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0162★現実世界へと引き戻された聖樹

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 聖子が聖樹の行方を捜し、灰茨の部下がクラスメートの一人を捕獲し、聖樹の行方を吐かせる為、八王子にある【華蘭】の最下層≪饗宴の間≫に到着した、その頃。
 聖樹は、異世界から現実世界の悪夢へと堕ちていた。
 そう、デモニアンから聖樹を買った、明宏の下へ……。

 超が付くほどの速さで、全身におよぶ大きな刺青を入れられたことによって、発熱していた。
 だが、熱を出していようと、聖樹への淫虐は止まなかった。
 四肢を拘束され、最後の刺青を肛門へと施されているところだった。

 張り型を銜え込まされ、いっぱいいっぱいまで広げられ、今も無情な針によって、小さく肉を抉られ、鮮やかな染色を施されていた。
 その残酷で淫らな作業を、明宏は嗤いながら観ていた。

 「クックククク………見事だな
 もう少しで、聖樹の刺青が完成するな」

 おぞましい愉悦感を滲ませた声に、意識が浮上してきた聖樹は愕然とする。

 〔……っ……ぅ……こ…こ…は……くっ……
 俺は…こっちの世界に戻って来ちまったのか…
 おぞましい現実の世界に………〕

 強烈な異物感と、肉を小さく抉られる痛みと、熱さと苦しさに、聖樹は無意識に喘ぐ。
 相変わらず、自殺防止の猿轡を嵌められたままであることを知る。

 この場所に捕らわれ、枷によってベットに繋がれてから、食事を与えられていない聖樹は、急に強烈な空腹感を感じて、苦い思いを味わう。

 〔ふっ……あ…つい……くる…しい……
 ……くぅぅ……い…たい……もう…イヤだ…
 あぁ……のど…が…かわいた……〕

 熱さと苦しさに身悶える聖樹の肛門を彫っていた彫し師が、たった今まで握っていたハリを、コトッと置く。
 その様子をつぶさに観察していた明宏が、ねぎらいの言葉をかける。

 「終わったようだな
 私の要望をたった七日で完成させるとは

 流石、鬼才と謳われるだけある
 報酬は、希望通り支払おう」

 明宏の感嘆を含むが、どこか淡々としている口調に、聖樹は意識を引かれて、今の自分の境遇を改めて実感する。

 〔あれは……全部…夢だったのだろうか?
 朱螺と砂漠を旅し…オアシスに着いたことも…

 ロン・パルディーアという女性の中に精神だけ
 堕ちて味わったおぞましい感覚も………

 ラオスとロン・パルディーアの行く末は……
 残酷な陵辱と……無残な…死……はっ……
 あぁ……そうだっ…あの子は? どうした?

 彼女の腹から抉り出された…あの子は何処だ?
 あの時…俺は…望んだ……俺の元へ来いって

 ダメだったのか? 俺のいる世界には……
 呼ぶことは出来なかったのか?

 いや……父さんが言っていたじゃないか……
 無闇に…乞い願うなって……その結果が……
 俺を異世界へと招いたじゃないか……

 だったら…思いを込めて…あの子を呼ぼう
 あの…母親に…拒絶された…可哀想で…
 愛しい……竜種の子を……この身に……

 【運命の女神】に…心から…乞い願おう
 この世界へと…俺の元へ…召還しよう

 幸い…俺は…朱螺から注がれた……
 たっぷりの《魔力》が…ある…

 あの子を…この身に…迎えて……
 この身体で…育ててあげよう……

 邪神に身体を乗っ取られた父が行った
 非道で残酷な淫虐の末に孕んだ

 忌み子である俺を愛してくれたように
 俺も…あの子をこの腹に迎え……
 愛してあげたい……

 だから…耐えるんだ…俺……
 この鎖から解放されるチャンスはある

 それに…俺の帰還が早かっただけかも知れない
 俺には、繋がれているとはいえ…
 この自分の…身体があったから……

 きっと…異世界とこの世界の空間と時間が
 ズレているだけだ

 ここには…あの子の指針となる俺がいる…
 わずかな時間でも…俺は彼女と同化していた

 あの子の声も…たしかに…聞こえた…
 だから、意思を持って乞い願おう

 【運命の女神】よ…あの子を…俺の元へ
 何度でも…呼ぼう…愛しき子よ……
 ここに来い……俺が…抱き締めてやる

 これが…お前を得る為の…試練なら……
 どんな淫虐にも耐え……乗り越えてみせよう
 だから…来い…俺の元へ……愛しき子よ

 お前を……この腕に抱いた時に……
 《名付け》よう…愛し子よ……〕

 周囲に、ロン・パルディーアの腹から抉り出され、ラオスの最後の《力》によって時空を跳躍(とん)だはずの、名も無い子の気配が無いことを感じて、聖樹は心の中で祈り続ける。

 その間に、聖樹の身体は丁寧に清められ、生命維持の為の高濃度な栄養液を直腸へと注入されていた。
 だが、母親に最後の最後に拒絶され、悲嘆にくれる中、様々な《魔石》を植え込まれるという苦痛に晒され、ボロボロになった子を抱き締めてあげたかった聖樹には、もはや明宏の淫らな悪戯にも心を惑わされなかった。

 清潔にされた身体を明宏に抱き込まれ、乳首や性器への悪戯も、嫌悪感はあっても、狂乱するほどの狂気は呼ばなかった。

 何と言っても、最初の性行為は、朱螺としたという思いがあるので、精神的に少し成長できたのは確かな事実だった。

 だから、聖樹はどんなに身体をさいなまれようと、心惑わされずにいようと、夏の陽射しに焼かれた肌のようにあちこちが熱く痛む身体をもてあましつつ、心から何度でも乞い願う。

 〔…………愛しい子よ…俺は……ここだ……
 ……お前を…待っている…
 全ての定めを紡ぐ【運命の女神】よ………
 あの子を我が手に…貴女に乞い願う………〕





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