぁ………

 じゃなくて、あっちの異世界の朱螺のことも
 とても気になるし………

 腹に抱え込んだ紫皇(しおう)のこともあるから
 早急に、現状の認識と…………

 この滅茶苦茶やせ細った躯を、なんとか
 元の状態に戻さないといけないよなぁ………

 せっかく、呼び寄せた紫皇(しおう)を
 失ってしまいかねないからな〕

 喉を潤す冷たい液体のお陰もあってか、冷静に自分のことが考えられることに内心でホッとしながら、聖樹は1本目のアクエを綺麗に飲みきる。

 「はぁ~……いきかえったぁぁぁ~……」

 そう言いながら、聖樹は自分の腕に固定されている点滴を見て、ゲンナリする。

 「えぇ~とぉ……とりあえず、現状確認したい
 聖子、俺の状態は?」

 聖樹に話しを振られた聖子は、ちょっと考える。

 〔えぇ~と…聖樹お兄様に、どう説明したら……
 日数的なモノで言えば良いのかしら?
 それとも、体調のことを…………

 とりあえず、日数的なことで話した方が
 今の聖樹お兄様には、良いかしら?〕

 「えぇ~と…聖樹お兄様が……その………
 一部の馬鹿な嫉妬に塗れたクラスメート達に
 睡眠薬を盛られたのが、夏休みの前日ですわ」

 聖子の言葉に、聖樹はその時のコトを思い出して、ちょっと顔を顰めつつも頷いた。






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