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0172★愛しい腹の子に名前を
しおりを挟む聖樹は、心配そうに目覚めを待つ聖子達のことに気付く余裕など無かった。
なぜなら、沈み込んだ揺れる意識の狭間で、自分の腹に抱えた子の名前を一生懸命に考えていたからである。
〔えぇ~とぉ~……ここって…俺の中だよな…
あっちに堕ちなかったってことかな?
じゃなくって、名前を考えなきゃ………
朱螺には、この腹に抱えた子のこと
ひと言も言ってないけど………
今は、この子の名前だ
俺の字から取ろうかな?
それとも、音にしようか?〕
聖樹は、そんなことを考えながら、自分の中に入り込んだことによって、触るこができるようになった、愛しい子を撫でながら小首を傾げていた。
〔ふむ、朱螺に蒼珠だから
この子の名前にも色付きが良いかな?
くすくす…尊(とうと)いってことで
紫の字を入れようかな?
紫遠(しおん)……ちょっとなんかな?
神紫(こうし)……いや、これもちょっとか
紫姫(しき)…って、性別判ってないから
これもパスだな
紫皇(しおう)…ちょっと大それた感じだけど
この子は〈契約の子〉だし…良いよな……
男の子っぽい名前になっちゃったけど
ああそうだ、明確に性別が有って
もし、女の子だったら紅紫(こうし)
やっぱり両方の名前を考えておかないとね〕
そう思いついた蒼珠は、男の子と女の子の名前を考えた後、撫でていた愛しい子に呼びかける。
「起きてくれるかな?
お前の名前を考えたんだ………」
そう、聖樹に呼びかけられ、醜い肉塊のようなずんぐりむっくりのトカゲもどきは、恐る恐るという風情で顔を上げる。
「お前の性別が判らないから
男の子と女の子の名前を考えた
男の子なら、紫皇(しおう)
女の子なら、紅紫(こうし)
自分でも、性別が不明なら
気に入った方の名前を選んで欲しいな」
蒼珠からの言葉に、肉塊のようなトカゲもどきの輪郭がぶわりと揺れ、愛らしい人型を取る。
が、耳は朱螺の変異した時と同じような、蝶のようなヒレで、瞳の瞳孔は縦長だった。
まさしく、龍族の姿に変化した愛しい子は、嬉しそうに言う。
「かあさま……嬉しい…名前……
紫皇(しおう)…が…良いです…」
たどたどしい舌っ足らずのような紫皇(しおう)の言葉に、聖樹は嬉しさから涙を零れ落としながら頷いて抱き締める。
「そうか、それじゃこれから、今日から
お前は紫皇(しおう)だ
俺の愛しい子、紫皇(しおう)
必要なら、この躯に施された刺青を
お前にやろう
あっちから来たばかりで、まだ
半実体の紫皇(しおう)には
形代が必要だろうからな
こちらでは、ただの刺青だが
あっちでは、この躯に彫られたモノは
〈入れ墨〉になるようだから
充分に、紫皇(しおう)の形代になる筈だ
きっと、役に立つ」
蒼珠からの優しい癒しの含まれた言葉に、紫皇(しおう)は嬉しそうに頷く。
「かあさま…紫皇(しおう)…嬉しい……
…あっ…かあさま……紫皇(しおう)の
《魔石》……受け取って……痛い…の……
背中と…お腹と…額と…………」
紫皇(しおう)は、邪闇(じゃみ)の命令によって、蛾宵(がよい)の手で埋め込まれた《魔石》による痛みを訴える。
聖樹は、そんな紫皇(しおう)を抱き締めて、埋め込まれた《魔石》を自分の躯へと呼び込む。
《魔石》達は、本来の持ち主ではない紫皇(しおう)の拒絶と、聖樹の呼びかけに反応した。
そして、本来紫皇(しおう)が持っていた《魔石》以外は、速やか聖樹の躯へと移る。
が、聖樹に《魔石》達は苦痛をもたらさなかった。
それどころか、眠っていた聖樹の中の《魔石》すら、共感して覚醒(めざめ)て、出現していた。
同時に、聖樹は自分の中に、確かに《魔力》を司る器官と、大きな《魔力》が眠っていることを自覚した。
〔ああ…本当に…俺の中に《魔力》がある……
朱螺が注いでくれたモノとは違う
俺自身の《魔力》を感じる
これなら、しばらくは紫皇(しおう)を養える
けど、早急に、あっちに行く方法を探さないと
せっかくとどめたのに、流れて失ってしまう〕
そんなことを考えながら、聖樹は優しく我が子となった人型の紫皇(しおう)を抱き締めて、静かに涙を零れ落とす。
「本当に、間に合ってよかった
紫皇(しおう)…お前は、俺の子だ
腹を間違えるからつらいことになったんだ
お前の親は、俺だからな………」
聖樹の言葉に、紫皇(しおう)は嬉しそうにグリグリと頭を擦り付け、きゅっと小さな手でしがみ付く。
「かあさま…大好き………」
幼い紫皇(しおう)に抱きつかれ、聖樹はゆっくりと自分の意識が別のところへと運ばれて行くのを感じていた。
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